ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-52 灼熱の記憶の欠片 11


 2-52 灼熱の記憶の欠片 11


 何も考えられないまま一週間が過ぎた。食事もろくに口に通らず、ただだた無為にベッドの中で過ごす日々だけだった。

 両親は私を心配し一度は見に来たがそれっきりだ。騎士である兄は後処理に追われてここ最近は家に帰ってきてない。ドレムは二、三回来た後、それからは来なくなってしまった。

 サバイバル試験そのものは無くなった扱いとなった。エドガーただ一人を除いて、一次選考突破者全員は、最後の試験であるトーナメント試験を受けることになっている。

 それが、今日だ。もうすぐ最後のトーナメント試験が始まる。それなのに、私はまだベッドの中で閉じこもっていた。

「お姉ちゃん?」

 トントン、とドアをノックする音が聞こえて誰かが私の部屋に入ってきた。妹のエマだ。

 エマは小さい腕に私の剣と重砲を抱えながら私の部屋に入ってきた。ベッドに近付き、エマは床に私の剣と重砲を置いて言った。

「お姉ちゃん、今日は最後の試験じゃないの?」

 そんなこと知っている。だが、今更試験に行って何になる。騎士になって、何になる。

 私はあいつのように立派な騎士になりたいと思い立って騎士を志した訳ではない。ただ、自分の性に合っていると思っただけだ。粗暴がさつな私にぴったりな職だと考えていただけだ。そんな適当な理由で騎士になって何になる。

 ちっぽけで、空っぽの私が騎士になったところで、無意味なだけだ。

 何も救えやしない。あいつは死んだ両親のように、騎士になって多くの人々を守りたいと私に夢を語ってくれた。

 私はあいつを救えなかった。たった一人もこの腕で掴めやしなかった。そんな私が騎士になったところで、何になると言うんだ。

 私の腕では掴める手ですらすり抜けてしまう。そんな私は酷く滑稽で、無価値な存在なだけだろう。

「.......行かない」 

 私は布団の中からぼそりとエマに向かって言った。

 これでいい。騎士を目指していたが私は志も理想もない、中身が空っぽの人間だ。ただ腕っ節が他の同年代よりも強かっただけで、私は所詮その程度の人間だった。

「お姉ちゃんは騎士になるんじゃないの? 子どもの頃からの夢だったんじゃないの?」
「いい。私は残された側の人間だ。何もしてやれることが出来ないんだ」

 私の話を聞いたエマは拳をわなわなと震わせた。

「何よ、何なのよ.......。こんな弱気になって閉じこもって! いつまでエドガーなんて餓鬼の事を引きずってんのよ! こんな、こんなの、お姉ちゃんじゃないよ!」
「違うんだエマ。これが私なんだ。身近な人が死んだだけで私は簡単に折れてしまった。信念も何も無かったんだ。そんな私が今更騎士になったところで、何も意味がないんだ.......」
「それでいいの!?」

 エマが声を張り上げた。

「本当にそれでいいの!? 私はね、死んだエドガーの事なんてこれぽっちも知らないわよ! お姉ちゃんにことある事に付き纏っているただの鬱陶しい男としか思っていないわよ! でもね、これだけは言えるわ!」



「死んだエドガーは、こんなお姉ちゃんの姿を見たいだなんて、絶対に思っていない!」



 その一言で私はハッとする。

「騎士になることを放り投げて、ベッドの中でグズグズしているお姉ちゃんなんてエドガーは見たいなんてこれっぽっちも思ってないわよ!」

 あいつは、あいつはそんなことを望んでいない.......?

「お姉ちゃんが残された側の人間なら、残された側の人間なりにやるべきことがあるんじゃないの!? 少なくとも、そうやってベッドの中で閉じこもってるだけは違うわよ!」
「私の.......やるべきこと.......」

 床に置かれた重砲を私は手に取った。

 ドレムと一緒に造り上げたこの重砲、実はエドガーも重砲を造る時には手伝おうとしていた。

 設計図を散らばらせたり、部品をどっかにやったりと何の役にも立たなかったが。

 それでも、あいつは一生懸命になって手伝おうとしてくれた。ドレムが読んでいた本と睨めっこして頭を抱えて、部品を何度も何度も壊しながらも頑張って自力で作り上げて私に渡してくれて。

 私のやるべきことは何も無いと思っていた。死んだエドガーにしてやれることは何も無いと思っていた。

 だけど、残された私にやれることがあるのなら。

 ベッドから起き上がり、私は重砲に続いて剣を手に取った。

 木刀であいつの頭を叩いたことしか思い浮かんでこない。だけど、確かにあの言葉を思い出した。

 ―――いってぇ! ああくそっ、また負けた! それにしてもまじで痛てぇ! また頭にたんこぶ作りやがってこの怪力女!

 ―――ふんっ、怪力女だからこそ騎士を目指そうと思ったのだ。それに比べてお前は男の癖に軟弱だ。もっと筋肉を付けろ、筋肉。

 ―――うるせぇ! これでも食べれば筋肉が付くと噂の水上水鶏を毎日食ってるんだぞ! でもまあ、確かにアシュレイは怪力女だからな。他の女のようにドレス着て踊ってるよりも、ここで木刀振り回していた方が似合ってるぜ。にししっ。

「..............」

 確かにそうだ。私はここで閉じこもってるより剣を振り回している方が似合っている。

 私は.......何をやっていだんだろうか。いや、何もやっていないだけだったんだろう。ただ閉じこもって立ち止まっていた。気付くのが遅すぎた。

 騎士になって何になる。

 だけど、騎士を諦めた私には何も残らないじゃないか。

 女の子らしい服装を着飾って他の女の子達のように舞踏会に行くのか?

 殿方と結婚して幸せな家庭を築くのか?

 そんなの物、私には似合わない。とっくの昔に気付いていた筈だ。

 剣を振り回して、身体を張っていたからこそ、私が私でいられていたんだ。

 それが、アシュレイ=マルティニスの、私の生き方なんじゃないのか。

「お姉ちゃん、今ならまだ間に合うよ。今から走ればまだ試験には間に合うよ」
「..............」

 何をやっているんだろうか、私は。

 なんで、剣と重砲を腰に納め、私は立ち上がったんだ。

 なんで、ドアノブに手を掛けたんだ。こんなボサボサの髪に泣き腫らした顔で、何処に行こうとしてるんだよ。

 それでも、勝手に身体は動いていた。

 行かなきゃ、と思った。ただ、それだけだった。

 気付けば私はドアノブを捻って扉を開いていた。扉を開いて、家から駆け出していた。

 後ろから確かにエマの声が聞こえた気がする

 いってらっしゃい、お姉ちゃん、と。



 ◆◇◆



 私は何で走ってるんだ?

 私は何で試験会場の方角に向かっているんだ?

 視線を上に逸らせば、私は息を荒らげながら、重い足取りで試験会場まで着いていた。残された私は何をするべきか、その明確な答えが出ないまま。

 試験会場は既に閑散としており、中のトーナメント試験で使われる決闘場から歓声が聞こえてくる。

 もうトーナメント試験は始まっていた。間に合わなかった。もう参加出来ないかもしれない。

 それでも、私は近くに貼られていたトーナメント表を見た。

 そこには運命の悪戯かはたまた偶然か。

 トーナメント試験の初戦。

 私が当たった相手はヴィクトルだった。

 

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