ろりこんくえすと!
1-25 最悪の一手
    
    1-25    最悪の一手
    僕達と貪食の食人鬼は対峙する。
漆黒の悪魔が目の前に立ち塞がり、全身が針で刺される様な殺気が放たれている。
 脅威度Aの威圧感は異常だった。同じ空間にいるだけで、気が狂いそうなそうな程のプレッシャーが僕を襲う。
僕は生唾を飲み込みながら、ダガーの柄を握りしめ、貪食の食人鬼の挙動をひとつひとつ凝視する。
「ウェルト、貪食の食人鬼がこれからどう動くか分かるか?」
アシュレイ冷や汗を書きながら、重砲を貪食の食人鬼に向けて言った。
「分からない。けど、気を抜くなよ」
僕もダガーを構えながら臨戦態勢に入る。
そして、しばらくした後、貪食の食人鬼はゆっくりと行動を開始した。
来る.......!
餌を見つけたと言わんばかりに嬉しそうに目を細め、僕達に向かって鋭利な鍵爪が付いた腕を、
「ゲアッ!」
伸ばすことなく、地下水路の天井を破壊し、地上へ.......つまりネメッサの街へと飛び出した。
「「..............えっ」」
あまりにも不可解な行動に、僕達は数秒の間呆けてしまった。
「僕達から、逃げた?」
何故、餌である僕達を無視した? いや――違う!
「まさかッ!」
 
僕は貪食の食人鬼のこの行動の意味を理解してしまった。
そもそも、何故、大好物である人の肉がすぐ真上にあるのに食べなかったのか。
僕達は地下水路に潜伏している食人鬼達が、通路を通って街の中に入ってくると考え、足止めをしようとしたのだ。
が、貪食の食人鬼は天井をぶっ壊してネメッサの街に躍り出た。
つまり、いつでも食べられるのに地下水路で待っていた。
やつははなから奇襲するつもりだったんだ。夜を待ち、地下水路から街へ奇襲を仕掛ける事だけを考えていた。
地下からの電撃作戦で、街の人達を全て食い殺そうとしていた。
だけど、その作戦で僕達のせいでその計画は破綻した。
その意味は――
「奇襲を諦めて今から街を襲う気かよ!?」
それは、最悪の一手。
奇襲がバレたなら、僕達を殺して口止めすればいい。
しかし、やつは僕達を無視した。
何故か?
これはもう既に、街の人達に自分達の奇襲することがバレてしまっている、と考えたからではないのだろうか。
「ウェルト!    どうする!?」
「止めるぞアシュレイ!    街の人々が食われる前に食人鬼を仕留めながら避難させるんだ!」
    これでは足止めの意味がない。放っておくと、大変な事になる。
    僕達は貪食の食人鬼の後を追う。壊されて瓦礫となった天井を掻き分け、街へと這い出た。
「不味い.......これは非常に不味い」
そこは地獄絵図と化していた。
もう既に、貪食の食人鬼の腕は鮮血で塗られ、口から赤い雫をぽたぽたとこぼしている。
石で作られた街の道路には、胴体から上が無くなった人が転がっていた。
「ゲァァァァ!!!」
咆哮が街に響く。
ズボズボと音を立てて地面から赤く丸っこい物が生えてきた。否、手下である食人鬼達が地下水路から街へ出てきた。
号令、集合、呼び声。
貪食の食人鬼達はネメッサの街へ進軍を始める。
「させるかよッ!    地嵐!」
暴風が巻き起こり、のそのそと体を引っこ抜いていた一体の食人鬼に地嵐が炸裂する。
頭部が風の塊によってめり込み、衝撃音を立てて民家に叩きつけられた。
「フルオートカノン!」
白い砲撃が放たれ身を焦がす。
火の溝が道路に作られ、食人鬼が吹き飛んだ。
「食人鬼はざっと数十体。これじゃあキリがない」
「私達が地下水路に入ってからまだ一時間弱、もうエマが説明を終えた頃だし冒険者達が駆けつける筈だ!」
「あのちびっ子.......ほんとに頼むぞ!    って、危ない!」
僕は瞬歩を発動して駆ける。
今まさに、食人鬼が民家を破壊して、中にいる人を食べようとしていた。
赤い腕には若い男性が苦悶の表情を浮かべながら掴まれている。あと数秒で若い男性は食人鬼の口の中に入れられてしまいそうだった。
「背負い投げ!」
僕は口に放り込まれる直前に、背負い投げで食人鬼を吹っ飛ばした。
天地逆さまとなった食人鬼は空中で一回転した後、地面に頭から叩きつけられる。
「早く逃げろ!」
「ひ、ひぃっ!?」
僕が避難を促し、男性は足をもつれさせながら去っていく。 
    今のは運が良かった。
    僕は息を撫で下ろして前を見て、残りの食人鬼達の様子を見る。
