ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

1-17 音無の洞窟


    1-17    音無の洞窟 


    僕達は冒険者ギルドを出た後、食料やダンジョン探索に必要な道具を用意して、ネメッサの街から二時間弱歩き、音無の洞窟へと辿り着いていた。

    音無の洞窟は、湿地帯を抜けて沼から少し離れた所にポツンと寂しく存在していた。
 
「ここが音無の洞窟か」 
 
    音無の洞窟の入り口はダンジョンにしては小さい方で、僕の背丈を少し上回るぐらいだ。

    中を少し覗いて見ても、石の通路が続いているだけの洞窟だった。
 
「ウェルト、ダンジョンに入る前に私達が見つけてくる仲間達の顔や装備は確認したか?」

    ダンジョンの物色を始める僕に、アシュレイは肩を叩いて話しかけた。
 
「ばっちりだ」
 
    僕はそう答え、ポケットから四枚のギルドカードをヒラヒラさせてアシュレイに見せた。
 
「では突入するぞ」
 
    アシュレイの合図で、僕達はおそるおそる音無の洞窟に突入する。

    そこは、一寸の明かりも届かない暗い場所で、石で出来た通路と壁しかない寂しいところだった。
 
「なんだかパッとしないな。ここがダンジョンだとは思えないぞ」
「それでも警戒しよう。いくら小さいからと言っても腐ってもダンジョンだ。ダンジョンの中では何が起きても不思議じゃない。それに加えて、行方不明者がまさにこの辺りで続出しているんだから」
 
    僕は暗視、気配感知、罠感知、地図作成のスキルを発動させる。

    今の所は何の変化も見られないただの普遍的な洞窟だ。
 
「慧眼スキルを所持しているとはいえ、暗視スキル持ちのウェルトほど、私はあまり鮮明には見えないな」
 
    アシュレイはそんなことをぶつくさと言いながら、壁に手を付けて慎重に進んでいく。

    僕もそれにならい、アシュレイと同じように壁に手を付けて歩みを進める。
 
「.......ん? なんだこれ?」
 
    ふと、壁に触れている途中、何か溝の様なものがあると僕は気付いた。

 僕は立ち止まって暗視を最大限に発動させ、今触れている壁を見た。
 
「!?」
 
    思わず言葉が喉に詰まる。
 
    壁にあったのは溝なんかじゃなかった。

    あの三本線の爪痕だ。
 
「アシュレイ!    今触れている壁を見てくれ!    あの爪痕だ!」
 
    僕が指摘した壁の場所には、無数の爪痕が刻まれていた。 

    その爪痕は見間違うことがない。

    湿地帯で出会った、フォレストウルフの背中に刻まれた爪痕と全く同じものだった。
 
「随分と鋭い爪痕だな。もしかすると魔物マーキングなのかもしれないぞ」
 
    アシュレイは呟きがら壁に刻まれた爪痕をごしごしと手の平で摩る。

     擦るとアシュレイの手の平には白い石の粉がついていた。
 

「おまけに、どうやらつい最近付けられたようだ。少し擦っただけで石の粉が手に付着した。この様子では、昨日刻まれたものかもしれないぞ」 
「..............」
 
