ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-49 灼熱の記憶の欠片 8


 2-49 灼熱の記憶の欠片 8


 -ウラルキア山の麓-

 鬱蒼とした深い森の手前で、私、そしてドレムとエドガーは他の受験者達に混ざりウラルキア山の麓にまでやってきた。サバイバル試験を受ける為だ。

 ウラルキア山はエルクセム郊外にある大きな山だ。エルクセム王都から人の手による整備をされていない道を歩いて数時間で着く近場だが、そこはもう魔物が跋扈する立派な魔境であり、一般人はまず近付かない。

「いよいよですね.......」

 私の横でドレムが言った。そろそろサバイバル試験が開始される頃だろう。周りの受験者達は皆こぞってそわそわしている。 

 私の後ろでエドガーなんかは、精神を少しでも落ち着けるために無心になって剣を研いでいる始末だった。辺りの雰囲気はざわざわと、異様な興奮と熱気のような物に包まれていた。

「ん、おい、アシュレイ」

 剣を無心で研いでいたエドガーが顔をあげると、私の腹を肘で突っついてある方向に指をさした。

 ヴィクトルだ。ヴィクトルは両隣に同年代とは思えない程の厳つい風貌をした二人の男を連れてやってきた。

 恐らく両隣の男は予め買収しておいて入団試験を受けさせたか、一次選考を突破した人間を買収したのかのどちらかだろう。まあ、前者の方が可能性が高そうだが。

 ヴィクトルは私を見ると苦虫を噛み潰したような顔をして、人混みの中に紛れていった。

「よし、全員集まっているようだ。これよりサバイバル試験で使う道具を渡す。各自、一列に並んで受け取ってくれ」

 試験官の声が聞こえた。目の前にいる担当の試験官は四人、と言っても試験官はウラルキア山の至る所に点々と配置にされているからもっと数は多いだろう。

 全員が集まったことをサバイバル試験を担当する試験官が確認する。 周りの受験者達は試験官の指示に従ってリュックを受け取っていく。

 事前の通り、各自所持しているのは武器だけで、それ以外の持ち込みは許されていない。武器と、このリュックに入っている道具一式だけが生命線なのだ。

 私、そしてドレム、エドガーも他の受験者達に混ざり受けとっていく。受け取ったリュックはずっしりと重かった。

 リュックを受け取ると同時に、試験官が各受験者達の武器をチェックしていく。私は試験官に愛用の鉄製の剣を見せた。

 私は今回重砲を選ばず、剣を選んだ。理由としては、確かに重砲は威力こそ申し分ないが、使うことに限りがある砲弾を使用しなくてはならないこと。その上、重砲自体と相当重く、更に受験者も加えて砲弾も持ち歩くことになると、相当嵩張り、重さ故に移動に支障をきたすのだ。

 エドガーは当選の如く剣を選んだ。ドレムは魔導書を選んでいる。

 魔導書には魔法の威力を高める効果がある。ドレムは騎士とは真逆と言っていい魔道士型の人間だ。武器や体術を使わず魔法だけで勝負すると言っていい。まあ、ドレムは元が病弱な体質だったので体を激しく使う動きは得意では無かったのだろう。その反動で魔法の適正が高まっていたのかもしれない。

 実際、騎士団訓練プログラムの入ってからドレムが一番成長を遂げた分野は魔法だった。基礎体力が少ないなら身体強化魔法を使えばいい。模擬戦が上手ではないのなら遠距離から放てる攻撃魔法で一方的に打ちのめせばいい。

 このような手段で通った結果、ドレムは普通の魔法を主軸として戦う人種よりも、普段から魔法の使用が多かったこと、騎士団訓練プログラムの内容からして使う魔法に質が求められていたこと、この両方によって熟練の魔道士ですら舌を巻くほどに上達していた。

 私が試験官を病院送りにした後、確かにドレムの実技試験を見る限りその実力はかなり高い方に位置している。身体強化魔法で自己強化、遠距離からの攻撃魔法で試験官とほぼ互角に戦っていた。結局は負けてしまったが、それでも実技試験を受け持つ試験官は精鋭揃いのエルクセム騎士団の連中なので、他の入団試験者と比べると頭ひとつ抜けていると言えよう。

 と、話が逸れてしまった。とにかく私とエドガーは剣、ドレムは魔導書をサバイバル試験で使う武器に選んでいた。 

「うむ、大丈夫なようだ。では今からサバイバル試験を開始する。ルールは簡単、各自の武器と渡された道具だけを使い、このウラルキア山で三日間生き残れ! 以上だ!」

 試験官が大声を張り上げた。サバイバル試験の、開始だ。



 ◆◇◆


 ウルラキア山の森の中は薄暗い。葉が生い茂った木々が日光を遮断し、まだ朝方なのに夕闇に包まれているかのような暗さだった。

 私、ドレム、エドガーは三人で薄暗い森の中を歩いている。今回の試験は実質競争相手がいない試験だ。 サバイバル試験では周りの受験者達と協力してはいけないルールはない。加えて合格基準は三日間生き残ること、それだけである。

