能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.104 魔術師は商談に行く
後日、何やらエリルがユリアに剣を教えてもらうことになったらしく、俺は図書館内に即席で用意した別空間を貸し与えた。空間内では時間を引き伸ばしており、あちらでの1年はこちらでの一日となっている。聞いたことあるような空間が他にあったとしても、それを気にしてはいけない。
そして、どうやらリアの方もエリカが強引に鍛錬させるつもりのようで、エリルと同じ空間を貸し与えておいた。ルイズはエリカの様子を見に行くことが多い。ジークは少し用意すると言って魔王城へ、それにフィオーネが同行し、ミナは王室で、レオは騎士団の方で職務があるらしい。各々が戦争に向けて準備するそんな日が続いて2週間が経った、戦争までちょうど折り返しという日。
「はいこれ、あんた2週間飲み食い睡眠とってないでしょ」
そう言ってリアはクルシュの横に紅茶を置く。作業を中断したクルシュが少し伸びをしてリアの方を向いた。
「鍛錬はいいのか?」
「今日はこれからよ。最近、結構慣れてきたわ」
「そうか。すまない、助かる」
短く返事して紅茶を口にしたクルシュはまたも魔道具と睨み合う。しかし机上の魔法陣に乗せられた素材は次々と特定のものへと変化していっている。別のものが作られている手前で他の物を作りながら、その片手間で魔道具の書へと目を通すという人間演算の限界に達するような神業を2週間、先述通り無食無飲無睡でやってのけるクルシュの戦争への思いが測り知れる。
「.............ほんと、無理だけはしないでよね」
「無理しなくてもいいなら無理はしないがな、そうせざるを得ない状況だ。俺の体は案外持つ、心配するな」
「そう意味じゃなくて..............はぁ、まぁいいわ。あたしはこれから訓練だけど、あんたは魔道具作ってるの?」
「いいや、これから少し用事だ」
作り終えた魔道具を横に置き、さらに魔法陣を召喚するとその上に素材だけを置いて駆動させる。先程からいくつもの術式で、いくつもの素材が置かれた魔法陣が稼働しており、その中に先程作り終えた魔道具の素材と、その工程を記述した魔法陣を追加するとそこで作業を終えて立ち上がった。
『空間収納』からいつぞや見た事のあるローブと仮面を出すとそれを装着する。今回のローブは純白を採用しており、これもクルシュの作成したものの一つであるが特に効果は付与されていない。一方の仮面のには先の戦争の時にも付与してあった『魔力隠蔽』が施されてある。
「............えっと、何するわけ?」
「俺達6人が戦争に参加する事は当然レオ達しか知らない。それはそれでいいんだが、もし行動中に顔を見られても厄介だからな、『五面相』を使う」
それを聞いたリアがあからさまに嫌な顔をする。
「なんだ?不服か?」
「当たり前よ!..............でも、アリスを助けるためだもの、御託なんて言ってられないわね」
溜息をつきながらそう言うリアを尻目に諸々の準備が出来たクルシュが仮面をずらしながら首だけリアの方を向いた。
「まぁ何にせよだ、今は鍛錬に集中しておけ。あと2週間しかないからな」
「ええ、分かってるわ。.................えっと、その、いってらっしゃい」
「すぐに戻るがな」
微笑みながら見送るリアに少し苦笑しながらクルシュが答え、その場から消えた。
リンドハイム城、王座の間にて、忙しなく戦争へ向けての準備がなされるその場所に、ゆらりと白銀が舞い降りた。否、そう見間違えるほど美しいローブをまとった人物と言うべきか。その人物、クルシュが出現した瞬間に一気に王座の間には緊迫した雰囲気が流れた。
「っ!誰だっ!?」
王座の横で、頭部が寂しい眼鏡をかけた宰相が叫んだ。動揺をあらわにする一方で、玉座に鎮座する顔の彫りが深い荘厳な雰囲気を醸し出す初老は静かにクルシュを見ている。
「近衛兵!何者かは知らんが捕らえろ!!」
「宰相殿、待っていただきたい」
宰相が近くにいた近衛兵に捕縛の指示を出すが、それを王座の間に凛と響いた声が制止した。近衛兵も、その人物を見た瞬間に止まらざるを得ない。そこには騎士団長、レオがいたのだから。
