ろりこんくえすと!
後日譚 2
後日譚2
嵐が過ぎ去ったような後の晴天の王都で復興作業が続いている。散らばった瓦礫の山、倒壊した民家、割れた道路。それらを騎士団達は汗水を垂らしながら片付け、少しずつだが元の街並みに戻していく。
復興作業でも大変だが、他にもやることが山積みだ。食料や火種、必需品の確保と供給、その場しのぎだが、人が最低限に生活していける住居の建設等。
とにかく大都市であるエルクセム王都そのものが機能をしなくなったのは、それだけでも大変な事態となっていた。
そんな復興が進む王都の中、第五騎士団の団長であったジョサイアは、周りの騎士達に指示を出しながら自分も瓦礫を片付けに勤しんでいた。
王都に魔物が襲来し、ユリウスが謀反を起こして数日。王都には爪跡が残り続けている。
「団長~」
汗を拭うジョサイアに、後ろからほんわかとした女の声が掛けられた。後ろを振り返ってみれば、艶やかな金髪を左右に揺らしながら見知った女性が彼の元に駆け寄ってきた。
部下であった副団長のファリスだった。ファリスはジョサイアに笑いかけると、手に持っていた何十枚と積み重なった書類と、ジョサイアを気遣ってか水が入ったビンを渡してきた。
「ファリスか。そっちの状況はどうだ?」
ジョサイアは書類を適当な場所に置き、ビンの蓋を開けて水を口に流し込む。チラリと一番上に重ねられている書類を見れば、ノルド村からの人材派遣について明記されていたものだった。
書類と仕事は捌いても捌いても、次から次へとジョサイアの元へと届いてくる。まるで底なし沼のように終わりが見えてこない。
「少しずつですが片付いてきてますよ~」
「そうか。ご苦労だな、ファリス」
ファリスがジョサイアの問いかけににぱっとした笑顔で答えた。ジョサイアは少し口元を緩めると、まだ動いている騎士達に向かって、各自休憩を取るようにとその場から伝えた。
ジョサイアもゆっくりと腰を下ろし、書類に目を通していく。
やることがあまりにも多くても、いつかは終わるはずだから。自分がやってることは全体の本の少しの割合かもしれない。しかし、やらなければ何も始まらないのだから。何事もコツコツとやっていけばいつかは達成できるのだから。
「団長~王都がこんなにもボロボロになったのに、やけに活き活きとして片付けをしてますね~。やっぱり、あの豚の王様が王座にふんぞり返ることが出来なくなったのが、そんなに嬉しいんですか~?」
ファリスの問いに、ジョサイアは少し考え込んだ後、息を深く吐きながら言った。
「そうだな。やり方さえ違うし、結果さえ違う。だけど、今回の事で私は新たに王都を建て直さしていこうと考えたんだ」
エルクセム王が起こそうとしていた他国との戦争。それを防ぐために革命の準備をしていたのだが、やる直前にこのような事が起こってしまった。
王都がユリウスから受けた傷は深い。それでも、ロイドが機転を利かして放送を使って避難を促したお陰で死者と負傷者の数は最小限に抑えることが出来た。
王都は壊れても、人さえ生き残っていればまた建て直せる。ジョサイアはほんの僅かだが、これからの王都に小さな希望を見出していた。
「これではやる前から終わってしまいましたね~。これからどうするんですか、団長?」
「とにもかくにも、まずは建て直さない、とな。今の王は民からの支持を失っている。なんせ直属の護衛に任されていたユリウスが謀反を起こしたのだから」
エルクセム王はまだ生きている。しかし、以前から民からの評判は悪かった上に、此度の一件でエルクセム王の地位は完全に落ちた。
今の王は何も出来ないただの凡俗な豚だろう。
「団長もユリウスと同じことしようとしていたじゃないですか~」
「そ、そう言われてしまうと耳が痛いな.......」
苦しげな笑みを浮かべながらジョサイアは頭をかいた。
革命と聞けば物騒な想像が思い浮かぶが、ジョサイアが考えていたことは魔道兵器と戦争に反対する部下を総動員してエルクセム王を脅そうと考えていただけだった。
最悪の場合は殺してしまうことも厭わなかったのだが.......。
「ところで、ゼノとロイドの容態はどうだ?」
「ゼノさんは義手を付けましたね。以前のように剣を振るえるようになるにはまだまだ時間が掛かるんじゃないですか? ロリコンおじさんは酷い怪我負ったのに、今じゃピンピンしながら『幼女とおじさんが一緒に幸せに暮らせる家を作るぞー!』って得意の石魔法で仮住居を建てていますよ」
ジョサイアは思わずふきだして笑ってしまった。
「ははっ。ロイドは相変わらずだな。何はともかく、これで一安心だ」
「そうですね~」
数ヶ月は掛かるが、この調子なら王都は以前の街並みに元通りになるだろう。
しかし、街を戻しただけでは解決とは行かない。政治に騎士団の決定権、商人と交渉して流通ルートの安定化、その他にも様々な事を決めて、やっていかなければならない。
それでもジョサイアは、これからの王都はどうなるのか楽しみでもあった。
「ねぇ、団長」
ジョサイアのすぐ側に腰を下ろしたファリスが、改まった態度で口を開いた。
「一体、誰がユリウスを倒したんでしょう?」
ユリウスは死体となって王城から少し離れた場所で事切れていた。
現場の状態は凄惨さを極めていた。凄まじい規模の戦いが起きていたに違いない。
「さあ、な.......」
ジョサイアは晴れ晴れとした空を見上げて呟いた。
確証なんてものはない。それでも、ジョサイアの脳裏に思い浮かんだのは、自分の妹と黒髪黒目の少年の姿だった。
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