ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-26 氷蝕



 2-26 氷蝕


「行くぞ、小僧ッ!」
「ああ、行くぞッ!」

 僕はユリウスへ向かって駆け出し、エキューデが変わり果てた異形の腕を振るう。

   
 まず、本来生えている五本の指がない・・・・・・・・・・・・・

 その代わりに肘の先から腕が裂けていて、骨の刃が蠢いている。

 骨で出来た刀が腕と融合しているのだろうか。
 否、エキューデは自分の腕の骨を変貌させ、武器として扱っているのだ。

抜骨七支刀ばっこつしちしとう!」

 糸で繋がっていた刃節じんせつが分離する。バラバラになった複数の骨刃こつじんが不規則にユリウスに襲い掛かる。

「無駄だ」

 ユリウスの掌に極寒の冷気が収束した。それをユリウスは握り潰し、冷気を拡散させたことで足元から巨大な氷の壁が出現した。

「それが無駄、なのだろうな」

 エキューデが口元を歪めた刹那、刃節が氷の壁を貫いた。氷の壁はビスケットのように軽々と砕け散り、勢いが止まることがない刃節がユリウスの身へと降り掛かる。

 貫いた刃節がユリウスの身に牙を向かんとした時、氷剣が一閃された。
 凄まじい風圧が巻き起こり、飛んできた刃節が木の葉の如く弾き飛ばされる。

 
技術衝打メソッドインパルス!」

 まだ僕がいる。下からの死角の攻撃。氷の壁と分離した刃節の間を通り抜けて、全力の技術衝打を放つ。

「がっ!」

 しかし、僕の拳はユリウスに身を捩っただけで躱され、お返しとばかりに腹を膝で蹴り飛ばされた。風圧で弾き飛ばさた刃節諸共、僕は上に吹き飛んだ。

「好都合だ! 弾けろ!」

 エキューデの振るった抜骨七支刀の刃節が更に分裂した。空中で分解された刃節。ひとつひとつがダガー程の大きさだ。それが雨のように降り注ぐ。

「凍れ」

 ユリウスが、僕の戦いで作った氷の膜をよりも、より大きい氷の膜を形成する。

 エキューデから作られた武器は総じてとても高い強度を誇っているのだろう。ロイドの剣を容易く切断した紅花匕首といい、抜骨七支刀もその例に漏れていない。

 骨が氷を打ち破り、氷の膜を貫通する。

 その果てに、穿たれた一つの氷結界の隙間から僕は潜り抜け、ユリウスに向かって急降下する。

閃光斬せんこうざん!」

 僕の右手には赤い短刀が握られている。
 真上からの刺突。それは恐ろしく速い突進だったが、ユリウス微動だにせず、その手首を逆に掴む。

 渾身の突きが空を切り、手首を掴まれて投げ飛ばされた僕は、バランスを崩して地面に叩き付けられた。

「がはっ!?」

 肺に衝撃が掛けられ息が詰まる。叩き付けられ、反動で宙に浮いて反転する視界の中で、僕は次の行動を模索する。

 ユリウスの反射神経は人間の領域ではない。先程の攻防、死角からの攻撃も、上からの攻撃も、氷の膜や刃節に阻まれて認識が難しい筈だった。それなのに、ユリウスは『まるで知っていたかのように』僕の技術衝打と閃光斬を防いだのだ。どんな神経しているか知りたいぐらいだ。

 だけど、こちらは二人。例え反射神経がいかに優れていようが、物量的にこちらの方が優位。

 ならばユリウスが捌ききれない程の攻撃を加え続ければいい。

 僕はエキューデに向かって頷く。そしてエキューデも僕に頷き返す。

 エキューデと連携しながら戦い始めてからまだ数分しか経っていない。だが、その数分間の中で僕達は何十年も一緒に戦場を駆け抜けた戦友と言っていい程に、連携が洗練されていた。

「アビスライトニング!」

 エキューデの左手に漆黒の稲妻が迸り、抜骨七支刀にぶつけて電流を流した。それは展開され、ユリウスの氷の膜に突き刺さっている刃節まで流れ、辺り一帯に大規模な電撃波を発生させる。