「レオ!なんのつもりだ!!」
「この方は先のユルク平原での戦争にて我が国に勝利をもたらした『五面相』の者だ」
その言葉に、初老は目を細めた。周りはざわつき始め、それを宰相が黙らせる。
「初めまして、人族の王。対面に顔を晒さず名を名乗らない不敬を許してもらいたい。私は『五面相』の統括をしている者だ。今宵は王に直の話があり馳せ参じた」
「話とは何か。ここでは言えぬ事か?」
「この国が2週間後に仕掛ける帝国陥落作戦。それについて」
仮面の奥から真っ直ぐにクルシュの瞳が王を捉える。王は少しの沈黙の後にクルシュを見て、立ち上がった。
「.............良いだろう、こちらへ参れ。宰相、直ぐに会談の場を設けろ」
「よ、良いのですか王よ!こんな見ず知らずの得体の知れない人物など.............」
「宰相、余が良いと言ったのだ。早くしろ」
「は、はいぃっ!!ただいまッ!」
睨み一つだけで宰相の顔が青くなる。そしてそのまま場内へと走り去って行った。それを最後まで見送った王が、クルシュとレオ一瞥するとそのまま奥へと消えていく。ついてこいという意味だろう。
向かった先には用意された会談室が。高価な赤いソファにクルシュが腰掛け、白いロングテーブルの対面には国王が。その後ろには護衛としてレオが立っている。その場にはその3人以外には誰もいない。
「リンドハイム王国、国王ガエル・D・リンドハイムだ。まずひとつ聞こう。なぜ我が国が戦争を仕掛けると知っている?」
「簡単な事だ。アレフガルド壊滅にこの国の学園生を巻き込み、神樹を狙った自らを神と名乗る集団の強襲、それをそこにいる騎士団長から聞いた国王がそれを帝国の仕業と判断し、今に至った、違うか?。それに帝国側は既に条約を違反している、つまりこちらからは何を仕掛けようとも文句を言えない立場にあるというわけだ。それに、ここ数年の帝国の動きは目に余るものがあるためどうにかしたいから、ということも含まれているか?」
クルシュの言葉に、ガエルは目を見開いた。どうやら図星であったらしい。その後ろではレオも少し驚いていた。
「.........報告通り強力な他の4人の魔法師を従える優れた頭脳があるようだ、恐れ入った」
「御託が済んだなら本題へと入らせてもらう。我ら『五面相』は此度の戦争に参加する。当然貴公らの国側として。だが我々は共に行動はしない、我々にも目的があるのでな」
「何が言いたい?」
「こちらとしては国内に顔を知る知人がいる。その者達に戦死でもされると目覚めが悪いのでな、少しの戦力提供を提案しに来た」
そう言ったクルシュがパチンと指を鳴らすと、机の上に1つの魔道具が落ちてくる。細長い砲身にバールのように曲がった持ち手、しかし引き金がないそれは彼が使う魔壊型浮遊散弾銃ハチトリだった。
「これは...........っ!」
「私は魔法の他に魔道具制作をしていてな、これはそれの1つだ。威力、殲滅性、共に優れている。嗚呼、勘違いしてもらっては困るが、これを扱えるのは私だけだ。君達には私が製作した他の魔道具を渡そう」
「まさか.............国の戦力全てに対して魔道具を........!?しかも、見るからにそれは国宝級の魔道具........っ!」
食い入ってマジマジと見るガエルからハチトリを『空間収納』へと戻すと、再び机に盾を落とす。
「これは.......?」
「何、普通の盾だ。ただこれは少し頑丈でな、素材にアンチマテリアルとクォーツドラングを使っている」
「な、なんだとっ!?」
素材として使用した物の魔力耐性を極限まで高めるアンチマテリアルという鉱石と高硬度を誇るクォーツドラング鉱石を素材とした盾だと、はっきりとクルシュは言った。2つとも財政国が資産を投与して鉱山から掘り集めたとしても数キロにしか満たない希少な鉱石であり、この鉱石が使われたものを所持しているのは限られた人物だけである。そんな盾が、国の戦力分あるというのだ、声を荒げられずにはいられないだろう。
「ど、どうやって手に入れたのだっ!?」
