ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-29 潜入



 2-29 潜入


 俺達はフルアーマー達に運び込まれたエキューデと黒髪の少年を追って、人気ひとけがない街角の一角に建立された、古びた建物の中へと潜入していた。

 建物に入る前、入り口の脇に錆びすぎて掠れた文字が書かれた看板が置いてあった。俺は異世界文字が読めないからノアに読んでもらうと、どうやらこの建物は『第一騎士団隔離実験所』というらしい。

 中は埃が積もり、カビ臭く薄暗い廊下が暫く続いき、そして例の通り例の如く、フルアーマー野郎二人が黒い厳重なドアの前で門番みたいなことをしていた。

「ミナトミナト、前方に門兵みたいなのが二人いるよ? どうやって進むの?」

 ノアが俺の裾を掴みながら尋ねてきた。

「そうだな、俺の中にあるゲームの知識が指し示した選択肢は二つ。隠し通路を見つけるか、強行突破だ」

 俺はド○クエで培った知識で打開策をノアに示した。

 こういうのは大体見張りがいない場所に隠し通路があるか、見張りをボコさなきゃならない。エネミーオブジェクト『門兵×2』は固定だからな。これは強制イベントだ。

「よし、じゃあ強行突破するわよ! いけ! ミナト! たいあたりだ!」

「まてまてまて。俺はこおりのつぶてとみずでっぽうしか使え.......ってそうじゃない。強行突破するにもまずは様子を見てからだ」

 俺はノアの頭を撫でて優しく諭す。

 やれやれ、このお子様は『セオリー』というものをまるで分かっていないようだ。

「なんでなのよ?」
「確かに進む方法は隠し通路か強行突破しかないわけだが、RPGの基本である情報収集ってもんもあるだろ。あの二人の門兵、何か重要そうな情報をポロリと零すかもしれないぜ。物陰の隠れて聞き耳を立ててみよう」

 RPGの基本。それが情報収集だ。もしかしたら門兵が『あそこに隠し通路あるんだけど今はもう使われていないよね』とかゲロるかもしれない。しかも、門兵は一人じゃない。二人だ。見張りという仕事はくっそ退屈なんだ。退屈で暇になっている人は、近くに人がいると必ず会話する。

 好機.......! 圧倒的好機.......!

「よし、ここの窪みがある物陰に隠れるぞ」
「ミナトは知らなかったの? 盗聴って実は犯罪なんだよ?」
「異世界にプライバシーの侵害なんてあるものか。それにバレなきゃ犯罪じゃねえんだよ」

 俺はノアを抱っこして物陰に隠れる。暫く聞き耳を立てていると、暇を持て余した門兵二人が会話を始めた。

「おい聞いたか? さっき運び込まれた二人、またユリウス副団長が何かの実験台に使うらしいぜ。ったく、次は何の実験に使うんだよ。ほんとこの仕事が嫌になるぜ。得体の知れない人体実験だったり、凶暴な魔物の生態実験と称してバラしていたり、薄気味悪いったらありゃしないぜ」
「いやいや、まだこっちの方がまだマシだろ。第二騎士団の方なんかもっとヤバいらしいぜ。なんせ団長が相当頭がイカれているらしく、何年も前から、人体実験と称して死体の山が作り上げられているからな。さっきも三人の人間が、またムエル団長の所に運び込まれたらしい。ありゃ良くて廃人、通例通りなら腐った生肉か燃えないゴミだな。分かったらいつも通りの、見張りという名の棒立ちをしてようぜ」
「ちえっ、ままならないぜ。第二騎士団と比べられても、第一騎士団はエルクセム騎士団の中でも外れも外れ、大外れの汚ぇ仕事ばっかりだわ。第一騎士団ったら、エルクセム王城直属の警備隊、騎士団の花柄だぜ? それなのによう、俺達と来たら華やかな王城とはかけ離れた埃臭い実験室の警備だしよー」
「そうか? 確かに王城の警備は憧れるが、ここの仕事も棒立ちしているだけで結構いい金貰えるんだぞ。俺的にはこんなに美味しい仕事はないと思うがね。たまにある廃棄物処理に目を瞑れば、だけどな」

