ろりこんくえすと!
1-31 埋められないモノ
 
    1-31    埋められないモノ
「がッ、ばッ!」
僕はまるで羽虫を叩くかの如く、貪食の食人鬼に吹き飛ばされた。
背中から壁に激突し、民家をバラバラと盛大に破壊する。
ただでさえ魔力を限界を越えて使っていた事で全身の魔力欠乏で吐血をしていたのに、さっきの強打と背中越しからの衝撃で口から赤い血を沢山吐いた。
「ぐぼッ……ぐっ……!」
僕は腕に力を込めて、壊れた壁から身体を抜け出してフラフラと立ち上がる。
息が乱れていた。
口に粘っこい血が絡んでいて上手く息が吸えない。
「ぐッ、うぶっ……!?」
両足で立ち上がったと同時に血の塊が逆流し、喉を通ってさらに血反吐をぶちまける。
胃の中のものと血が混ざりあった汚物が地面に吐き出された。
「ッ……はぁ……はぁ……」
臓器がさっきの攻撃でいくつかやられた。
強打された腹を見ると黒ずみ、白い棒のようなものが二本程僕の腹から突き出ている。
いや、訂正しよう。臓器と骨がいくつかやられて酷い内出血を起こしていた。
「笑えねぇ.......こいつまじで化け物だろ.......」
僕のすぐ側にはアシュレイの左腕が落ちていた。
それを尻目に遥か遠くには血の海に沈むアシュレイの姿が見える。
赤い海がアシュレイを中心として絶え間なく広がり続けている。
「ッ.......」
口から止まることなく伝う血を腕で拭いながら、僕は瓦礫の上に悠然と立つ貪食の食人鬼を見つめた。
やつは――嗤っている。
鋭い鍵爪の付いた血をぺろぺろと毛繕いするように舐めている。
凶悪な笑みを浮かべて黒い肌を歓喜させて揺らしていた。
「ゲェッ.......ゲェッ.......ゲェッ.......」
嗤う。嗤う。嗤う。
貪食の食人鬼からしてみれば、僕達との戦いはただの遊びでしかなかった。
無邪気な子供みたいに僕を見つめては喜んでいる。
最高の玩具が、僕なのだろうか。
「いいぜ.......やってやるよ.......!」
大地を蹴り飛ばし、僕は貪食の食人鬼の元へと向かう。
走る度に足が軋み、全身の骨がミシミシと砕けていく音がする。
空気を吸い込む度に肺と心臓が潰れていくような感覚に陥る。
「歪、風!」
全身から魔力を極限まで絞り出し、強風を纏った斬撃を振るう。   
限界以上の魔力を使った代償に、目から、鼻から、耳から、そして口から赤い血が溢れ出す。
   噂で聞いたことがある。
MPが0になった時、魔法をその限界を越えて使うことができる。
そして、MPの代わりに消費して使えるものがある。
それが、HP。
    どうやらそれは、本当の事みたいだ。
命を削って、血を流しながら僕はダガーを振るい抜く。
「ゲェゲェ?」
だが、届かない。
丸めた紙ぐずを相手にするかの様にペちっ、と歪風を叩き落とされた。
「歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風ぇぇぇぇッッッ!」
一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃、七撃。
腕が本来曲がってはいけない方向に曲がるのも躊躇わず、僕はダガー右腕で振るう。
手の甲から骨が飛び出し、腕は魔力の異常伝達で筋肉繊維が跡形もなく破壊され、右腕はぐちゃぐちゃぐちゃの肉塊と化した。
「づぅっ.......ッ!」
激痛を無視して振るった歪風は、貪食の食人鬼に全て叩き落とされた。
細長い黒い腕には小さな傷跡ひとつすらついていない。 
「まだ僕の腕は残っている!」
原型を無くした右腕からククリ抜き取り、左腕で構える。
「瞬歩!」
大地を蹴る度に足の指が砕け散った。
太股の筋肉が張り裂け、骨が剥き出しになり血が飛び出す。
肉片と僕の血液が地面を汚す。
それでも、僕は構わず突き進む。  
「閃刃!」
黒くて細長い腕にダガーを突き立てる。
しかし、ダガーは乾いた音を立て弾かれただけだった。
そのままひびが広がり、ダガーはガラスが割れるような音を立てて粉々になる。
一滴の血すら、やつは流さない。
「ゲェッ!」
僕が後ろにのぞけった間に、貪食の食人鬼の腕が目で追えない速さで伸びて僕の右肩と脇腹を抉り取った。
使い物にならなくなっていた右腕が完全に切断され、空に飛んでいく。
「あ゛あ゛づっ!」
声にならない叫び声を発しながら吹き飛ばされ、僕は大地に激突した。
右腕があったはずの場所と脇腹から血がドクドクと流れ落ちる。
アシュレイと同じように血溜りが地面に形成されていく。
    血を流しすぎて意識が朦朧し、思考があやふやになる。。
それでも、僕はまだ立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ.......!」
ボロボロになった両足と、傷だらけの左腕を支えにしながら地面から立ち上がる。
視界が――赤く染まっていた。
ズゥン!
