能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.87 魔術師は対談する

最近冒頭に湧きまくる作者さんです。この前までいいねって1200でしたよね?え?もう1400越しちゃってる...........。
いやほんともうありがとうございます、読者様のおかげでランキングにもずっと残っております。




時は少し遡り、クルシュとジークが他のメンバーと別れたすぐ後の事。


「さて、行くぞクルシュ」
「ああ」


ひとつ返事でクルシュは『空間収納』からハチトリを40丁、空中へと出現させる。その砲身は、全てが神の軍勢へ向けて合わせられている。


「さて、先手はもらおうか」


クルシュが合図した瞬間、毎秒50mの死の弾丸の雨が神達に向かってばらまかれる。奇襲であったために対応ができなかった神がほとんどであり、魔法で守った神さえもその魔法を貫通して体を蜂の巣にした。


「ぬっ!?.........奇襲だと!?」


軍神が叫ぶ。しかしそれに気づいた頃にはもう遅く、ハチトリの第2射がまたも神達を蜂の巣にしていく。何やら指示を仰ぎ、神達もこちらへと攻めてくるが、当然もうひとりがそれを許すわけがない。


「あとは頼んだぞ」
「ああ。.........来い、ウロボロス、ハイドラ」


展開された闇色の魔法陣からジークの声に呼応する様にして轟く咆哮が2つ、飛び出した二つの影が1度空を旋回するとジークの元へ来る。漆黒を塗りこんだような黒の鱗、銀色の眼を持つ無限竜ウロボロス、毒々しい紫の鱗、金色の眼を持つ死毒竜ハイドラである。


「行け、今日の餌はあれだ」


指を差した方向にある物を理解した二対の頂点は、翼を羽ばたかせながら神の軍勢へと突っ込む。もちろん迎撃として向こうからは矢や魔法が飛んでくるが、全てハイドラの放つ強酸性の毒ブレスが溶かしていく。そしてわずか数十秒で軍勢へ到達した2竜は駆逐を開始する。

ある神はその体を頭から食いちぎられ、またある神は強酸によって有無を言わさず溶かされる。わずか数分にして空を埋めつくしていた神はその数を当初の半数以下までに減らされた。

ありえないスピードで殲滅されていく自身の軍に目を疑う軍神は、その原因であるクルシュ達を睨んだ。そんな軍神へ2人は接近していく。


「先程の攻撃は貴公らか?」
「ああ、そうだ。少しお前に聞きたいことがあったのでな」
「魔王ジーク、それにその魔力..........報告にあった通り、大魔術師アストか。..........貴公らが手を組むなど、どう言った風の吹き回しだ?」
「昨日の敵は今日の友と言うだろう?俺とジークは既に争う立場じゃない。途切れぬ約束をした、友だ」
「友、か。また幻想を語る。そう言って貴公らはいくつもの命を地に落としてきたろうに」
「それは人類おれたちであって"俺達"では無い」
「まぁいい。少しならば質問に応えようぞ」


その瞬間、クルシュが一歩後ろへ下がりジークとセリギウスの対談の場が設けられる。


「お前ならば知っているだろう?俺の嫁を」
「然り。思想神イルーナ、堕ちた神よ」


ジークの質問にセリギウスは肯定する。


「誰が殺した?不死であるお前達、神を死に至らしめたのは、誰だ?」
「まさか、貴公は恋慕と怨嗟の想いで2度の転生を繰り返したのか?」
「答えろ。誰がイルーナを、我が嫁を殺した?」
「少なくとも私ではない。それだけは言えよう」
「では誰が殺した?」
「私は知りえぬ。........しかし、傀儡神ならば知っていような」
「.........傀儡神キリシアか。何故そう思う?」
「奴は神だろうとなんであろうと魂がなければ操ることが出来る。加えて操る物の過去を見ることも出来るのだ。なれば必然的に思想神さえも操れ、その過去を見ることもできよう」


「なるほど」とジークは一間おく。


「では傀儡神キリシアはどこにいる?」
「さてな?私は知りえぬぞ」
「本当にか?」
「然り」
「ふむ、ならばもう良い。話は終わりだ」
「いや、今度はこちらの質問に答えてもらおう」


質問を終わらせようとするジークにセリギウスは今度はこちらからと続ける。


「貴公らは、なぜ感情に左右される?」
「どういう意味だ?」
「何故物事を合理的に考えない?なぜ冷静に事を見通さない?自身が不利になると分かっていよう?」
「お前達にはわからないだろうな」


その質問に、聞き手に回っていたクルシュが割ってはいる。


「俺達が人だからだ」
「......なに?」
「人であるから、怒りがある。人であるから、悲しみがある。人であるから、笑い、喜び、がある。すべて感情から成るものだ」
「何故我らがそれを理解せぬと?」
「お前達はただ自身に課された使命を果たすだけの機械だ。だがその中で、お前達にとって思想神はイレギュラーな存在だったんだろうな。思想、思考、様々な"想い"を司るからこそ、それを学び、そして感情に繋がった」


間も開けずにさらにクルシュは続ける。


「かつてイルーナは、恋愛という感情で動いたから大罪を犯したと言っていた。つまり、お前達にとって感情というものは使命を果たす上での邪魔な存在であり、ゴミであるという訳だ。わざわざゴミを眺めて研究する奴がいるか?そういう事だ。だから、お前達神にとって感情とは永遠に理解できない存在なのさ」


クルシュの言葉に、軍神は黙り込む。何かを思案しているのか、それともただ黙っているのかはわからない。


「........む?」
「どうした?ジーク」
「............なるほど。すまないクルシュ、ここは任せるぞ」
「分かった」


クルシュが了承した瞬間、ジークはどこかへと転移してしまった。そしてその場には彼と、そして軍神セリギウスだけが残る。


「さて、いつまで談義をするつもりだ?」
「いいや、もういい」


そう言った瞬間、軍神セリギウスの背後に多数の魔法陣が出現した。


「やはり貴公ら人間とは分かり合えぬようだ」


その言葉に、クルシュは一瞬だけキョトンとしたような顔を浮かべると、次第に顔が緩まっていく。そうして高らかに声を上げて笑う。


「........何が可笑しい?」
「いや、お前達ゴミ程度がこの俺と分かり合う?..........ククク」


顔を手で覆ったクルシュの表情から、笑みが消えた。


「有り得ないな」


その瞬間、クルシュの背後にセリギウスを遥かに上回る量の魔法陣が展開された。




次回はまたジークさんに戻りますよっと。

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