ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-74 旧神

 

 2-74 旧神


 息も凍る白銀の世界の中で、ユリウスは一人立っていた。

 圧倒的すぎる強さを示したユリウスだったが、実の所、今の状態はあまり芳しくなかった。ユリウスが悪魔のような姿を見せるのは、本来は決着を早めたい時だけに使う切り札だ。これは常時無呼吸で激しい運動をするような負荷が身体に掛かるのであまり使いたくなかったのだ。

 ユリウスの息は荒いでいた。しかし、苦しげな表情とは裏腹に、確かな達成感を感じていた。
 今回の敵は手強かった。惜しくも中々の素体を持ついい実験台になりそうだったのだが、久しぶりに強敵と戦えたのでユリウスは満足だった。

 ユリウスは下を見下ろす。手には引き抜いた村雨が血を滴らせている。
 少年は心臓を貫れ、今や地に伏していた。流れる血も凍り、完全に凍死を迎えようとしていた。

 誰が見ても死んでいると判断するだろう。少年はもう生きてはいない。絶命したのだ。

 ユリウスは悪魔化を解除し、そのままこの地を離れようとしていた。

 流石に好き勝手に暴れすぎた。もう王都では実験はやっていけないだろう。そもそも今回の戦闘の余波で愚図で便利なエルクセム王も生きているか怪しい。

 同期のムエルを回収した後はどこへ行こうか。次は仲の良い同期がいる東の大陸にしようか。あそこにはエルフが暮らしいている。いい実験が出来そうだ。そうユリウスが考えに耽っていた時だった。

 ・・・・・・・・
 少年の指が動いた。

 僅か、ほんの僅かだがユリウスは少年の指が微かに動いたのを見た。

 馬鹿な、とユリウスは思った。何かの見間違いだとも思った。

 心臓を貫いた筈だ。心臓を貫かれて生きていける人間なんて存在する筈がない。ましてや少年は覚醒の代償までその身に降り掛かっていたのだ。生きている方がおかしかった。

 ユリウスはただの死後硬直だと判断した。それ以外に少年の指が動いた理由は説明が付けられないからだ。

 しかしその考えは裏切られる。少年は拳を握りしめたのだった。

 ユリウスの視界にはありえない光景が映る。拳を握りしめた少年がよろよろと立ち上がる光景が。

 確かに立っている。確実に立っている。二本足で、自分に向かって歩いてきている。

 ユリウスは苛立ちを覚えた。

 どんなに殴ろうが、どんなに切り裂こうが、アンデッドのように立ち向かってくる。

 こいつは痛みを恐れていないのか。そもそも死を恐れていないのか。自分が怖くないのか。絶望しないのか。ここまで諦めが悪い人間が初めてだった。

 ユリウスには理解が出来なかった。何故、ここまでして少年が自分に立ち向かうのか。何故、ここまで何度でも立ち上がれるのかを。

「いいだろう.......今度こそは息の根を止めてやろう」

 何かのまぐれだったのかもしれない。少年はまだ生きていた。その事実をユリウスは認めた。

 だが、偶然は二度と起こらない。今度こそ仕留める。宣言通り息の根を確実に止める。

 少年の顔面に向けて、魔力を込めた強打の拳を叩き付けようとユリウスは拳を振り上げた。

 風圧で土砂と冷気が巻き上げられる。空気が拳圧だけで震えていき、大地は歪みを作り亀裂が入った。

 ユリウスの悪魔の剛腕から放たれる拳は、少年をあの世へと導く一撃になる、

 筈だった。

「なん、だと.......?」

 少年の顔に叩き付けた拳。しかしそれは少年の手の内に収まっていた。それだけでも驚きだが、もう一つ驚いていた。

 離れない。ユリウスは力を込めて引き離そうしても離れない。ピッタリと掴まれているようだった。今度は逆に少年を吹き飛ばす勢いで押してみるが、まるで壁を押しているように少年の微動だにしない。

 なんだこいつは? 『覚醒』のスキル以外にまだ何かしらのスキルを持っていたのか? 一体何のスキルが発動した?

