能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.120 プロローグ〜古戦の大魔女〜
――2暦前
大地を駆ける音が木霊する。雄大な自然の中で、生い茂る木々を避け続け、走る走る。またそれを追う影も一つ。
その影の手が水平に宙を薙ぐ。瞬間、追いかけていた動物、鹿の首が胴体と切り離され絶命した。
「...........やれやれ」
どこかトーンの高い声とともにゆっくりと近づく足音。
「手間取りすぎたな、今日は」
そう言いながら死体の処理をし始めるのはまだ10にも満たないであろう少年。慣れた手つきで血抜き、解体と次々に進めていく。
「こんなものか」
解体し終えた死体の不要な部分を燃やし、食用の部分をどこかへ閉まって彼は歩き出した。
しばらく木々を歩いていた彼の視線の先に、小さな木造りの家が見えてくる。そしてその扉の前に倒れている人物も。
「う...........ぬぅ............」
黒い外套を羽織り、顔は見えないが髪が長いため恐らくは女性だろう。
「どうした?」
「.............は、ら...........」
「なるほど。少し待っていろ」
少年はそれだけ言うと家の中に入っていった。その10分後、手に何かしらの入った容器を持ってでてきた。
「口に合うかは知らんが、これでいいか?」
それを差し出した瞬間、一気に起き上がってそれを食べ始めた。無言で、一心不乱に食べていく様はまるで犬。
「う、美味い........!」
「そうか、鹿の肉を有り合わせのもので煮つめたものだ」
彼がそう言い終わる前にはその女性は中身を食べてしまっていたようで、彼の目の前に立ち上がった。白銀のような長い髪に、琥珀の原石と見間違えるような澄んだ瞳。体型にしてもとてもスレンダーであり、かなりの美を誇る。身長は170弱はあるだろうか。
「いやぁ、助かった助かった。あと数分遅れていたら死ぬところじゃった」
「そうか、良かったな」
「礼を言うぞ、少年。ところで儂の箒を見んかったか?」
「いや、知らないが...........」
キョロキョロと探し回る女性の視線の先のどこにも箒はない。当然少年が探しまわる先にも、だ。
「おかしいのぅ...........どこかで落としたか...........」
「今から探しに行くのか?」
「それしかあるまい。いやまぁ無くても帰れることは帰れるんじゃが...........」
「怒られるのか?」
「まぁそんな所じゃ................はぁ」
ため息をつく女性を見て、少年は家の中に入っていった。すると数分して、何かの木の棒をもって出てくる。
「ん?」
「あんたの魔力を少しもらいたい。この木の棒に流してくれ」
「............変な仕掛けがあったりせんじゃろうな?」
「あったとして俺になんのメリットがある?」
「そうやって弱みを握って儂の体を好き勝手に........!」
「さて、体やら何やらを言われても俺はその手の知識にを何も知らなくてな。あんたの身体とか全く興味が無い。いいから魔力を流してくれ」
言われるがままに女性の魔力が流れた木の棒を受け取った少年が少し開けたところでそれを上空へ投げる。
すると木の棒は弧を描いて空中で回転し、カランと音を立てて北の方向を指しながら倒れた。
「な、何をしたんじゃ?」
「この方向か。あんた、この方向に少し強く魔力を放ってくれ」
「いやまさか..............」
言われるがままに女性が魔力を放ったその数秒後、彼女の手に丁寧に扱われているのがわかるほど綺麗な箒が飛んできた。
「ぬぉっ!?」
「物探しの魔術だ。箒は使用者の魔力が込められていると聞いたことがある。俺の魔術にあんたの魔力を流せば同じ魔力が流れる箒の居場所もわかると思ってな。それに箒は魔力波を流せば勝手に戻ってくる。..................もしかして知らなかったのか?」
「いや、まぁそんなことは................ない訳でもないがそうで無いわけでも............」
少年はシラケた視線を送った。女性はそれに対してあさっての方向を向いて口笛を吹く。
