ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-24 前哨戦



 2-24 前哨戦


「これは予想外だ。なんという偶然、まさかネメッサの街でヒュージスライムキングを倒した人物がエルクセム王都で出会うとはな。しかし、君は厄介だな。私の邪魔されては困る」

 ビンゴだ。目の前の銀髪の男はヒュージスライムキングを産みだし、自分をユリウス=ナサニエルだと自分から認めた。

 僕が紅花匕首べっかあいくちを取り出して構える。その時、ぶつぶつと呟いていたユリウスの姿が、突然僕の視界からふっと消えた。

 逃げた? いいや、そんな訳がない。ドレムはユリウスを『第一騎士団副団長』と呼称していたんだ。

 今のユリウスは第一騎士団副団長の座に付き、その権利を行使できる。自身の都合の悪い事情を知っている田舎者の一般人一人なんて、逃げるよりも、

「やはり動きが洗練されている。背後からの一撃を見ないで受け止めるとは恐れ入った。ヒュージスライムキングを倒しただけのことはある」

 捕まえて牢にぶち込むか、殺す方が合理的だ。

 ユリウスは背後から氷で作った剣で僕を斬りかかった。

 だけど僕はユリウスが消えた瞬間、気配感知をすぐさま発動していた。

 背後からの奇襲は無意味、僕はブレードブロックを使い、紅花匕首でユリウスの氷剣を受け止めていた。

 やはり『悪い予感』は的中した。やはり戦闘は避けられない。こいつは、今ここで倒しておかないといけない気がする。

 いや、倒さないといけない。放っておけば、何かとんでもないことをやらかすだろう。

 僕は紅花匕首でユリウスの氷剣を上に弾き飛ばし、風遁術の技能を発動させる。その技能は、黒い風を発生させ、エルクセム王都の街並みと一緒にユリウスを巻き込んでいく。

黒竜巻くろたつまき

 突如、僕を中心に黒い暴風が巻き起こった。

 瓦礫の山は浮かび上がり、道路は引き裂かれていき、建築物は風圧に耐えきれずに倒壊した。

 貪食の食人鬼戦で使った殺風激程ではないが、それでも黒竜巻は凄まじい威力を誇っていた。

「ほう.......」

 ユリウスが感嘆の声を上げた。黒竜巻をその身に受けて尚、ユリウスは無傷。

 舞い上がる粉塵の中から見えたのはドーム型の氷の薄い膜だった。ユリウスはそれで僕の黒竜巻を無効化してたのだろう。

「やはり君がネメッサの街で貪食の食人鬼を倒したのか? そうだとしたら面白い。私の計画を邪魔したと思っていた君が、本当は私の計画に一番貢献した人間だったとはな」

 計画? 貢献? 何を言っているか分からない。

 だけど、これだけは言える。碌でもないことだけには違いない。

「その氷の膜、一点突破ならぶっ壊れそうだ」

 僕はユリウスを倒す為に次の技能を発動させる。片腕を掲げ、空気の渦が僕の腕を包んで唸っていく。

 黒竜巻を防いだ氷の膜。頑丈そうだが、ひとつの箇所に集中して技能をぶつければ壊れるはずだ。

裂孔気弾れっこうきだん

 僕が選んだのは体術の技能である裂孔気弾。気掌拳の派生前である技能だ。

 掌の中心に周囲の空気が凝縮し、ひとつの弾丸を作り上げる。それは、空気が圧縮された弾丸は掌から離れ、ユリウスへと高速で撃ち出された。

 衝突。

 ガラスが割れるような音を立てて、氷の膜にひびが生じる。亀裂は拡がり、その速度は上昇していく。

「無駄だ」

 それでも届かない。傷は入ったが、ユリウスが地面に拳を打ち付けると、ひび割れた箇所が元通りになっていき、氷の膜は瞬時に再生された。

 こいつ、拳から冷気を打ち付けて再生したのか。氷の錬金術師。確かに騎士の戦い方はではないからその通りだ。

 それにしてもあのバリア、かなり厄介な代物だ。

 僕はランセットをベルトから取り出して構え、紅花匕首を逆手で横一文字に構え、 箭疾歩せんしっぽを発動してユリウスへ肉薄する。

