ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-26 戦線崩壊



    1-26    戦線崩壊


    貪食の食人鬼は鉄槍を投げ捨てる。
 
 カラン、と乾いた音を立てて鉄槍が地面に落ちた。
 
 そして、貪食の食人鬼の、酷く濁った黒い目には、確かに僕の姿を捉えていた。
 
「ゲェ.......?」

 貪食の食人鬼の次なるターゲットにされた僕は、蛇に睨まれた蛙のように一歩も動けなかった。

    地嵐で貪食の食人鬼に攻撃したのは迂闊だった。衛兵が殺された事で冷静さを失ってしまった。
 
 いや、それよりも、やつとは戦うべきなのだろうか。
 
 今の僕の実力では貪食の食人鬼には到底適わない。
 
 ここは逃げに徹し、応援が駆けつけるまで持ちこたえるべきなのか。
    
「..............」
 
 ダガーを握る手に思わず力が入る。
 
 僕はあまりの重圧感から何と行動することなく、その場で立ち尽くしていた。
 
「いたぞ!    あいつらだ!」
「この街を守るぞ!    食人鬼達の好きにはさせない!」
「こいつらを倒せば特別報酬だ!    腕がなるぜ!」
 
 後ろからバタバタと足音が聞こえてくる。冒険者達が一連の騒ぎに気付き、駆け付けてきてくれたんだ。
  
 台詞から察するに、エマは上手く事を進めてくれたらしい。

 援軍が来たことによって僕は安堵した。
 
 冒険者達が続々と駆けつけてくる。その中には僕が見たことある魔道士や弓使いの姿があり、さっきまで話していた剣士までもいた。
 
 剣士は仲間の仇だと言わんばかりの目をして、食人鬼へ剣を抜いて襲いかかっていく。
 
 この冒険者の数なら、街の人々全員の避難が出来るはずだ。
 
「いくぞぉ!」
「おー!」
 
 冒険者達はそれぞれ武器を取りながら、食人鬼に向かっていく。
 
 街の人々を喰らわんとする食人鬼へ剣を、矢を、槌を、斧を、槍を突き立てる。
 
 魔道士が魔法を詠唱し、電撃が迸る。剣士が剣を振るい、斬撃を飛ばす。弓使いが矢を放ち、一筋の軌跡を作る。
 
 冒険者達の活躍によって食人鬼の食事の時間が中断されていく。
 
 が、
 
「か、硬ぇ!?」 
 
 槍使いの槍が折れ曲がり、
 
「私の魔法が効かない!?    どうしてなのっ!?」
 
 電撃は効果は薄く、
 
「うわっ!」
 
 剣は弾き返される。
 
 駆け付けてきてくれた冒険者達は、食人鬼に対して有効打が何も無い状態だった。

 そんな.......エマの言った通り、本当に僕達以外ではこの街の冒険者では太刀打ちできないじゃないか。
 
「ウェルト!    私達以外では食人鬼には相手ができん!    これでは足でまといだ!」
「くそっ!」
 
 援軍は駆け付けてきてくれた。けれども明らかに力不足。
 
 現状は僕達しか食人鬼を倒せないのか。
 
「瞬歩!」
 
 槍が折られて隙を晒した槍使いを、僕は勢いよく蹴り飛ばす。
 
 食人鬼の大口が寸でのところで空を噛み、僕は槍使いを助け出した。   
 
「みんな注目!    食人鬼は強い!    無理に倒さず気を引く事だけに専念しろ!    まずは街の人々を避難させるんだ!」
 
 僕は高らかに叫んだ。
 
 自分達の攻撃が通じないと理解した冒険者達は、適度な距離を取って攻撃を再開していく。
 
 でも、問題は目の前にある。
 
 ネメッサの街の冒険者達は食人鬼ならば上手く立ち回ればなんとか戦えるだろう。
 
 それでも貪食の食人鬼なら話は別だ。
 
 こいつをどうにかしなくてはいけない。
 
「お、おい!    お前はあんななりでもランクDの冒険者なんだろ!?   早くあの黒いのをなんとかしてくれよ!?」
  
 そんな乱れる中、冒険者達の注目を一際集める一人の冒険者の姿があった。

    人混みを掻き分け、中から現れたのは斧を担いだ大男。
 
「ふっ、任せろ。   なんせ俺はネメッサの街最高ランクのゴンザレスだ!    あんなやつ一撃で粉砕してやるぜ!」
 
 ゴンザレス.......ッ!?
 
