ろりこんくえすと!
2-65 沈む屍の海、誘う亡者達の腕
2-65 沈む屍の海、誘う亡者達の腕
「『覚醒』、発動」
エキューデの身体から黒い靄が吹き出した。黒い靄は噴火した火山の黒煙のように辺りを黒一面に染め上げていく。
キメラはエキューデの発動したスキルに怯えた。本能故か、直感故か、とにかく命の危険を感じたキメラは【虚飾】で作った腕を薙ぎ払う。
黒い靄を切り裂いてエキューデの腕が飛んだ。腕はくるくると回りポトリと地面へ落ちた。
「覚醒で強化された我の身体でもこう、いとも容易く傷を付けられると少し反応に困ってしまうな」
口をへの字に曲げてエキューデはおどけたように笑う。
「まあ無意味なのだが」
その言葉が言い終わった直後、ちぎれて地面に落ちた腕は、自らの意志を持ったかのように動き出し、一人でに跳ねて剥き出しとなったエキューデの腕の骨とくっ付いた。
くっ付いた腕をグルグルと回して調子を確認すると、エキューデは口元を歪めた。
「さて、久々の御開演と行こうではないか。屍山血河」
エキューデがパンパンと手を叩いて技能を発動した後、彼の足元がボコボコと浮き上がる。それは決して土なんて物ではない。あえて言うなれば死体の山と血の海であった。
エキューデはこれを屍海と呼称している。屍海の中には万を越える無数のアンデッドがひしめいており、一度中に囚われれば二度と戻れない別次元の世界となっている。
不意にエキューデの足元からボコリと音を鳴らし、骨と皮だけの腕が這い出してきた。そのまま眼がない顔を持ち、ボロボロの古いローブを纏った老人な様な風貌の魔物が現れた。
普通の人から見ればなんて弱そうな魔物なのだろうと馬鹿にしてしまうだろう。だが、もしもこの魔物の正体を知ってしまえば余程の実力者か命知らず馬鹿以外は裸足で逃げ出す凶悪な魔物であった。
「クカカカ。幾百年振りですな、我が主よ」
声帯が無いのに件の魔物はエキューデを向いて笑う。
個体名 エルダーリッチ
Lv82
HP480/480
MP2398/2398
筋力12
魔力985
耐久786
精神934
俊敏231
所持スキル
全属性魔法Lv8
『フレイムテンペスト』『アクアシャベリン・ハザード』『サンダーコール』
『ゲイルトルネード』『アースクエイク』『フローズンレイ』『ホーリーレイ』『ダークパニッシャー』
脅威度A、エルダーリッチ。
言わずと知れたノーライフキング、死者を束ねるアンデッドの王とも呼べる存在だった。
エルダーリッチを見たキメラはその危険性を瞬時に理解した。自身の身体に使われている魔物達に劣らない強さと風格を兼ね備えていたからだ。
ブレイズレオの口内を開き獄炎を灯し、メギドブレイズを放つ。アンデッドは光属性と火属性に弱いと言う説は一般的だ。それはある程度の知性を持つキメラにも分かっていた。
「クカカカカ。私とご主人の感動の再開なのですよ。涙腺極まる今に余計な手出しは控えて欲しいものですな」
「眼球が無くなったお前に涙腺なんてものはないだろうに」
「クカカカカ、それは失礼。そうでしたな、歳を取ると物忘れが激しくなりますな。クカカカカ!」
エルダーリッチは朗らかに、そして優しさを込めて笑う。そして骨ばった、というより骨そのものの手から極大の魔法陣を展開した。
それは優しそうな笑いとは真逆の凶悪な魔法だった。
水の最上位魔法、アクアシャベリン・ハザード。魔法陣の中から一本一本が大樹を越える大きさの水の槍が現れた。
その数、約数千本。
手始めに初撃の百本程でキメラの放ったメギドブレイズを消火して水蒸気へと変えた。次に残ったものはそのまま降り注ぐ。
巨大な滝が落ちた、それとも大瀑布とも言うべきか、圧倒的な水の質量はキメラを軽々と呑み込み押し潰した。
「やりましたぞ主! さあさ私を褒め称えるのですぞ!」
「あれぐらいで死ぬ訳なかろうに」
「な、なんですとー!?」
衝撃波が水を撥ね飛ばす。先にも見せた仙山の猿王が使うとさせる気功法と響震のコンボだ。
水が降ってできた霧の中から現れたキメラはこれまで以上にブレイズレオの鬣を燃え立てて、バチバチと神速の雷豹の脚から稲妻飛ばす。
「ありゃ、これは怒らしてしまいましたかの?」
「ガアアアアアアッッッ!!!」
「そんなもん見ればわかるだろ」