「ま、まぁとりあえずじゃ。ありがとう少年、助かったぞい」
「役に立てて何よりだ」
「また来ても良いかの?礼をしたいのじゃ」
「構わないが............分かるのか?ここが」
「目印を置いておくから問題ないのじゃ。ほれ」
女性が手をかざすとその手から青い魔力の粒子が漏れ、小屋の周りを旋回しては彼女の手に戻ってくる。
「まぁこんな所じゃな。じゃ儂は行く。またの、少年」
「ああ」
その日はそれだけで終わった。しかしその後日女性が礼をしにやって来たのを皮切りに、彼らの交流が始まった。何度も女性は少年の家に来ては世間話や体験談を聞かせ、少年もそれに相槌を打っていた。
「のぅ、少年よ。1つ疑問に思うたのじゃが」
「何だ?」
「儂がいつも来る時は必ず1人じゃな?生活感もお主が1人で住んでるとは思えんが、親御さんは仕事かの?」
何気なく聞いた言葉、そしてその返事も、また何気ない一言だった。
「両親はいない。俺を産んですぐに捨てたのか、それともどこかで死に別れたのか。気がつけば孤児院に拾われていた」
「................」
「だから歳もあまりわかっていない。なにせ生まれた年月を知らないからな。それにもう孤児院を飛び出して森に篭もり5年くらい経っている、比べようがない」
何気なく語ったその一言は衝撃の事実だった。その衝撃に女性も言葉を失う。
「..........その、すまんかった」
「別に謝ることは無い。1人の生活は楽しいものだからな」
「..............少年、刻印は?」
「刻印?ああ、これの事か?」
そう言って見せた右手の甲に黒い星型の紋様が浮かんでいた。
「っ .................!」
「世の中には5つの刻印があると聞いたが、どうやら俺のはそれの何処にも当てはまらないらしくてな。なんなんだ?これは」
「ッククク.............ハハハハ!」
すると女性は頭を抑えて笑い出した。その反応に少年は首を傾げる。
「何だ?」
「1億年に1人と言われとるのにこれで3人目か...............どんな確率じゃ?.............ククク」
「何がおかしい?」
いよいよ声音に若干の怒気を孕ませた少年の一言で女性は彼の目を見た。
「いやいや、すまんすまん。...........少年、これを見てみ」
そう言って女性は首元をチラリと見せる。するとそこにも、彼と同じような黒い紋様があった。
「それは..............」
「これは星宝の刻印と言うてな、5つの刻印を凌ぐ最強の刻印じゃ」
「最強の.................?」
「そうじゃ、そして儂もその刻印の所持者じゃ」
首元を再び覆うと、真剣な眼差しで女性は少年を見つめた。
「のう、少年。物は相談なんじゃが、儂と一緒に来んか?」
「あんたと?」
「そうじゃ。儂の名前はフェリス、聞いたことないかの?」
「いいや、全く」
端的に返した少年にフェリスはガクッと肩を落とした。
「ま、まぁ良いわ。お主の名は?」
「アストだ」
「そうか。..........アスト、2度問う。儂と一緒に来て魔術を極めてみる気は無いかの?」
「魔術を..........?」
「そうじゃ。なに、儂も少しは名のしれた魔術師での、お主の他にも1人弟子を取っておる。そやつも儂らと同じ刻印じゃ。お主に教えられること、お主が教わることはたくさんある。..................まぁこんな事言うのも、半分はお主の料理が毎日食べたいからなんじゃがな!」
「欲丸出しだな」
「欲はあってなんぼじゃよ」
そう言ってテーブルに置かれたパンを一掴み、口に運んだ。
「どうじゃ?アスト」
「魔術か..............確かに面白そうだな」
そう言うとアストは立ち上がってフェリスの眼前まで来ると、頭を下げた。
「俺を連れて行ってくれ、師匠」
少しだけ驚いたような表情を見せたフェリスだが、直ぐにニヤッと笑みを浮かべて、手を差し出した。
「これからよろしくの、アスト」
「ああ、師匠」
互いに、固い握手を交わした。
後に最強となる魔術師の序章。
