ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-13 到着


 3-13 到着


 船を停めた砂浜。そこから先に広がるのは出口が見えない深い森だ。リゾート地のような砂浜から足を少しでも踏み出せば一転、鬱蒼とした木々だけの全く違う別の世界が待っている。

 ここから先はエマの知っていた情報を纏めたものだ。

 僕達が住んでいる大陸から遥か東。そこに位置するのが森人族が暮らす大陸。又の名を深緑の大森林と呼ぶらしい。その名の通り、この大陸の約九割が森に覆われているんだとか。

 ここでは他では見られない独自の動植物、そして脅威度E〜Cの植物型、昆虫型、獣型の魔物が多く生息する。ほとんどの面積を覆っている森のせいで大陸全土が魔境みたいなものだ。

 魔物だらけのこの大陸。それだけでも未踏の地と言われている所以に納得できるが、実はもうひとつ理由がある。

 それは非常に迷いやすいからだ。

 歩けど歩けど代わり映えのしない木々と草だらけの風景。目印が何も無いのに加えて、おまけに近場にある黒の境界のせいで磁界が狂っておりコンパスが役に立たない。つまり、目印もないし方角も分からない。

 だけど大丈夫だ。僕にはこれがあるんだから。

地図作成マッピング、発動」

 僕の手前に透明な板が現れる。

 盗賊術の技能のひとつ、地図作成。これで目印がなくても方角が分からなくても迷子になることはない。安心して足を踏み出せるわけだ。

「変態、本当に変態を信用しても大丈夫なのかしら?」
「チッチッチッ。任せておけって。確かに僕は道に迷いすいけど地図作成があるなら話は別だ。絶対に迷わない自信がある! .......多分」

 そんなこんなで僕達は森の中を歩いている。念の為、アシュレイにも見てもらっているので、これなら地図作成のお陰で迷う心配はない。安心してエルフを探すことが出来るって訳だ。

 それにしても蒸し暑い。陽光は生い茂る木々に遮られているが、この大陸自体の気温が高いせいなのか、まだ数時間も歩いていないのに汗でべっとりだ。

 それに、太陽の光が届かないからキラキラと地面を照らす木漏れ日だけが照明代わりだった。

「あちー。めっちゃ暑いぜ、ここ。まるでアマゾンの熱帯雨林を歩いてるみたいだ。こういった場所、でっかいヘビとかいたりしてな」
「そんなこと話してるとほんとに出るからやめてく――」

 ぐにゃり。

「おいウェルト、急に立ち止まってどうしたんだ?」
「むー? ここだけ地面の感覚が違うの。ボヨンボヨンするの」

 ミナトと話しながら足を一歩踏み出した時、明らかに土ではない感覚が伝わった。おそるおそる下を見ると、木の葉が積もれた地面の下に黒い節目が蠢いていた。

 気配感知を発動。うん、いるね。ピコンピコンと警報を鳴らしている。

「小僧、魔物だ!」

 僕はリフィアを抱えてその場から離れる。

 刹那、突如数歩先の地面が盛り上がり、魔物が現れた。現れたのは二対の大鎌と鋭い牙、そして数百本の足を持つ巨体。わさわさと足を不規則に動かす姿は非常にグロテスクだ。

「ヘビじゃなくてムカデがでたね。リクエストに応えてでっかいのが」
「いくらなんでもフラグ回収早すぎんだろ!? しかもなんかカマキリとサソリが混じってんだけど!?」

 ムカデの魔物は無機質な眼光を放ち、眠りを邪魔された怒りに震えて触覚を機敏に動かした。体をちょっと踏んだだけなのに相当お怒りの様子。単に餌を見つけただけなのかもしれないが。

「脅威度B、ヴェノムセンティピードね」

 エマがムカデの魔物の名前を口にした。出現する魔物の脅威度がE〜Cのこの大陸で、いきなり脅威度Bに遭遇するのはついてない。

 僕はチラリと思わず横にいたエマを見た。

 海賊に襲われたり、ほんとに罰が当たったパターンだよね、これ。

「シャアアアアアアアアアアアッ!!!」

 ヴェノムセンティピードが吠える。

 とにかくいきなり戦闘開始だ。

「アイスダーツ!」

 最初に動いたのはミナトだった。魔法陣を展開して氷の矢を放ったが、ヴェノムセンティピードの甲殻は硬すぎるのかカチンと弾かれて何も起こらなかった。

「あ、全然効かねぇ」
「だめじゃん」

 僕はミナトの前に躍り出て風狂黒金を取り出して立ち向かう。ヴェノムセンティピードは早速行動を移し、サソリを彷彿させる尾先を前方へと突き出した。槍のように繰り出された棘と、僕の黒い刀身がぶつかり合って甲高い音が鳴り響く。

