ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-12 黒の境界


 3-11 黒の境界


「ああああああああぁぁぁ!!!」
「なにいつまでも怒ってんのよ。結果通り助かったんだからいいじゃない」
「ふざけんな! こちとら死にかけたんだよ!」
「無傷で生還してきた奴が言っても説得力がないのだが.......」

 熱い水浸し塗れの僕が吠えている。

 アシュレイのヒートチャリオットで危うく消し炭されかけた僕だったが、わざと爆弾を爆発させ、発生した爆風を利用して海へと自分から飛び込んだことで間一髪で難を逃れたのだった。

 本当に危なかった。一瞬でも判断が遅れていたなら、あの海賊達と同じように船ごと上質な灰にされていたことだろう。

 海水すらも沸騰させ、熱湯地獄に作り替えるヒートチャリオット。食人鬼との戦いで分かっていたけれど、なんて危険な代物だろうか。

「もういい、僕は不貞寝する」

 反省しないポンコツ姉妹を尻目に僕はごろりと横になった。

 嫌なことがあったら僕はとりあえず寝る。そうして生きてきた。だから今回も寝る。おやすみ。

「待ちなさい変態、寝てる時間はもうないわよ」

 そこに待ったをかけるエマの声。僕は仰向けになりながら口をへの字に曲げた。
 
「お菓子作りの続きなんだろ?」
「いいえ、到着するからよ」
「へ?」

 到着って、エルフの大陸にか!?

 もうそんなに時間が経っていたのか。考えてみればシーサーペントを討伐し、プリン作ったり、海賊潰したりしたんだよな。そりゃ結構時間が経っているはずだ。

 僕は立ち上がって船頭から双眼鏡で海上を覗く。

 しばらく船は進んでいくと、海原の先に黒くモヤッとしたドーム型の大陸が見えてきた。あれがエルフの大陸なのだろうか。そうだとしたらあまりにも薄気味悪い。

「なあエマ、あの黒いのはなんだ? あれがエルフの大陸なのか?」

 僕は隣にいたエマに話し掛ける。近場にいたのもあるが、博識なエマなら何か知っていると僕が踏んでいたからだ。予想通り、エマは僕の質問に答えてくれる。

「コンパスが狂っているわ。あれは黒の境界ね。別名、呪われた不毛の地とも呼ばれているわ。そろそろね変態。あれが見えたってことはエルフの大陸はすぐ近くよ」

 どうやらエルフの大陸とは違うらしい。しかし、今僕が見つめている黒の境界は、見れば見る程おどろおどしい雰囲気の大陸だ。

「呪われた不毛の地、か。一体どんな所なんだ?」
「そうね、まず生物がまともに住める場所じゃないわ。太陽の光を閉ざし、草木一本も生えていない暗黒の大陸、と定説されているわね。そして、あれを生み出したのは先代の魔王よ」

 魔王と聞いた僕は驚く。

「えっ、魔王とか存在すんのかよ!?」
「まあ千年前の話なんだけどね」

 ユリウスで死にかけた僕。世の中にはもっとやばい奴がわんさかいるらしい。考えたら頭痛くなってきた。この世界おかしいよ。

「はぁ.......先代の魔王、か。どれくらい強かったんだろうなぁ.......」
「聞いて驚きなさい。先代の魔王は歴代最強とも呼ばれていたわ。そうね、指一本で大陸ひとつぐらいは消滅できるとか」

 ウラノスかよ。

「ま、先代の魔王がどれだけ強かったのかなんて、今の時代を生きていれば簡単に分かるわ」
「なんだよそれ?」
「あー.......変態は世間知らずだったわね.......」

 エマがやれやれと両手を使ってお手上げの表現をして、呆れた様子で僕を見る。

 しょうがないだろ、世間知らずのは僕のせいじゃない。あのクソ田舎村に生まれたせいなんだから。

「昔はね、種族間の争いが激しかったのよ。差別に弾圧、戦争なんて日時茶飯事。ずっと対立していて争いが絶えなかったわ。でもね、ある時状況が変わったの」
「それが先代の魔王ってこと?」
「そういうこと」

 エマが頷く。

 その内容で、僕はあることを思い出した。

 ーー足りない、とは思いませんか?