大地を駆ける音が木霊する。雄大な自然の中で、生い茂る木々を避け続け、走る走る。またそれを追う影も一つ。
その影の手が水平に宙を薙ぐ。瞬間、追いかけていた動物、鹿の首が胴体と切り離され絶命した。
「...........やれやれ」
どこかトーンの高い声とともにゆっくりと近づく足音。
「手間取りすぎたな、今日は」
そう言いながら死体の処理をし始めるのはまだ10にも満たないであろう少年。慣れた手つきで血抜き、解体と次々に進めていく。
「こんなものか」
解体し終えた死体の不要な部分を燃やし、食用の部分をどこかへ閉まって彼は歩き出した。
しばらく木々を歩いていた彼の視線の先に、小さな木造りの家が見えてくる。そしてその扉の前に倒れている人物も。
「う...........ぬぅ............」
黒い外套を羽織り、顔は見えないが髪が長いため恐らくは女性だろう。
「どうした?」
「.............は、ら...........」
「なるほど。少し待っていろ」
少年はそれだけ言うと家の中に入っていった。その10分後、手に何かしらの入った容器を持ってでてきた。
「口に合うかは知らんが、これでいいか?」
それを差し出した瞬間、一気に起き上がってそれを食べ始めた。無言で、一心不乱に食べていく様はまるで犬。
「う、美味い........!」
「そうか、鹿の肉を有り合わせのもので煮つめたものだ」
彼がそう言い終わる前にはその女性は中身を食べてしまっていたようで、彼の目の前に立ち上がった。白銀のような長い髪に、琥珀の原石と見間違えるような澄んだ瞳。体型にしてもとてもスレンダーであり、かなりの美を誇る。身長は170弱はあるだろうか。
「いやぁ、助かった助かった。あと数分遅れていたら死ぬところじゃった」
「そうか、良かったな」
「礼を言うぞ、少年。ところで儂の箒を見んかったか?」
「いや、知らないが...........」
キョロキョロと探し回る女性の視線の先のどこにも箒はない。当然少年が探しまわる先にも、だ。
「おかしいのぅ...........どこかで落としたか...........」
「今から探しに行くのか?」
「それしかあるまい。いやまぁ無くても帰れることは帰れるんじゃが...........」
「怒られるのか?」
「まぁそんな所じゃ................はぁ」
ため息をつく女性を見て、少年は家の中に入っていった。すると数分して、何かの木の棒をもって出てくる。
「ん?」
「あんたの魔力を少しもらいたい。この木の棒に流してくれ」
「............変な仕掛けがあったりせんじゃろうな?」
「あったとして俺になんのメリットがある?」
「そうやって弱みを握って儂の体を好き勝手に........!」
「さて、体やら何やらを言われても俺はその手の知識にを何も知らなくてな。あんたの身体とか全く興味が無い。いいから魔力を流してくれ」
言われるがままに女性の魔力が流れた木の棒を受け取った少年が少し開けたところでそれを上空へ投げる。
すると木の棒は弧を描いて空中で回転し、カランと音を立てて北の方向を指しながら倒れた。
「な、何をしたんじゃ?」
「この方向か。あんた、この方向に少し強く魔力を放ってくれ」
「いやまさか..............」
言われるがままに女性が魔力を放ったその数秒後、彼女の手に丁寧に扱われているのがわかるほど綺麗な箒が飛んできた。
「ぬぉっ!?」
「物探しの魔術だ。箒は使用者の魔力が込められていると聞いたことがある。俺の魔術にあんたの魔力を流せば同じ魔力が流れる箒の居場所もわかると思ってな。それに箒は魔力波を流せば勝手に戻ってくる。..................もしかして知らなかったのか?」
「いや、まぁそんなことは................ない訳でもないがそうで無いわけでも............」
少年はシラケた視線を送った。女性はそれに対してあさっての方向を向いて口笛を吹く。
「ま、まぁとりあえずじゃ。ありがとう少年、助かったぞい」
「役に立てて何よりだ」
「また来ても良いかの?礼をしたいのじゃ」