「製法は明かさない、手段も全てな。君たちはただ単純に、この盾を受け取るか、受け取らないか、選ぶだけだ」
「っ........!有難い」
「さて、では次のものを...........」
「まだあるのかっ!?」
「ああ、嬉しいことにまだまだあるぞ」
その後、クルシュが作り出した魔道具の数々は見事に王国の戦力に起用された。そう、この日のためにクルシュは2週間もの間、身を粉にしていたのだ。理由は明確、帝国の戦力に確実に数えられているであろう魔族達に対抗するためだ。いくら魔法にすぐれる魔族でも討伐するまでは行かずともいい戦いをしてくれることだろう。つまりは王国の圧倒的優位を確立し自分達が動きやすい状況を作るという名目の為だ。
「...........本当にありがたい、これで戦死者は減る事だろう」
「気にすることは無い。こちらとて目的のためだ、手段は選んでもいられないのでな」
「それで、こちらからは何を用意すればいい?」
「ふむ、そうだな。王立ゼルノワール学園全土地の所有権、運営権を譲渡してもらいたい」
「っ...........!?」
クルシュから吐かれたその言葉に、ガエルはもちろんのこと背後で正体を知るレオまでも絶句した。彼女からすれば一体何を考えているのかと今すぐにでも問い質したいことだろう。
「ああ、なに、運営権を譲渡したとて財政確認はそちらの仕事だ。こちらは適切な報告をすると約束しよう。それに今まで通り普通に生徒は通わせる。私は未来ある生徒達の生活を脅かしたいのではなく、単純に土地と運営権が欲しいだけだ。それにあそこは個人運営ではなく国営のはずだ、譲渡とて安いものだろう?」
「.................」
「まだ足りないか?何度も言うが収入などは全て国へ送る。2度言うぞ、私が欲しいのは土地と運営権のみだ。それに2度この国を救った我らに払う見返りとしては安すぎると思うがね?何も貴公の娘を取って食おうというわけではないだろう」
クルシュの問いにガエルは深く黙り込む。その視線は下に向き、何かを考えているのか、それとも疑っているのか。数分の沈黙が流れ、ようやっとガエルはその仮面を見つめた。
「............いいだろう、その条件、飲もう」
「感謝する、いい判断をしてくれてこちらも嬉しい」
国の存亡に人族一の学び舎はやはり選べなかったらしい。仮面の奥でクルシュがニヤッと笑った。そしてそのまま立ち上がると踵を返した。
「商談成立だ、渡すものは渡した。こちらも手に入れるものは手に入れた。魔道具についてはどう使うかは貴公ら次第だ、せいぜい良い行動を期待している」
そう言うとクルシュはその場から姿を消した。
その数時間後、職務から開放されたレオはクルシュ含めた6人と、訓練のために居合わせた『3強』3人がいる場で問うた。
「クルシュ...........やってくれたな」
「ん?ああ、さっきの事か?まぁギブアンドテイクだ、問題ないだろう?」
「クルシュ、何やらかしてきたのよ?」
「心外だな、俺がいつも常識外れのことをしているみたいじゃないか」
「してるじゃないのよっ!!」
リアのツッコミも程々に、レオが先程のことを思い出したのかこめかみを揉み、気になったエリカが口を開く。
「それで、この常識外れ坊主は何をやったんだよ?」
「.............クルシュがこの学園の実質的な所有者になった」
レオのその一言にエリルが笑いを堪えて腹を抑え、ジークは薄ら笑いを浮かべた他には、全員が黙り込んだ。
「聞き間違いですか?いまさっき、クルシュがこの学園を所持したと、そう言いましたの?」
「おいおいレオ、冗談キツイぜ?あたしもさすがに笑えねーよこれ」
「............エリカさん、嘘じゃないです」
フィオーネとエリカの聞き返しに、肯定で答えた。その瞬間、限界に達したエリルが吹き出した。
「くはは、よくやるものだ」
「いやいや!それだけで済ませることではないですわよ!?」
「ははははは!!さすがクルシュだね!やっぱりやることが違うよ!」
「ちょっ、待ちなさいよ!てことは...............クルシュが学園長!?」
「ああ、俺は普通に学生するぞ?学園長は誰かにやってもらう」
「待てよ!その前にどうしてそうなったんだよ!?」