 ーー足りないのです。殺戮が! 破滅が! 絶望が! 足りないッ! 足りないッ! 足りないッ! 昔はもっと世界に不条理と理不尽が溢れてました。差別や戦争! 人が種族間で血で血で争う戦いを繰り広げ、世界に混沌をもたらしてくれていました。

 そうだったのか。その魔王があまりにも強すぎて戦争とかしている場合じゃなくなったのか。

「先代の魔王が現れるまで戦争や差別は絶えなかった。けどね、先代の魔王は強すぎた。たった数日で幾つも国を滅ぼし、多くの人間を虐殺していったわ。たった一人でね」
「えぇ、なんだよそいつ」

 たった一人で国滅ぼすって。流石、御伽噺でも出てきた魔王だ。魔王の名は伊達じゃない。

「流石に事態を重く見た各種族の国々は覚醒者を集めた魔王にぶつけたわ」
「なんでそこで覚醒者?」
「あら、知らなかったの? 覚醒者、魔王は元々変態のような覚醒のスキルを持った人間達が倒していたのよ」
 
 ここで言い渡される衝撃の事実。

 いや、ある意味納得だ。エマが王都に行く前にネメッサの街で僕に覚醒のスキルを内緒にしろと言ったのはそのことだったのか。
 魔王を倒せるかもしれないスペックを備えた覚醒者。そんな人間、貴族や国が放っておく訳がないだろう。下手すればいつの間にか囲まれていいように使われてしまうのがオチだろう。

 覚醒のスキルは代償を差し引いても急激に強くなれる。必死こいて畑耕していただけの僕でさえ、格上相手に対等に戦えるようになっていた。それだけ、巫山戯た強さのスキルだからこそ魔王なんて正真正銘の化け物を倒せるのだろう。

「凄いな、覚醒者って」
「やっとを自覚持ったの、変態? でもね、先代の魔王だけは強すぎて覚醒者でも倒せなかった。それどころか世界は滅びかける一歩手間まで追い詰められたわ」
「どんだけ強かったんだよその魔王は」

 魔王はたった一人なんだろ? 覚醒のスキルを持った人間数人集まっても倒せないって。

「これでいよいよ全人類は不味いと思った。そこで現れたのが」
「あの御伽噺、光の勇者か」
「そうよ」

 そう言えば御伽噺で各種族が協力し合ったとか読み聞かされた事があった。これがその理由だったのだろうか。

「神が遣わしたと言われる光の勇者。彼によって先代の魔王は討たれたわ。同時に種族間同士の争いは無くなったわね。流石に幾ら頭が悪い人間でもドンパチやってる場合じゃないと気付いたのかしら。その証拠に、今は種族間の争いが全くと言っていいほどないわ。今の平和な時代は魔王のお陰。なんとも言えない皮肉な話ね」
 
 エマは達観した表情で黒の境界を見つめて言った。

「エマ、最後に聞いていいか」
「なによ変態」 
「その魔王の名前、なんて呼ばれていたんだ?」
「.......私が調べた時、古い文献にはこの二文字が残っていたわ」

 エマは少し間を置いて口にした。

禍夜かや、と」

 禍々しい夜と書いて禍夜。黒の境界を見ているとしっくりとくる名前だった。

「そっか」

 何故だろうか。一度すら見たことがないのに黒の境界を見ていると、僕は何処か懐かしい気分になっていた。

「さあ、見えてきたわよ」

 黒の境界を抜けた先。そこには緑豊かな大森林が広がる巨大な島が見えてきた。

「到着するわ。エルフの大陸に」



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