能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.97 魔術師は疲れた姉を見る

 まだ朝の寒気が残る季節、そんな日の朝、いつも通り新聞を開いたクルシュの間には真っ先にとある記事が飛び込んできた。『3強、帰投す』と短い見出しで記されたそこには2人の女性とひとりの少女の顔写真と名が記され、その説明文か何かの偉く長い文章が書き込まれていた。


「レオ、『3強』とは何だ?」


それを聞いた瞬間に昨日から泊まり込みになっているレオが朝の支度をしながら体をピクンと震わせた。そして頭をブンブンと降るとこちらを向いてくる。


「.........『3強』とはこの王国が定めた特殊な力を持つ3人の女性冒険者のことだ。................いや、まさかな。騎士団からはなんの連絡もなかったし........ハッ!もしかして私が交流に行っている間に........................」


再び支度をしながら何やらブツブツと独り言を言い始めているレオをそのままにクルシュは再びその記事に目を落とす。よく見ればファーストネームの左隣に2つ名と思わしき括りを設けられていた。少女の名前の横に『氷戒』、その横に続く女性達のところには順に『炎武の槌』と『刀姫』と言う名前が書かれている。

なんとも痛々しい名前ばかりだと咄嗟に目を覆いたくなるのを何とか我慢してポーカーフェイスでコーヒーを啜る。すると少し面白げにジークが呟いた。


「ほう、あの3人か」
「知っているのか?ジーク」
「ああ。なにせあいつらは俺を倒すために国から命令を受けて2年前にこの国を出た。俺が居なくなった蛻の殻状態の魔王城を見て急いで引き返してきたのかもしれぬな」


そうはいえども実際にジークが城を離れたのは約2ヶ月前のことである。その間に魔王城に辿り着きそれまでにかかった時間を嘘のように短期間で帰ってきたとしたらそれはそれで興味深い。

ガタンっ!!

一斉に3人の視線が音のした方向に向く。そこにレオが何処かをぶつけたのか痛みに悶えながら蹲っていた。


「どうした?レオ」
「...........あ、ああ。なんでもない、なんでもないんだ。もうすぐ.........で、出来るからにゃっ!」


レオが噛んだ。明らかに今彼女は動揺している。普段冷静でクールなレオがここまで動揺する事柄、先程クルシュが『3強』の事を聞いた時から様子がおかしい為この事柄のせいなのだろうが、如何せんクルシュにはなんの知識もないため聞けることは無かった。と、その時。


「クルシュさーん!団長いますかぁ!!?」


突然ドアを蹴破り大声とともに入ってきたのは全身鎧にブロンドのミディアムヘアを揺らす騎士団副団長、セリルだった。


「なっ..........セリル!?」
「あ、団長いたんですね!良かった〜ここに居てくれて!。さ、行きますよっ!」
「ちょ、ちょっと待て!私は今鎧を着ていないぞ!見ての通り朝の支度を............」
「そんな事は二の次ですぅ!...........あ、クルシュさん、少し団長借りますね。朝ごはんは.............その、ごめんなさいっ!じゃあ!」
「ま、待てえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ..........................!!!!!」


そう言うとセリルはレオの首根っこを掴んで嵐の如くその場から消えていった。おそらく詰所に向かったんだろうが本当に彼女の性格は変わっていない。


「あ、嵐のような人だね...........」
「全くだ」


エリルが苦笑しクルシュがコーヒーを何事も無かったかのように啜る中、開け放たれたままのドアから朱色の髪を靡かせ制服のリアが入って来た。


「お邪魔するわよ。ていうか何?さっきの。あ、クルシュ、エリル、ルイ、おはよう。一応先生いないと思って朝ごはん作りに来てあげたんだけど..............」
「必要ない、............とは言えないか」


調理中の台所を見てクルシュが苦笑いを浮かべ、先程までレオがいた事を示す調理中の食材を見たリアも「ああ.........」と若干同情気味の笑いを浮かべた。なお、そのあとはクルシュとリアが料理を引き継ぎ問題なく朝の支度を終えた4人は学園へと登校したのだった。










数時間後、いつの間に家に帰ったのかレオがいつも通りスーツ姿にメガネで少し疲れた様子を見せながら入室してくる。


「皆、おはよう.............」
「「お、おはようございます」」


入った瞬間からヒソヒソとクルシュ達以外は「何があったんだ?」とレオの疲れた様子の理由を推測したり聞こうとしたりしている。そして予想以上にドヨンとしたレオに若干面食らって返事を返した。


「さて、今日だが.............1時限目は私の授業だ。全員着替えて第1闘技場に集まるようにな.............」


それだけ言うとまた疲れた表情で教室を出ていった。クラスは総意で「本当に何があったんだ?」と疑問を持ったのだった。

そして着替えた後、変わらぬ表情で1時限目の内容を話すレオの前で、リアが近くによってくる。


「本当に何があったのよ?」
「さぁ、俺にもわからない。そういえば今朝『3強』の名前を聞いてから様子がおかしかったが」
「『3強』!?ってあの『3強』よね!?」
「リアが想像しているのがどんなのかは知らないが、恐らくそれじゃないか?」


曰く、『3強』とはこの国が定めた一騎当千を誇る王国最強と名高い3人の女性冒険者のことを指す。

曰く、年相応とは思えない(良い意味でも悪い意味でも)容姿の冒険者。


リアから聞いた話とレオから聞いた話はやはり酷似していた。クルシュにとっては少し興味が湧いた以外の何でもなかったが。


「そして今日は特別講師をお呼びしている。..............お願いします」


レオがそう言うと空中から3人の人影が舞台へトタンッ!と降りた。そしてその姿を視認したクラスが目を見開く。


「さ、『3強』............!」


誰かがそう言った。視線の先、そこには3人の、もっと言うなら一人の少女と2人の女性が立っていた。




作者の思いとしてはついに登場、って感じですかね。

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