ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-9 無慈悲




 3-9 無慈悲


 波の音が心地よい。

 照りつける太陽の下。のんびりと流れる時間。シーサーペントの群れを一方的に倒した僕達一行は、しばらくは穏やかな航海を続け思い思いのままに船旅を堪能していた。

 ミナトは船に常備されていた釣り道具で船釣りを楽しみ、アシュレイやリフィアはポン太と一緒に日向ぼっこ、エキューデは見るもおぞましい毒々しい色の薬品を調合していた。

 僕はというと船から見える海の景色を楽しんでいる。何処までも続く水の世界は、代わり映えのしないつまらない物だと思うかもしれないけど、視力が少しよくなる暗視を使うことで海鳥や魚が見えるので飽きがこなかった。

 そこに双眼鏡を使うことにより遠くのものまで見ることが出来るので結構楽しい。

「そろそろね」

 鮮やかな青と白の魚を観察していたそんな中、海に出てから数時間が経った頃合にエマが呟いた。隣に座っていたエマは終始コンパスと時計を確認し何かを待つようにそわそわとしていた。

「なにがそろそろなんだ?」
「何がって、決まってるでしょ?」

 ポイと手に持っていた道具を投げ捨てるように甲板に置くと、エマは船頭に歩いていく。

「なんだぁ? 俺様に何か用かよ」

 船頭にはおっさんが腕を組みながら海を眺めている。どうやら漁をする場所を探しているらしかった。

 ゲシッ!

 エマは無言でおっさんを蹴り付けた!

 不意打ちとも言える見事な蹴り。船頭に立っていたおっさんは堪らずバランスを崩し、船の外へ落っこちた。

「ちょ、何してんだよ!」
「何って決まってるじゃない。この船を乗っ取るのよ」

 突然の暴挙に動揺する僕に向かって、さも当たり前のようにエマはそう言い放った。

 海賊かよ。いや海賊よりタチが悪いわ。

「なるほど。海の上なら誰も見ていないから堂々とやれるのか。我は感心したぞ」
「感心してる場合かよ!」

 納得したように頷いているエキューデでにすかさず突っ込む。こいつらは何処に人の心を捨ててきたんだ。

「お、お前ら.......何やってんだ.......!」

 海から声が聞こえてきた。急いで船から顔を出して見てみれば、おっさんが船の出っ張りに掴まっていてかろうじて海の中に落ちないでいた。

「あら? 海の中に落としたと思っていたのにしぶといわね。いいこと? この船は今から私の物よ。あんたはここで降りるのよ」

 容赦なくゲシゲシとエマはおっさんの手を踵で踏んづけて船から落とそうとしている。

「おいふざけんな! この船はな、一生分のローンを組んでやっと買った大事な船なんだぞ!」
「それがどうしたのよ? また借金でもして船でも買いなさい」
「てめぇ! この船を失ったら妻と子どもに逃げられるんだ! 今でも借金のせいで小言を言われながら貧乏な生活なんだよ! これ以上借金を背負ったら.......夜逃げされる!」
「妻なんて新しく見つけてきなさい」
「こんな禿げた中年を貰ってくれる妻なんて、この世界のどこにもいないだろ!」
「ぐちぐちぐちぐちうっさいわね! あんたの船は私が貰い受けるのよ!」

 エマは思いっ切り踵を振り上げておっさんの手の甲に打ち付ける。痛みに悶えて手を離してしまったおっさんは完全に船から放り出された。

「ほら童貞、浮き輪を投げてやりなさい」
「これ、救命用じゃなかったんだ」
「何言ってんのよ。この時の為に安いの選んだんでしょう」

 ミナトから安い浮き輪を奪い、エマはおっさんの元に放り投げた。よく見ると浮き輪の値札には3Gと書かれている。本当に安い。てか大丈夫なのか、あれ。

「今の時間帯ならそのまま浮き輪に捕まっていれば海流に流されてノルドの村まで戻れるわよ。命まで取らないどころか、帰り道も考えてあげていた私に感謝しなさい」

 シーサーペントが普通に生息している海の中に3Gの浮き輪ひとつで放り出すド鬼畜の幼女はそう言った。

 それが終始コンパスと時計を確認していた理由だったのか。流石と言うべきか、非道と言うべきか。

「おいおいおい。こんなん感謝どころか殺意の波動に目覚めるだろ。見ろよあの顔、大の大人が大泣きしてるぞ」
「殺してやる.......絶対に、絶対に.......!」

 おっさんは血の涙を流し、鬼の形相でエマを睨んでいる。確かに。ミナトの言う通り殺意の波動に目覚めている。

「あのさ、こんなことして大丈夫なの? 僕達は賊じゃないんだよ? 僕とアシュレイは冒険者ギルドで依頼受けてきた口なんだし。これってちょっとした指名手配とかされるでしょ?」
「変態は王都の殆どを更地にしてきたんでしょ? これぐらいの悪事なんてどうってことないわ。お天道様はきっと許してくれるわ」
「更に罪を重ねているだけなんですがそれは」

 暴論すぎる。大きい汚れに小さな汚れを吐きかけて「大して変わらない」とか言っているようなもんだろ。

「おい、アシュレイ。こいつお前の妹なんだろ。妹が人の道を外れたことしてるぞ。姉として何か言ってやってくれよ」

 僕は振り返ってアシュレイを揺さぶった。

「いやな、こうも堂々とされると怒る気が湧かないと言うか、何を言ったらいいか分からないんだ」

 駄目だこりゃ。

「何よ変態、仕方ないでしょ。変態は魔力回路を治したい。治すためにエルフの大陸に行きたい。エルフの大陸に行くためには船が必要。私達にはお金がないし貸してくれる人もいない。じゃあ騙して奪うしかないでしょ」 

