ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-55 燃ゆる炎は万物を焦がす


 2-55 燃ゆる炎は万物を焦がす


 問題。争いがない世界で生きてきた平和ボケした人間が、首にナイフを突き付けられた時、どんな行動をとりますか?

 答え。とりあえず殺されないように両手をあげて万歳する。

 それが今の俺だった。

 とりあえず今の状況を説明すると、成り行きでアシュレイさんという全く見知らぬ人物を助けようとした結果、血と汚物が部屋の中で、シャルルと呼ばれる全裸の女性にノアが拘束され、俺は現在進行中で身動きの取れない空中で糸に雁字搦めされ、首元にサイコパス野郎にナイフを突き付けられている。

 自分で言っても分からんなこれ。カオスすぎる。

 とにかく俺はムエルにナイフを突き付けられて万歳をしている。バンザーイ。バンザーイ。まあ糸で拘束されてるから強制的に万歳の体勢なんだけどね。

 いや、ふざけている場合じゃねえ。なんとかしないと今度こそ冗談抜きで殺されてしまう。

 つーか俺はどんだけ不幸なんだよ。一日の内に何回殺されそうになっているんだ。これも全てノアのせいだ。役に立ってないしな。巻き込まれてばかりだしな。後で締める。

「さて、どうしてくれようか」

 ムエルが殺意を露わにしながらナイフを俺の首に押し付ける。皮膚が薄く切れて血が滲む。

 不味い。人生最大のピンチだ。早くなんとかしないと、考えろ、考えろ俺.......うん?

 ふと耳に、ガサゴソ、とムエルの後ろで何かが動く音がした。この部屋は薄暗くてよく見えない。

 俺が目を凝らすと燃えるような赤髪が映った。あれはアシュレイさんだ。倒れていた筈のアシュレイさんだ。なんかアシュレイさんが起きてきた。

 え? え? 何あれ? 俺の目の前で摩訶不思議な事が起こっている。起きてくるのはまだ分かる。多分俺達がうるさくしたから目が覚めたのだろう。だがな、いきなり腕からサッカーボール大の炎の球体を出してきた。いや、それはいい。ファイアーボールなんて魔法があるくらいだからな。納得できるよ。だけどな、

 なんでそこから真っ赤な機関銃出してくるんだよぉぉぉ!!!

「おい、後ろ! 後ろ!」
「後ろが何だって? 逃げようとしても無駄だよ」

 俺はムエルに忠告するが聞く耳は持ってくれない。むしろ疑われる始末だった。いや、当たり前というか当然か。

「ばっきゃろう! 違ぇよ! 俺達の頭に銃口突き付けられてるぞ!」
「は、はぁ? 銃口? 君は何を言っ」

 ムエルの言葉はそこで途切れた。アシュレイさんは真っ赤な機関銃を俺とムエルに向け、一切の躊躇いも無く引き金を引いたからだ。

螺旋加速スパイラルブースト

 パン、と破裂音が一回鳴った。

 重砲から放たれのは弾丸だ。それも人の目ではおおよそ視認が出来ない速さで回転する弾丸。

 でだ、散弾って知ってるか? よく猟銃とか使われていたりするんだけど。
 簡単に説明すると、発射した直後に弾頭が破裂して、無数の金属片をばらまく殺傷能力が高い弾丸の事だ。

 それがアシュレイさんから放たれた。空中で弾幕のように無数の金属片が散開し、ムエルの背中に激しい雨のように降り注いで、俺の前からムエルを連れて吹き飛ばした。

「ぐぎゃあぁぁぁ!!!」
「うわぁぁぁ!!!」

 あ、危なぇ。いきなりなんてことをしやがるんだ! 

 幸い、あれだけの規模の弾幕攻撃だったが、俺の頬やら腕に掠っただけで無傷と言っていい。

 しかし、もろに食らったムエルは惨状を極めた。

 俺の真上を飛んでいき、スーパーボールみたいに部屋中を跳ねる。壁、天井、床を縦横無尽に跳ねながら、凄まじい音を立てて積み重なった机やら本やらが置いてある場所に頭から激突した。

