ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-60 異形の魔物は気高く嗤う



 2-60 異形の魔物は気高く嗤う


 人気のない閑散とした道を二人と男が歩いていた。もっと詳しくいえば、二人の男と、その内の一人に担がれた女の三人が歩いていた。

「おい、この道であっているのか?」

 銀髪の女を肩に担いだ男が目の前を歩く男に尋ねた。彼の名はエキューデ=オルガスタ。堂々とエルクセム王城に侵入し、暴れ回った挙句人質を取って脅迫している危険人物である。

 そんなエキューデの上に担がれているのが第四騎士団長のレオナ=アレステナ。エキューデを止めようとしたが、逆にボコボコにされて人質にされていた情けない人物である。

「あ、ああ。第二騎士団本部だろ? この道が一番の近道なんだよ」

 真っ赤な嘘である。

 何故バレないのが不思議なくらい見え見えの嘘である。

 嘘を付いた張本人の名はゼノ=ギラヴァンツ。第四騎士団の副団長であった。彼はエキューデを連れて歩いていた。

 ゼノはエキューデを連れて歩くが、第二騎士団本部に案内するつもりは毛頭なかった。
 実際、ゼノが向かってるのは第二騎士団本部ではなく第五騎士団本部であった。

 エキューデの実力は非常に高い。自身の上司のレオナが全く歯が立たずに遊ばれてしまう程である。到底自分一人では勝てないと見立てたゼノは、第五騎士団のジョサイアとファリスに協力して貰おうと考えていた。

 ゼノが第五騎士団に協力して貰おうと考えたのはただの消去法だった。第三騎士団はロリコンと実力が低いと評判のドレム、第二騎士団はエキューデが行こうとしていた場所なので論外、第一騎士団は得体が知れないの奴と戦闘狂。結果的にゼノが頼れるのは第五騎士団だけであった。

「ぐうむ.......」

 首を傾げながら歩くエキューデに内心冷や冷やさせながらゼノは歩く。最初こそはレオナの首にナイフを突き付けて歩いていたのたが、飽きたのか今は背中に担いでいてくれている。

 しかし気は抜けない。今もレオナの生殺与奪権を握ってるのは間違いなくエキューデだからだ。

 ゼノはなんとか第五騎士団本部まで辿り着き、ファリスにさえ会えればレオナはエキューデから取り戻せると考える。

 ファリスは神速の騎士の異名を持つ。何の策も講じなくても、ファリスの圧倒的な速度を持ち味にした戦い方を持ってすればエキューデからレオナを容易く引き剥せるだろう。

「おい」
「な、なんだ?」

 思考に耽っていたゼノの背中にエキューデの声が掛けられる。ゼノはビクリと背筋を震わせ、後ろを向いて様子を伺った。

「ここの光景、我はとてもよく見覚えがある。そうだな、第五騎士団本部の近くだったような.......」

 ギクリ、ゼノは胸に焦燥を募らせた。明らかにバレ始めている。その上向かってる場所が『第五騎士団本部』と察せられてしまっている。

 ゼノは脳みそをフル回転で動員し、冷や汗を垂らしながら言い訳を始めた。

「ほ、ほら、王都は結構似たような場所が多いんだよ。それの第二騎士団本部と第五騎士団本部の近辺は結構似ているんだ。き、気の所為だよ」

 なんとも必死すぎる言い訳だった。王都に住まう人からすれば「違うだろ」と突っ込まれること請け合いなのだが、肝心のエキューデは第二騎士団本部が『王城内』にあると知らなかったので訝しげな顔をするだけだった。

 なんとか誤魔化しを繰り返しながら、ゼノは第五騎士団本部へと続く大通りの中に出た。あと少し、ものの二、三分で第五騎士団本部だ。ゴクリと喉を鳴らし、ゼノはもうすぐだと自分に言い聞かせる。

「今日はやけに騒がしい。いきなり巨大骸骨ジャイアントスケルトンが出現したと思ったらウェルト君には逃げられるし、王城内には侵入者が入るわ、挙句の果てには王城の庭で爆発だと? 全く、革命前夜はもうすぐだと言うのに」
「いいから早く行きましょうよ団長~グチグチ言ってても何も始まりませんよ~」
「それはそうだが.......」

 第五騎士団本部まではあと少し、そんな時に大通りに一組の男女がゼノの前から歩いてきた。

 ゼノは目を見開き、思わぬ幸運に大声を出しそうになる。咄嗟に口を手で塞ぎなんとか抑えたが。

 腹の中でゼノは薄く微笑む。あと一歩、どうにかしてファリスにレオナを助けるよう協力を仰げば勝ちだ。

「ああっ! お前は!」

 しかし、ファリスに声を掛けようとしたゼノはそれよりも先にエキューデに遮られてしまう。

 エキューデはレオナをぶらんぶらんと担いだままファリスに近寄ると、険しい目付きで睨み付けた。

「あらら~貴方は~? いつの日か夜中に捕まえて牢に入れた変出者さんではないですか~」

 突然の出来事にゼノは一瞬だけ硬直したが、即座に気を取り直すと二人に話し掛けた。

「ええっと、お二人共お知り合いで?」
「知り合いも何もこの女、いきなり夜中に我の背後を襲い牢にぶち込んだ頭のおかしい奴だぞ」
「失礼ですね~頭おかしいのは貴方の方ですよ~夜中に妙齢の女性に『お前の臓器をコレクションにする』とか言って襲い掛かかっていたではありませんか~」

