ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

閑話 バレンタイン


 本編とは何の関係もありません。IFの世界線だと思って頂ければ幸いです。




 閑話 バレンタイン



 甘い香りが店の外まで漂っている。

 CLOSEと書かれた看板が掛けられたリフィア薬草店の店内。その中で、一人の幼女が一生懸命にぶくぶくと泡が立つ毒々しい紫色の液体を掻き回していた。幼女は機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら一心不乱におたまを回す。

「お兄ちゃんはいつも頑張ってるの。だから今日はリフィアが美味しくて、身体にいいチョコレートを作ってあげないといけないの!」

 どうやら作っているチョコは途中段階なようだ。チョコと呼ぶに値する見た目はしていないのだが。リフィアは手をぽんと叩くと、いつもポーション等の薬品を作る素材の棚を漁りだした。

「えーっと.......滋養強壮のコカトリスの心臓は確定なの。あとは隠し味に甘みがあるデザートスコーピオンの卵巣と、乾燥した抗毒効果のポイズンサラマンダーの肝なの」

 リフィアはそれらを鍋の前に抱えて持ってくると乱雑に鍋の中に放り投げる。化学反応を起こしたチョコの材料達は、致死性の毒煙を吹き出しながら真っ黒に黒ずんだ。

 不思議とチョコの香りはより一層甘さを増す。甘さと言っても、麻薬のような危険な香りが混じった甘い香りなのだが。

「よし、ちゃんと黒くなったの! リフィアは天才なの! これでチョコレートの完成なの!」
「いや何やってるのよリフィアちゃん」

 不意にリフィアの肩に手を置かれて声を掛けられた。

「あわわっ! その声は受付嬢さんなの!?」
「お店閉めて何やってるのかと思えばチョコレートなんか作っちゃって。確かに今のところ冒険者の大半はクエストに行けない状態ですからあまり迷惑になっていないですけど.......」

 リフィアは幼いながらネメッサの街では貴重な回復薬を作れ、怪我の治療に当たれる人材だった。率直に言えば冒険者からの需要がとても高かった。そのリフィアが薬草店を勝手に閉店していることに受付嬢は眉を顰めていた。

 受付嬢は鍋の中で煮え立っているチョコレートの香りを嗅ぐと言った。

「くんくん.......。ふむ、リフィアちゃん。まだ何というか、リフィアちゃんのチョコレートにはインパクトが足りないですね」
「インパクト?」
「そうですよ。男の子の胃袋をギュッと掴むなら、もっと刺激的なスパイスが必要よ!」
「刺激的なスパイス! その発想は無かったの!」

 受付嬢はそう言って勝手にシビレタケやらバジリスクの眼球やらヴェノムスネークの干した皮を投入した。

「美味しくなあれ♪ 美味しくなあれ♪」
「美味しくなあれ♪ 美味しくなあれ♪」


 二人は笑顔で鍋を回す。やってることはチョコを作っているだけの微笑ましい光景なのだが、如何せん鍋の中身がただの毒物なので傍から見れば魔女が怪しい薬も調合しているだけにしか見えない。

「二人共何をやっているのかね?」

 二人が鍋を回していた時、薬草店の扉が開かれて一人の小太りの男が入ってきた。

 黒いタキシードに身を包み背が小さくやけに脂ぎった肌。ネメッサの街の住人ならば誰でも知っているだろう。金にだけはがめつい性格の悪い男だった。

「あ、ギルマス!」
「やれやれ、仕事をサボった我が冒険者ギルドの受付嬢を見つけたと思えば、呑気にチョコレートなんか作っているとは。これは職務怠慢、今月の給料は80パーセントカットだな」

 今日のギルマスはやけに機嫌が悪かった。でっぷりとした二重あごを震わせ、頬をぶるんぶるんと膨らませている。

 理由は単純明快、ギルマスはバレンタインデーなどという甘ったるい今日という日が嫌いだった。もっと詳しく言えば一年の中でクリスマスの次に嫌いな日だ。

 ギルマスの機嫌が悪い日は給料をカットする金額が上がる。いつも20パーセントか30パーセントなのだが、リア充がハートマークを頭の上に浮かべながら跋扈する今日は凄ぶる機嫌が悪いので80パーセントカットだ。

 ギルマスは産まれながら性格が悪いので、今まで異性からチョコを貰ったことがあるのが母親だけだった。そんなギルマスがバレンタインデーを親の仇のように憎んでしまうのは致し方ない事だろう。

 リア充は皆等しく爆発して死ねばいい。今年も彼女からチョコを貰ったと自慢してきた男性職員のチョコをゴミ箱に捨て、給料を0Gにしてやった所だ。

 しかしそんなギルマスに人生の転機が訪れる。

「酷いです! 折角ギルマスの為に作ってたのに!」

 彼女いない歴=年齢のギルマスはその言葉を聞いて心が踊り狂った。まさか、まさか、五十歳半ばでやっと母親以外の異性からチョコを貰える等予想出来ただろうか。

「そ、それは本当なのか? いやぁ、照れてしまうなぁ? はっはっはっ。モテる男ってのは大変なんだよなぁ」

 ニタニタと気持ち悪い笑顔を浮かべるギルマス。その表情は心做しか喜びの感情でいっぱいのようだった。

「しょうがないなぁ。今日だけは見逃あげよう」

 今日チョコを貰った男性は安堵し、優越感に浸れる。ギルマスの超高速手の平返しも納得が出来る。悲しい悲しい男の性であった。

「ふふっ、ばれちゃったら仕方ありませんね。はい、味見ですよ。あーん、してください。あーん」
「あーん」

 ギルマスは嬉々した表情で受付嬢から手渡されたチョコを口の中に入れた。

 口の中に入れてしまった。

「ぼぶべぇッ!?」

 口に広がったのは何とも言えない「不味み」だった。甘いとか辛いとか苦いとかそんなものではない。ただただ不味い。めちゃくちゃ不味い。舌が錆びたナイフで切り刻まれ、味覚を完全に壊されていくような、永遠に続く地獄のような苦痛をギルマスは味わった。

