ろりこんくえすと!

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2-64 【過食】と【虚飾】二つの失大罪



 2-64 【過食かしょく】と【虚飾きょしょく】二つの失大罪


 ゼノの腕が肘の先から二つとも無くなっていた。その事実を認識した三人に戦慄と動揺が走り、一瞬遅れで気付いたゼノは激痛を覚え叫び声をあげる。

「う、腕があああああぁぁぁ!!!」
「なっ.......!?」 
「ちぃっ、やはりか!」

 立膝を付いて噴水のように激しく血を流すゼノ。いち早くエキューデはゼノの手当てへと向かい、手加減したアビスライトニングで傷口を焼き払う。

 ゼノに再び耐え難い激痛が襲う。しかしそれを耐えれば、断面が焼かれたことにより傷口は固まり止血に成功した。

「い、一体どういうことですか~!?」

 キメラの口からは赤く染った細長い芋虫みたいなものが二本ぶら下がっていた。紛れもない、それはゼノの腕だった。

 くちゃくちゃと咀嚼音を立ててゼノの両腕を飲み込むと、キメラはぺっ、と溶けながら銀色と赤に光る物を地面に吐いた。

 それはゼノの使っていた剣だった。メギドブレイズを両断した時、熱で溶けて既に使い物にならなくなっていたが、キメラの歯に噛み潰され、ブレイズレオの口内で焼かれたそれは、ただのゴミと化していた。

「くそっ、何が起きたんだ!?」

 ジョサイアにはあの一瞬の間で何が起こったのか分からなかった。キメラはゼノからかなりの距離を離れていた筈だ。現にゼノ達がいる場所からキメラがいる場所は数百メートル程の距離が離れている。

 どんな訳かキメラは一瞬で動きゼノの両腕を食いちぎったのだ。そして、なによりも不可解ならばゼノの両腕を食いちぎる為にはゼノに近付かなければいけない。それがキメラは『一歩も動かずに』食いちぎっていたことだ。

「あの魔力、やはり持っていたか。失大罪スキル.......!」

 エキューデがキメラを睨んで呟いた。その言葉を耳に入れたジョサイアは聞き逃さなかった。

「大罪系スキル持ちだと!? その話は本当なのか!?」
「うぬ、あのツギハギ魔物の纏っている魔力を見る限り確実に失大罪スキルを持っている。それも随分強力なやつをな」

 指摘通りキメラの身体からはこの世のものとは思えない禍々しい魔力が立ち上っている。話には聞いていたがジョサイアは始めた見た。失大罪スキルを持った存在を。

「失大罪スキルの詳細は分かるのか?」
「そうだな、腰巾着のやられたことから見ると恐らく暴食系統だろう。失大罪は七大罪から分離したものが多い。そして我の推測ならば.......」

 話している最中、唐突にキメラの口が開いた。刹那、ジョサイアの横にいたエキューデの足の内の一本が太腿の半分から下が消え失せた。

「【過食】だ」

 ぐらりとよろめき、バランスを崩したエキューデはジョサイアに寄りかかる。食いちぎられた傷口から血がボタボタと流れ落ちる。その痛みと様子に顔を顰めると、エキューデは寄りかかったまま屍霊魔術を発動し、適当な足の骨を拾うと失った足の箇所に無造作にくっ付ける。

「おい、大丈夫なのか!?」
「我の心配より今は自分の心配をしろ。【過食】の能力はどこまでも伸びる不可視の口だ。油断していると食われるぞ」

 キメラはまたもや口に加えたエキューデの脚を美味しそうに咀嚼すると、ぎこちない動きで立ち上がった。魔道兵器の光弾を受けて再生能力は落ちている。右腕から付け根を失ったキメラの体幹は何処か安定していない。

 キメラの目は死んでいなかった。虚ろになるどころか爛々と生気に満ちて輝いている。それは、正しくエキューデ達四人を確実に排除すべき敵だと認めた瞬間でもある。

「くるぞ、対処法は気合い入れて口元の動きを観察しろ。見えない口を高速で飛ばす。口を開けたらその場から離れろ。食われるともう二度と帰ってこないぞ」
「なんて根性論な~」
「くっ.......」

 ジョサイアは躊躇いがちになりながら一瞬だけ言い淀むが、魔道兵器を手に取ると言葉を繋げた。

「失大罪スキルは脅威だ。【過食】の能力には手こずるのは想像できる。しかし、ここでチャンスを逃すともう次は無いかもしれない。心臓の損傷を受けて再生能力が弱った今、やつを叩く絶好の好機だ」

