ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-34 落ちてゆく暗闇の中で



 1-34  落ちてゆく暗闇の中で


 暗闇の中を僕は落ちてゆく。

 バサバサと服が風に吹かれて揺れている。光が遠ざかって、少しずつ小さくなって、見えなくなっていく。光の点がぷっつりと消え、僕の視界は闇に包まれた。
 

 何も無い。何も見えない。何も感じない。

 何もかも――真っ暗だ。

    無明。光が一切届かない暗闇の底へ僕は落ちていく。
 
 このまま、この暗闇の中を僕は落ちていったらどうなるんだろうか。

 ウラノスはここがあの世とこの世の狭間だと言っていた。

 それが正しいとするならば、僕はこのまま落ちていけば死後の世界に行くことになるのだろう。
 
 風の流れる音が聞こえる。風が僕の体に当たっていき、涼しくて気持ちいい。

 全身の力が抜けていって、だんだんと瞼が静かに閉じていく。どう頑張っても抗えなさそうな睡魔が僕を襲う。

  「..............」
 
 どうやら、僕の考えは正しそうだ。

 このまま落ちていけば、僕は死ぬ。
 
 僕はもうじき死ぬだろう。だけど不思議と恐怖や不安は感じなかった。

 むしろ、もうこれ以上苦しまなくていい、痛みに耐えなくていいと、僕の体が囁やいている。

 そう考えると、僕が死んだ時の記憶がはっきりと思い出した。
 
 貪食の食人鬼に僕は殺されたんだっけ。
 四肢を破壊され、臓器を抉られ、腹に風穴を開けられて、ぐちゃぐちゃの肉の塊にされたんだった。
 
 凄く.......痛かったな.......。

 それでもよく戦ったよ、僕は。

 もしも、次の人生があれば、もう戦わなくていい世界にでも生まれたいな.......。
 
「――けて.......――けてよ」

 ふと、そんなことを考える僕の耳に掠れた声が聞こえた気がした。
 
 風の音、なのか.......?
 
「―を――て.......」
 
 空耳.......?
 
「リ――アを」
 
 いや、違う――。
 
「―けて!」
 
 僕を呼ぶ声が遠くから聞こえる。
 
「――ちゃん!」
 
 声はだんだんと近くなる。
 
「もう大丈夫だって!」
 
 その声には、悲哀が混じっていた。
 
「僕に任せおけって!」
 
 その声には、叶わぬ願いが込められていた。
 
「お兄ちゃんはそう言ったんだよ!」
 
 その声には、無垢なる想いが含まれていた。
 
「だから、」
 
 声は強くなる。
 
「だから.......」
 
 だんだんと、
 
「助けて!」
 
 だんだんと、

「お兄ちゃん!」
 
 はっきりと、
 
「助けてッ!」
 
 僕の頭に響き渡る。
 
「え.......?」
 
 僕の顔に、水滴が零れ落ちた。 

 とても暖かい。

 水滴は、ポトリ、ポトリと僕の頬を伝って零れ落ち続けた。

  「..............」
 
 けれど、僕は瞼を完全に閉じた。

 暖かい。体の感覚が無くなって意識が朦朧としていく。

 これなら、よく眠れる気がする。これなら、安心して逝けそうだ。

 ありがとう――


 ――――ドクンッ!
 
 胸の奥深くから熱い何かが込み上げてくる。
 
 なんで.......? なんで、まだ僕の心臓が動いているんだ.......?

 全身の細胞が叫んだ。

 まだやれる、と。立ち上がれ、と。動け、と。
 
 動け、動け、動け。
 
 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ――!
 
 血流が活性する。

 心臓が何度も高鳴り、沸騰しそうな熱い血液を僕の全身に送っていく。

 鼓動は鳴り止まない。僕の胸を激しく打って、体が動き始める。
 
 なんでだよ。なんでまだ、僕の体は動かそうとしているんだ。

   その答えは、簡単に導き出された。
 
 -スキル『ロリコン』が発動しました-
 
 頭の中でアナウンスが響いた。
 
 なんだよ――。最後の最後にお前かよ。

 本当にふざけてやがる。死に際にこんなスキルまで発動するなんて、どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ。

