ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-75 終幕

 

 2-75 終幕


 雪が降り積もる氷の世界で、ふたつの人影が対峙していた。

 一人はユリウス、そしてもう一人はかつて少年だったナニカ。

 異彩を放つ魔力を全身に纏いながら、自分をウラノスと名乗った少年は悠々とユリウスの元へと距離を詰める。

 その足取りは、嘗ての少年の態度とは到底思えない緊張感の欠片もない余裕に満ちた足取りだった。
 少年の身には別人格が現れた、いや何者かが乗り移った考えるしかなかった。

 そうでもしなければあの白い魔力も、急激な強さの上昇も説明を付けられない。

 問題は少年の身体を誰が乗っ取ったのか。ユリウスには嫌な予感しか感じなかった。

 まさか――神なのだろうか。

 自分を遥かに越えたあの魔力の質と量。少年が口からでまかせを言っていたとは思えない。妄言とも痛い妄想とでも捉えることが出来るだろうが、それしか考えられなかった。
 
「..............」

 ユリウスは無言で少年を迎え撃つ。

 村雨の刀身に冷気を浴びせ、身の丈を越える大剣へと形を変える。しかしそれは大剣と呼ぶより、氷柱をそのまま使った鈍器と呼ぶに相応しい。

 少年はユリウスが剣を構えても足取りを緩めない。ゆったりとした足取りの少年に向かって、ユリウスは一切の躊躇いもなく豪快に大剣を振り下ろした。

 風圧と共に氷塊が少年の頭上へと落ちる。当たれば圧死。弾け飛び、血のしみだけが残る結果となる重量と膂力に任せた一撃だった。

 だが、そんな現実を前に少年はとても落ち着いていた。少し目線を上げると、さもつまらなそうに大剣を叩く。

 けたたましい音がなった。

 ただ叩くという動作をしただけで氷の大剣は粉々に砕け散り、ビードロが割れるような音を立てながら破壊され、氷の欠片が辺りに散らばった。

 なんなのだろうか、この少年は。人を辞め、自分がしてきた努力も、研鑽も、覚悟も、全てゴミ屑を踏み潰すように乗り越えていく。

「まずは一本」

 無邪気な声が耳を掠める。

 何が一本なのだろうか? ユリウスは少年の右手に握られている、少し曲がった銀色の太い棍棒を見るまで理解が出来なかった。

 先端は赤く塗れ、白い突起が突き出していた。

 それが自分の腕だと理解した時、肩から鮮血が激しく放出される。 

 いつの間に? いや、いつこいつは私の腕をもぎ取った?

 肩を押さえ、ユリウスは苦痛に身を置く。

 あまりにも規格外だ。

 今まで生きてきた中で、目の前の少年は一番不可解で、一番驚かされた。

 どこまでも諦めが悪く、才能がある。その癖に他人は持っていない何かを持っている。

 他人の為だけにどこまでも自分を犠牲に出来る。

 私は、何百年も生きていた中でひとつでも、目の前にいる少年と同じものを持っているのだろうか。

 はっきりと言える。

 ないのだと。

 心のどこかで、羨ましいと感じていたのだろう。自分は捨てる事でしか先に進めなかった。だが、少年は私とは反対に何もかも拾って背負い、ひとつも手から零れ落ちぬように前に進んできたのだろう。

 面白い。

 だからなのだろうか。

 ユリウスは少年に自分が築き上げてきた全てをぶつけてみたいと強く思った。

「行くぞ」

 吹雪が吹き荒れ、あまりにも破天荒すぎる二つの魔力同士が衝突する。忽ちの内に地鳴りが起こり、空に暗雲が立ち込め雷鳴が走る。

 ユリウスの身体には変化が起きた。

 たたでさえ膨張していた筋肉が更に盛り上がる。爪が伸び、角が成長して渦を巻く。さっきまでの体躯から二回り程も大きくなった。

 ユリウスの魔力が膨れ上がる。身体のリミッターを全て外し、常識外れの力を扱う姿だった。

 少年が使った『覚醒』のスキルと同じような状態だ。この状態を終えた後、使った反動で何が起こるか分からない。最悪の場合は命を落とす。

 それでも、ユリウスは今の自分の全力と言うものを試したくなった。

「醜いね。これじゃあ、ウェルトが見ていて気分が悪くなるよ」

 風狂黒金に白い魔力が取り憑く。風狂黒金が持つ本来の魔力を侵されたからただろうか、刃が窪み、ひしゃげていく。

 ユリウスが酷たらしい咆哮をあげて強襲する。尖鋭の爪先を携えた怪力の腕を持ってして、豪然たる拳固を突き出した。その拳撃はまともに受ければひとたまりもない威力だった。

 少年は軌道を見定め、手に握る刀を振るう。

 やったことはただ魔力を込めて目の前を斬り捨てただけ。しかし、途轍もない莫大な魔力を抱えた一太刀は時に技術と成り得た。

 強大すぎる白の魔力で世界が歪む。

絶界執刀ぜっかいしっとう

 陣風が吹き、寸秒のが閃耀せんようが過ぎ去る。

 その一刀で決着は着いていた。

 ユリウスは今しがた自分にされた事に頭が追い付かなかった。

 身体の感覚が斜めにズレてくような感覚。ユリウスは違和感を覚えた。自分の腕の位置は、ここまで下に下がっていたのだろうか、と。

 いいや、違う。これは―――、ユリウスが己にされた事を認識した瞬間、一列の血の線が噴き出した。

 身体の中心に一本の線が入っていた。

 まるで風景と一緒に絵が切り取られたようだ。空が割れ、大地が裂け、斬られた中から見えたのは途方も無い灰色の「空虚」。

      ・・・・・・
 斬ったのは空間そのもの。

 ユリウスは薄まる視界の中で最後の思考を続ける。

 そうか、この白い魔力の属性は「空間」。なるほど、神とは、言い得て妙だ、と。

 何も出し切れないまま捻り潰された。これが私と少年を分けた差なのだろうか。

「まだ、まだ私は浅はかだったの.......か、」

 言い終えた後、ユリウスの身体はズレ落ちて、白銀の地で事切れた。



 ◆◇◆



 一人だけになった少年は王都の中心で風に吹かれていた。これで何も拒む者はいなくなった。少年の身体を乗っ取ったウラノスは歩こうと足をあげたその時だった。
 
「あらら、もう君の身体を使うのは無理そうだ」

 少年の体は自身の魔力に耐えきれず崩れ落ちる。所々が赤の飛沫を吹き出し、ぎこちない音を立ててあちこちの節々が折れ曲がる。

 少年の身体は壊れる寸前であった。最早一歩も動くことが出来ない程に損傷していた。

 悔しそうに、されど愛おしそうに自分の身体を撫でると、ユリウスの亡骸を貫き、青白い物を奪い取った。

「さよなら、ウェルト。特異点はボクが元に戻しておくよ。それに、また覚醒を使った時にボクと会えるから、ね」

 手に掴んでいたものを手放した。ふわふわとそれは飛んでいき、元の場所へと帰っていく。

 崩落した王都でただ一人残った少年は、そのまま静かに気を失った。



「ろりこんくえすと!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く