ろりこんくえすと!
後日譚 1
後日譚1
見渡す限りの草原が俺の眼下に広がっている。ガタコトと荷台が揺れ、頬に当たるそよ風が心地よい。
王都から離れて数日。俺とノアは馬車に乗っていた。
いや、俺とノアだけじゃない。馬を操るのはドレムさんで、固そうな木の椅子の上にはウェルト、リフィア、アシュレイさん、そしてエキューデが目を覚まさないまま横になっている。
馬車を引いている馬は見たことがない品種だ。なんでもランドホースと呼ばれる馬の魔物らしい。流石異世界、しっかりと雰囲気を出してくれている。
あの後は本当に大変だった。震災が起こった後のような街並みと化した場所で、俺は一人ウェルトとエキューデを探しに行ったんだから。
なんというか、とにかく放っておけなかった。
自分ではお人好しだとはこれっぽっちも思っていない。ただ、短い時間だけだったけど、俺が関わった人間を見知らぬ振りで放っておけるほど俺の心は強くなかっただけだ。
街の外で色々やっていたドレムさんにアシュレイさんとシャルルさんと押し付けると、俺はノアの制止を振り切って来た道を戻った。
探すのも大変だったが、二人を背負って何キロも歩くのも大変だった。この時ほど邪な理由だけど、体力付けてて良かったと思ったことはない。
街は凄惨さを極めていた。原爆が落ちたあとだと言われても素直に信じてしまうぐらいに崩壊していた。
なんつーか、俺って本当にとんでもないことに巻き込まれたんだなって感じてしまう。
「ミナトー」
この先どうしようかと俺は思い悩む。現状の安全策はこのまま流されるままにウェルトやアシュレイさんと行動を共にするのが一番だろうか。
「ねぇミナト」
まだ見ぬ未知の異世界を探求したい欲求にも駆られるが、俺は初日からこの異世界は危険だと思いしらせらた。やはり元の世界に戻りたい。
あ、でも元の世界に戻る方法も探さないといけないよな。ダメ元で聞いてみてもいいがノアが知ってるとは思えないし、あのオークキングも元の世界に帰るのは無理だと言い張っていた。
元の世界に戻る方法を探すのも、異世界を探検するのも、結局はどっちも同じなのかもしれない。
「ねえったら、ねぇ」
もうこうなったら、可愛いちゃんねーと仲良くなって結婚して異世界生活するのもアリかもしれない。元の世界戻ってもあの日常が続くだけだ。どうせなら可愛い子がいっぱいるこの異世界で、満喫するのも選択肢のひと.......
「もう! ミナトったら!」
ペチリと頭を叩かれ、俺はノアに呼ばれていたことに今更気が付いた。
「ん.......?」
「なにボケっとしてたの? 眠たくなったの?」
「悪ぃ、少し考え事に耽ってた」
「ふーん.......」
ノアは不機嫌な顔でほっぺたを膨らませると、俺の腕を掴んできた。
「ねぇねぇミナトー、暇だよー。あとお腹空いた」
隣に座るノアがぺたぺたと俺に触りながら訴えてきた。俺のことを目をうるわせて見つめるノアのお腹からは、ぐぎゅ~と胃が縮む音が鳴った。
「ったく、しょうがないな。サンマとサンマとサンマ。どれがいい?」 
俺はやれやれと肩を竦めて魔法陣を展開する。  
右にはみずみずしいサンマ。真ん中には採れたて新鮮なサンマ。左にはまだピチピチと生きているサンマ。
さあ、好きなのを選べ。
「全部同じじゃん! 何その意味の無い選択肢!」
「仕方ないだろ。ヒラメは食べるには煮付けにしないといけないし、ヒラメと同じで包丁なんて無いからカジキなんて捌くのは無理。サンマしか食いもんがないんだよ」
俺はサンマ以外にヒラメとカジキも出せる。出せるは出せるが、上記の理由により調理不可だ。 つまり焼くだけで食べれるサンマしか食べるものがない。
「大丈夫だノア、俺はサンマだけで二週間生活したことあるから。サンマならずっと食い続けていける。安心しろ」 