 でも、最高だ。

「.......そうだよな」
 
 光が一切届かない暗闇の中で僕は静かに呟いた。
 
「僕は言ったんだ.......。もう大丈夫だって、僕に任せておけって!」

 落ちていく中、僕は濡れた顔を拭って無意識に手の平を握りしめじっと見つめていた。
 
 僕がリフィアに言ったんだ。

 リフィアが僕に願ったんだ。

「僕が行かなくて、誰が助けに行くんだよ! 僕しかーー僕しかいないだろ!」
 
 その叫びと同時に、眩い光が闇の中を照らし出して侵食し、水色の光彩が僕の視界を覆っていく。
 
 目が眩む。
 
 光が、僕の身体を優しく照らして包み込んでいく。
 
 その声が、その想いが、その願いが、
 
 僕を闇から救い出す。
 
 -実績を達成しました-
 -サブクラスが解放されました-
 -サブクラスへの職業を検索します-
 -職業『暗殺者』が見つかりました-
 -自動行動を開始します-
 -サブクラスが『暗殺者』になりました-
 -スキル『暗殺術』Lv2を獲得しました-
 
 アナウンスが脳裏の奥底で響き渡る。
 
 -スキル『ロリコン』が発動しました-
 -対象者の願いを叶えようとする意志により実績を達成しました-
 -スキル『希望を背負いし者』を獲得しました-
 -スキル『希望を背負いし者』が発動しました-
 -一縷の希望を託されたことにより、一時的にLvが大幅に上昇します-
 -対象者の願いの意思が届いたことにより実績を達成しました-
 -スキル『ロリコン』が変異しました-
 -スキル『ロリコン』がスキル『絶望を振り払う者』に変異しました-
 -『絶望を振り払う者』が発動しました-
 -スキル所有者の決意により一時的にLvが大幅に上昇します-
 -実績を達成しました-
 -スキル『希望を背負いし者』とスキル『絶望を振り払う者』が融合します-
 -スキル『未踏の先駆者』に融合進化しました-
 -スキル『未踏の先駆者』が発動しました-
 -成長限界リミッターが外れました-
 -スキル所有者の可能性が全て取得されました-
 -未来へ繋ぐ無数の可能性が開拓されたことにより、特異点との接続に成功しました-
 
 アナウンスは続く。
 
 -特異点の力により実績を達成しました-
 -世界の理を歪めて本来獲得できないスキルを獲得します-
 -スキル『覚醒』を獲得しました-
 
 光の大奔流が下から発生し、僕を上へと押し戻す。照らされた暗闇を貫いて、僕は上に巻き戻される。
 あの世への道を逆走し、凄まじい勢いで狭間の世界を突き抜け、この世への境界を突き破る。

 腕を伸ばして壁を壊した。

 シャンデリアが割れるような音が響いて壁が粉々に砕け散った。その壁を越えた先に、水色に光に輝く小さな腕が現れた。
 
「お兄ちゃん――!」
 
 リフィアの声がその腕から聞こえてきた。

 僕は無我夢中で自分の腕を思いっきり伸ばす。

 その水色の手を掴むために、僕は手の平を開いて更に腕を伸ばした。
 
 タンッ! と確かな感触が伝わり、リフィアの手を掴んだ。互いの指がしっかりと結ばれて、水色に輝く腕は力強く僕をこの世に引き上げる。

 あとちょっとだけ、待っててくれ。

 今ーー行くから。

「『覚醒』、発動ッ!」

 僕は光に呑まれながら高らかに叫びをあげた。
 
 -スキル『盗賊術』のLvが限界を越えてあがりました-
 -スキル『暗殺術』のLvが限界を越えてあがりました-
 -スキル『短剣術』のLvが限界を越えてあがりました-
 -スキル『体術』のLvが限界を越えてあがりました-
 -スキル『風遁術』のLvが限界を越えてあがりました-
 -一時的にLvが大幅に上昇します-
 -Lvがカンストしました-
 -成長限界リミッターが外れたことにより限界を越えてLvがあがりました-
 -実績を達成しました-
 -称号『覚醒者』を獲得しました-
 
 アナウンスが、僕に向けて微笑んだ気がした。
 視界が真っ白に染まり、意識が鮮明になっていく。
 
 -『再構築』を開始します-

 滅びゆく運命の街中で、僕の腕が確かに動いて拳を強く握りしめた。


  

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