 なんてことだ。ゼノは頭を抱えた。

 まさか二人が知り合いだったとは誰が予想出来ただろうか。しかし、二人の様子を見るにお互いに良い印象は持ってないらしい。それだけがゼノの救いではあった。

「.......頭が痛い話だ。ウェルト君と同じで巨大骸骨ジャイアントスケルトンの騒動で逃げられたか。ファリス、もう一度捕まえておくか?」
「そうしたいところなんですけど~この人ヒョロガリの癖に結構強かったんですよ~また捕まえるのめんどくさいです~」

 職務放棄すんのかよ! と、心の中でファリスに突っ込むゼノの苦労は絶えない。

 本当に困った事態である。どうにかしてファリスに手伝って貰わないとレオナを助けれない。

「ふっ、確かにあの時の我は不覚を取ったが次はそう上手くは行かないぞ。あの時の恨みだ、お前をすっぽんぽんにひん剥いてやる」

 エキューデは手をわきわきさせながら下品な顔で笑った。

「団長~この人気持ち悪いです~私だけ先に王城行ってていいですか~?」
「つまり、私にこいつを捕まえて牢に連れ戻せと?」
「言い出しっぺは団長ですよ~」

 もどかしい気持ちで三人の様子を窺うゼノだったたが、ふとある考えが閃いた。

 ファリスと言い争っている今なら後ろからこっそりと行けるんじゃないか? ゼノの中で子どものような稚拙で浅く、実行にはあまりにも不明瞭な作戦が思い付いた。

 ただここでボケっと突っ立っているだけでは何も始まらない。

 抜き足、差し足、忍び足。音を立てないようにゆっくりとエキューデの後ろに近付いたゼノは、レオナを奪い戻さんと手を伸ばした。

「伏せろ」

 バレた!?

 あと一歩でレオナに触れられそうだったゼノだったが、エキューデが自分の不穏な気配に気付いたのか後ろを振り向いた。

「くそ、バレたか!? え? ちょ、」

 こんなことやるんじゃなかった。と後悔と焦りが胸を支配したが、いきなりエキューデに頭を掴まれて地面とディープキスしたゼノの真上に熱いものが掠めていった。

 前歯を強打した痛みで顔を顰めるゼノ。口を抑えながら立ち上がると信じられない光景が目に映っていた。

 赤く焼けた屋台。抉れたように削られ、硝子状となった大通りの石床。

 なんだ、何が起きた?

 不意にゼノの視界に大通りの床に大きな影が映った。それぞれが振り返り、一同が目の前に現れた魔物に目を見開く。 

 異形、あまりにも、異形。

 それは確かに魔物なのだろう、だが魔物と呼ぶ範疇に収めていいのかは甚だ疑問であった。

 ジョサイアはあまりにも肥大化し、鋭尖な爪を持つ両腕に見覚えがあった。かつて自分の妹が遭遇したことがある凶暴な巨大熊。

 脅威度A、タイラントグリズリー。
 
 ファリスには鳥を思わせる蒼色に輝く美しい翼を見たことがあった。暴風も、嵐も、竜巻も軽々と起こす天災の化身。

 脅威度A、ヒポグリフ。
 
 ゼノは筋骨隆々の頑丈な茶色の肉体を見て目を疑う。どんな剣も通さず、魔法も弾く最高強度の肉体を持った山の主。

 脅威度A、仙山の猿王。
 
 エキューデは常に電撃を纏う脚を見て驚愕の表情を浮かべる。 立ち塞がるもの全てを落雷で消し飛ばす雷雲草原の覇者。

 脅威度A、神速の雷豹。
 
 そして、エキューデには赤い鬣の上に眼窩を光らせる顔を知っていた。全ての生命を焼き尽くす焦土火山の絶対王者。

 脅威度A、ブレイズレオ。

 異形の怪物、即ちキメラはブレイズレオの牙を剥き出しにし、ヒポグリフの翼を大きく広げた。

 その瞬間、キメラの咆哮と共にやけに耳に響く音声が王都中に響き渡った。
 それは王都に差し迫った時に流れる災害警報。

 魔力式声音拡散機による放送だった。

「おじさんの名は第三騎士団長、ロイド=ツェペリ! これよりエルクセム王都に住まう幼女達に告げるッ!」 

 ピーッと甲高い快音。それに次、ロイドの声が拡散され王都全域に渡り響いた。

「たった今、推定脅威度Aの魔物がエルクセム王都、城下町付近に現れた! 速やかに幼女達は街の外に避難するんだ! なお男共は全力で足止めをしろ! おっさん共は精々のその命を有効活用して命を散らせッ!」

 一同は皆心の中で思ったことだろう。
 この男、最低だと。

「第四騎士団のレオナ=アレステナ、ゼノギラヴァンツ、第五騎士団のジョサイア=マルティニス、ファリス=メルセデルには討伐を要請する! そし.......ぐっ、がッ.......!」

 放送の途中にロイドの声に苦痛が入り、血が飛び散る男が混じって流れる。

「魔物を王都に放ったのは.......第一騎士団副団長のユリウ.......」

 放送はそこで途切れた。突然のロイドによる放送、討伐の依頼。そして不穏な最後の言葉。

 ただ、全員にはそんなものを気にする余裕はなかった。目の前には異形の魔物が嗤っていたのだから。


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