「く、くそっ、一体なんだ!?」

 ムエルは起き上がって事の張本人たるアシュレイを見た時、驚愕の表情を顔に浮かべる。

 咳き込みながら立ち上がったムエルの着ていた服は、さっきの攻撃でボロボロに破けていた。

 だが、不思議とダメージはそれ程受けてはいないみたいだ。まだ元気にピンピンしている。

 男の裸なんて見たいとは思わないが、ムエルの身体をよく凝視すると、破れた服の箇所からうっすらとだが白い光が乱反射している。

 糸だ。こいつは全身に糸を巻き付けていて、アシュレイさんの放った弾丸の雨のダメージを極力防いでいたんだ。

 ちょっと違うかもしれないが、俺のいた世界でも蜘蛛の糸は一本一本は極細ながら非常に頑丈だと聞く。それも宇宙まで届くエレベーターに使われるぐらいな。ムエルの糸は俺を空中で身動きをとれなくするぐらいだ。もしかすればムエルが巻き付けていた糸も、それと同じ、あるいはそれ以上の硬度を持っているのかもしれない。ここは異世界だ。俺が暮らしていた元の世界とは違う。ありえなくはないだろう。

「は? はぁぁぁぁ!?!? なんだよ.......なんだよそれ! 意味分かんねぇよ! お人形さんにならなかっただけじゃないっ! なんで失大罪スキルが効いてないんだよ!? おかしいだろ!? お前もお前も! どいつもこいつもなんで失大罪スキル『悔恨かいこん』が効かねえんだよ!」

 失大罪スキル? ああ、あの過去の糞みたいな記憶見せるやつか。ったく、馬鹿だろお前。あんなもん効く訳ねえだろ。

 確かに戦闘中に使えば、一瞬だけだが行動不能に出来るのは強い。何度も使えて条件は自分自身の身体で対象の身体に触るだけ。達人同士の戦いならばその一瞬の隙が命取りだからな。

 だけどよ、お前はその失大罪スキルの『悔恨』が発動した瞬間、余裕かまして何にもしなかったじゃねえか。ヘラヘラと笑って突っ立てただけだろ。折角の隙が無駄じゃねえか。馬鹿なの? 今時のガキでもゲーム中に敵が動けなくなったら全力で殺しに行くだろ。それがなんだ、お前は傍観しているだけだぞ。お前はあれか? 自分が有利になった途端に傲慢になって舐めプするタイプなのか? 馬鹿だろ。

「くっそ! おいなんでだよ! お人形さん候補の君は特に念入りに『悔恨』の影響を与えたんだぞ! 普通はもう一人の自分に殺されて乗っ取られるんだ! このシャルルみたいに!」
「ああ、もう一つの人格とかほざいていた奴か」
「そうだよ! それが何で.......」
「倒した」
「..............は?」
「倒したよ。もう一人の自分なら」
「.......は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 
 ムエルが頭を抱えて地団駄を踏み、これまでにない声で絶叫する。

 よっぽど悔しかったのか、それともアシュレイさんのやったことが予想外過ぎたのか、ムエルはいきなり自分の胸を掻きむしり、巻き付けていた糸をマフラーみたいに編んで即席のネットを構築した。

 見かけによらず手先がとても器用だ。ムエルは数秒で作ったネットを投げ、アシュレイさん諸共俺達を一網打尽に捕まえようとする。

「どいてろ、少年」

 俺の胸を押し退けてアシュレイさんが前に出る。ムエルの投げたネットに対し、真っ赤な機関銃から銃弾の代わりに業火が吐き出された。

 熱っ。さながら火炎放射器だ。炎と糸。勝つのは考えるまでもない、前者だ。ネットは一瞬で黒焦げになって燃え尽きた。

「そんな馬鹿なッ!?」

 糸は普通燃えるだろ。

 口をあんぐりと開けて呆然としたムエルに向かって、アシュレイさんは無慈悲に追撃を放つ。

「ブレイズカノン」

 機関銃から螺旋に渦巻く灼熱が灯る。あの細い銃身に対して倍以上の炎が巻き上げられるのは圧巻だ。

 それは機関銃から発射されると、断絶魔をあげさせる暇もなく、容易くムエルを呑み込み、穴を開けてオーク城の壁と共に外へと排出された。

 まじかよ。炎の熱だけで壁に穴を開けやがった。どんな温度してるんだ、触れたら火傷程度じゃ済ませれねぇ。

 アシュレイさんはおおのく俺を無視し、颯爽と自分が開けた穴から出ていった。

 ムエルを倒しに行ったんだろう。俺はそれを見送ることしか出来なかった。

 ひとつだけ言わせて欲しい。

 俺、要らなかったじゃん。
 


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