ろりこんくえすと!
3-36 闇魔法
3-36 闇魔法
「誰だ。名を言え」
エキューデが強く凄むような口調で質問を投げかける。
太陽の光に反射して輝く海。白ペンキで塗りたくられたような美しい砂浜。背景には深緑の森。
まるで絶景のリゾート地のような場所で、僕達は謎のフード男と対峙していた。
「邪魔をするな」
「なんだと?」
ゴッ!
エキューデが聞き返したその直後、フード男の手からドス黒い球体が飛び出してきた。
初めて見たけど間違いない。これは闇魔法だ。
火属性魔法で有名なファイアーボールと呼ばれる魔法がある。このドス黒い球体はまさにそれ。さしずめ闇属性版のファイアーボールと言ったところか。
僕は自分の残り少ない魔力を風狂黒金に宿し、闇魔法で作られた球体へとぶつける。
魔力と魔力のぶつかり合い。あの一件からコツを掴んだ僕にとって、魔法を切り伏せることは造作もないことだった。
半分に割れた球体は僕を横切って地面に当たり、そのまま消滅した。
「魔力干渉だと.......? なるほどな、この普人族の餓鬼は見た目に似合わず高い技量を持っている」
「質問に答えろ。お前は誰だ」
「ふっ」
僕の質問にもフード男は鼻で笑い、青白く細長い腕を前に向けた。
「答える義理はない。邪魔者は消えて貰うだけだ」
魔法陣が虚空に展開し、さっきのは様子見と言わんばかりに黒い槍が現れた。
闇魔法で作られた槍は数十本。それらの全てが僕とエキューデに鋒を向け、物凄い速さと回転が加えて打ち込まれる。
「無詠唱でここまでとは! 小僧、気を付けろ!」
「分かってる! とにかく倒すぞ!」
風狂黒金で飛んでくる黒槍を叩き落とす。しかし、一本一本にかなりの魔力が込められているようで、対処するのも一苦労だった。
魔法とは無縁の僕でも、無詠唱でこれまでの魔法を息を吐くように行使するのは凄いことだって分かる。
魔法は本来、詠唱を省くと威力、精度、そして規模そのものの完成度が落ちてしまう。
これは技能でも同じことが言える。僕がいつも技能の名称を名乗り上げて使っているのはその為なんだ。
それなのに、目の前のフード男は無詠唱ですら高いレベルを維持している闇魔法を放ってきた。
なんだ、こいつは。
明らかに異質だった。
そう、まるでユリウスみたいに。
「閃光斬!」
槍を全て叩き落とし、懐に入った僕が風狂黒金を振るい抜く。剣閃が瞬き、男を斬り捨てたかのように思えたが、
「温い」
「ぐはっ!」
躱された!?
風狂黒金は虚空を斬っただけで空振りし、がら空きとなった僕の背中に重たい蹴りが炸裂する。
砂浜に身体を打ち付けられ、そのまま僕は水切りのように砂浜から海へと投げ出された。
「確かに実力だけはあるようだが、お前のそれは付け焼き刃。他愛もない。所詮、短命な普人族の餓鬼だっただけのことだ」
「お前.......」
受身をとって、海の上に立った僕はフード男を睨み付ける。
僕は蹴られた瞬間、ある違和感を感じて眼を切り替え、反転する視界の中でフード男を見ていた。
こいつは僕の攻撃を躱してなんかいない。すり抜けたんだ。黒い魔物と同じように、僕の眼に映るフード男の姿は魔力でぼやけている。
「悪いけど、事情を詳しく聞かせて貰わないといけないな」
ドッ、と僕の全身の筋肉が浮き上がる音がした。
限界突破、超過暴走、臨界超越を発動。怪我した身体を更に苛めるようだが仕方ない。
剣聖の動向も気になるけど、このフード男はそれ以上に重要な手掛かりだ。ここで殺してでも情報を手に入れないといけないと僕は判断した。
「いい眼だ。普人族の癖に、実にいい眼をするじゃないか」
水しぶきをあげて海水の上を蹴り飛ばす。僕はフード男へと肉薄し、立て続け様に風狂黒金を振るう。
今度は魔力を意識した斬撃で。幾つかは掠りすり抜けていくが、服を切り裂いた感触や、肌を浅く斬った感覚も伝わった。
どうやら実体はちゃんとある。しかし、原理は分からないけど黒い魔物と同じ特徴も何点か持っている。
こいつはますます見過ごせなくなった。なんとしてでもケリを付ける!
