ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-36 限界を越えた少年



    1-36    限界を越えた少年


    体がとても軽い。

 まるで、背中に翼でも生えているかのように僕の体は今にも空に浮きそうだ。
 
 頭がやけにスッキリしている。

 そのせいか、周りがはっきりとよく見える。
 
 全身からは魔力が溢れだし、薄緑色の風が僕の身体を覆い漲っていく。

 今の僕なら、なんでも出来そうだ。
 
「ゲァエエェッ!」
 
 僕に向かって、目の前にいた一体の食人鬼が牙と爪を剥き出しにして襲いかかってきた。
  
 鋭い爪を尖らせて、腕を射抜くように突き出してくる。
 
 遅い。

    あまりにも、遅い。
 
 食人鬼の攻撃は欠伸が出る程遅かった。

 前の僕なら、目で追えないまま串刺しにされていたことだろう。しかし、今の僕なら充分に余裕を持って対処することが出来る。
 
 僕は襲いかかる食人鬼を見て、目の間に拳を突き出して呟いた。
 
 「気掌拳きしょうけん
 
 ――トンッ。
 
 僕は襲いかかった食人鬼の頭を片手で殴りつけた。
 
 その瞬間、僕の拳から空気が流れて込んで凄まじい勢いで膨張し、食人鬼は上半身が消し飛んで一撃で死んでいった。
 
 爆発四散。
 
 吹き飛ばされるとか、頭部が潰されるとか、それ以前に圧倒的な衝撃波が巻き起こり目の前で血煙となって爆散した。
 
 断末魔もあげられないまま食人鬼は下半身を残して地面に崩れ落ちた。
  
「ゲェ?」
「ゲッ?」
「ゲァ?」
 
 殺された仲間の姿を見て、どうやら他の食人鬼達は目の前で起こった現象に理解が追い付かないようだった。
 
 お互いに顔を見合わせて、僕の姿を遠くからじっと見つめている。
 
「さあ、かかってこい」

 そんな食人鬼達に、僕はダガーの刃を真正面に向けながら宣言する。
 
「早い者勝ちだ。僕を殺せる自信があるやつから、かかってこい」
 
 その言葉と同時に、食人鬼達は一斉に襲いかかる。

 ゲェゲェと言いながら尖る爪を立てて、鋭い牙を向けて、僕に向かって全方向から襲いかかる。
 
 右。斜め左。真後ろ。
  
    三体の食人鬼が跳躍し、僕の上を囲んで腕を伸ばす。

 傍から見れば、僕はこれから死んでしまうと認識されてしまうだろう。 
 
 だけどもう違う。
 
「レゾナンスエッジ」

    居合一閃。

 僕はもう、人の限界を越えていた。腕を薙ぎ払い、ダガーを空間に振り抜いた。
 
 レゾナンスエッジ。
 
 それは、自身の心臓を剣と共鳴させて振り抜く短剣術の奥義。
 
 僕の心臓の鼓動と共鳴し、超振動を起こした刃は三体の食人鬼を一瞬で塵と化した。

 ダガーが当たった場所から全身の細胞という細胞が超振動により沸騰されて蒸発し、ただの白い灰となる。
 
 血の一滴すら残らない。

 かつて食人鬼であった粉塵はパラパラと舞い落ちて、僕が纏う風の魔力に吹かれて散らばっていった。
 
 その有様を見た食人鬼達からどよめきが起こる。

 僕に襲いかかろうとした食人鬼達は足を止め、唸り声をあげて威嚇する。
 
「ゲァァァァァァァッ!!!」
 
 周りの食人鬼が狼狽える中、僕の遥か前方から咆哮が響き渡った。

 土煙が上に巻き上げられ、濁った空気の中から黒い物体が現れて怒り狂っていた。
 
 貪食の食人鬼だ。

 貪食の食人鬼は青筋を浮かべて仁王立ちをしながら僕を睨んでいる。
 
 みちみちと、貪食の食人鬼の凹んでいた頭部が再生されていく。

 ぶちっ、ぶちっと歪な音を立てながら陥没した箇所が浮き上がる。
 
「ゲェァァァァァァァッ!」
 
 再びの咆哮。
 
 ビリビリと空気が揺らされて、食人鬼達に動揺が伝染していく。
 
 その咆哮を聞いた食人鬼達の身体から赤い魔力が噴き出して覆い尽くす。
 
 これは、強化か。
 
 やはり統率系統のスキルを貪食の食人鬼は持っていたな、こいつ。
 
「ゲエエッ!」
 