「なんだ?そんなにおかしい事か?」
「「おかしい(わよ)(です)(ぞ)!!!」」
その場の女性全員から否定されてなんとも言えない表情をするクルシュだった。その後、色々と言っていないことを、知らない3人に説明した後にさらに頭痛がしたような感覚を覚えたレオも忘れては行けない。
魔術師、学園まで手に入れてしまう。
そして、どうやらリアの方もエリカが強引に鍛錬させるつもりのようで、エリルと同じ空間を貸し与えておいた。ルイズはエリカの様子を見に行くことが多い。ジークは少し用意すると言って魔王城へ、それにフィオーネが同行し、ミナは王室で、レオは騎士団の方で職務があるらしい。各々が戦争に向けて準備するそんな日が続いて2週間が経った、戦争までちょうど折り返しという日。
「はいこれ、あんた2週間飲み食い睡眠とってないでしょ」
そう言ってリアはクルシュの横に紅茶を置く。作業を中断したクルシュが少し伸びをしてリアの方を向いた。
「鍛錬はいいのか?」
「今日はこれからよ。最近、結構慣れてきたわ」
「そうか。すまない、助かる」
短く返事して紅茶を口にしたクルシュはまたも魔道具と睨み合う。しかし机上の魔法陣に乗せられた素材は次々と特定のものへと変化していっている。別のものが作られている手前で他の物を作りながら、その片手間で魔道具の書へと目を通すという人間演算の限界に達するような神業を2週間、先述通り無食無飲無睡でやってのけるクルシュの戦争への思いが測り知れる。
「.............ほんと、無理だけはしないでよね」
「無理しなくてもいいなら無理はしないがな、そうせざるを得ない状況だ。俺の体は案外持つ、心配するな」
「そう意味じゃなくて..............はぁ、まぁいいわ。あたしはこれから訓練だけど、あんたは魔道具作ってるの?」
「いいや、これから少し用事だ」
作り終えた魔道具を横に置き、さらに魔法陣を召喚するとその上に素材だけを置いて駆動させる。先程からいくつもの術式で、いくつもの素材が置かれた魔法陣が稼働しており、その中に先程作り終えた魔道具の素材と、その工程を記述した魔法陣を追加するとそこで作業を終えて立ち上がった。
『空間収納』からいつぞや見た事のあるローブと仮面を出すとそれを装着する。今回のローブは純白を採用しており、これもクルシュの作成したものの一つであるが特に効果は付与されていない。一方の仮面のには先の戦争の時にも付与してあった『魔力隠蔽』が施されてある。
「............えっと、何するわけ?」
「俺達6人が戦争に参加する事は当然レオ達しか知らない。それはそれでいいんだが、もし行動中に顔を見られても厄介だからな、『五面相』を使う」
それを聞いたリアがあからさまに嫌な顔をする。
「なんだ?不服か?」
「当たり前よ!..............でも、アリスを助けるためだもの、御託なんて言ってられないわね」
溜息をつきながらそう言うリアを尻目に諸々の準備が出来たクルシュが仮面をずらしながら首だけリアの方を向いた。
「まぁ何にせよだ、今は鍛錬に集中しておけ。あと2週間しかないからな」
「ええ、分かってるわ。.................えっと、その、いってらっしゃい」
「すぐに戻るがな」
微笑みながら見送るリアに少し苦笑しながらクルシュが答え、その場から消えた。
リンドハイム城、王座の間にて、忙しなく戦争へ向けての準備がなされるその場所に、ゆらりと白銀が舞い降りた。否、そう見間違えるほど美しいローブをまとった人物と言うべきか。その人物、クルシュが出現した瞬間に一気に王座の間には緊迫した雰囲気が流れた。
「っ!誰だっ!?」
王座の横で、頭部が寂しい眼鏡をかけた宰相が叫んだ。動揺をあらわにする一方で、玉座に鎮座する顔の彫りが深い荘厳な雰囲気を醸し出す初老は静かにクルシュを見ている。
「近衛兵!何者かは知らんが捕らえろ!!」
「宰相殿、待っていただきたい」
宰相が近くにいた近衛兵に捕縛の指示を出すが、それを王座の間に凛と響いた声が制止した。近衛兵も、その人物を見た瞬間に止まらざるを得ない。そこには騎士団長、レオがいたのだから。