 一点突破が駄目なら、連続攻撃ならどうだ。

快刀乱麻かいとうらんま!」

 斬撃の嵐が舞う。

 何百、何千というランセットと紅花匕首の斬撃が氷の膜を切り刻み、浅い傷が入り込んでいく。

 ユリウスは拳を打ち付けたまま、冷気を送り込んで再生させていくが、僕の斬撃で氷の膜は徐々に、徐々にだが傷は深くなっていき、

 粉々に砕け散った。

閃光斬せんこうざん!」

 追撃は止めない。氷の膜が消失し、がら空きの胴体を晒しているユリウスに向かって、僕は片足を踏みしめて更に肉薄する。 

 顔と顔がぶつかりそうな程の至近距離。そこで僕は紅花匕首を振るい抜き、閃光斬を発動させた。 

 剣閃。

 至近距離からの亜音速の一閃。一筋の光が流れ、ユリウスを一刀の下に叩き伏せたと僕は確信した。

「なっ!?」 

 驚くことに、ユリウスは僕の閃光斬を片手で受け止めていた。人差し指と中指で紅花匕首の刃を挟み、閃光斬を防いでいたのだ。

 ありえない。超高速で振り抜かれた閃光斬を受け止めた事もだが、紅花匕首の斬れ味はロイドの剣を溶けたバターのように切り裂く程だ。

 普通なら片手で受け止めたユリウスの指が容易く斬られ、どこかに飛んでいってる筈だ。

「非常に興味深い。何故、君のような子どもが、これ程までの強さを得るまでに至ったのだろうか。上位技能の獲得、そして身体能力。それら全てがBランク冒険者と遜色がないレベル.......いや、下手したらAランク冒険者と同等だろう」

 僕はユリウスの指の間に挟まれた紅花匕首を引き抜こうとしているが、びくともしない。

 まるで紅花匕首の刀身が岩と岩の間に挟まれていると錯覚するぐらいだ。

「君は最初は始末しようと考えていたが気が変わった」

 そう言い終えた瞬間、全力の殴打が僕の腹部を襲った。

 衝撃音が響き、ユリウスの拳が僕の腹にめり込んで、勢いよく後方へと吹き飛ばされる。風を切りながら民家に激突し、鈍痛が遅れてやってくる。

「ぐぅッ!?」

 めちゃくちゃ痛い。だけど、僕はこれ以上の痛みを味わった事があるから耐えられる。

 周りと同じように瓦礫と化した民家の中から、僕は腹を押さえてフラフラと立ち上がった。

 技能すら使っていない殴打なのに、骨にひびが入ったかのような感覚だ。

 こいつ、紅花匕首を指で挟んで受け止めたといい、筋力のステータスがどうなっているんだ。化け物かよ。

「かなり強く殴ったが普通に立ち上がってくるか。普通の冒険者ならさっきの一撃で、痛みに呻いて立ち上がることが出来ず、息をする事すらままならい筈だ。ふむ.......痛覚への耐性が非常に高い人間の特徴は、何度も死線を越えて修羅場を潜ったからだ。君もそうなのか?」
「そうかもな。生憎僕は腹を貫かれてもまだ意識だけは保っていたからな」

 僕は口から血の混じった唾を吐き捨てた。

 強がっているが、今の僕はかなり不味い状況だ。先程の殴打の際、紅花匕首を手放してユリウスに取られてしまった。

 まだ手元にランセットもあるが、紅花匕首とランセットでは強度が違いすぎる。さっきみたいにランセットをユリウスに受け止められてしまうと、いとも簡単に折れ曲がってしまうだろう。

 僕はランセットを仕舞ってユリウスを見据える。錬金術師という役職なのに、至近距離で閃光斬で受け止めたユリウスは近接戦闘のレベルは高いだろう。

 それと同時に、凄まじい強度を誇る氷の膜も使えるユリウスは、それ以外の魔法も使えるだろう。よって遠距離戦でもレベルは高い違いない。

 まだ戦闘が始まって数分しか経ってない。それでも、僕はユリウスから底知れぬ強さを感じ取っていた。

 瓦礫の山。戦う二人の人間。戦いは、まだ始まったばかりだった。



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