轟音。
貪食の食人鬼が大きく口を開け、土煙を巻き上げながら、目にも止まらぬ速さで接近する。
「諦めるかよッ!    ブレードブロックッッッ!!!」
ククリを牙の間を差し込んで、
「背負い投げッ!」
あまりの質量に支えきれなく、左腕がポキッと折れる音がした。 
しかし、その見返りとして貪食の食人鬼を頭から地面へ叩きつける事に成功する。
     だが一秒後。
この行為は悪手だったと思い知らされた。
「がっ!?」
頭を地面に嵌ったままの体勢から、片足で僕の下半身を蹴り飛ばされる。
凶悪な鍵爪を持つ足からは想像を絶する威力の蹴りが放たれた。
僕は再び地面に何度もぶつかりながら空高く跳ねあがった。
左腕がねじ曲がり、左脚は骨ごと鍵爪て切断されて胴体から分裂し地平線の彼方に飛んでいった。
地面に突っ伏しながら残った右脚と左腕を見た。
赤色が、僕の体を一寸の隙間もなく埋めつくしている。  
「ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」
 
まだだ。
まだ終われない。 
諦めるものか。
右脚に力を込めて立とうとした。
                                            ・・・
立とうとしたら右脚が゛潰れた゛。
魔力を絞り出し、左腕で歪風を放とうとした。
                                            ・・・
放とうとしたら左腕が゛爆せた゛。
「地嵐ッッッ!」
地嵐は発動しなかった。
その代わりに、魔力の暴発で後方に吹っ飛んだ。 
「まだ、だっ!」
血塗れになりながら僕はまだ足掻く。
貪食の食人鬼が僕に向かって手を伸ばした。
こいつ、僕を食べる気なのかよ。
させない。
そんなこと、やらせない。
「瞬歩!    歪風!」
僕は片足に歪風を纏い瞬歩を発動する。
上に跳躍し、腰からダガーを抜き取った。
「絶命剣ッ!」
そのまま真上から落ちながらダガーを振り下ろした。
・・・・
僕の脚に。
「がひゅっ.......」
振り下ろしたと同時に、僕は空に浮いていた。
本来、貪食の食人鬼頭に突き刺すはずだったダガーの刃が、僕の態勢が急に変わったせいで脚に突き刺ささっていた。
脚の痛みは、不思議と感じない。
何故なら、それよりも強烈な痛みが僕の腹から発生しているから。
「ご、ぼっ.......」
僕の腹から黒い腕が生えていた。
ギリッ、ギリッ、と身体の中身を掻き乱される。
臓器がぐちゃぐちゃと不快な音を立てて肉が捻じられちぎれていく。
そのまま、黒い腕が動き、僕の視界がぶれて、
体に何かがぶつかった音がして、僕の意識は暗闇の中に落ちていった。
    1-31    埋められないモノ
「がッ、ばッ!」
僕はまるで羽虫を叩くかの如く、貪食の食人鬼に吹き飛ばされた。
背中から壁に激突し、民家をバラバラと盛大に破壊する。
ただでさえ魔力を限界を越えて使っていた事で全身の魔力欠乏で吐血をしていたのに、さっきの強打と背中越しからの衝撃で口から赤い血を沢山吐いた。
「ぐぼッ……ぐっ……!」
僕は腕に力を込めて、壊れた壁から身体を抜け出してフラフラと立ち上がる。
息が乱れていた。
口に粘っこい血が絡んでいて上手く息が吸えない。
「ぐッ、うぶっ……!?」
両足で立ち上がったと同時に血の塊が逆流し、喉を通ってさらに血反吐をぶちまける。
胃の中のものと血が混ざりあった汚物が地面に吐き出された。
「ッ……はぁ……はぁ……」
臓器がさっきの攻撃でいくつかやられた。
強打された腹を見ると黒ずみ、白い棒のようなものが二本程僕の腹から突き出ている。
いや、訂正しよう。臓器と骨がいくつかやられて酷い内出血を起こしていた。
「笑えねぇ.......こいつまじで化け物だろ.......」
