能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.76 魔王は相手をする

六日後、この間に何とかクラスは全員がアレフガルドへと到着した。そうして全員が集合となった状態で、黒光りのまるで作りたてのような純黒の正門、その対照となるような太陽に照らされた純白の園舎。周りが木造で出来た中にある、なにか神聖なものを感じさせるような高貴さを纏う聖ニョルズ学園に、ゼルノワール学園Sクラスは足を踏み入れた。


「綺麗ですね.......」
「そうだね。とても1000年続いてるようには見えないよ」


ミナとエリルが学園を褒める。クルシュの隣を歩くアリスも、その光景に見惚れているようだった。


「すごく綺麗..........そう思わない?クルシュ君」
「まぁたしかに、整備が行き届いているのがよく分かるな」


適切に返事を返す一方で、クルシュは冷静に思考を凝らしていた。それはクルシュ達が到着した夜に、エリル達から聞いていたことが引っかかるからである。"天より上"という黒ローブの人物が言った忠告、果たしてどのようなものなのか。


("天より上".........妥当に行くならば神ということになるが、もし2暦の間に神がまた復活しているのだとしても、手は出してこないはずなんだがな)


まぁ考えても仕方ない、と切って捨ててレオの案内の元向かった先は第5闘技場。そこは木々が生い茂る、ゼルノワールの闘技場と酷似した場所だった。


「ふむ、よく来たな」


そこで待ち構えていたのは、騎士団長のグード、その後ろにフィオーネを含む10人のエルフと妖精達だった。


「さて、今日は学園交流初日、いきなりで悪いがクラン同士で対決してもらうぞ」
「こちらは既に準備出来ている。この10人がな」


ニヤッと笑うグードの1歩前へ、フィオーネが出た。


「ごきげんよう、わたくしはクランのリーダーを務めさせていただきます、聖ニョルズ学園序列第1位、フィオーネ・ラグ・ドーラですわ。以後お見知り置きを」


俺達同様にスカートの端をつまみあげ丁寧にお辞儀した。突如現れた美少女にクラスでは半ば惚けている者もいた。


「と、まぁ形だけの挨拶は終わりですわ。さっさと決めてくださるかしら?猿共」


先程までの雰囲気とはうって変わり、冷たい視線がクラスへと突き刺さる。急な態度の変わり様にクラスが言葉をなくす中、グレイが前へと出た。


「てめぇ、今なんていいやがった?」
「あら?聞こえませんでしたの?さっさとしろと言ったのですよ。猿でもわかりますわよ?」
「っ!てめぇ!」


フィオーネに突っかかろうとするグレイを周りが制止する。その光景に、フィオーネは嘲笑を浮かべ。


「まぁまぁ、暴力だけしか脳のないゴリラはこれだから嫌いですの。愚かですわ」
「っ!.......レオ先生!俺たちのクランを........!」
「お前のクランは解散していただろう。ダメだ」


そう、グレイ率いるクランは数ヶ月前にクルシュに敗北した時に解散しているのだ。それもそうだろう、総勢300以上のクランなど聞いたことがない。それにより『クラス内で』という制約が新たに付いたが、クルシュ達以外は必要ないと思っていたのか結成をしていなかったのだ。


「あら。まさか戦う前からクランができてないのですか!?準備も出来てないなんて、やる気ありますの!?」
「っ!てめぇこの野郎!」
「........やれやれ」


これ以上は面倒になるからな、そろそろ俺が出ていかないとまずい。


「あら?あなたは........」
「今さっき戦うコマがないと言ったな?それは間違いだ」
「はい?『能無し』は黙って.........」
「俺のクランがあるからな」


俺の言葉に、フィオーネは呆れたように肩を竦める。


「何を言うんです?『能無し』がリーダーのクランなど聞いたことが........」
「残念だがフィオーネ嬢、事実だ。悪いが私達の本命はこっちでな」


信じられないと言わんばかりに言葉を出せないフィオーネは、エリル、ミナ、アリス、リア、ルイの順番にメンバーを一瞥し、そしてこちらを睨む。


「なんの冗談なのかは知りませんが、いいでしょう。気が変わりました」
「決まりだ。さて、ではそちらも準備してもらおうか」


そうして10分後、諸々の準備が整った俺達は中心にて始まりを待つ。


「さて、それではこれよりフィオーネクランとクルシュクランによる演習を行う」
「6人なんて、舐めてますの?」
「別にそんな気は無い」
「なら有利な崖方面は譲りますわ」
「必要ない。俺達は平面でいいさ」


返答に、フィオーネ再び鋭い視線を向けた。


「とことんわたくし達を舐めてますのね。いいですわ、叩きのめして差し上げます」
「やれやれ、何が癇に障るのか知らないが、そうイライラしてはシワが増えるぞ?」
「っ!余計なお世話ですわっ!黙りなさい!!」


その後、各位置に着いた俺達にスタートの魔弾が放たれた。なお、別れる直後までフィオーネは俺達を睨んでいた。


「クルシュ君、さっきのは失言よ」
「駄目だったか?」
「女の子にそんなこと言うもんじゃないわ。クルシュもわかってないわね〜 」


アリスとリアの言い分はよく分からない。というより、たまに女という生き物がわからなくなる。まぁ正直どうでもよかったりするのだが。


「さて、クルシュ。俺が行こう」
「一人で行くのか?」
「ああ。問題ない」


そう言うと少し笑って見せ、そのまま森の中へと消えていった。そこにはいつもの5人が残る。


「あいつ、放っておいてよかったの?」
「まぁあのエルフ達がどんなものかは知らないが負けるわけがない」
「まぁ魔王だもんねぇ。じゃあ、僕達は空から見てる?」
「そうするか」