 ゴンザレスは豪快に笑いながら人々に答え、あの方向へ向かっていた。
 
 一切の躊躇いも無く、ゴンザレスは歩いてゆく。
 
 お、おい。何をする気だ。
 
 お前が今向かってる方向には、

 ――貪食の食人鬼がいるんだぞ。
 
「やめろッ!    貪食の食人鬼は食人鬼とは格が違いすぎる!    早く離れろ!」
 
 僕は大声でゴンザレスに忠告を促すが、耳に入っていないのか平然と無視される。
 
 ゴンザレスはどこ吹く風で、腕をポキポキと鳴らしながら貪食の食人鬼と対峙してしまった。
 
「流石兄貴!    まるで恐れをなしてないでやんす!    さぁ、やっちゃってください!」
「兄貴の斧術はLv6!    自慢のスクラップブレイクでこんなやついちころよ!」
 
 ゴンザレスの取り巻きがぴょんぴょん跳ねてはしゃぎだした。
 
 この様子だと、これからゴンザレスが貪食の食人鬼を快勝すると信じて疑っていなかった。
 
「よせ! 早く逃げろ!」
 
 ダメだ、やめろ。お前らじゃ貪食の食人鬼にとってはただの餌だ。傷ひとつ負わせること自体、不可能だ。
 
「おい、そこのデカブツ」
 
 ゴンザレスは背中から斧を取り出し、刃の切っ先を貪食の食人鬼に向けた。
 
「ゲェ?」 
「この街を襲撃したことを地獄の底で後悔するんだな」
 
 頭に?マークが浮かんでいる貪食の食人鬼へ、ゴンザレスは不適に笑いながら勢いよく走り出す。
 
「なんせ、この俺がいたことになぁぁぁ!!!」
 
 ゴンザレスは高らかに叫びながら地面を蹴って跳んだ。
 
 斧を頭上に掲げ、渾身の力を込めて垂直に降り下ろす。斧から眩い黄土色の光が溢れ出した。
 
「スクラップブレイクッ!!!」
 
 ぐしゃりと空間に血飛沫が弾けた。

 血潮が洪水のように溢れ流れ、街の道路の一角に血溜まりが作られる。

「あ、兄貴!?」
「兄貴いいいぃ!?」

 ゴンザレスは、
 
 下半身から上が無くなっていた。
 
 ドプッと不快な音を立てて、かつてゴンザレスであった下半身が道路の上に転がった。
 
「嘘、だろ.......?」
 
 僕には見えた。
 
 貪食の食人鬼は大口を開けて、一瞬でゴンザレスを齧ったのだ。あまりにも早すぎて理解が追いつかなかったが、確かにあの獰猛な牙で持ってゴンザレスを食いちぎった。
 
 その証拠に、貪食の食人鬼の口の周りと顎からは、真新しい赤い液体がべっとりと塗られている。
 
「あ、.......兄貴.......?」
「な、なんだよこ」
 
 貪食の食人鬼は、二人の取り巻きに最後まで台詞を言わせなかった。
 
 腕を伸縮させて横に振るう。血煙が横切り、血溜まりを更に広げ血の海を作った。
 
 腕を振った。
 
 ただそれだけで、二人をゴンザレスと同じ末路を辿らせる。
 
「ぺっ」
 
 貪食の食人鬼は腕を振って血なまぐさを払うと、口から血と金属片が混ざった肉の欠片を吐き出した。
 
 どうやらゴンザレスの肉と一緒に斧まで食べてしまったらしく、それが気に入らなかったようで顔を顰めている。 
 
 おもむろに口の中に手を入れると、ガサゴソと口内を漁り出し、砕けて半壊した斧を取り出して投げ捨てた。
 
「嘘.......」
「なんだあれ、化け物かよ.......!?」
「に、逃げろぉ!    俺達じゃ勝てっこねぇ!」
 
 ランクDの冒険者が瞬殺された。その事実だけで、冒険者達の戦線は崩壊した。
  
 正しく敵前逃亡だ。
 
 冒険者達は武器を投げ捨て、食人鬼達に背中を見せて走り出した。
 
「待てッ!    奴らに背中を向けるな!」
 
 もしも、
 
 もしも、自分の目の前から大好物のご飯が逃げようとしたらどうするだろうか?
 
 答えは簡単だった。
 
 追いかけて、捕まえて、食べる。
 
 当たり前だ。そんな、当たり前の事を食人鬼達は行った。
 
 冒険者達は食い殺される。
 
 食人鬼の長い腕に捕えられ、口の中に次々と運ばれていく。
 
 地獄絵図、なんて生温い。そんな血と肉に溺れた残酷な光景が形成されていく。
 
「ゲッゲッゲッ!」
「ゲェゲェ!」
「ゲァッゲァッ!」
 
 食人鬼の喜びの声がネメッサの街に響き渡り、進行は更に広がっていく。




 
 

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