 僕はその間に魔力を極限まで絞り出す。紅花匕首に超真空の鎌鼬を纏わせながら、両脚で迫る地面を蹴り飛ばし、ユリウスへ向かって駆け出した。

霞駆けかすみがけ!」

 爆ぜる黒雷を抜けながら、紅花匕首で舞い散る氷片を叩き落とし、一刀の下に振り抜いた。

歪断風いびつたちかぜ!」

 その瞬間、とある現象が起こった。

 本来の現象とは起こり方が違うだろう。だが今回はあまりにも条件が整いすぎていた。
 ユリウスから溢れる冷気は空間に氷の粒を形成し、エキューデから放たれた黒雷が氷の粒に電気を帯電させた。そして、僕の歪断風で帯電した氷の膜に摩擦が生じ、とある現象が起こる。

 すなわち、落雷。

 落雷は、雲の中の氷の粒が雲中の対流等により衝突や摩擦を生じさせ、それにより静電気同様に帯電、溜まった電荷がその状態解消のため、地面・水面及び地上物等に対して電荷の放出。つまり放電を生じさせるものだ。

 
 それが起こる・・・・・・

 稲妻が大地を穿ち、ユリウスを中心に、エキューデが発動したアビスライトニングとは比にならない程の大放電が発生した。

 目がけるような閃光と、耳をつんざくような爆音を立てて、高電圧の奔流が立ち昇った。

 しばらしくて後、硝煙が晴れた。

 もくもくと黒ずんだ煙の中から出てきたユリウスは、

 無傷。

 僕は目を疑う。あの落雷を受けて尚、ユリウスには傷一つ付いていないことに理解が出来なかった。

「今のは少し効いた。久々に『痛み』という感覚を味わったよ」

 こいつ化け物かよ。精神が無駄に高い僕ですらドン引きだ。こいつ人間じゃない。人型の魔物なんじゃないのか?

「小僧、あいつ人間じゃない」

 僕もそう思う。

 エキューデも僕と同じように驚愕の表情を顔に浮かべている。まるで人外の生き物を見ているような目をしている。

「仕方ない。まさかあんな化け物が相手だったとはな。小僧、奥の手を使うから離れておけ」

 エキューデが異形の腕を前に突き出した刹那、ガタガタガタガタガタ、と。地面に刺さっていたもの。氷に刺さっていたもの。落雷の放電で吹き飛ばされたもの。その全てが、抜骨七支刀から分離していた刃節が一箇所に集まっていく。

 骨と骨が組み合わさり、食い込み、一本のあまりにも大きい骨刀が形成された。

「唸れ喰らえ、抜骨七支刀!」

 それはもう刀とは呼べないだろう。呼ぶとするならば、骨で出来た大蛇だった。
 エキューデの咆哮と共鳴し、大顎を開け、強靭な刃節で作られた牙を剥き出して、骨の大蛇がユリウスに牙を剥く。

「凍えろ」

 瞬間、ユリウスから溢れる冷気の奔流が増して、凍り付いていた地面から樹氷のような氷が迸った。
 勢いは凄まじく、人間一人は軽く飲み込み大きさだ。

 氷結は拙速。 氷の針山とも言えるものが出来上がり、骨の大蛇の突進を容易く食い止める。

「呑み込み、砕けろ」

 氷の針山が、逆に骨の大蛇を丸呑みする。
 メキメキと氷棘に骨の大蛇が覆われて、力任せに握り潰される。

 バキィ――――。

 氷の針山毎、エキューデの奥の手は赤子の手をひねるように捻り潰された。

「あのさ、出来れば言いたくないんだけどさ」

 呆然と立ち尽くしたエキューデに僕は話しかける。

「これ、勝ち目なくね?」
「カラミティ・アバランチ」

 ユリウスの無慈悲な声が聞こた。 

 ドドドドド、と。突如、ユリウスの背後から白い津波が現れた。

 いや、これは雪崩だ。雪山でもないのに、雪崩がエルクセム王都の一角で発生した。
 周りのものを一切合切、雪の洪水が全てを飲み込み、僕達に迫ってくる。

「え、ちょ、」
「まず」

 声は雪崩の轟音で掻き消され、僕達はそのまま圧倒的な質量の暴力に呑まれ……

 意識を失った。



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