 つまり、チームを組んで試験を受けることを前提にしていると言えるだろう。

「おーい、アシュレイ、一体何処に向かって歩いてんだよ?」

 後ろからエドガーが私に声を掛ける。

「ああ、山頂だ」
「山頂? どうしてだ?」 
「ウルラキア山の山頂は比較的開けた場所に出るならな。それに、近場には川もあるから水の確保が容易だしな。三日間籠るには絶好の場所だ」
「へー」
「へー、そうなのかぁ」

 エドガーとは別の声が重なった。ガサゴソと、近くの茂みをかき分けて、よく見知った顔が現れた。

「ヴィクトル、まさか、こんな場所で会うとは奇遇だな」

 ヴィクトルだった。両隣には麓で見た厳つい風貌をした二人の男を連れている。ヴィクトル自体は軽装で、腰に剣を一本ぶら下げているだけで、連れの男がヴィクトルを背負っていた。やはり、この二人の男達はヴィクトルに金で雇われているようだ。

「いいこと聞かせて貰ったよ。山頂は過ごしやすい場所なんだってなぁ?」

 ヴィクトルがニヤニヤと、下品な笑みを浮かべて私にスっと顔を寄せる。

「それがどうした?」
「山頂は俺達の過ごす場所に決めた。ふははははっ! 悪いが、お前達に山頂を譲るつもりはない!」

 あれだ、こいつは性格が終わっている。

「なあアシュレイ、あいつ相当頭おかしいぞ」
「ああいったボンボン馬鹿貴族にはありがちなことですよ、エドガーさん」
「おいそこの二人! ちゃんと聞こえてんだよ!」

 ひそひそと小さい声で言葉を交わしていたドレムとエドガーに、ヴィクトルは顔を真っ赤にして怒りを露わにし、怒鳴り声をあげた。

「あー、ムカつくなぁ! おいお前ら、仕事だ。あの三人を痛め付けてやれ」

 半歩下がってヴィクトルが二人の男達を前に出す。改めて見ると筋骨隆々な体躯に、しっかりとした筋肉が付けられていて、かなり鍛えこまれている事が伺える。

「こいつらはな、パパに頼んで高い金積んで雇って貰った凄腕の傭兵なんだぞ! 冒険者ランクで言えばD相当だ! お前らみたいな糞ガキはけっちょんけっちょんだぞ!」

 .......予想は出来ていたが、自分からバラしては元も子もないだろうに。

「盛大なブーメラン飛ばしてますねこの人」
「うるせぇ! やっちまえお前ら!」

 ヴィクトルがそう叫んだ。しかし、男二人は突っ立ったままで動こうとしない。それどころか眉を顰めて不快な表情をしている。

「おい、なんで動かないんだよ? 雇い主の命令だぞ! 早くあの目障りな三人をボコボコにしろよ!」

 男の内の一人が深い溜息を付いた。

「俺達に依頼された仕事は依頼人の入団試験になるべく協力することだ」
「じゃあ早くしろよ!」
「その中には、他の受験者を蹴落としまで協力するといった内容は無かった」
「.......は? ふざけんなよ!」

 ヴィクトルが男達の態度に激昂する。自分の思い通りにいかないことに。

「くそがっ! 後でパパに言い付けてやるからな!」

 ひとしきり地団駄を踏んだ後、ヴィクトルは吐き捨てて立ち去っていった。



 ◆◇◆



 夜になった。

 私達は山頂に少し近い開けた場所で薪を集め、ドレムの魔法で点火し、即席の焚き火で暖を取っていた。それと同時に食事も取る。食事は途中で狩ったホーンラビットと呼ばれる兎型の魔物の肉だ。不味くはないが塩がないので淡白な味がする。

「むぐむぐ.......あと二日か。この調子で無事に終わって欲しいよな」

 エドガーがホーンラビットの肉を食べながら言った。私はエドガーの言葉に頷きホーンラビットの肉を齧る。

 確かにそうだ。昼間にヴィクトルとの諍いのようなものもなく、このまま何事も無く終わって欲しい。

 私が一息付いて鍋で温めたお湯を飲んでいる時、いきなり私の隣に座っていたドレムがビクッと身体を跳ねた。すると、キョロキョロと辺りを見回して不思議そうな顔で首を傾げている。

「ん、どうしたドレム?」
「えっと、アシュレイさん、今遠くから悲鳴が聞こえませんでした?」
「いや、聞こえなかったが.......。空耳じゃないのか?」

 ドレムは普段から身体強化魔法を使っている。その影響なのか分からないが、常人と比べて五感が鋭くなっていた。私には聞こえなかった音も、ドレムなら拾える可能性もあるが.......。