キメラは物凄い速さで地を駆ける。自分を邪魔する邪魔な羽虫をあと一体にまで減らした言うのに、また増えた。それでも腹が立つが、追加されてきた乾いたもわしのようなゴミクズが、あろうかと自分に痛みを与えてきたのが我慢ならなかった。
そんな時、地面から一体、一振のオンボロな剣を携えた人間の骨が現れた。否、人間と同じ骨格なのだが、その大きさだけはあまりにも掛け離れていた。キメラに使われているタイラントグリズリーと同じか、はたまたそれ以上の体躯を誇る骨人は、後ろにいるエキューデとエルダーリッチを守るようにキメラの前に立ち塞がる。
邪魔だ、とキメラは思った。【虚飾】で作られた腕を腰溜めに構えて骨人に突進する。途中、ガリガリと地面を削りながら下投げに振るわれた腕は、見事に骨人を斬り裂いた
.......かと思えた。
逆に斬り裂かれたのはキメラの方であった。すれ違い、骨人の後ろを取った瞬間、胸に一筋の切れ込みが入り血飛沫が盛大に飛ぶ。
それだけでも致命傷だが、まだ続きはあった。
付けられた一筋の切れ込みからは更に斬撃が広がった。斬撃は止まることなく広がり続ける。気付けばキメラの全身に裂傷が入れられ、傷口から致死量の血液が噴き出した。
「グガアガアアアアアッ!?」
驚異的な再生能力ですぐさま傷口は塞がるが、溢れ出した出血量によりキメラの体力は大幅に奪われた。後ろを振り向いて、自身に深く激しい痛みを与えた張本人をキッと見つめるとキメラは牙を剥き出しにして威嚇した。
個体名 スケルトンエンペラー
Lv87
HP1231/1231
MP211/211
筋力1246
魔力39
耐久1008
精神1142
俊敏1198
所持スキル
剣聖Lv5
『大切断』『一斬千殺』『伐命剣』
『魂破斬』『神速剣』
脅威度A、スケルトンエンペラー。
骨系アンデッドの帝王、そしてこの個体は生前は剣聖と呼ばれた実力者の慣れ果てであった。
キメラに使った技能は一斬千殺。その名の通り一回斬れば千回は殺す刀剣系統の技能の中でも奥義と呼ばれる強力無比な技能だった。
スケルトンエンペラーは表情こそ乏しいが確かに口元を吊り上げた。威嚇しても尚物怖じず、見下したかのようなその態度にキメラの怒りのボルテージは更に高まる。
優先順位をキメラは己の中で変更する。最優先はこの骨野郎だと。
ヒポグリフの翼を広げ、両翼に暴風を纏わせた。
ごうごうと唸りを上げる暴風をキメラは両手を合わすように翼と翼を叩き付ける。
風の上位技能。ゲイルトルネード。
砂嵐を巻き上げ、横一直線に走った暴風はスケルトンエンペラーの元へと直撃した。
今まで無い大きな轟音。
息を荒らげながらもキメラは嗤う。しかし、砂塵が晴れるとそこには驚愕の光景が待っていた。
所々腐っているが、ごつごつとした緑色の肌。飛び出した太い骨。そこらじゅうに穴が空いているが、尋常ならざる風貌の二対の翼。そして、強者の証である一本の角。
それは竜だった。
詳しく言えば腐竜、又はドラゴンゾンビと呼ばれるゾンビ化したアンデッドの中でも特に脅威度が高い魔物だった。
その異常すぎる魔法耐性故にキメラの放ったゲイルトルネードを受けても、無傷。後ろにいたスケルトンエンペラーを余裕で庇い切れていた。
個体名 ドラゴンゾンビ
Lv176
HP6975/6975
MP3459/3459
筋力6356
魔力4869
耐久3423
精神4396
俊敏3753
所持スキル
腐竜Lv6
『ポイズンブレス』『猛毒噛みつき』『毒炎弾』『毒激爪』『瘴気の濃霧』『ポイズンレイン』
竜技Lv6
『鋭翼撃』『ファイアーブレス』
『ボルケーノ』『畏怖纏い』『薙ぎ払い』『絶砕牙』
このドラゴンゾンビは生前はグリーンドラゴンと呼ばれる毒を操ることに長けたドラゴンだった。
その時点で脅威度Aを優に越えて脅威度Sの領域へと片足を踏み込んでいた。
そして通常、死んで甦ったドラゴンゾンビは身体能力は落ちるが毒に適正が付く。生前のドラゴンが火を操るレッドドラゴンならば火と毒、と言うように二つの属性に適正が付く。
ならばこの甦ったグリーンドラゴンを介して生まれたドラゴンゾンビはどうなるのか?
答えは毒の適正が高まる、である。
その結果、エキューデの屍海から這い出したドラゴンゾンビの脅威度は、
Sだ。
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