「黒塗りの大剣」
突如、フード男の手に黒塗りの大剣が出現し、辺りを薙ぎ払うように振るわれる。
咄嗟に風狂黒金で防いだが、重さが違いすぎる。僕はズリズリと両足を擦らせ、押される形で砂浜を滑っていた。
「アビスライトニング!」
フード男が大剣を振った隙を付いてエキューデが魔法を行使する。見慣れた黒い稲妻がジグザグの軌道を描いて飛来する。
「ほう.......。アビスライトニング」
同じ魔法ッ!?
エキューデとフード男のアビスライトニングが激突する。結果は相殺。砂浜が黒い稲妻で焼かれ、黒煙があちこちから立ち昇る。
「お前も中々に手強いようだ。だが」
フード男の手が膨らみ、素早い動きでエキューデを掴む。
似ている。よく似ている。ミノタウロス型の黒い魔物がやったように、魔力を操作して掴まれる技。
「うぐっ、貴様!」
「エキューデ!」
エキューデの全身が魔力に包み込まれて拘束されていく。
「用があるのは普人族の餓鬼だけだ。少し静かにして貰おう」
「ぬおおおおおっ!?」
エキューデは握りつぶされる形で身動きが取れないように拘束された。
まずいぞ。経験したことがあるから分かる。一度ああなってしまうと魔力同士のぶつけ合い、フード男が言うには魔力干渉が出来ないと絶対に抜け出せない。
フード男がエキューデから手を離す。魔力は滞留するようで、エキューデは未だに繭に包まれているような有様で捕まったままだ。じたばたと恨みがましい眼で転がりながら睨んでいる。
「さて、危険な芽は早めに摘み取っておかなくてはな」
再びフード男が魔力で作られた腕を伸ばす。それはエキューデと同じ手法で僕を掴もうと、
「効かねぇよ!」
そう同じ手は何度も喰らわない。風狂黒金で伸ばされた腕を斬り捨て、僕は駆け走る。
「ならば」
フード男の背中から、這い出すように魔力で作られた大量の腕が蠢いた。
気持ち悪いというのが第一の感想。だけど、まさかここまで生やせるとは思いもよらなかった。食らったら魔力のぶつけ合いで対処ができる僕でも流石にやばい。
四方八方から襲う腕を僕は風狂黒金で斬りつける。
前、上、後ろ、横、左。
数が多すぎる。しかも、斬って消滅させた直後からまた生えてくるのでキリがない!
「がっ!」
そうこうしている内に、僕は背後から迫った一本の腕に首を掴まれて砂浜に叩きつけられた。
砂が口の中に入りジャリジャリと不快な舌触りを味わう。他の伸ばされた腕も首だけではなく、両手両足を掴んで個体し、残されたものは僕の胸や腰を掴んだ。
「ぐっ.......ぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!」
魔力で首を絞められる。その力は強く、万力で捻られているかのようだった。
「は、な、せ.......!」
魔力を引き剥がそうと手に力を込めるが、あまりにも自力が違いすぎて無理だ。僕とフード男の魔力量があまりにも桁外れ。これではどうにも出来ない。
「面白い。この状態でも意外と抵抗ができるものなのか。では、これならどうだ?」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああああぁぁぁぁぁぁッ!」
「小僧!?」
魔力の注入!? このフード男、腕を魔力化するだけではなく、魔力の注入にも出来るのかッ.......!
魔力回路が荒れ狂う。肌から血が飛び散り、血管が破れ、既に壊れた魔力回路が更に傷付く。
白い煙と血液が僕から噴き出し、こうべを垂れるように僕はその場で崩れ落ちた。
テスト勉強と課題が終わらないので次回の更新はお休みします。
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