能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.101 魔術師は情報提供を受ける

その翌日、クルシュはジークを伴って廊下を歩いていた。互いに無言で、ひたすらに目的地へと足を進める。数分後、2人はとある扉の前で足を止めた。そこは『学園長室』と書かれた場所だった。


「入るぞ」


中からの返答を待つことなくクルシュはそう告げて中へと入室した。ここにはジークを編入させた時以来なので随分と久しい。中では変わらぬ柔和な笑みで学園長、ロンド・ゼルノワールが待っていた。


「やぁ、いらっしゃい。待っておったぞ」
「俺達を呼び出してなんの用だ?」
「.........先日の事、聞かせてもらったよ」


先日の事、それはつまりクルシュが『3強』の内の一人を倒したこと、そしてクルシュがそれ以来その日は帰ってこなかったこと、ジークが同様にその日授業に出席しなかったことだろう。


「まさか、説教でもするか?」
「いやいや、成績優秀な君らに叱責は必要ないじゃろうて。特にクルシュ君、君にはね」
「じゃあ一体なんの用がある?」
「アリス・ベルフレート君、................君の身内の行方不明についてじゃよ」


その瞬間、僅かにクルシュの表情が変わった。その反応を見てロンドはソファへと座ると2人にも着席を促す。


「先日アリス君が誘拐されたと聞いた時は驚いたよ。彼女もまた優秀な子の一人じゃったからのう」
「..........それで?」
「まぁまぁ、そう結論を急ぐでない。だからこそのなのじゃからのう」


言葉におかしいものがあった。情報提供と、ロンドはそういったのだ。まるでアリスの居場所を既に知っているかのように。


「アレフガルドでの戦闘も見事じゃったよ。まさかエルモラをジーク君が圧倒するとは思わんかったぞ。それに、まさかクルシュ君は武術の心得もあったとはの。エリル君はいい所までは行ったんじゃがのう、まぁ生きているだけマシじゃな」


まるで、あの光景を見ていたかのような口振りで淡々と語るロンド。2人の脳裏にとある懸念が過ぎり、故に。


「『壊神滅陽砲グレア・マーズ』」
「掃射」


聞くより試す。ジークが漆黒の砲撃を放ち、クルシュが秒速50mの散弾を40丁分ばらまく。直後、その部屋が大爆発を起こしたが、煙が晴れると、どこにも破損がない先程までの部屋が存在していた。そしてロンドがソファから立ち上がると事切れたかのように四肢をあちらこちらに曲げて地面へ倒れた。


「うむうむ、大変いい攻撃じゃ。これでも強化しておったんだがの」


虚空からロンドの声が聞こえ、白い法衣を羽織った初老の男が現れた。


「.........初対面の時から何やらおかしいとは思っていた。俺に対する反応、それにリアの事件の時も、アレフガルドでの神との交戦時の対応も、ジークが魔族だと言ってもお前は動揺しなかった」
「そして、先程の事切れた人間のような学園長。.............つまりそこに倒れているのは人形であり、それを操っていたのはお前という訳だ。そんなやつはこの世に一柱しかおらぬ。そうだろう?傀儡神」


ジークの問いに、満足そうに傀儡神が笑顔を浮かべた。


「正解じゃ。全く持ってその通り。儂が傀儡神キリシア、そして補足をすれば現帝国の国王じゃよ」
「じゃあ、あの国王もお前が操っている人形というわけか」
「そういう事じゃの。我らが宿敵、アストよ」


ついにクルシュの真の名を読んだ。つまりはここにいる傀儡神は全てを知っており、間違いなく自分達の敵だという事だ。


「まぁそう身構えるでない。今日は殺し合いをしに来たわけじゃないんじゃよ」


そう言いながら学園長の人形をどこかへしまい込んだ傀儡神がソファにゆっくりと腰を下ろした。


「先程も言うたじゃろうて、情報提供だと。もし儂を殺せば戦力は減るじゃろう。でも、お主の身内は返ってこんかもしれんのじゃ。なにせ儂は居場所を知っておるからの」
「素直に教えるとは思わぬがな?」
「そこはまぁわしの気まぐれじゃよ、魔王ジーク。いつまで経っても戦闘できないのではこちらの拡大した戦力も意味を成さんからの」
「で、アリスはどこにいる?生命反応だけはこちらで掴んでいる」
「帝国じゃよ。帝国の地下牢.............今は知らんがの」
「どういうことだ?」
「あの娘はメギルストスに任せてある。今はどうなっとるか知らんのじゃよ」


つまりアリスの身が危険にさらされている可能性もあるということ。そして今この現状でもしかすれば人質に取られている可能性もある。下手に手を出すことは逆に悪手だという事だ。


「あと、ジークよ。お主の族は半数以上が我が国の戦力となっとるよ」
「魔族がお前達に協力していると?」
「そういう事じゃな。実際にお主が転生したことを知る者はいまいて」
「悪いが同族のことなど頭にない」
「思想神イルーナかの?」


その言葉にジークの鋭い瞳がキリシアを捉える。


「お前ならば知っていると軍神から聞いたがな?」
「あー..........まぁ、知っとることには知っとるよ。じゃがまぁ、それは時が来たら話そう」
「それが今以外にあると?」
「うむ、お主らと儂は再び会うこととなろう。今度は儂の国での」
「.........戦争、か?」


クルシュの問いに、キリシアが頷く。


「さすがアスト、昔から頭のキレは群を抜いておるの。近い内に王国は帝国に攻めいることじゃろう。まぁ詳しくは話さんがの?」
「予告をしておいて、そんなに自分を破滅に導きたいのか?」
「勘違いするでないぞ、アスト。儂らは殺せぬよ」
「お前達がどうやって復活したか、何を目的にしているのかは知らん。だが等しく俺を邪魔するなら再び殺してやろう。今度は復活の原因さえ与えずにな」
「威勢のいい事じゃ。今は吠えているといい」


そうしておもむろにキリシアは立ち上がった。そしてそのまま背を向ける。


「さて、話はここまでじゃ。儂には色々とやることがあるのでの。では今度は玉座にて待っているぞ」


そう言うと虚空へとその姿が消えてしまった。残されたクルシュとジークは同時に立ち上がる。


「やれやれ、また面倒事を増やしてくれたな」
「まぁそう言うな。丁度いい、今度こそ真相を確かめられるからな」
「じゃあ俺達も色々とやらなければならないな」
「ああ」


そういうとクルシュとジークは学園長室を出た。その瞳に、確固たる殺意を抱いて。




――戦争の針が動き出す

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