僕のすぐ側にはアシュレイの左腕が落ちていた。
それを尻目に遥か遠くには血の海に沈むアシュレイの姿が見える。
赤い海がアシュレイを中心として絶え間なく広がり続けている。
「ッ.......」
口から止まることなく伝う血を腕で拭いながら、僕は瓦礫の上に悠然と立つ貪食の食人鬼を見つめた。
やつは――嗤っている。
鋭い鍵爪の付いた血をぺろぺろと毛繕いするように舐めている。
凶悪な笑みを浮かべて黒い肌を歓喜させて揺らしていた。
「ゲェッ.......ゲェッ.......ゲェッ.......」
嗤う。嗤う。嗤う。
貪食の食人鬼からしてみれば、僕達との戦いはただの遊びでしかなかった。
無邪気な子供みたいに僕を見つめては喜んでいる。
最高の玩具が、僕なのだろうか。
「いいぜ.......やってやるよ.......!」
大地を蹴り飛ばし、僕は貪食の食人鬼の元へと向かう。
走る度に足が軋み、全身の骨がミシミシと砕けていく音がする。
空気を吸い込む度に肺と心臓が潰れていくような感覚に陥る。
「歪、風!」
全身から魔力を極限まで絞り出し、強風を纏った斬撃を振るう。   
限界以上の魔力を使った代償に、目から、鼻から、耳から、そして口から赤い血が溢れ出す。
   噂で聞いたことがある。
MPが0になった時、魔法をその限界を越えて使うことができる。
そして、MPの代わりに消費して使えるものがある。
それが、HP。
    どうやらそれは、本当の事みたいだ。
命を削って、血を流しながら僕はダガーを振るい抜く。
「ゲェゲェ?」
だが、届かない。
丸めた紙ぐずを相手にするかの様にペちっ、と歪風を叩き落とされた。
「歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風!    歪風ぇぇぇぇッッッ!」
一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃、七撃。
腕が本来曲がってはいけない方向に曲がるのも躊躇わず、僕はダガー右腕で振るう。
手の甲から骨が飛び出し、腕は魔力の異常伝達で筋肉繊維が跡形もなく破壊され、右腕はぐちゃぐちゃぐちゃの肉塊と化した。
「づぅっ.......ッ!」
激痛を無視して振るった歪風は、貪食の食人鬼に全て叩き落とされた。
細長い黒い腕には小さな傷跡ひとつすらついていない。 
「まだ僕の腕は残っている!」
原型を無くした右腕からククリ抜き取り、左腕で構える。
「瞬歩!」
大地を蹴る度に足の指が砕け散った。
太股の筋肉が張り裂け、骨が剥き出しになり血が飛び出す。
肉片と僕の血液が地面を汚す。
それでも、僕は構わず突き進む。  
「閃刃!」
黒くて細長い腕にダガーを突き立てる。
しかし、ダガーは乾いた音を立て弾かれただけだった。
そのままひびが広がり、ダガーはガラスが割れるような音を立てて粉々になる。
一滴の血すら、やつは流さない。
「ゲェッ!」
僕が後ろにのぞけった間に、貪食の食人鬼の腕が目で追えない速さで伸びて僕の右肩と脇腹を抉り取った。
使い物にならなくなっていた右腕が完全に切断され、空に飛んでいく。
「あ゛あ゛づっ!」
声にならない叫び声を発しながら吹き飛ばされ、僕は大地に激突した。
右腕があったはずの場所と脇腹から血がドクドクと流れ落ちる。
アシュレイと同じように血溜りが地面に形成されていく。
    血を流しすぎて意識が朦朧し、思考があやふやになる。。
それでも、僕はまだ立ち上がる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ.......!」
ボロボロになった両足と、傷だらけの左腕を支えにしながら地面から立ち上がる。
視界が――赤く染まっていた。
ズゥン!