    食人鬼達は自由気ままに街の人々を食い始めている。
    次からはこうもいかなそうだ、と焦りと不安が僕の胸中を支配する。
「アンカーショット!    ダメだウェルト!   手が追いつかない!」
アシュレイが鉄杭を撃ち出し、食人鬼を拘束していた。それでも僕達は街の人々を庇えきれない。
食人鬼達は物量に任せて手当たり次第に街の人々を食べていく。
血飛沫が舞い、街を赤く染めながら次々と殺されていく。
    あまりにも食人鬼に対抗できる人手が足りなすぎる。
「歪風!」
真空の鎌鼬を、大口を開けて子どもを食べようとしていた食人鬼に向けて放つ。
腹に直撃し、食人鬼は地面に擦られながら吹き飛んでいった。
「大丈夫か?    早く街の外へ!」
「う、うん!」
僕は瞬歩を発動させ、子どもを抱き抱えて救出。 そのまま降ろして背中を押し、避難させた。
「あぐぁぁぁぁつ!?」
子どもを逃がしたその刹那、僕の後ろから死の叫び声が聞こえた。
そこにいたのは街の衛兵と貪食の食人鬼。
貪食の食人鬼はまるで棒キレをへし折るように、衛兵の体をふたつに折り曲げた。
ボキボキと音を立てながら、臓器と白い骨を剥き出しになってなって半分になる。
そして、貪食の食人鬼は嬉しそうに衛兵を食べる。噛む度に唾液と血が口から垂れ、地面を汚していく。
「ゲッゲッケッ.......ペッ」
口からぺっと鉄鎧の成れ果てを吐き出した。ぐちゃぐちゃになった血と鉄の塊は湿った音を立てて地面に落ちる。
貪食の食人鬼は自ら食べた物を一瞥すると、衛兵が持っていた鉄槍を拾い上げる。
そのまま僕達が食後に爪楊枝で歯についた残りカスを取るように、鉄槍で牙についた肉片を器用に取り除いて咀嚼していく。
「あいつ.......!」
さっきの貪食の食人鬼が食べた衛兵は、僕がこの街に来てから二日目に説教を垂れた衛兵だった。
たった数時間の面識しかなかった。
だけど、知っている人間が目の前で殺されるのは怒りが湧いてくる。
「地嵐ッ!」
風遁術の地嵐を発動。暴風が虚空から現れ貪食の食人鬼に飛来したが、
「ゲ?」
腕を軽く振っただけで僕の地嵐を超える風圧が巻き起こり、地嵐は打ち消された。
貪食の食人鬼はきょとん、と首をゆっくり回して僕を見つめていた。
その目は酷く黒く、底がない闇のよう濁っていた。
    1-25    最悪の一手
    僕達と貪食の食人鬼は対峙する。
漆黒の悪魔が目の前に立ち塞がり、全身が針で刺される様な殺気が放たれている。
 脅威度Aの威圧感は異常だった。同じ空間にいるだけで、気が狂いそうなそうな程のプレッシャーが僕を襲う。
僕は生唾を飲み込みながら、ダガーの柄を握りしめ、貪食の食人鬼の挙動をひとつひとつ凝視する。
「ウェルト、貪食の食人鬼がこれからどう動くか分かるか?」
アシュレイ冷や汗を書きながら、重砲を貪食の食人鬼に向けて言った。
「分からない。けど、気を抜くなよ」
僕もダガーを構えながら臨戦態勢に入る。
そして、しばらくした後、貪食の食人鬼はゆっくりと行動を開始した。
来る.......!
餌を見つけたと言わんばかりに嬉しそうに目を細め、僕達に向かって鋭利な鍵爪が付いた腕を、
「ゲアッ!」
伸ばすことなく、地下水路の天井を破壊し、地上へ.......つまりネメッサの街へと飛び出した。
「「..............えっ」」
あまりにも不可解な行動に、僕達は数秒の間呆けてしまった。
「僕達から、逃げた?」
何故、餌である僕達を無視した? いや――違う!
「まさかッ!」
 
僕は貪食の食人鬼のこの行動の意味を理解してしまった。
そもそも、何故、大好物である人の肉がすぐ真上にあるのに食べなかったのか。
僕達は地下水路に潜伏している食人鬼達が、通路を通って街の中に入ってくると考え、足止めをしようとしたのだ。
が、貪食の食人鬼は天井をぶっ壊してネメッサの街に躍り出た。
つまり、いつでも食べられるのに地下水路で待っていた。
やつははなから奇襲するつもりだったんだ。夜を待ち、地下水路から街へ奇襲を仕掛ける事だけを考えていた。
地下からの電撃作戦で、街の人達を全て食い殺そうとしていた。
だけど、その作戦で僕達のせいでその計画は破綻した。
その意味は――
「奇襲を諦めて今から街を襲う気かよ!?」
それは、最悪の一手。
奇襲がバレたなら、僕達を殺して口止めすればいい。
しかし、やつは僕達を無視した。
何故か?
