能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.72 魔術師は再会する

変な頭痛がしたと思うと、急に忘れていたあの日の情景が脳裏に飛び込んできた。これは確実に俺の記憶、何者かによって消された俺の記憶だ。なぜ忘れていたのだろうな、こんなにも大事な事を。


「まさか転生してから再開するとはな。ジーク」
「全くだ。なんの因果だろうな?アスト」
「悪いが今の俺はクルシュ・ヴォルフォードだ。そちらで頼む」
「ふむ、改名か。悪くは無いな」


やはり旧友に会うというのは楽しいものだ。さて、少し聞いておかないとな。


「ジーク、まさか転生したか?」
「ああ、しかしこれは3度目の転生でな。気がつけば魔術が衰退している世界で驚いた」
「それにしても、だ。あえて言わなかったがまさかハーレム所望か?」


俺の質問に、ジークはフフっと小さく笑う。


「まさか。俺が愛する者は1人と決めている。左右のは使い魔だ」
「使い魔?」
「信じられないのも無理はない。こうすれば分かるだろう」


パチンとジークが指を鳴らすと、左右の2人が魔法陣に照らされ、少女は黒い鱗に白銀の瞳が光る竜、女性はこちらも同じく毒々しい紫の鱗に金色の瞳が浮かぶ竜へと姿を変えた。そして俺はその2対の竜を知っていた。


「........色竜、黒の頂点、無限竜ウロボロスとの頂点、死毒竜ハイドラか。これは驚いた」
「たまたま今世の最初に使用したものが召喚魔術でな。それに呼応したのがこの2体の竜という事だ」


次にジークが指を鳴らすと、2体の竜は魔法陣に照らされその場から消失した。


「良かったのか?」
「お前に見せたかっただけだ、気にするな。................ところで、だ。約束、果たしたか?」
「愚問だな」


俺は当然と言わんばかりに笑いを返した。その俺の返事にジークは安堵したような表情で微笑んだ。


「これで、あいつも浮かばれればよいのだがな」
「そういえば、その事についてなんだがな」


そうして、俺は夢の中でイルーナに合ったことを伝えた。


「そうか。会ったのか、イルーナに」
「ああ。あの神はお前の幸福を願っていた」
「............そうか」


それだけ返し、ジークは少し悲しげな表情を浮かべた気がした。


「そして、もう一つだけお前に聞いておかなければならないことがある」
「何だ?言ってみよ」
「俺達は2度、正確には3度。魔族からの攻撃を受けた。そしてその全てが、俺を含む人間を狙ったものだった」
「ふむ?」


ジークのその反応に、俺は一瞬にして彼を囲むように魔法陣を出現させた。


「何のつもりだ?」
「お前が昔のままの行動理念を持つなら、俺は今度こそお前を完全に消さなければならない。..........だから、答えてくれ。現在魔族の糸を引いている裏は、お前か?ジーク」
「違うな」


俺のその質問に、否定の言葉を即答した。その目は、曇りなき紅で俺を見つめ。


「魔族は、俺が魔王ということを知らぬ。魔王はあの時に死んだと、全員が思っているようだからな」
「つまり、お前が転生したということを知らないのか?」
「ああ。故に俺も配下の挙動など知らぬ。今となってみれば興味もない」


.........白か。つまり、ジークでないならそれを統括している奴がいる、ということになるな。


「お前は、これからどうするつもりなんだ?」
「さぁな、お前との約束は今果たした」
「...........なら、嫁を探しに行けばいい」
「イルーナをか?」


俺はゆっくりと頷いた。


「俺が通う学園に来い。俺は面倒に巻き込まれる体質らしくてな。そのうち神とも会うだろう」
「根拠は?」
「無いな。だが、永遠とここで座っているのも退屈だろう?」
「イルーナが転生したという根拠もないのにか?」
「あいつは俺と夢の中で会うのが運命の最後と言った。つまり、そこから先で転生している可能性もあるという訳だ」


俺の提案に、ジークは肩を竦め、そしてフフっと笑った。


「全く、昔からお前は。..........だが、いいだろう。今回もお前の口車に乗って騙されるとしよう」
「騙した覚えはないんだがな」


そうして、俺達は固い握手をした。別れ際、俺はジークの楽しげに笑う姿を始めてみたかもしれない。





1ヶ月後、とある日の朝のHR。いつも通りSクラスにレオが入室してきた。


「皆、おはよう。今日はお前達に嬉しいニュースが2つある」


レオのその言葉に、クラス中が騒ぎ出した。内容が明かされないということで、期待も高まるらしい。その時、扉が開いた。そこには、俺達と同じ制服を身に付けた、白髪赤眼の少年、魔王ジークが入室してきていた。突然の入室に、クラスは誰なのかと言う質問が飛び交っている。


「まず1つ目、転校生の紹介だ」


レオに指示されたジークは杖で黒板に魔法文字を描いた。コトン、と杖を置いて俺たちへと振り向く。


「ルイ・ディヴルジークだ。よろしく頼む」


いつの間に偽名を考えたのか、彼は平然とそう名乗った。


「先に断わっておこう、俺は魔族だ」


とんでもない爆弾を落としながら。




という訳で新キャラでございます。
あと数話でまたサブヒロイン出て参りますよっと。

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