「レオ!なんのつもりだ!!」
「この方は先のユルク平原での戦争にて我が国に勝利をもたらした『五面相』の者だ」
その言葉に、初老は目を細めた。周りはざわつき始め、それを宰相が黙らせる。
「初めまして、人族の王。対面に顔を晒さず名を名乗らない不敬を許してもらいたい。私は『五面相』の統括をしている者だ。今宵は王に直の話があり馳せ参じた」
「話とは何か。ここでは言えぬ事か?」
「この国が2週間後に仕掛ける帝国陥落作戦。それについて」
仮面の奥から真っ直ぐにクルシュの瞳が王を捉える。王は少しの沈黙の後にクルシュを見て、立ち上がった。
「.............良いだろう、こちらへ参れ。宰相、直ぐに会談の場を設けろ」
「よ、良いのですか王よ!こんな見ず知らずの得体の知れない人物など.............」
「宰相、余が良いと言ったのだ。早くしろ」
「は、はいぃっ!!ただいまッ!」
睨み一つだけで宰相の顔が青くなる。そしてそのまま場内へと走り去って行った。それを最後まで見送った王が、クルシュとレオ一瞥するとそのまま奥へと消えていく。ついてこいという意味だろう。
向かった先には用意された会談室が。高価な赤いソファにクルシュが腰掛け、白いロングテーブルの対面には国王が。その後ろには護衛としてレオが立っている。その場にはその3人以外には誰もいない。
「リンドハイム王国、国王ガエル・D・リンドハイムだ。まずひとつ聞こう。なぜ我が国が戦争を仕掛けると知っている?」
「簡単な事だ。アレフガルド壊滅にこの国の学園生を巻き込み、神樹を狙った自らを神と名乗る集団の強襲、それをそこにいる騎士団長から聞いた国王がそれを帝国の仕業と判断し、今に至った、違うか?。それに帝国側は既に条約を違反している、つまりこちらからは何を仕掛けようとも文句を言えない立場にあるというわけだ。それに、ここ数年の帝国の動きは目に余るものがあるためどうにかしたいから、ということも含まれているか?」
クルシュの言葉に、ガエルは目を見開いた。どうやら図星であったらしい。その後ろではレオも少し驚いていた。
「.........報告通り強力な他の4人の魔法師を従える優れた頭脳があるようだ、恐れ入った」
「御託が済んだなら本題へと入らせてもらう。我ら『五面相』は此度の戦争に参加する。当然貴公らの国側として。だが我々は共に行動はしない、我々にも目的があるのでな」
「何が言いたい?」
「こちらとしては国内に顔を知る知人がいる。その者達に戦死でもされると目覚めが悪いのでな、少しの戦力提供を提案しに来た」
そう言ったクルシュがパチンと指を鳴らすと、机の上に1つの魔道具が落ちてくる。細長い砲身にバールのように曲がった持ち手、しかし引き金がないそれは彼が使う魔壊型浮遊散弾銃ハチトリだった。
「これは...........っ!」
「私は魔法の他に魔道具制作をしていてな、これはそれの1つだ。威力、殲滅性、共に優れている。嗚呼、勘違いしてもらっては困るが、これを扱えるのは私だけだ。君達には私が製作した他の魔道具を渡そう」
「まさか.............国の戦力全てに対して魔道具を........!?しかも、見るからにそれは国宝級の魔道具........っ!」
食い入ってマジマジと見るガエルからハチトリを『空間収納』へと戻すと、再び机に盾を落とす。
「これは.......?」
「何、普通の盾だ。ただこれは少し頑丈でな、素材にアンチマテリアルとクォーツドラングを使っている」
「な、なんだとっ!?」
素材として使用した物の魔力耐性を極限まで高めるアンチマテリアルという鉱石と高硬度を誇るクォーツドラング鉱石を素材とした盾だと、はっきりとクルシュは言った。2つとも財政国が資産を投与して鉱山から掘り集めたとしても数キロにしか満たない希少な鉱石であり、この鉱石が使われたものを所持しているのは限られた人物だけである。そんな盾が、国の戦力分あるというのだ、声を荒げられずにはいられないだろう。
「ど、どうやって手に入れたのだっ!?」
「製法は明かさない、手段も全てな。君たちはただ単純に、この盾を受け取るか、受け取らないか、選ぶだけだ」
「っ........!有難い」