 衝撃で思わず電流が流れたと錯覚するぐらい手が痺れる。ぐうっ、流石に脅威度Bだけあって強い。ほんと、なんで来て早々こんな魔物と戦わなきゃならないのだろうか。エマのせいだな。そうだ、きっとそうに違いない。

「うおわっ!?」

 次に繰り出せたのは鋭利な鎌。首を狙って振られた一撃だったが、持ち前の素早さでなんとか頭を下げて躱す。

 ヒュンと撫でるような風切音。何かが倒れる大きな音がして、振り向いてみれば僕の後ろにあった大木が斜めにズレていた。

 .......これだから脅威度が高い魔物は総じて嫌なんだよ。

「ラピッドショット!」

 アシュレイの援護がすかさず入る。胸の辺り、と言ってもいいのか分からないが発砲音と共に風穴が空いた。黒っぽい濃い緑色の血を流し、ヴェノムセンティピードは苦しそうに唸り声をあげる。

 痛みに耐えかねたヴェノムセンティピードは滅茶苦茶に暴れ回る。風狂黒金と鍔迫り合っていた尾先に力が入り、強靭な体躯から発揮される怪力で僕は勢いよく吹き飛ばされた。

「なんつー馬鹿力だ」

 吹き飛ばされた僕は木の幹を足場にして受身を取っていた。水の上も歩けるようなった僕は直立した場所でも立っていられるようになっている。このまま行けば天井なんかも歩けそうだ。

「おい、逃げていくぞ小僧!」

 アシュレイの一撃で堪えたのか、ヴェノムセンティピードはよろよろと後ずさるように後退していく。

 確かに逃げの前兆だ。アシュレイの攻撃を脅威と捉えたのか、ひとしきり威嚇しながら森の奥へと消えていく。

「おい、どうする?」
「.......このまま見逃そう。僕達は魔物を討伐しに来たわけじゃないんだし」

 内心で僕はホッとした。何が起こるか分からない未踏の地で、脅威度Bの魔物と戦うのは得策ではないからだ。体力もできるだけ温存しておきたいし、追いかけてまでわざわざ危険を犯す必要はない。手負いの獣は危険だということを僕はよく知っている。あいつは虫だけど。

 このまま見送るのが賢明だろう。そう考え、僕は制止の合図を出そうとした。正にその時だった。

「!? みんな、全力で殺しにかかれ!」
「えっ!? 見逃すんじゃなかったのか!?」
「気が変わるのが早すぎるぞ」
「いいから!」

 違う! あいつは逃げようとしてるんじゃない!

 僕はヴェノムセンティピードの動きが不審な点に気が付いた。長年、魔境当然の村で暮らしていた感覚なのか、それとも勘なのか、とにかく逃げる為だけに距離を取っていないことだけは分かった。

 触手が何かを探知しているかのように不自然に動き、尾先の向きが明後日の方向に向けられる。そこでやっと僕は気付いた。ヴェノムセンティピードが今からやろうとしていることを。

「あいつは、別の魔物をけしかけようとしているんだよ!」

 全力で風狂黒金を投げ飛ばす。得物が風狂黒金一本しかない僕なのだが、背に腹はかえられなかった。それぐらい目の前のヴェノムセンティピードは厄介たことをしようとしているから。

「間に合え!」

 尾先から鋭いトゲが射出された。一本は風狂黒金で弾き飛ばしたが、運の悪いことに飛ばされたトゲは二本だった。

 撃ち落とせなかったもう片方のトゲは木々をくり抜いては貫いていき、数十歩先から鈍く重い、肉が切り裂かれたようなくぐもった音が聞こえてきた。

 ーーやられた。完全にしてやられた。

 選択肢を誤った。気付いたのはいいけど遅かった。不味い、これは結構不味い。

 木々を踏み付けてヴェノムセンティピードに触発された魔物が僕達の前に現れた。
 民家を軽く越える巨大な体躯。分厚く剛毛な茶色い毛皮。そして立派に突き出た二本の白い牙。
 
「脅威度B、ヘルメスボアよ!」

 そいつはワイアットの畑を荒らしていたワイルドボアの進化個体。僕との因縁の宿敵とも言える大イノシシが鼻息を荒らして突っ込んできた。



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