 言い切るとジョサイアは魔道兵器を違う形に変えた。ガチャガチャと機械音が鳴り重砲から形が変わる。それは彼が最も扱い慣れた剣だった。

「ゼノ、」

 今まで黙っていたゼノはジョサイアに呼ばれるとビクリと肩を強ばらせた。

「両腕を失ったお前は役に立たない。強いていえばここで囮になるしか使い道がない。お前の役目は王都にいる人間に避難を促すことだ」

 ゼノはキメラとジョサイアを交互に見つめるとその場から駆け出した。
 ジョサイアの横をゼノが通り過ぎていくその途中、耳に「頼むぞ」とゼノの声で聞こえた気がした。

 足音が遠ざかり完全に消え去るとジョサイアは足を踏み出して前に出た。

「やれやれ、今日の王都は本当に騒がしい。悪いが付き合ってくれ.......。やるぞ」
 
 ジョサイアの掛け声と共に戦場の全員が駆け出した。中央からはジョサイア、右からファリス、左からはエキューデと三方向に別れてキメラの元へと走り出す。

 大きくキメラは口を開いた。その直後、ジョサイアが握ってきた魔道兵器の半分が消し飛んだ。衝撃で滑るように地面を後退したジョサイアは、舌打ちをして魔道兵器を投げ捨てる。

 ジョサイアがキメラを一時引き付けている間、ファリスが助走を付けて跳躍した。体術の技能である瞬身を使いキメラの右横頭上へと身を投げ出す。キメラの傷口の断面からは臓器や肉が乱雑に溢れ出しながら剥き出しとなっている。

 その中にファリスはある一点を凝視して目を見張る。ドクドクと微かで弱々しいが確かに動いているピンク色の臓器器官。間違うはずもない、心臓であった。

 あの心臓さえ貫けば.......! 足場のない宙の中、ファリスはレイピアの鋒を心臓に向けて狙いを定める。自身の細腕に全身全霊の力を込めてレイピアを投げ―――

 突如、ファリスの身体がくの字に曲がった。ムチで打たれたかの鋭い痛み。衝撃で息が詰まり、叩き落とされる羽虫の如く、凄まじい勢いで地面に叩き付けられた。

 腕? 脚? それとも失大罪? 一体何で攻撃をされた?

 突然の自体に思考を加速させながら立ち上がる。不幸にも先の攻撃でレイピアを手放してしまった。今のファリス丸腰、キメラからすればただの素早く動く的に過ぎない。

 痛みを感じながら起き上がると、ファリスの目にはある物が飛び込んでくる。それはキメラの後ろからひょろひょろと長いものが宙で揺れていた。

 尻尾。神速の雷豹の尻尾だ。その尻尾の先にはファリスが先程投げたであろうレイピアが絡め取られている。

 やられた。ファリスは無言でキメラを睨み内心で舌打ちをする。これまで神速の雷豹の身体の部位は脚ばかり気を取られていた。いや、キメラの他の魔物の身体も強力無比な性能を秘めており、尻尾なぞ気にする余裕は微塵も無かった。それはファリスにとって、その身で味わう痛い誤算になってしまった。

 キメラは嘲笑うかのように嗤う。あの細ひょろい尻尾の何処に筋肉が付いているのか、ボキボキと木の枝を折るようにファリスのレイピアを尻尾で締め付けて粉々に砕いた。

 目の前で無防備に立つファリスに対し、タイラントグリズリーの腕が常識外れの筋肉量を膨張させたことによる膨らむ。

 地穿じうがき。ファリスを仕留めようとキメラは極度に肥大化した腕を振り上げた。

「ファリス!」

 見兼ねたジョサイアが鞘ごと自分の剣を取り外し、ファリスに向けて剣を放り投げた。

 流れるように足を後ろに下げてファリスは投げられた剣を手に取る。慣れた手付きで鞘を投げ捨てると返すように斬り飛ばした。

 一閃。

 丸太のように肥大化した腕がぽとりと地に落ちた。自分の腕を落とされた事に気付いたキメラは大声で吠えた。

 極限状態の中、ファリスは見切っていたのだ。肥大化したタイラントグリズリーの腕。その筋肉と筋肉の間、どこに刃を通せば切断できるのかを。

 ファリスは一度タイラントグリズリーの腕にレイピアで穴を開けた。普通、タイラントグリズリーの腕は硬度な毛皮に覆われており、それを貫いたとしても厚い脂肪に阻まれてまともに攻撃は通らない。

 それをファリスは目視で測っていた。毛皮の薄い所、脂肪が多く付いていない所、タイラントグリズリーの腕を貫いた時点でどこを壊せばいいのか既に分かり切っていた。

 一度分かってしまえば問題はない。あとは己の直感と卓越した技術、反芻したイメージを持ってして剣を振るえばいい。さすれば定めた物は斬れるのだから。

「【過食】が来るぞ! 気を付けろ!」

 エキューデの言葉と同時に両腕を失ったキメラが口元を動かした。歩幅をずらすとファリスは剣を構えて睨み付けた。

 ―――来る。

 刹那の間にファリスは目視できない速さで剣を振った。

 両者共に同時刻で鮮血が瞬いた。ファリスは肩を食いちぎられ、キメラの顔面には鋭い斬撃が入れられていた。

 ブレイズレオの顔に切りかかれば高温により鉄は融解してしまう。だが、失大罪スキルを使った不可視の攻撃には熱による防御は皆無。

 そのためブレイズレオの顔にはファリスの剣閃がもろに入った。深い切り込みからは噴き出すように血が飛び散っている。

「今です、団長ッ!」

 おっとりした口調を変えてファリスが叫んだ。そのすぐ後に阿吽の呼吸でジョサイアがファリスの後ろから飛び出した。ジョサイア手にはしっかりと握られていた。さっきまでファリスが使っていた彼自身の剣が。

