ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-20 エルフの姫君


 3-20 エルフの姫君


 剣聖、イアソンの案内で僕達が連れてこられた場所はエルフの王城。

 王城は僕達普人族が作る石等の鉱物で建てられたものではなく、周りの木々を使ったエルフらしい立派なもので、城と言うよりかは宮殿と言った方が近い大きな建物だ。

 扉を開けて中に入ると石鹸のような異国の臭いがする。僕の鼻から察するに、香木で作ったものだろう。嗅いでいると心が安らぐいい香りだ。

 床は木の根が張り巡らされ、柱の代わりに大木がそびえ立ち、壁際には湧き水を利用した天然の噴水が水を吹き出している。建物の中に入っているのに、気分は外と同じような不思議な場所だった。

 物珍しそうに眺めていると、隣にいた剣聖が可笑しそうに笑って話しかけてきた。

「ふぉっふぉっふぉっ。無理もない、我々森人族と植人族には当たり前の光景じゃが、普人族にとってはこんな建築物始めてでしょうな」
「珍しいっていうか、見ていて新鮮だよ。けど、僕は気に入った」
「ふぉっふぉっふぉっ! それはなによりですな」

 剣聖が鼻の髭を摘みながら悪戯いたずらっぽく陽気に笑う。

 王城の中は開放的で広々としている。避難してきたであろうエルフ達が数百人以上は居るが、それでも窮屈さを感じさせない作りになっていた。

「お主達、あれを見てくだされ」

 剣聖が何かに気付いたのか、ある一点に向けて指をさす。そこには蛇が階段を登っていくように、老若男女問わずエルフ達による長蛇の列が出来ていた。

「姫様は今は対応が忙しいのですな。申し訳ないが、あと数時間ほど待てば会えますな」
「あー.......やっぱりか。あそこが玉座の間なんだろうけど、他のエルフ達が沢山並んでる」
「黒い魔物の騒ぎでこの大陸中のエルフがこぞって集まってきておりますぞ。人が集まれば問題は起きる。これはどうしようもないことなのですな。姫様は一人一人の声に耳を傾けておるのですぞ」

 やはり黒い魔物はエルフ達にとって緊急事態のようだ。この異常とも言える場の空気。僕達はかなり悪いタイミングでエルフ達の暮らす大陸に来てしまった。

 それにしても困ったな、並ぶのはいいんだけどこれではかなり時間が必要そうだ。

 悩みあぐねる僕だったが、ふとあることを思い付いた。

「そうだ、王城なら厨房はあるだろ? 少し使わせてくれないか?」

 そう、お菓子作りだ。これまで僕はプリンぐらいしか作っていない。パティシエと名乗るならばもう少しは作れるレパートリーを増やしておかないと。

 それに、エルフは甘いものが好きなのは本当だ。しかもエルフの王族が姫君ならば尚更。ご機嫌取りも兼ねて疲れを癒すにはうってつけだろう。

「はて、厨房と.......。爺やが頼んでみましょうぞ」

 不思議な顔をした剣聖だったが、あまり深く考えずに承諾してくれた。

「お兄ちゃん何するの? プリン作るの?」
「プリンはいっぱい作ったからパス。アシュレイ、女の子が喜ぶお菓子って何か分かるか?」
「王都では甘ったるいケーキが人気だったな.......。高いから貴族だけしか食っていなかったが」
「よし、それを作ろうか」



 ◆◇◆



 ディニエルを剣聖に預け、エマの指示のもとでケーキを作り上げた僕は、あらかじめ列に並んでいてくれたミナトと一緒に僕達は玉座の間に足を踏み入れていく。

 玉座の間は意外と質素な広間だ。煌びやかな燭台もなければ美しい風景を描いた絵画もない。大きな椅子と床に敷かれたカーペットだけしかない部屋だった。

 部屋の中には二人いた。一人は東洋風の剣を腰に携え、渋い色の装束に身を包んだ女性。もう一人は椅子の上に座るのは華奢な少女。見た目の年齢だけならリフィアやエマと同じくらいだが、身に纏う雰囲気が全然違う。あの華奢な少女がエルフの姫君らしい。

 白金に近いプラチナブロンドの長い髪。透き通るような青緑色の眼。目鼻立ちの整った端整な顔立ち。

 身に付けている服装は木の皮で作った薄いものだけだが、着ている本人が何よりも美しい。見ていて神聖さを感じてしまう美しさだった。

「ようこそお越しくださいました普人族の皆さん、私はエルフの姫であるメルロッテと申します。話は爺やから聞いているので大丈夫ですよ」

 メルロッテの声は華やかに澄んだ声だ。鈴の音のような、ずっと聞いていられる心地よい響きがする。この声だけでも姫君と納得出来てしまう確かな風格があった。

 ここで言う爺やとは剣聖のことを指すのだろう。何かと出会った時からちょくちょく世話を焼いてくれる剣聖は人が良い。ディニエルのあの懐きようも分かってしまう。

「この隣にいる無愛想な人は私の護衛であるオウカです。ちょっと近寄り難いけど、根は優しい人ですよ」

 メルロッテの隣で立っている植人族の女性はオウカと言うらしい。名前の由来通り、髪の毛が桜色で艶やかでキリッとした顔立ちをしている。

 気配感知にもかなり実力者として反応しており、エルフの姫君を護衛しているならば相当強い人物だろう。

 僕はある程度の事実を隠しながら、当たり障りのない事情を話していく。剣聖から話は聞いていたのは本当のようで、ディニエルを保護していてことにも感謝してくれていてトントン拍子で話は進んでいった。

