ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

閑話 死者への手向け



    閑話    死者への手向け




「お姉ちゃん、どこに向かって歩いているの?    アイスクリーム屋さんがあった場所とはまるで違う方向に進んでいるの」

   私は兄とウェルトと別れた後、リフィアを連れてエルクセム騎士団本部の裏庭へと向かっていた。
    裏庭への道は人の行き来が少ない雑木林の中に作られていて、まだ昼間だというのに少し薄暗い。

    私は道中に咲いている色とりどりの花を摘みながら、のんびりとした足取りで歩いてく。
    
 それとは反対に、どうやらリフィアは早くアイスクリームを食べたいらしく、私と手を繋ぎながら早足で歩いている。

「少し、な。私には寄っおきたい場所があるんだ。ここから近いしすぐ終わる用事だから少しだけ私の我儘に付き合ってくれ」
「むー、それはアイスクリームより大事な用事なのお姉ちゃん?」
「そうだ」

    私はリフィアにそう答え、摘んだ花を束にして抱えながら騎士団本部の裏門を潜り裏庭に足を踏み入れた。

    ここは、六年前からまるで変わっていない。

    手入れを放棄された生え放題の雑草に、錆び付いて赤黒くなった鉄柵、そしてポツポツと雑草の中から突き出して顔を覗かせている墓石。

「ここだ」

    私は懐かしい気持ちと、この場所にいつ来ても、胸の底から込み上げてくるどう表していいか分からない不可解な感情に浸りながらこの場所を眺めた。

「この場所は.......墓地なの.......?」
「ああ」

    この場所は墓地だ。死者が安らかに眠り、土へと還るのを生者が見届ける場所。
    そう、ここはエルクセム騎士団の裏庭。通称、騎士達の墓場と呼ばれている場所だ。

    ここには来たのは今日を合わせて三回目だ。

    私が生まれて初めて、人を殺したいという確かな殺意を抱いた時と、生まれ故郷の、このエルクセム王都を去った時。

    私はゆっくりと歩きだし、少し進んだ先に鎮座する、ひとつの墓石の前に立ち止まった。

「用があるのはこの墓だ」

    その墓石は、他の墓石と比べてより一層寂れていた。雨に打たれ、風に吹かれ、幾年の月日を経たその墓石には風化による亀裂が生じ、今にも触れてしまうとポロポロと崩れいきそうだった。

    私は墓石の前で少し屈み、そっと、墓石に手を添えて優しく撫でた。冷たい石特有の触感が手に伝い、私の手の温度を墓石が奪い温める。

    私は目を閉じて、墓石の冷たい感覚をその身に刻み付けるように味わっていく。

    遅く、なったな。

    私は心の中で呟き、花束を墓石の前に置いて、彼の残り香を抱くように息を吸って手を合わせた。

    私は彼に、彼がこの世を去ってから、今まで私がしてきたことを伝えていった。
    六年間の年月が経っていたが、彼に伝えることはここ数週間の出来事が主だった。

「むふ~。お墓参りするならお兄ちゃんも連れてくれば良かったの。天国の友達に『新しい友達が出来たよ』って言ったらいいの」

    隣でリフィアが私の腕を掴みながら呟いた。

「そうか。いや、そうだな」

    なんとも子どもらしい、だけどもとてもいい考えだ。

    あいつにもウェルトを紹介すれば良かったと、少しだけ後悔の念が胸の中に広がった。

    ふと、ウェルトの事を考えたら彼と私が過ごした記憶とピッタリと重なった。

    言動も、仕草も、性格も、喋り方も、姿形も全く違うのに、何故かウェルトと彼は私の中で同じような存在に感じている。

    彼とウェルトが似ているところなんて、一つだけかないのに。
「それでもあいつは、お前によく似いてる……」
「え?」

    思わず心の声が口に出てしまっていたようだ。

    リフィアが私の目を見つめながら首を傾げている。

「いや、なんでもない」

   私は少しはにかんで笑って誤魔化すと、リフィアと手を繋いで立ち上がった。

「アイスクリーム、食べに行くか」
「うん!」

 

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