ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-35 大敗



 2-35 大敗


 レオナ=アレステナは産まれながらにして選ばれた人間だった。

 厳格ながらも確固たる信念を持った第四騎士団団長の父。名家の生まれである貴族のご令嬢の母。

 裕福で貴族の爵位を持った家庭に産まれ、騎士団長の父親からは剣術のスキルと丈夫な肉体を、貴族の出である母親からは家系譲りの美貌を、そして、神様からは神器たる聖剣を与えられた。

 レオナはまさしく人生の勝ち組だった。
 物心着いた時から他の子どもとは一線を凌駕した才能の片鱗を見せ、とんとん拍子で第四騎士団騎士団長への道に一直線で進んで行った。

 騎士団訓練プログラムでは最優秀の成績どころか、前代未聞の成績を納め、エルクセム騎士団に入った後は瞬く間にその頭角を現した。

 彼女が第四騎士団の団長になるのは時間の問題だった。聖剣を携えたレオナは戦闘能力も然る事ながら、人望にも厚く、多くの部下が彼女の背中を押した。戦闘狂という、少々難ありな性格もあったが、それでも人格者たる彼女の前では目を少し瞑れば差程問題ではなかった。

 彼女は24歳の若さで史上最年少という記録を打ち立て、第四騎士団の騎士団長の座に着いたのだ。

「がっ! ぐっ! ばっ!」

 その彼女が、今やこの有様だった。

 レオナの身に続けざまに侵入者の掌底が炸裂し、身体がくの字に曲がる。

 臓器に衝撃を受けたことで鈍痛が走り、元の機敏な動きが鈍るが、それでもレオナは侵入者へ殴り掛かる。

 伊達に騎士団長の座に着いていただけではない。レオナは数々の戦場で場数を踏んでいる。これしきの痛みで狼狽えることは決してない。

 しかし、レオナの殴打は全て空を切る。否、殴打のみならず、蹴りも投げ技も全て空を切る。

 レオナの攻撃は侵入者に掠りもしない。侵入者はのらりくらりと少し身体をズラしたり、首を傾けるだけでレオナの攻撃を華麗にいなしていく。

 体重を掛けた殴打が侵入者の首の横を通り過ぎた時、レオナの脇腹に鋭い拳が突き刺さっていた。

 再びの鈍痛にレオナは顔を歪める。鎧越しからでも伝わるこの威力。既に侵入者の掌底や打撃を受けたレオナの鎧は所々凹み、元の形から遠ざかっていた。

「このオレが、こんのぉ!!!」

 気合いと根性で痛みをねじ伏せて、レオナは畳み掛けるように侵入者へと殴り掛かる。

 右からの純粋なストレート。少し後ろに後退されて躱される。左の牽制目的のジャブ。手首を肘で打ち付けられ、上に弾かれて防がれる。

 距離を詰め、右の抉るような形で放ったフック。これまた首を下に下げたことで避けられる。下げた侵入者の首へ追撃とばかりに突き上げられた蹴り。上体を逸らし、海老反りの態勢になったことで躱される。

「お返しだ」

 上体を逸らし、その戻る反動を利用した侵入者から、目にも止まらぬ速さの殴打がレオナの顔面に叩き込まれる。

「がぶっ!?」

 バキリ、と頬に拳が打ち込まれ、奥歯を何本か飛ばしながら、レオナは錐揉み回転をしながら吹き飛んだ。

 頬が真っ赤に腫れ上がる。奥歯が飛んだ時に、舌を切ったようで鉄の味が口内に広がっていく。

 何故、一撃も掠りもしない? 何故、相手からの攻撃ばかり全て正確無比に打ち込まれる?

 ただただ自分だけが傷を負うこの状況下に、レオナは焦りと不安を感じていた。

 敗北への恐怖。優秀過ぎた故、人生の中で一度も失敗をしたことがないレオナにとっては、負けることは決して許されないことだった。

「どうした、もう終わりか? 戦闘能力に特化した第四騎士団と聞いていたが、その様子では口程にも無いらしいな」
「き、き、き、貴様ァァァ!!!!!」

 侵入者が軽蔑した表情でレオナを見下した。他人からは常に尊敬と羨望の眼差しで見られていたレオナにとっては、侵入者の嘲笑うかのようの態度に激怒することは何ら不思議でもなかった。