「どこが安心できるのよこのスカポンタン! サンマなんかずっと食い続けてられるか!」
一体何が不満なんだ。美味しいだろ俺のサンマは。俺はこのサンマで一ヶ月は生きていけるぞ。
「ギャーギャーうるさいな、全く。少しはそこで日向ぼっこしている畜生二匹を見習え。ここんとこずっとサンマだけ食べさせているけど、なんの文句も言わないぞ」  
俺はごろごろとお日様に温められて寛いでいる、猫と水上水鶏に指をさして言った。
「ポン太とガーちゃんは喋らないからでしょ! 動物とあたしを一緒にするなー!」
「おま、ガーちゃんって。相変わらずネーミングセンス皆無だな.......」
なんだよガーちゃんって。ポン太といい、お前はもうちょっといい名前を付けられないのかよ。
「ノアちゃん、大丈夫ですよ。もうすぐネメッサの街に着きますから。そろそろ魚以外の食事が食べられますからね」 
「やったー!」
座先の前からドレムさんが会話に加わってきた。
どうやらもうすぐ目的の街に着くらしい。なんでも今から向かう街は以前までウェルトとアシュレイさんがいた街なんだと。
「そう言えばさ、そのネメッサの街って赤髪から、つい最近魔物が襲撃して復興中って聞いたんだけど、大丈夫なのか?」 
「..............」
ドレムさんは無言で押し黙る。どうやら本当のことらしい。
「うえええーん! やっぱダメじゃん! ミナトがもっと強かったら良かったのに.......。そしたらサンマだけしゃなくてサケとかウニとか出せてた!」
「そりゃこっちの台詞だ。ノアがもっと信仰されてたら良かったのにな。なんだよ生魚戦士って。魚召喚できるぐらいしか取得ないんだよこの職業」
脂の乗ったサーモン。身がぎっしりと詰まったウニ。確かに夢は広がるけども。
.......Lvあげしようかな。
「仕方ないじゃん! 手頃でサクッと殺せ.......転移できそうなのミナトしかいなかったもん!」
「おま、遂に認めやがったな」
俺を一度殺し、更には転移先の異世界で散々殺されかけた大元の元凶が胸を張って開き直った。
無事に元の世界に戻れたあかつきには、裁判起こしてお前を豚箱にぶち込んでやるからな。
「それよりミナト、何か面白い話してよー。ずっと暇で暇で仕方ないのよ」
「いいですね。ミナトさんの故郷に伝わる話。どれもこれもが独特の世界観に内容も面白くて好きですよ。まるで楽しい本を読んでるみたいです」
ノアが寝る前に読み聞かせをして欲しくてお父さんとお母さんに強請るように、俺の服の裾をグイグイと引っ張ってきた。どうやらドレムさんもノアの意見に賛成で、俺の方を向いて嬉しそうに笑っている。
馬車に乗ってる間は退屈だった。玩具もないし、本もない。することが話をするだけしかなかった。
だから俺は元の世界で流行っていた本の話を二人に聞かせていた。本というか、漫画の話だ。
本当ならここで、思い出というか、面白いエピソードを話して盛り上がるのが定番なのだが、俺の歩んできた人生はほぼ黒歴史。地域開催黒歴史自慢大会でもあったら優勝出来そうな勢いだ。それぐらい俺の思い出は人様に言えないぐらい酷い。
だから俺が話せるのは趣味で読んでいた漫画の話しかない。でも、それでもいいんじゃないかと俺は思っている。
二人がわくわくしながら俺の話を聞いている所を見ると、俺も嬉しかった。気分だけはさながら吟遊詩人だ。
「じゃあ、次の話はどうすっかな。そうだ、十二歳の国家錬金術師の男の子が冒険する話はどうだ?」
俺はこうして、ネメッサの街に着くまでしばらく話を続けていた。
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