「構わないが............分かるのか?ここが」
「目印を置いておくから問題ないのじゃ。ほれ」
女性が手をかざすとその手から青い魔力の粒子が漏れ、小屋の周りを旋回しては彼女の手に戻ってくる。
「まぁこんな所じゃな。じゃ儂は行く。またの、少年」
「ああ」
その日はそれだけで終わった。しかしその後日女性が礼をしにやって来たのを皮切りに、彼らの交流が始まった。何度も女性は少年の家に来ては世間話や体験談を聞かせ、少年もそれに相槌を打っていた。
「のぅ、少年よ。1つ疑問に思うたのじゃが」
「何だ?」
「儂がいつも来る時は必ず1人じゃな?生活感もお主が1人で住んでるとは思えんが、親御さんは仕事かの?」
何気なく聞いた言葉、そしてその返事も、また何気ない一言だった。
「両親はいない。俺を産んですぐに捨てたのか、それともどこかで死に別れたのか。気がつけば孤児院に拾われていた」
「................」
「だから歳もあまりわかっていない。なにせ生まれた年月を知らないからな。それにもう孤児院を飛び出して森に篭もり5年くらい経っている、比べようがない」
何気なく語ったその一言は衝撃の事実だった。その衝撃に女性も言葉を失う。
「..........その、すまんかった」
「別に謝ることは無い。1人の生活は楽しいものだからな」
「..............少年、刻印は?」
「刻印?ああ、これの事か?」
そう言って見せた右手の甲に黒い星型の紋様が浮かんでいた。
「っ .................!」
「世の中には5つの刻印があると聞いたが、どうやら俺のはそれの何処にも当てはまらないらしくてな。なんなんだ?これは」
「ッククク.............ハハハハ!」
すると女性は頭を抑えて笑い出した。その反応に少年は首を傾げる。
「何だ?」
「1億年に1人と言われとるのにこれで3人目か...............どんな確率じゃ?.............ククク」
「何がおかしい?」
いよいよ声音に若干の怒気を孕ませた少年の一言で女性は彼の目を見た。
「いやいや、すまんすまん。...........少年、これを見てみ」
そう言って女性は首元をチラリと見せる。するとそこにも、彼と同じような黒い紋様があった。
「それは..............」
「これは星宝の刻印と言うてな、5つの刻印を凌ぐ最強の刻印じゃ」
「最強の.................?」
「そうじゃ、そして儂もその刻印の所持者じゃ」
首元を再び覆うと、真剣な眼差しで女性は少年を見つめた。
「のう、少年。物は相談なんじゃが、儂と一緒に来んか?」
「あんたと?」
「そうじゃ。儂の名前はフェリス、聞いたことないかの?」
「いいや、全く」
端的に返した少年にフェリスはガクッと肩を落とした。
「ま、まぁ良いわ。お主の名は?」
「アストだ」
「そうか。..........アスト、2度問う。儂と一緒に来て魔術を極めてみる気は無いかの?」
「魔術を..........?」
「そうじゃ。なに、儂も少しは名のしれた魔術師での、お主の他にも1人弟子を取っておる。そやつも儂らと同じ刻印じゃ。お主に教えられること、お主が教わることはたくさんある。..................まぁこんな事言うのも、半分はお主の料理が毎日食べたいからなんじゃがな!」
「欲丸出しだな」
「欲はあってなんぼじゃよ」
そう言ってテーブルに置かれたパンを一掴み、口に運んだ。
「どうじゃ?アスト」
「魔術か..............確かに面白そうだな」
そう言うとアストは立ち上がってフェリスの眼前まで来ると、頭を下げた。
「俺を連れて行ってくれ、師匠」
少しだけ驚いたような表情を見せたフェリスだが、直ぐにニヤッと笑みを浮かべて、手を差し出した。
「これからよろしくの、アスト」
「ああ、師匠」
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コメント
リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!
おぉ!カッコイイ