 口から血と歯の欠片が混じった唾をペッと吐き出し、鬼の形相で侵入者へと己の拳を前に押し出す。

 だが、全て空振り。

 何の手応えも感触も感じられないまま、顔面に、腹部に、侵入者の殴打が打ち込まれていく。

 遂に凹みが造られていた鎧には穴が空き壊れ、威力を殺せていない侵入者の拳がレオナの身体に悲鳴をあげさせる。直に打ち付けられた殴打は筋肉から骨へ。鍛えられた身体が徐々にズタズタになっていくのをレオナは激痛に揉まれる中で認識し始めていた。

「ガアアアァァァァァァ!!!」
 
 人間とは思えない獣のような咆哮を唸らせ、果敢に侵入者へ殴り掛かる。

 渾身の右アッパー。だが首を少し左にずらされただけでいとも簡単に躱されてしまう。

 そして応酬とばかりに、隙が一切感じられない連打がレオナの身を襲う。

「がっ!? ぶっ!? べっ!? ぶっ!? ぼっ!?」

 掌打。拳撃。殴打。掌底。発勁はっけい

 トドメと言わんばかりの発勁がレオナの胸を撃ち抜き、時が止まったかの感覚に陥る。

 レオナは物心付いた時から一度も日々の鍛錬を欠かしたことはない。雨の日も風の日も、豪雨だろうが嵐だかろうが必死に剣を振るい自身の身体を虐めて鍛え抜いた。

 しかし、その鍛錬の内に体術の訓練は組み込まれていたが、剣術の訓練に比べれば微々たる物だった。

 凄まじい性能を誇る聖剣を携えたレオナにとっては、剣術が最優先でその他は二の次だった。

 せっかく紛失してもすぐに手元に戻り、壊されても修復される剣士としては夢の様な武器がレオナには与えられたのだ。体術や魔法や勉学を学ぶよりも、剣術を徹底的に鍛錬するのが一番強くなれる道だとレオナは信じて疑わなかった。

 それはレオナ本人からでもなく、他人から見ても納得できる理由だろう。実際、剣術に徹底したレオナは強く、誰しもが認める人間となれたのだから。

 それが侵入者との戦いの上で、レオナの敗因となってしまった。

 普通の人から見れば体術の鍛錬はレオナは怠っていなかった。むしろ他の人間より優れていた。

 しかし剣術よりはやっていない。剣術よりは努力していない。剣術よりは鍛錬をしていない。

 聖剣一筋で人生を歩んできたレオナにとって、体術の戦闘経験、及び技術力は『あるにはあるがそれ程でもない』と言うべきレベルだった。

「ぶっ、がばぁっ!?」

 侵入者の発勁をその胸に受けて、レオナはしっかりしない足取りでフラフラと身体を揺らしていた。

 動く的から動かない的となったレオナの頭に、無慈悲とも呼べる拳が顎に食い込んだ。

 下顎の歯が砕ける。砂利を食べたような食感と、更に濃くなった鉄の味が口の中いっぱいに広がり、レオナの視界は朦朧として途絶えていく。

 脳震盪のうしんとう。頭蓋骨から髄液、そして脳へ。殺人的な威力の衝撃がレオナを襲い、その意識を完全に刈り取った。

 レオナは膝から崩れ落ちる。口から白と赤がごちゃ混ぜになった涎を溢れさせながら大理石の床に膝を着いた。意識が吹き飛び、動くことが出来なくなったレオナは戦闘不能の状態。産まれて初めての敗北を喫したのだった。

「他愛のない。こんなものか」
 
 取り巻きの騎士兵達と副団長のゼノ=ギラヴァンツはただ見ていることしか出来なかった。

 自分達が慕っていたレオナが、誰にも負けることがないと思っていたレオナが、たった一人の男、しかも丸腰の相手に負けてしまったからだ。

 この不可解な光景に、侵入者を除いた人間達は唖然としている。

「おい、お前ら」

 異様な熱気が冷めた空間の中で、侵入者はレオナの頭を掴み、やんちゃな男の子が人形を扱うようにぞんざいに扱う。

 事切れて肉の塊と化したレオナの首筋にナイフを当てた。

「この女の命が惜しいか? それなら話が早い。我を第二騎士団本部まで案内して貰おうか?」

 侵入者のエキューデ=オルガスタは、どす黒い笑顔でニヤリと不敵に笑っていた。



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