 そうして数分ほど話をし、頃合を見計らって僕は自作のケーキを渡す運びとなった。

 ディニエルもチョロかったが、メルロッテもチョロかった。僕が修行中のパティシエだと何の疑いもせずに信じてくれた。

 個人的には信じてくれた方がいいのだけれど、なんだかエルフ達のこれからの将来が心配になってくる。エルフは疑いの『う』の字も知らずに育ってきたのは間違いない。少しは人を疑うことを覚えた方がいいと思う。

 そして、いよいよ僕が献上する形でメルロッテにケーキを運んでいたその時だった。

「異国の地で修行するパティシエのケーキ。私、楽しみです」

 姫君とは言えメルロッテは年相応の女の子。甘いものは当然好きな訳で、目を輝かして今か今かと待ち望んでいる。

「僕の自信作です。気に入ってくれた、頂けたら光栄です」

 僕はあまり目上の人と話す機会がないので言葉が上手く出てこない。まあそれは置いておいて、自信作なのは本当だ。あのエマが合格のサインを出してくれたんだ。きっと気に入ってくれるに違いない。

 僕は慎重に台座の上に乗せたケーキを運んでいく。それがメルロッテの手に渡ろうと――

「ちょ、うわっ!? いきなり何すんだよ!?」

 ケーキを運んでいた僕の首に凶刃が瞬いた。

 間一髪で首を捻ってなんとか躱す。

 警戒していた・・・・・・お陰でなんとか首の皮を少し切られただけで済んだが、もしもホイホイとケーキ運んでいけばケーキじゃなくて僕の頭を献上するところだった。

 僕じゃなければ躱しきれない程の素早い剣速。僕の命を狙ったの一閃を放ったのはメルロッテの護衛、オウカだ。

「姫様、この者達は只者ではありません。特に今拙者が切り捨てようとした人間。身のこなし、そして反射速度が尋常ではなかった。何がパティシエですか。拙者と対等に戦える力量を持ったパティシエが居てたまるものですか」

 刀を抜いたオウカは険しい目線で僕を睨む。

 メルロッテと話していた最中もずっと僕はオウカを警戒していた。なにせ僕を見つめる眼が怖かったからだ。

 まずい、完全に殺す気だ。目を見れば分かる。オウカのあの目は、一切の躊躇いもせずに人を殺せる目そのもだ。

 エルフはチョロかったけどやっぱ植人族はそうじゃないよね。いや、これが普通の反応なんだけど。

「そして赤髪の女性と隣にいる不気味な男。あの二人もかなりの猛者と見れます。この面子でたかが修行中のパティシエな訳ではない。間違いなく姫様の命を狙った暗殺者です」
「なーんか俺に身の覚えのあることがウェルトに起きてるんだけど。てか、俺は?」
「姫様、お気をつけください。この者達は極めて恐ろしい手練です。早くこの場から逃げてください」

 メルロッテを守るように、又は殿を務めるように、オウカは玉座の間から足を踏み出して僕達の前に立ち塞がった。

 僕とオウカは臨戦態勢に入る。オウカと本気で殺し合いたくないが、命まで取られたらたまったもんじゃない。身を守るために仕方なく、だ。

 その緊張を破るかのように、オウカの後ろから嬉しそうなメルロッテの声が聞こえてきた。

「はむはむ。美味しい、美味しいです! オウカ、このケーキ美味しいですよ! 程よい甘さと生クリームのなめらかさが絶妙なバランス。やはり海を越えて修行するパティシエの腕は超一流ですね! 後でオウカの分も一緒に作って貰いましょう!」
「な、なに食べてるんですか姫様ーッ!?」

 オウカは剣を地面に放り投げ、メルロッテに掴みかかった!

「オ、オウカ、いきなり何をするのです!?」
「早く吐き出してください姫様! 毒が! そのケーキには猛毒が入っているんですよ!」
「いや入ってないって」
「嫌です! こんなに美味しいケーキを吐き出すなんて嫌ですぅ~!」
「この下衆め! 解毒剤、早く解毒剤を寄越せ!」
「だから毒なんて入ってねえよ!」

 一気に騒がしくなる玉座の間。メルロッテから手を離し、オウカは僕に掴みかかろうとしてくる。目視ではとても追えない素手の動き。それをなんとか躱していると、入口から聞いた事のあるしわがれた声が耳に入ってきた。

「やれやれ、騒がしいですな」
「お、お師匠様!?」

 オウカの動きがピタリと突然止まった。後ろにいたのはやはりというか、ひと仕事を終えてやってきた剣聖だった。


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