 なるほど、分からん。だが、どうやらエキューデと黒髪の少年が実験台にされてしまうことだけは理解できた。

「ミナトミナト、何言ってるのかよく分かんない」
「だろうな。とりあえずエキューデ達を早く助けないとまずいらしい。で、どうする?」 

 このままじゃ得体の知れない人体実験台へレッツゴーみたいだ。最悪、改造バッタ人間にされてしまう可能性があるな。

「じゃあ強行突破しよ! 強行突破!」
「俺も強行突破したいのは山々だが.......ちとこいつらはキツイな」

 フルアーマー野郎二人が話している間に、俺は鑑定のスキルでステータスを確認していた。鑑定結果はLv19とLv17。どうやら第一騎士団の連中は総じてLvが高い精鋭だらけらしい。Lv2の俺が挑むには難度がかなり高いだろう。

「ええー。隠し通路なんてどこにもないじゃん。どうすんのよー」
「チッチッチッ。俺は『こいつら』はキツイなと言ったんだ。つまり単体ならなんとかなるんだぜ?」

 ふっふっふっ、あまり俺を見くびるなよ? 俺には圧倒的な閃き、もとい頭のいいスマートでスタイリッシュな作戦がある。

 俺の作戦はこうだ。

 1.サンマを召喚してあのフルアーマーの目の前にぶん投げる。
 2.サンマにまんまと釣られたやつからしばく。
 3.残りの一人もそのまましばく。

 どんな人間でも落ちているサンマを見れば食い付いてくるに違いない。

 ※貴方だけです。

 素晴らしい。素晴らしすぎる。1mmのズレもない完璧な作戦だ。

「よし、いいかお前ら? 今からは絶対に静かにするんだぞ。絶対だぞ。絶対にだ。鳴き声とかほんとあげんなよ? いいか? 分かったか?」

 俺は『押すなよ? 絶対押すなよ?』みたいな前フリをしながら、手の平に魔法陣を展開させてサンマを召喚した。その時、

「にゃーん!」
「キョエエエエエwwwwww!!!」

 畜生共はサンマを見た途端、目の色を変えて奪わんと飛びついてきた。

「うわっ!? ちょ、やめろ!」 

 サンマを食さんとばかりに、猫の牙と水鶏の嘴が俺の手を強襲し、思わず大声を出してしまった。

「なんだ!? 侵入者か!?」
「ええっ! 侵入者!?」

 まずい、気付かれた。俺の1mmのズレもない作戦が開始二秒で破綻した。

 暇を持て余していたフルアーマー野郎二人が、持ち場からドタドタと足音を立ててこっちへ向かってくる。

「ど、どどどどどどうすんのよミナト! 見つかっちゃったわよ!」

 ノアがどもりながら俺の腕に抱きついてくる。
 
 ええい、ままよ! こうなったら仕方ない。強行突破だ!

「くそったれぇぇぇぇ!!!」

 俺はサンマを握りしめ、物陰から飛び出した!



 ◆◇◆



 捕まりました。

 いやね、呆気なかったよ。アイスダーツやウォーターカッターを放つ暇もなく、剣の柄で腹を殴られて終わりだったよ。

 只今俺はノアと畜生二匹と一緒に牢屋にぶち込まれている。鉄格子が見える部屋で手錠を掛けられ、縄で縛られている俺の気分は、さながら凶悪犯罪者だ。

「あのね、ミナト。囚われたエキューデ達を助けにいくはずの私達が、逆に囚われたら意味がないと思うんですけど」
「考えが足りないなノアは。いいか? 逆に考えるんだ? 俺達は潜入に成功したんだ。あとは俺達を助けてくれる人を待つだけだ」
「そんな人いる訳ないじゃん」
「..............」

 ごもっともです。

「あー! 誰か俺を助けてくれー! 人体実験されるの嫌だよー! どうせ人体実験するなら俺を改造バッタ人間にしてくれー!」

 俺が声高に叫んだ突如、俺の無垢なる願いに呼応したのか、凄まじい爆裂音を立てて俺の後方の壁が爆発した。

 俺は突然の出来事に呆然とする。

 イ○ナズンだ。イ○ナズンが放たれたのだ。

「ケホケホっ。ウェルトさん達! 助けに来ましたよ! .......ってあれ?」

 粉塵が舞う中から現れたのは、ゆったりとした黒いローブを羽織った女性だ。女性はケホケホと咳き込みながら牢屋の中に入ってきて口を開いた。

「誰ですか貴方達?」
「それはこっちの台詞だよ」

 



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