 少年の身に纏う雰囲気が変貌していた。さっきまでの風の魔力はなんだったのか、今の少年は見たことがない白い魔力を放っていた。

 それだけではない。黒かった少年の髪の色が薄くなっていく。黒から灰色へ。灰色から白へ。目も同じように、黒目から十字の刻印が刻まれた白い魔眼へと変わっていた。

「ふーん。君、か.......」

 少年の声は変わっていた。無邪気な子どものような声だったが、何処か物恐ろしい声だった。身も凍る冷たい声。その中には憤怒の怒りが込められていた。

「君が、ボクのお気に入りを壊してくれたんだね?」

 ビキビキと音を立てる。氷が砕ける音でも少年の拳が潰れる音でもない。
 紛れもない、ユリウスの自身の拳だった。少年の枝のように細い指が、ユリウスの拳に食い込んでいた。

「これは高くつくよ。覚悟は、いいね?」

          ・・
 パン、と乾いた音が二回した。それはユリウスの拳が熟れたトマトを潰すように弾けた音だった。

 そしてもうひとつが、ユリウスの頬の骨が潰れて少年の鋭い拳が突き刺さっていた音だった。

 ユリウスが痛みを感じると同時に、遅れて鈍い鈍痛と凄まじい衝撃波が巻き起こり、後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

 ただ殴られた。

 それだけで瓦礫の都市となった王都の街並みを捲りながら、ユリウスは地面が抉り、建物を剥がし、まだ残っていた建物を幾つも倒壊させ、石製の建築物で何度もその身で貫きながらやっと止まった。

「ご、ほっ.......!?」

 口から血が溢れている。

 ユリウスがいる場所には、深く巨大な奈落が形成されていた。

 血が止まらない。さっきの一撃で頭蓋骨の半分と首の骨がへし折られているらしい。

 悪魔化の影響ですぐに再生が始まり、骨はメキメキと音を鳴らしながら治っていくが、やはりその速度は遅い。

 ユリウスはある感情を抱いていた。

 それは―――恐怖。

 ユリウスは認められなかった。三百年以上生きた自分が、まだ十代後半の子どもに恐怖という感情を感じている事に。

 ユリウスは瓦礫を跳ね除けて起き上がる。

 前を見ると遠くから少年が歩いてきている。

 ユリウスが立ち上がった瞬間、さっきの轟音でキメラが駆けつけたようだ。キメラは片腕片翼を黒に変えて飛翔している。

 失大罪、そして七大罪。それを全て発動していたことにユリウスは驚くが、歓喜する。

 キメラはヒポグリフの翼を靡かせ、空を駆けながら少年を見つけると、一直線に急降下を行った。
 少年目掛けてキメラは、タイラントグリズリーの爪で襲いかかる。岩盤を軽々と穿つ豪爪が上空から少年に放たれた。

「雑魚がボクの邪魔しないでくれるかな」  

 キメラの凶爪が届く手前で、少年は指を一本突き出した。数秒後にはもう一度死という現実がその身に降るかかるのに、少年が取った行動はキメラに無防備な背中を向けたまま人差し指を後ろに出しただけ。

 何をやっているのだろうか。そのままキメラに惨殺されるに決まっている。そんな浅はかなユリウスの考えを嘲笑うかのように、少年は一言呟いた。

虚構きょこう指先ゆびさき

 その瞬間、世界が揺らいだ。

 少年の指先から超高密度に圧縮されたエネルギーの弾丸が形成される。

 弾丸はキメラに向かって放たれ、全てを無に返すブラックホールがその場で展開された。

 何者も存在することが許されない深淵の空間が誕生し、キメラの全身を余すことなく呑み込んだ。
 少年へと飛びかかったキメラ。その最後は断末魔をあげる暇も無く、この世界に存在した証拠をひとつも残さずに消滅した。

「なっ.......!?」

 ユリウスは塵ひとつ残らず消えたキメラの姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 ありえない。

 ユリウスの作ったキメラは脅威度Aの魔物を寄せ集めて作られたが、その身に秘める性能は脅威度Sの魔物に匹敵する。

 失大罪を二つ。何かの奇跡か七大罪をふたつ。大陸を単騎で滅ぼす力を持った化け物だ。

 それがたったの一撃、しかも指一本だけで葬られた。その事実にユリウスの頭は理解に追いつかなかった。

「邪魔が入ったね。さあ、続きを始めようか」

 少年は足音を立てながらユリウスに近づく。

 砂利と瓦礫を蹴飛ばしながら歩み寄る。

「お前は.......お前は一体なんなんだ!」

 ユリウスは叫びをあげた。

 理解ができなかった。なんなんだ、こいつは。
 目の前のこいつは、なんだ。

 その問いに少年は答える。

「ボク?  ボクはウラノス。失われし神々の一柱にして空間を司る神様だよ」

 少年。否、ウラノスは嗤っていた。



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  • ノω・、) ウゥ・・・

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