ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-18 元凶?



 3-18 元凶?


 昼の刻の前。事態を深刻に見た僕達は急いでエルフの村を目指し、到着していた。

 広がっていたのは極めて凄惨な光景。村全体が魔物の襲撃による爪痕を残されていた。

 先程の村と同じで民家は壊れ、もはや村としての機能は果てしていない。そして、嫌でも目に付いたのがエルフの亡骸達。数は少ないが、あちこちでエルフ達の死体が放棄されている。

 その全員が漏れなく外傷は殆どない衰弱死した死体だった。間違いなくあの黒い魔物の仕業だ。

「.......酷い」

 ある一人の死体を見たエルフの子どもが膝を崩して倒れ込み、嗚咽を漏らす。

 幼馴染か友達だったのだろう。まだリフィアやエマと同じぐらいの年のエルフが乾き切った顔で息絶えている。

 手で触れてみると全身の水分が抜けているようで、皮膚を触った感触よりも乾いた木の樹皮を触った感覚に近かった。

「死んでから大体五日ぐらい、か。知ってはいたけど手遅れか」

 この世界は残酷だ。それは僕がよく知っている。

 違う大陸に行けば文化も違う。種族も違う。だけど、似たような光景は割と何処にでも転がっているんだ。

「なぁ、せめて弔いだけでもして行こうぜ。それぐらい、俺達でもしてあげられるだろ」

 僕はミナトの言葉に頷き、穴掘りの技能で即席の墓を作った。

 掘った場所は大樹の根元。死んだエルフは火葬をせず、土葬のまま木の根元に埋めるのがしきたりと教えてくれた。

 自然との調和を目指すエルフの考えらしい。命を土に還すのがしきたりなんだろう。

 気休めだが風狂黒金ふうきょうくろがねで大きい石を削り、目印がわりに埋めた場所に建てておいた。ちょっとでもいい。報われるかもしれないと考えたから。

「変態」

 目印がわりの墓石を建てた僕の後ろから、エマがいつもとは一段と気難しい顔で話し掛けてきた。

「どうかしたのか?」
「話したいことがあるわ。付いてきて」
「ここじゃダメなのか?」

 首を振ってエマは答えを示した。
 
「分かった。ちょっと行ってくる」

 僕はみんなにそう伝え、エマと一緒に村の跡地から数分程離れた森の中に移動した。

 ここなら誰も聞かれないと踏んだのだろうか。エマは懐から歪に曲がった太めの木の枝みたいなものを取り出して、僕に投げ渡した。

「なんだよ、これ?」

 質感はザラザラとしている。触っていると黒いすすみたいな物が手に付いてしまう。率直な感想としては木炭に近い。

「あの黒い魔物の一部でしょうね。恐らく、だけど」

 うげ、まじか。なんてもん拾ってきて、なんてもん僕に渡したんだ。嫌がらせか。

 .......いや待て、今エマはなんて言ったんだ?

 黒い魔物の一部? だってそんなのはおかしい。黒い魔物は魔力の塊で、実態がないはずなんだ。

 それなのに、どうしてこんな物がある? どうして、ちゃんと形に残った死体の一部が残っているんだ?

「なんで僕にこんなものを?」
「真実が真実だわ。いいから擦ってみなさい」

 僕は手の平でゴシゴシと腕と思われる死体の一部を擦った。黒い煤なような物が取れていくと、さっきまで見覚えのある物が姿を現した。

「なんだよ.......これ.......! こんなのって、こんなのって、ありなのかよ.......!」

 それは薄い緑色のガサガサした肌。少し前まで僕達が触っていたエルフの死体と全く同じ物だった。

「黒い魔物はね、人為的に発生した魔物じゃないかしら。それも純粋な悪意だけの。こんな非人道的で、戦争兵器紛いのものを開発するなんて捻くているわね。虫酸が走るわ」

 同感だ。これまで僕は色んな人の死を目の当たりにしてきた。僕自身が殺してきた人、魔物に殺された人、飢えて死んでいった人。

 弱肉強食のこの世界。僕が見てきた人は皆、生き抜く為に死んでいった。身を守る為に殺す。食べるために殺す。生き残る為に殺す。理由はそれぞれだけど、目的はただそれだけだった。
 
 だが、今回のは流石に許し難い。

 目的はただの殺戮だ。悪戯に命を弄んでいるだけじゃないか。

「私の考察はこうよ。まずエルフに何かしらの過程を経て病原体が感染する。それは徐々に身体を蝕んでいき、時間が経つと黒い魔物になる『元』が身体の中で完成するの。その死体を見て一目で分かったわ」