 後ろに投げて寄越していた。長年一緒に過ごしてきたジョサイアにはファリスの意図が分かる。

 キメラがまだ怯んでいる隙を狙って一気に畳み掛けろ、と。

 護印結界を前方に展開。そのまま少し上方にもうひとつ展開。勢いつけて飛び、最初に展開した護印結界を足場にして大きく跳躍する。

「これで終わり、だッ!」

 上方に展開した護印結界を三角飛びの要領で蹴り飛ばした。定めたのはファリスと同じく剥き出しとなった臓器。勢いを落とさないまま袈裟懸けにジョサイアはキメラの身体を引き裂いた。

「ガアアアアアアアッ!!!」

 絶叫、それに続く絶叫。キメラは子どものように暴れ周り、吠える。途中、やはりジョサイア渾身の斬撃は仙山の猿王の身体に阻まれたものの、水風船を割ったかのように大量の血液がキメラの傷口から噴出した。

「あと一息、だッ!」

 剣はジョサイアが切り込んだ後、キメラの身体の奥深くに突き刺さってしまい抜けなくなった。仕方なく手放してきたが、それでもキメラは今尚暴れ回っており、突き刺さっている剣から傷口が拡がっていくので効果的だ。

 ジョサイアは命の残量を燃やし護印結界を展開する。護印結界を攻撃に転用するのは得意ではないものの、ここは自分がやるしかないと覚悟を決めた。

「護印結界ッ!」

 展開した金色の膜を掴み、ジョサイアは振りかぶって投げた。金色の円盤はクルクルと回転していき、キメラにトドメを刺す.......

 かのように思えた。

「ガッ、ウガ、グガガガガがガガガアアアアアアアッ!!!」

 突然、キメラの挙動がおかしくなり、傷口から膨大な量の液体が溢れ出した。それは赤い血液ではない。黒い墨汁のような得体の知れない真っ黒い液体であった。

 それは金色の円盤を跳ね除けると、失った右胸の付近で蠢き渦巻いて形作る。肥大化した巨腕、鋭く尖った爪、逞しい筋肉質な胸。間違う筈がない、失った筈の仙山の猿王の一部とタイラントグリズリーの片腕だった。

「なっ.......!?」

 ただの再生ではないことが明らかだ。再生したならば元の状態に復元する。

 それはキメラが今しがた行ったのは別の部位を作ってくっ付けたと言うべき行為そのものを物語っている。

 キメラの纏う魔力がより一層禍々しく変質していく。その様子を見てエキューデは呟いた。

「こいつ、なんて厄介な奴だ。【過食】に加えて【虚飾】まで持っているのか」
「馬鹿な、失大罪を二つもだと!?」

 強力な失大罪を二つを同時に使った影響か、【過食】と【虚飾】の制御がままならないキメラは狂ったように暴れ回る。

「ギ、ゥグ.......ア、アガガガガ!!!」

 キメラは狂った声を喚き散らし、虚飾で作られたタイラントグリズリーの腕を振るう。凪いだ瞬間、風圧のみで地面は砕け、抉り取るように亀裂を入れて爪撃が放たれた。

 そしてその放たれた先には、肩を抑えて蹲るファリスの姿があった。

「あ.......」

 眼前に突風と共に飛んだ爪撃が迫り、視界が一面鮮明な赤に染まる。

 肉が切れて潰れる音が不快に聞こえ、びちゃり。

 ファリスの頬に跳ねた血がべっとりと付着していた。

「だん、ちょう.......?」

 目の前には裂傷から致死量の出血を流しているジョサイアの姿が膝を崩していた。

「団長ッ!」

 ジョサイアはファリスを庇うように飛び出していた。事切れるジョサイアをファリスは受け止め、狼狽える。

 キメラは嗤った。荒い息を整えて、失大罪を二つ同時に制御する術を身に付けたのか【虚飾】で作られた腕を動かしながら二人の前に近付いた。

「.......。ここで奥の手を使わないといけなくなるとはな」

 挟まれるように、エキューデがキメラの前に出る。ファリスが顔を上げると、倒れ込んだジョサイアとファリスを守るようにエキューデはキメラの前に立ち塞がり対峙していた。

「『覚醒』、発動」

 彼の身体から、黒い靄が吹き出した。

 

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