これはもう既に、街の人達に自分達の奇襲することがバレてしまっている、と考えたからではないのだろうか。
「ウェルト!    どうする!?」
「止めるぞアシュレイ!    街の人々が食われる前に食人鬼を仕留めながら避難させるんだ!」
    これでは足止めの意味がない。放っておくと、大変な事になる。
    僕達は貪食の食人鬼の後を追う。壊されて瓦礫となった天井を掻き分け、街へと這い出た。
「不味い.......これは非常に不味い」
そこは地獄絵図と化していた。
もう既に、貪食の食人鬼の腕は鮮血で塗られ、口から赤い雫をぽたぽたとこぼしている。
石で作られた街の道路には、胴体から上が無くなった人が転がっていた。
「ゲァァァァ!!!」
咆哮が街に響く。
ズボズボと音を立てて地面から赤く丸っこい物が生えてきた。否、手下である食人鬼達が地下水路から街へ出てきた。
号令、集合、呼び声。
貪食の食人鬼達はネメッサの街へ進軍を始める。
「させるかよッ!    地嵐!」
暴風が巻き起こり、のそのそと体を引っこ抜いていた一体の食人鬼に地嵐が炸裂する。
頭部が風の塊によってめり込み、衝撃音を立てて民家に叩きつけられた。
「フルオートカノン!」
白い砲撃が放たれ身を焦がす。
火の溝が道路に作られ、食人鬼が吹き飛んだ。
「食人鬼はざっと数十体。これじゃあキリがない」
「私達が地下水路に入ってからまだ一時間弱、もうエマが説明を終えた頃だし冒険者達が駆けつける筈だ!」
「あのちびっ子.......ほんとに頼むぞ!    って、危ない!」
僕は瞬歩を発動して駆ける。
今まさに、食人鬼が民家を破壊して、中にいる人を食べようとしていた。
赤い腕には若い男性が苦悶の表情を浮かべながら掴まれている。あと数秒で若い男性は食人鬼の口の中に入れられてしまいそうだった。
「背負い投げ!」
僕は口に放り込まれる直前に、背負い投げで食人鬼を吹っ飛ばした。
天地逆さまとなった食人鬼は空中で一回転した後、地面に頭から叩きつけられる。
「早く逃げろ!」
「ひ、ひぃっ!?」
僕が避難を促し、男性は足をもつれさせながら去っていく。 
    今のは運が良かった。
    僕は息を撫で下ろして前を見て、残りの食人鬼達の様子を見る。
    食人鬼達は自由気ままに街の人々を食い始めている。
    次からはこうもいかなそうだ、と焦りと不安が僕の胸中を支配する。
「アンカーショット!    ダメだウェルト!   手が追いつかない!」
アシュレイが鉄杭を撃ち出し、食人鬼を拘束していた。それでも僕達は街の人々を庇えきれない。
食人鬼達は物量に任せて手当たり次第に街の人々を食べていく。
血飛沫が舞い、街を赤く染めながら次々と殺されていく。
    あまりにも食人鬼に対抗できる人手が足りなすぎる。
「歪風!」
真空の鎌鼬を、大口を開けて子どもを食べようとしていた食人鬼に向けて放つ。
腹に直撃し、食人鬼は地面に擦られながら吹き飛んでいった。
「大丈夫か?    早く街の外へ!」
「う、うん!」
僕は瞬歩を発動させ、子どもを抱き抱えて救出。 そのまま降ろして背中を押し、避難させた。
「あぐぁぁぁぁつ!?」
子どもを逃がしたその刹那、僕の後ろから死の叫び声が聞こえた。
そこにいたのは街の衛兵と貪食の食人鬼。
貪食の食人鬼はまるで棒キレをへし折るように、衛兵の体をふたつに折り曲げた。
ボキボキと音を立てながら、臓器と白い骨を剥き出しになってなって半分になる。
そして、貪食の食人鬼は嬉しそうに衛兵を食べる。噛む度に唾液と血が口から垂れ、地面を汚していく。
「ゲッゲッケッ.......ペッ」
口からぺっと鉄鎧の成れ果てを吐き出した。ぐちゃぐちゃになった血と鉄の塊は湿った音を立てて地面に落ちる。
貪食の食人鬼は自ら食べた物を一瞥すると、衛兵が持っていた鉄槍を拾い上げる。
そのまま僕達が食後に爪楊枝で歯についた残りカスを取るように、鉄槍で牙についた肉片を器用に取り除いて咀嚼していく。
「あいつ.......!」
さっきの貪食の食人鬼が食べた衛兵は、僕がこの街に来てから二日目に説教を垂れた衛兵だった。
たった数時間の面識しかなかった。
だけど、知っている人間が目の前で殺されるのは怒りが湧いてくる。
「地嵐ッ!」
風遁術の地嵐を発動。暴風が虚空から現れ貪食の食人鬼に飛来したが、
「ゲ?」
腕を軽く振っただけで僕の地嵐を超える風圧が巻き起こり、地嵐は打ち消された。
貪食の食人鬼はきょとん、と首をゆっくり回して僕を見つめていた。
その目は酷く黒く、底がない闇のよう濁っていた。
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