 エマは僕の手に握られた死体を一瞥して、話を続ける。

「『元』は身体の中で一定量に達すると皮膚を通過して外へと出てくる。その際、元の身体は魔力を一滴も残さずに絞られて残りカスとして朽ちていくわ。そして、外へと出てきた『元』はすぐさま宿主の魔力と空気が混ざり合って黒い魔物となる。なんで色んな生き物の形をしているのかが分からないけどね」
「じゃあ、僕が今持ってるのは?」
「変態が今持ってるのは『元』がちゃんと育ってない癖に外に出ようとした失敗品じゃないかしら? 間抜けなやつよね。ま、そのお陰で正体が分かったのだけど」

 大体分かった。エルフ達に起きている事情が。

 確かに、こんな事をエルフの子どもやリフィアに話すのは躊躇いがある。僕達が殺した黒い魔物は元はと言えばエルフなんだ。

 あの村は死体が数人転がっているだけで他の人の気配は何も無かった。

 外れていることを願うばかりだが、恐らく、あの村のエルフ達はもう死んでいる。黒い魔物になって死んでいったんだ。

「ざっとこんな感じね。でもひとつだけ朗報があるわ。黒い魔物は長くは持たない」
「どういう意味だよ?」
「そのまんまよ。魔力だけで作られた存在なんてそんな簡単に長持ちしないわよ。良くて数日。悪くて数時間。自然と黒い魔物達は次第に魔力が薄れて霧散していくわ」

 僕はその言葉の意味が分からなくて首を傾げる。

「でも魔力を得る為に他のエルフ達を襲っていただろ? 魔力を常に補充していけば長く活動できるんじゃないか?」 
「それでもよ。私の見たところ、明らかに時間の経過と共に消費する魔力量とエルフを襲って得る魔力量は明らかに釣り合っていない。変態の言う通り、少しは長持ちするでしょうけど精々数時間が関の山だわ」

 なんだよ、それ。

「こんなことをして、何になるんだ」
「さあ。それはやった本人にしか分からないわ。でも、予想としては精霊でも作ろうとしたんじゃないかしら。人工の、ね」

 虫酸が走る、か。全くだ。こんなに胸糞が悪くなる話は聞いたことがない。

 .......そろそろ戻ろう。僕の魔力回路を治すよりも先に、エルフ達に起きているこの問題をどうにかしないといけない。まだ何も分からないことだらけだけど、時間は惜しい。

 僕はエマと一緒にこの場を去ろうとする。歩き出したその時、僕の眼にはありえない者が映り込んでいた。

 スっ、と木の影と影の間に人がいた。

 耳が尖っている男性のエルフだ。でも、他のエルフとは違って薄緑色の肌じゃない。日光に全く当たってないと言っていい青白い肌だった。

 そいつは僕と目が合うと、そそくさと逃げるように早足で何処かに向かっていく。

「..............」 
「ちぃッ、逃がすか!」 

 僕は箭疾歩を使って物陰の中にいた人影を追い掛ける。魔物か人か。いずれにせよ身のこなしがあまりにも素早い。ステータスが俊敏全振りの僕と同等なんて、中々そうお目には掛かれない。

 だけど僕の方が早かった。逃走劇は数秒にしか満たなかったが、人影に追いついた僕は確かに服の裾を掴んだ。

 ――筈だった。

「なっ!?」

 あいつ、黒い魔物と同じようにすり抜けた!?

 掴んだはずの手応えが薄れていく。まるで煙を手で掴もうとしたように、僕の手は空を切って人影ではなく虚空を掴んでいた。

 人影はそのまま溶けていくかのように闇の中に消えていく。必死に腕を伸ばすがあと少しの所で逃してしまう。

 しかし僕は見た。人影が消え入る寸前に、確かに人影の顔をこの目で確認した。

 死体かと錯覚してしまうような血色が悪い肌。骨と皮だけの痩せこけた頬。そして、死に顔を思わせる幽霊のような顔立ち。

 一瞬、ほんの一瞬だけだが至近距離で目が合って、消えていった。
 
「変態、物陰に誰かいたのかしら?」

 後ろからエマがやってきて不思議そうに尋ねてくる。

「.......いや、なんでもない」

 僕は少し迷いあぐねた後、首を振って答えた。

 あいつは一体なんだったのだろうか。気配感知はあれからずっと発動したままなにの引っ掛からなかったし、エマには見えていなかった。

 幻覚か、はたまた本当の幽霊なのか。どちらにせよ、確かに僕はあの人影を掴んでいたんだ。いや、掴んでいたという感触も、もしかしたら僕の勘違いなのかもしれない。

 びゅう、と不意にやけに肌寒い風が吹いた。

 僕は掌を握りしめ、人影が消えていった場所を見つめながら感じ取る。

 嫌な予感だ。それも、今までにないぐらいの。


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