    僕の頭の中で最悪の結果が予想されていた。

    だが、まだ決まった訳では無い。

    悪い予想を頭から振り払うと、僕はアシュレイの背中を押して探索を進める。
 
    しばらく洞窟の奥を進んでいくと、不快な匂いが僕の鼻を掠めた。

    ヒュージスライムキングの核ほどではないが、それでも顔を顰めてしまうほどの異臭だ。
 
「アシュレイ、何か変な匂いがしないか?」
「これは何かが腐った匂いだな。ここは風通しが悪いから、魔物の死体とかが腐ると酷い事になるぞ」 

 僕達はその臭いの元を辿っていき、少しした穴蔵で蝿が飛び回る腐乱した濃い緑色の肉塊達を見つけた。
 
「これはホブゴブリンの死体だ。それも沢山。壁にあった爪痕と同じ様に切り刻まれている」
 
    小さな穴蔵の中には沢山のホブゴブリンの死体の山ができていた。

    殺されてからそこそこ時間が経っているようで、死肉の中には蛆が湧いていた。 
    腐乱臭が辺り一面を漂い、気分を不快にさせる。
 
「何故ボブゴブリンがこんな無残に殺されている?    これではダンジョン内の生態系が完全に崩壊しているのと同じではないか」
 
    アシュレイがボブゴブリンの死体をつつきながらそう呟く。
 
    僕はあまりの酷い光景に思わず吐きそうだったが、我慢して胃の中の物を飲み込み、殺されたボブゴブリンの損傷状態を確認する。
  
    ボブゴブリンの死体は、内臓が石畳の上に凄惨にぶちまけられ、乾いて黒くなった血が僕の下を覆っていた。

    骨まで完全に折られているようで、死体は生前の原型をまるで留めていない。
 
    そんな中、僕はボブゴブリンの死体の山からあるものを見つけた。
 
「これは冒険者の剣なのか?    血がべっとりとついている」
 
    僕が見つけたのは黒い血に覆い尽くされた一振の剣。

    僕は剣の柄を握りしめ、ボブゴブリンの死体の山から引き抜いた。

  「おい、嘘だろ。これってまさか……!?」
 
    僕はすぐさま剣士に渡されたギルドカードを取り出して確認する。

    それは紛れもなく、あの剣士の仲間達の装備していた剣だった。

「おい、ウェルトどうした?」 
「アシュレイ、どうやら最悪の展開になってきたぞ。この剣は、剣士の仲間達の剣だ。ギルドカードに鍛鉄たんてつの剣と書かれていた物と、この剣の特徴が全て一致している」  

    柄を擦り、黒い血を擦って剥がすと鈍い青に輝く金属部分が見えた。

    間違いない。これは剣士の仲間達の剣だ。

「他にも探してみよう」

    アシュレイは腰を屈めてボブゴブリンの死体の山を漁り出す。

    結果として、死体の山からは折られた弓や砕けた魔導杖も見つかった。

    これは全て剣士の仲間達が持っていたものだと、ギルドカードを確認した事で判明した。
 
    ここまで来ると、もう悪い予感しかしなかった。この洞窟で剣士の仲間達は全員魔物に殺されたんだ。
 
「ウェルト、この死体の山には冒険者の遺品があちこちに散乱しているぞ。うっ、髑髏しゃれこうべまで見つかるとは。弔いの為に持って行こう」
 
    アシュレイは、血で固まった冒険者の服の中から、白い髑髏を見つけた。   

    アシュレイが髑髏を袋の中に仕舞う様子を見て、僕の頭にとある考えが過ぎった。

    何かが、おかしい。
 
    僕の頭の中で、カチッと全ての歯車が噛み合わさった気がした。

    何故、ホブゴブリンは殺されただけで、殺した魔物は肉を食べなかったんだろう。

    逆に人の肉をは綺麗に食べられている。 

    それも一欠片すら残らず、だ。

    僕の背筋から冷たい汗が流れ、とても嫌な予感がした。
 
「.......おい、ウェルト。あっちから音が聞こえてくるぞ」

    冷たい汗を流す僕に、アシュレイは小声で僕に話しかける。

    僕はアシュレイに頷いて耳を済ませると、くちゃくちゃと湿った音が、奥の方から聞こえてきた。

「とても嫌な予感がする」
「奇遇だな。私もだ」

    僕達は音を立てないように忍び足で、音の鳴る場所へと向かう。

    歩く度に湿った音が強くなり、そして僕達は見つけてしまった。

    美味しそうに冒険者の肉を咀嚼する、一匹の魔物の姿を。


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