 唸り声を上げての号令。
 
 貪食の食人鬼の叫びを皮切りに、全ての食人鬼達が僕に向かって走り出した。
 
箭疾歩せんしっぽ
 
 食人鬼達の目の前から、僕の姿がふっと消えた。
 
殺風激さっぷうげき
 
 突如、黒い竜巻がネメッサの街の中心で巻き起こった。
 
 殺風激。
 
 風遁術の亜流であり、歪風と地嵐を複合させた新たな技能。
 
 地面を抉り、民家を削り、竜巻は食人鬼達を上に押し上げていく。
 
 対する貪食の食人鬼だけは脚を地面に深く突き刺して殺風激の風圧に耐えていた。
 
 耐えられなかった食人鬼は空に浮かび、全身に裂傷を刻まれなら落下していく。

    僕は空に浮いた食人鬼に向かってダガーを向けた。
 
「インフィニティスラスト!」
 
 それは短剣術のもうひとつの奥義。無限の斬撃を一振りで放つとされる技能。
 
 僕は天に向かってダガーを突き上げた。
 
 無限の軌道を描きながら、数え切れない程の斬撃が食人鬼達を切り刻んでいく。
 
 最早、それは天変地異の光景。
 
 黒い竜巻が巻き起こり、斬撃が空に瞬いて、血の雨が降り注ぐ。
 
 赤が抉れた地面を埋めつくし、独特の鉄の匂いを充満させた。
 
「さあ、残るはお前だけだ」
 
 僕はダガーの切っ先を貪食の食人鬼に向けて言った。
 
 貪食の食人鬼はさっきの光景を見た後ですら闘争心を燃やし、僕に黒い腕を向けた。
 
 叫び声と共に黒い腕が伸びた。

 ゴムのように伸ばされた腕は弓から放たれた矢の如く、僕に向かって高速で伸ばされる。
 
 僕と貪食の食人鬼の距離はそれなりにあるはずなのに、鋭利な爪を立てた黒の腕は既に僕の目の前にあった。
 
「箭疾歩」
 
 視界が、世界が、ぶれる。
 
 貪食の食人鬼が射抜くように伸ばした腕は、僕の姿を捉えられない。
 
 黒い腕は空を切り、
 
 僕は貪食の食人鬼の背後に立っていた。
 
「気掌拳」
 
 僕の鋭い拳が貪食の食人鬼の体を一瞬で打ち抜いた。

 漆黒の体がくの字に曲がり、血を吐き出しながら吹き飛んでいく。
 
 そのまま地面に激突し、体を跳ねらせて民家に叩きつけられる。
 
 竜巻で削れて耐久力が減少していた壁が、あまりの質量に耐えきれなくなり完全に崩れ落ちる。
 
 砂塵が舞い、屋根が真っ二つにへし折られて破壊される。
 
「ゲエッァッ!」
 
 怒りの声を出して、瓦礫の中から貪食の食人鬼は立ち上がる。
 
 貪食の食人鬼の腹部には、不自然な小さい穴が開けられていた。
 
 その小さい穴は、僕が握った拳の形とよく似ている。
 
 荒い息を漏らしながら、貪食の食人鬼は僕は対峙する。
 
「ゲェッ.......ゲェッ.......ゲェッ.......」
「どうした、もう過呼吸を起こしたのか?    いや、お前は何をしている.......?」
 
 なんだか貪食の食人鬼の様子がおかしい。
 
            
 息があまりにも荒すぎる・・・・
 
 貪食の食人鬼程の魔物ならば、この程度じゃ簡単に死なない筈だ。
 
 突如、ゴギッ、ゴギッと僕が開けた腹部が隆起した。

 再生の速さが段違いに上昇している。
 
 いや、それだけではない。
 
 深紅の魔力を纏ったと思ったら、腕がブチブチと音を立てて太くなった。

 それに伴い、全身に筋肉の線と言うべきものが浮かび上がり、筋骨隆々の身体となっていく。
 
「ゲァァァァァァァッ!!!」
 
 その叫びは、まだ生きている街の人々全員が耳に入ったと感じてしまう絶叫だった。
 
 貪食の食人鬼から、禍々しい魔力を宿した黒い物体がコポコポと不気味な音を鳴らして背中を突き破った。
 
 それは、一言で表すなら黒い棘が付いた蛸のような触手。
 
 貪食の食人鬼の目が血走り、口から唾液を撒き散らした。
 
 目の前には、さっきまでの貪食の食人鬼が可愛く見える程の変貌した姿が存在していた。


 

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