 確かにそうだ.......いや、ないわ。なんで最後の考えが普通に出てくるんだよ。城から燭台くすねた僕だけどさ、流石にここまでやるほど性根腐ってないぞ。

「お前ら覚えておけよぉ! 村に戻ったら冒険者ギルドに報告して指名手配にしてやるからあああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 おっさんは浮き輪に捕まりながら捨て台詞を吐いて海流に流されていった。

 こうして、僕達は犯罪行為に手を染めて船を手に入れた。



◇◆◇



「さて、邪魔者も船から降りたことだし、これでエルフの大陸に向かうことが出来るわね」

 おっさんを強制的に船から落としたエマは満足気に胸を張ってそう言った。

「まだ到着するまでにはかなりの時間があるわ。その時間を準備に当てるわよ変態」
「はぁ.......。過ぎたことはもういいや。それで、準備って何をするんだ?」
「お菓子作りよ」
「お菓子作り?」

 なんだよお菓子作りって。子どもだからお菓子が好きなのは分かるけど.......。

 首を傾げる僕に、エマはゴソゴソと自分の荷物の紐を解いていき、泡立て器やらボウルやらの調理器具、小麦粉やら牛乳の材料を取り出した。

 それにしても凄い量だ。これだけの量ならば、下手すれば百人分以上もあるんじゃないだろうか?

 .......って、おいまて。

「ちょ、燭台売った金でそんなもん買い込んできたのかよ!」

 エマはノルドの村に着くまでは軽く纏めた荷物しか持ってこなかった。つまりだ、こいつは燭台を売った金でこんなにも大量のお菓子作りの材料を買ってきたんだ。

 てっきり食料とかだと思っていたが、なんてもん買い込んでるんだよ!

「何言ってるのよ。エルフを釣るには餌が必要でしょう?」
「え、餌.......?」

 さも当たり前のようにエマは言う。

「エルフはね、甘いものが好きなのよ。でもただ単に甘いものは好まない。上品な甘さが大好物ね」

 少しずつだが、エマがやろうとしていることが何となく分かった。

「ただでさえエルフは他種族に排他的なんだから。私達普人族だってそうでしょう? 贈り物を渡して印象を良くする。それはエルフだって同じだわ。それに、変態みたいなロリコンなんてエルフが知ったら誰も近付いてこないんだから」
「最後のは否定するけど。そうか、お菓子を作って渡してあげて、エルフと友好的になるんだな?」

 確かに僕がエルフ達に会いに行くのは魔力回路を治しに行く為だ。それなのに、手土産のひとつも持ってこないのは少し失礼なのかもしれない。しかも相手はエルフの王族なんだ。エマがやろうとしていることは実に理にかなっていた。

「まあ、それが一番の理想よね」

 エマは何処か含みのある声で頷いた。

「で、さ。お菓子作るのはいいんだけど誰が作るんだよ?」

 これが肝心だ。お菓子を作るのはいい。だけど、僕達の中で誰が作れるのだろうか。

「はいはーい! リフィアに任せるの!」
「嫌な予感しかしないから却下!」
「むー!」

 一番手に手を挙げたリフィアを速攻で窘めた。リフィアは薬品を作るのは得意だけど料理は駄目だ。絶望的なんだ。

 僕の視線からアシュレイはぷいっと横に逸らし、ミナトは頭を掻きながらバツが悪そうな顔をしている。

「私はその、な。あんまり料理が得意じゃないんだ」
「悪ぃ、俺は魚料理は得意なんだけどそれ以外はてんでダメなんだ」

 全滅した。そもそもこの中にまともに料理をしたことがあるのは僕ぐらいしかいないんじゃないかと思ってしまう。

 村にいた時は両親共々、クソまずい料理しか作れなかったからな。そのせいで全部僕が作っていたし。

 だがしかし、これから作るのは菓子。ド田舎の村ではお菓子なんてものはない。そもそも甘味と言えば果実だけ。野菜と獣肉しか扱ったことがない僕にとって、お菓子作りは未知の領域と言える。

 これでは八方塞がりかと思っていた僕だったが、リフィアの次に名乗り出たのは予想だにしない人物だった。

「ふっふっふっ。いいだろう。我の手に掛かればお菓子作りなぞ容易いもの。任せておけ」

 エキューデだ。まさかエキューデが料理が出来るなんて思ってもみなかった。
 人には意外な一面があるんだなと、この時初めて実感した。

「おいエキューデ。その手に持ってるものはなんだ?」

 早速お菓子を作ろうと、腕まくりをして材料を手に取るエキューデに待ったをかけたのはミナト。手を掴むと、その中から明らかにヤバい見た目をしたキノコと草を取り上げた。

「それか? 我が作っていた薬の調合品の余りものだな。猛毒の中に食欲増進の効果があるゲキドクツルタケに香草代わりにドクウツギだ」
「お前ら取り押さえろ! こいつだけは駄目だ! 飯マズなんて生易しいやつじゃねえ! 命に関わる危険さだ! エキューデだけにはやらせるな!」
「な、何をするー! 離せー! 離せー!」

 ミナトはエキューデの両腕を取り押さえて羽交い締めにし、僕はすぐ側に落ちていたエマが荷物を縛っていた紐を使ってエキューデの両腕を縛り上げた。

 本当に意外な一面だった。人を殺すことに特化した料理だなんて。

「はぁ.......。これってさ、もう僕しかいないじゃん」

 船上でため息を付いた僕。エルフ達の為の、お菓子作りが始まった。



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