アリスに目配せすると「また私......」と言いながらも重力魔法を発動させた。後でなにか見返りよこせと言わんばかりの視線に苦笑しながらルイに向かって『視界共有』を発動させる。

ゆっくりと、確実に森の中を進んでいくルイ。ある程度行ったところで、眼前から植物の蔓のようなものが迫ってきた。が、しかし。なんの問題もなく澄ました顔で片手を上げると、瞬間的に現れた闇色の膜が飛来する蔓を防いだ。


「よく防ぎましたわね」


トーンの高い声とともに、フィオーネがゆっくりと現れる。それと同時にルイの周りからは9人の気配、つまり今ルイは囲まれているのだ。


「一網打尽にしてさっさと終わらせようと思ったのですけど、まぁ仕方ありませんわね」
「面白いことを言うな。一網打尽?まるで俺達が狩られる側みたいではないか」
「あら、そういったつもりでしたが。立場がわかりませんか?」
「勘違いするな。狩られるのは貴様らだ」
「随分と大口を叩きますこと。私達に勝てるとでも?」
「お前らなど俺一人で十分だ。クルシュが手を出すまでもない」


直後、四方八方から魔法がルイに向かって叩き込まれる。幾度となく放たれた魔法によって煙が発生し、ルイがどうなったのかは分からない。


「やはり口先だけでしたか。これだから魔族は...........」
「魔族が、なんだ?」


煙が晴れ、そこに無傷のルイが現れたことに、フィオーネはおろか、その場の全員が目を見開き驚愕の表情を浮かべた。


「あ、ありえないっ!どうやって魔法を!」
「なんで無傷なの!?」


周りからも叫び声が聞こえてくる。そんな様子に、やれやれとルイは肩をすくめる。


「結界で防いだだけだ。何か問題があるか?」
「ど、どうやってわたくし達の攻撃を薄いだけの結界で............」


まだ信じられないようで、フィオーネは思わず聞いてしまう。またルイは溜息をつき、その目の色が変わった。


「興が覚めた。この程度か」


ルイが片腕を上げると、常闇の刻印が輝き、ルイを中心として10人全員の足元にまで及ぶ魔法陣が出現した。


「悪いが一撃で終わらせてもらうぞ。――黒潰し『黒夢』」


ルイが呟いた途端にその場一帯が黒い闇と化し、10人をズブズブと飲み込んでいく。そのスピードはゆっくりであるが、いくら足掻こうとも抜け出せない。


「なんっ........ですの、これ!」
「別に殺す訳では無い。少し夢を見てもらうだけだ」
「っ!闇には光!『閃光弾リューラ』!!」


とある1人の妖精が魔法を闇へと放つが、その魔法は接触した瞬間に早々飲み込まれた。そしてさらに、魔法を放ったその妖精の沈むスピードがさらに加速する。


「底なし沼、もしくは蟻地獄を知っているだろう?足掻けば足掻くほど沈む速さは加速する。脱出不可能、つまり足を踏み入れた時点で貴様らは詰んでいたわけだ」


ふっと笑ったルイの周りはなおも沈み続け、そしてついに1人、またしても1人と、数を減らしていき、やがて腰のあたりまで沈んだフィオーネが残った。


「さて、残るはお前だけだ」
「っ...........」


見下ろすルイに、フィオーネは苦虫を噛み潰したような表情をする。が、しかし。その表情も一瞬、次にはキッ!っとルイを睨みつけた。


「やれやれ、最後まで折れないつもりか?」
「こんなの認められるわけないですわ!」
「認める、か。貴様らは正々堂々正面から挑み、そして現在に至る。動けない中で、敵は残り6人。そのうちの一人の魔法に捕えられ、負けは確定。そうだろう?」
「まだ、私はっ!」
「なんのプライドか知らないがな、そのプライドはまやかしだ」
「っ!」


沈んで行く最中、なおもフィオーネはその言葉に対してより一層眼光を鋭くしながらルイを睨みつける。


「お前が強いのかは知らぬ。まぁ序列1位ならば強いのだろう。しかしな、上には上がいることを知れ。お前達は自分達が世界で1番魔法に優れているというプライドを持っているのかもしれぬがな、所詮は先人の認識から付いた偽物の事実だ。いつまでも自分が強いと思っているならば、それこそが弱者である証拠だろう」
「そんな........事........」
「あと一つ言っておくがな、俺達魔族やクルシュのような星宝の刻印は差別されやすい。一部では星宝の刻印を人間のゴミだとも言っているようだ。お前もそのような理由で俺達を見下していたな。別に俺も、おそらくクルシュも気にしてないだろうが、見た目で他人を判断しないことだ。いつか足もとをすくわれるぞ」


やはりフィオーネにも強者としての自覚があるのか、後半に至るにつれ意気消沈とルイの言葉を聞いていた。その間にも闇に沈むのは止められない。やがて胸まで沈み込み、もう少しで勝敗が決まるという時だった。


ドゴォォォォォォォォォ!!!


まるで強烈な地震が起きたように強烈な轟音が轟き、落下してきた何かにより森全体が砂埃に包まれた。




前回短かったんで今回は少し長めに。ちなみに黒潰しって文化祭の準備中に思いついたんですよね。

「能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く