轟音。
貪食の食人鬼が大きく口を開け、土煙を巻き上げながら、目にも止まらぬ速さで接近する。
「諦めるかよッ!    ブレードブロックッッッ!!!」
ククリを牙の間を差し込んで、
「背負い投げッ!」
あまりの質量に支えきれなく、左腕がポキッと折れる音がした。 
しかし、その見返りとして貪食の食人鬼を頭から地面へ叩きつける事に成功する。
     だが一秒後。
この行為は悪手だったと思い知らされた。
「がっ!?」
頭を地面に嵌ったままの体勢から、片足で僕の下半身を蹴り飛ばされる。
凶悪な鍵爪を持つ足からは想像を絶する威力の蹴りが放たれた。
僕は再び地面に何度もぶつかりながら空高く跳ねあがった。
左腕がねじ曲がり、左脚は骨ごと鍵爪て切断されて胴体から分裂し地平線の彼方に飛んでいった。
地面に突っ伏しながら残った右脚と左腕を見た。
赤色が、僕の体を一寸の隙間もなく埋めつくしている。  
「ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」
 
まだだ。
まだ終われない。 
諦めるものか。
右脚に力を込めて立とうとした。
                                            ・・・
立とうとしたら右脚が゛潰れた゛。
魔力を絞り出し、左腕で歪風を放とうとした。
                                            ・・・
放とうとしたら左腕が゛爆せた゛。
「地嵐ッッッ!」
地嵐は発動しなかった。
その代わりに、魔力の暴発で後方に吹っ飛んだ。 
「まだ、だっ!」
血塗れになりながら僕はまだ足掻く。
貪食の食人鬼が僕に向かって手を伸ばした。
こいつ、僕を食べる気なのかよ。
させない。
そんなこと、やらせない。
「瞬歩!    歪風!」
僕は片足に歪風を纏い瞬歩を発動する。
上に跳躍し、腰からダガーを抜き取った。
「絶命剣ッ!」
そのまま真上から落ちながらダガーを振り下ろした。
・・・・
僕の脚に。
「がひゅっ.......」
振り下ろしたと同時に、僕は空に浮いていた。
本来、貪食の食人鬼頭に突き刺すはずだったダガーの刃が、僕の態勢が急に変わったせいで脚に突き刺ささっていた。
脚の痛みは、不思議と感じない。
何故なら、それよりも強烈な痛みが僕の腹から発生しているから。
「ご、ぼっ.......」
僕の腹から黒い腕が生えていた。
ギリッ、ギリッ、と身体の中身を掻き乱される。
臓器がぐちゃぐちゃと不快な音を立てて肉が捻じられちぎれていく。
そのまま、黒い腕が動き、僕の視界がぶれて、
体に何かがぶつかった音がして、僕の意識は暗闇の中に落ちていった。
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