「おいおいドレム、暗い夜の森の中だから怖くなったんじゃないのか? どうせ動物の鳴き声でも聞いてびびっただけだろ。にししっ」
「ち、違いますよ! 確かに聞こえたんですよ!」

 エドガーに茶化されたドレムが、つんと口をへの字に曲げて言い返した時、それは起こった。

 突如、地面が揺れた・・・・・・

 私達が座っていた地面がガタガタと激しく揺れ、焚き火にくべていた薪が散乱し、炎の光が消えて完全なる闇に包まれる。

「ひゃああっ!?」
「うわわっ! なんだよ!? 何が起こったんだよ!?」
「分からん! ドレム、ブライトライトだ!」

 ドレムが私の声に反応し、すぐさま『ブライトライト』と呼ばれる光魔法を使い、明かりを照らしてくれた。

 照らされた明かりを頼りに辺りを見渡すと、ある一点に目が付いた。山頂だ。山頂から土煙がモクモクと吹き出している。

「地震か!? すっげー音がしたぞ!」
「いいや、地震では無さそうだ。地震は地下深くから発生するものだからな。この揺れは、どうやら山頂から来ている」

 私は山頂から噴き出している土煙に指をさした。まるで黒い雲のように空に登っている。噴火の可能性も思い付いたが、ウルラキア山は火山ではないただの山だと既に判明している。

「山頂って、ここから結構近いですよ! ど、どうします?」
「行ってみよう」

 全員、リュックをその場に放り捨て、各々の武器を手に取って立ち上がった。

 私達はドレムの使う『ブライトライト』の光を頼りに駆け足で山を登っている。山頂はすぐそこだ。歩いても数十分、走れば数分も掛からない。

 山頂にはヴィクトル達が寝泊まりしている。心配するつもりはないが、胸に妙な不安が込み上げてくる。

 山頂付近に近付くにつれ、周りの木々が薙ぎ倒されていた。その光景は、さながら台風が過ぎ去った後みたいだ。

「アシュレイさんもうすぐ山頂です!」

 ドレムが息を切らしながら後ろから言った。私は軽く頷き走る速度を早める。足場が悪い道を通り抜け、深く茂る木々を掻き分けて、夜空が晴れた景色が視界に映る。

 山頂は雲一つない夜空の下、月光に照らされて明かりが要らなくともよく見えた。

 だからだろうか、私は目前にいる『何か』に本能的な恐怖を覚えた。

「グルルルルゥ.......」

 私の背丈を優に越え、巨岩と見間違うかのような巨躯、荒々しい焦げ茶色の剛毛、そして、異常発達した剛腕。

 形状から判断すれば、分類は熊型の魔物なのは間違いない。熊型の魔物は最低クラスの脅威度でもC相当だ。しかし、そいつが身に纏う威圧感が桁違いだった。脅威度C程度は到底収まりきれない、生態系の頂点に位置する、圧倒的な雰囲気を醸し出していた。

「おい、嘘だろ.......なんだよあの魔物は!」

 後ろからエドガーが追い付いてきた。熊型の魔物はエドガーの声に反応し、一瞬だけこちらを向いたが、すぐさま別の方向に眼を向けて地響きを立てながら歩みを進めていく。

 その先にはヴィクトル達がいた。雇った男達も含め、全員が尻餅を付いてジリジリと後退している。

「く、来るなぁ! 来るな来るな来るなぁぁぁぁぁ!!!」

 熊型の魔物は悠々と歩きヴィクトル達に近付く。それに恐れをなしたのか、男が腰から剣を抜刀し、無茶苦茶に振り回した。

 しかし、生物としての『格』があまりにも違いすぎた。

 ガキン、と岩を斬りかかったような音が響いた。 熊型の魔物の腹部に剣が直撃したが、舞ったのは血飛沫ではない。根元からポッキリと折れた剣の刃だった。

「ははっ、なんだよこれ。こんなのう」

 パン、と何かが弾ける音がした。熊型の魔物はただただ腕を軽く撫でるように振った。それだけで、男はトマトのように弾け飛んだ。

 刹那、残された五人全員に戦慄が走る。目の前にいる熊型の魔物は脅威度Cどころではない。その上を更にいく上位種だ。

「ドレム! あの魔物は一体なんなんだ! 教えてくれ!」

 私はドレムの身体を揺すぶる。魔物に詳しいドレムなら知っているに違いない。とにかく情報が欲しかった。

「アシュレイさん不味いです.......早く、早くここから逃げましょう!」
「いいから早く!」
「あいつは、あいつは.......!」

 ドレムは息を飲んで、その魔物の名を言った。

「脅威度A、災害級に指定されたタイラントグリズリーです.......!」


 

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コメント

  • ノω・、) ウゥ・・・

    100話達成。やったぜ。

    0
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