「さて、では次のものを...........」
「まだあるのかっ!?」
「ああ、嬉しいことにまだまだあるぞ」
その後、クルシュが作り出した魔道具の数々は見事に王国の戦力に起用された。そう、この日のためにクルシュは2週間もの間、身を粉にしていたのだ。理由は明確、帝国の戦力に確実に数えられているであろう魔族達に対抗するためだ。いくら魔法にすぐれる魔族でも討伐するまでは行かずともいい戦いをしてくれることだろう。つまりは王国の圧倒的優位を確立し自分達が動きやすい状況を作るという名目の為だ。
「...........本当にありがたい、これで戦死者は減る事だろう」
「気にすることは無い。こちらとて目的のためだ、手段は選んでもいられないのでな」
「それで、こちらからは何を用意すればいい?」
「ふむ、そうだな。王立ゼルノワール学園全土地の所有権、運営権を譲渡してもらいたい」
「っ...........!?」
クルシュから吐かれたその言葉に、ガエルはもちろんのこと背後で正体を知るレオまでも絶句した。彼女からすれば一体何を考えているのかと今すぐにでも問い質したいことだろう。
「ああ、なに、運営権を譲渡したとて財政確認はそちらの仕事だ。こちらは適切な報告をすると約束しよう。それに今まで通り普通に生徒は通わせる。私は未来ある生徒達の生活を脅かしたいのではなく、単純に土地と運営権が欲しいだけだ。それにあそこは個人運営ではなく国営のはずだ、譲渡とて安いものだろう?」
「.................」
「まだ足りないか?何度も言うが収入などは全て国へ送る。2度言うぞ、私が欲しいのは土地と運営権のみだ。それに2度この国を救った我らに払う見返りとしては安すぎると思うがね?何も貴公の娘を取って食おうというわけではないだろう」
クルシュの問いにガエルは深く黙り込む。その視線は下に向き、何かを考えているのか、それとも疑っているのか。数分の沈黙が流れ、ようやっとガエルはその仮面を見つめた。
「............いいだろう、その条件、飲もう」
「感謝する、いい判断をしてくれてこちらも嬉しい」
国の存亡に人族一の学び舎はやはり選べなかったらしい。仮面の奥でクルシュがニヤッと笑った。そしてそのまま立ち上がると踵を返した。
「商談成立だ、渡すものは渡した。こちらも手に入れるものは手に入れた。魔道具についてはどう使うかは貴公ら次第だ、せいぜい良い行動を期待している」
そう言うとクルシュはその場から姿を消した。
その数時間後、職務から開放されたレオはクルシュ含めた6人と、訓練のために居合わせた『3強』3人がいる場で問うた。
「クルシュ...........やってくれたな」
「ん?ああ、さっきの事か?まぁギブアンドテイクだ、問題ないだろう?」
「クルシュ、何やらかしてきたのよ?」
「心外だな、俺がいつも常識外れのことをしているみたいじゃないか」
「してるじゃないのよっ!!」
リアのツッコミも程々に、レオが先程のことを思い出したのかこめかみを揉み、気になったエリカが口を開く。
「それで、この常識外れ坊主は何をやったんだよ?」
「.............クルシュがこの学園の実質的な所有者になった」
レオのその一言にエリルが笑いを堪えて腹を抑え、ジークは薄ら笑いを浮かべた他には、全員が黙り込んだ。
「聞き間違いですか?いまさっき、クルシュがこの学園を所持したと、そう言いましたの?」
「おいおいレオ、冗談キツイぜ?あたしもさすがに笑えねーよこれ」
「............エリカさん、嘘じゃないです」
フィオーネとエリカの聞き返しに、肯定で答えた。その瞬間、限界に達したエリルが吹き出した。
「くはは、よくやるものだ」
「いやいや!それだけで済ませることではないですわよ!?」
「ははははは!!さすがクルシュだね!やっぱりやることが違うよ!」
「ちょっ、待ちなさいよ!てことは...............クルシュが学園長!?」
「ああ、俺は普通に学生するぞ?学園長は誰かにやってもらう」
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