 受付嬢からのチョコを食べたギルマスは苦しそうに喉を抑えてのたうち回る。食べたチョコレートを必死になって吐き出そうとしているのだろうか、時折喉からは汚らしい声を吐き出している。

 しかし受付嬢がギルマスに食べさせたチョコは粘着性が強く、喉の奥にピッタリと張り付いてそう簡単には取れなさそうだった。打ち上げられた魚のようにしばらく痙攣を起こしたギルマスは、数分後には完全に動かなくなっていた。

「あら。美味しすぎて思わず失神しちゃったみたいですね。これなら効果抜群です! リフィアちゃん、今から意中の相手に渡しに行きましょうか!」
「はいなの!」



 ◆◇◆



「いやもういいって。これ以上食ったら出血多量で死ぬから! いやまじで!」

 ネメッサの街の広場は騒がしかった。両鼻に丸めたティッシュを詰め込んだ少年が涙目で訴えている。その隣はまだ十代前半の少女が少年の口にチョコを詰め込んでいた。少女の後ろには数多く積み上がったチョコが詰まった荷台が置かれている。

「いいから食べなさい変態! 折角作ったチョコが余ってんのよ! 勿体無いでしょ!」
「うぐっ!? 無理矢理口に詰め込むな! 僕を殺す気かお前は!? こんなに食えんわ! 作りすぎたならさっさと冒険者ギルドの皆にあげてこい!」
「そしたら意味ないじゃない!」

 ギャーギャーと真昼間から騒ぐ二人。その様子をリフィアと受付嬢は物陰から見つめていた。

「一足遅かったようですね。恋敵発見、どうします?」
「むーっ! こうしちゃいられないの! 早く渡しに行くの!」

 リフィアはまだ幼いので恥じらいや様子見等という選択肢は頭のから抜け落ちていた。トコトコと走ると少年に近付いてその名を呼んだ。

「お兄ちゃん!」
「お、リフィア。急ぎ足でどうしたんだよ?」
「お兄ちゃんの為にチョコレート作ったの! 食べて欲しいの!」

 少年は手渡されたチョコを受け取けとるも苦笑いを浮かべる。

「それは嬉しいんだけどさ、もうこれ以上チョコ食べると冗談抜きで死ぬから。そうだ、持って帰って明日食べるよ、明日」

 少年が鼻に詰め込んでいるティッシュは赤みを帯びている。どうやらチョコの食べ過ぎて鼻血が止まらないらしい。

「ちょっと何言ってるのよ? あと24ダースは残ってるわよ?」
「そんなに食えるか! 死ぬわ! 全身の毛穴という毛穴からチョコが吹き出して死ぬわ!」

 少年は口に押し付けられるチョコを跳ね除けて怒鳴る。リフィアはその様子を見てしょんぼりとした感情が心の中に広がった。

 リフィアは折角作った出来たてのチョコを今食べて欲しかった。もっと言えば目の前で食べて感想を聞きたかった。そんな時、リフィアに受付嬢から助け舟が出された。

「駄目ですよロ.......ウェルトさん」
「仕事さぼって何やってんだよ? あと今ロリコンって言おうとしただろ」
「女性の恋心は冷めやすいんですよ。新鮮な今の内に食べないないといけないんですよ?」

 受付嬢は少年の言動に少しだけ立腹する。二人で
頑張って作ったチョコはいま目の前で食べてくれないと困るのだ。
 しかし無理もない。閉鎖的な寒村で育った少年は『バレンタインデー』となるもの知らなかった。
 エマがくれたチョコレートは作りすぎて余ったからおすわけしてくれたもの、リフィアが持ってきたのはたまたま作ってくれたもの程度にしか考えていなかった。

「ほら、受付嬢もそう言ってくれてるわよ。早く残りも食べなさい」
「物理的に無理だっつーの! もう胃袋はチョコでパンパンに埋め尽くされ.......ふがっ」

 少年の言葉は何かに塞がれ最後まで紡げなかった。視線を下に向ければ、口には受付嬢の手でチョコが差し込まれている。ギルマスが失神するぐらい美味しいあのチョコが。

「受付嬢さんグッジョブなの! どうお兄ちゃん? リフィアが作ったチョコレートは美味しい?」
「..............」
「あれ? お兄ちゃん?」
「..............」
「ペちペち。頭叩いても起きませんね。どうやら美味しすぎて失神してるようです」
「いやあんた達、そのチョコに何を入れたのよ。白目向いて立ったまま気絶してるわよ」

 風の噂で、少年とギルマスは二週間は目を覚まさなかったと聞く。



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