能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.55 魔術師は見つける

それは全くの偶然だった。 特に何かの力を感じたわけでも、ましてや不審に思ったものでもない、ただ偶然歩いていただけである。

事は数分前に溯る。


「や〜こういうことしてみたかったんだよねぇ〜」


上機嫌にエリルは腕を後ろに組みながら歩いている。その後ろに続くのはミナと俺とアリス、エリルの前にリアだ。


「クルシュはわかるけどなんであたし達まで..........」
「いいじゃないですか、新鮮ですよ」
「あの時じゃんけんに負けなかったら..........」


リアは歩きながら悔しそうに顔を顰めた。リアの言う通りこの並びはジャンケンによって決まったものである。 特に意味もなく「園内探検がしたい!」と言ったエリルが事の初めである。


「園内探検?どうしたのよ?急に」


エリルに向けてリアが訪ねる。入学してしばらくが経つが、俺達にしてみればもう慣れたものだ。しかしエリルは違う。いつも特定の教室に行き、そして帰る。たまに図書館に行くぐらいであとは知らないのだ。


「なーんかやりたくなっちゃった」
「で、まさか俺が?」
「分かってるねクルシュ。よろしく!」
「じゃ、じゃあ私も行くわ!」
「当然あたしも行くわよ」
「じゃあ私も行きます!」


そしてその後、案内役は俺で泣くともいいということになり、公平を喫するためにジャンケンをした。そして1番に負けたリアが案内役を任されたのだ。


「どうせ帰ったとてまた家に集まるんだろう。ならどこで時間を潰そうとも同じだ」
「ま、そゆことだよね」
「自分の運を呪いたいわ..........」


はぁ、と溜息をついたリアの後ろをついて行く。この学園はなんと言ってもその広さが売りのようなものだ。この広さの空間で生徒を教育し、育み、そして卒業させる。故に優秀な生徒が生まれ、社会で活躍していく。だからこそここがエリート学園と呼ばれるようになったのだ。しかし実際の生徒達にはいい迷惑も甚だしく、毎時移動が大変になるというデメリットも存在しているが。


「訓練場ってどこまであるんだろうね?」
「さぁな。上級生が使う用の訓練場もあるとは聞いたことがあるが、実際にどこにあるのかは知らん」
「当然だけどあたしも知らないわよ。なんでも、公開は禁止されているらしいの」
「へぇ、それはまた」


と、つまらなさそうに答えた。だがそれ以上でも以下でもなく、その後は元の笑顔に戻った。エリルは非常に気分屋なところが多少あるため、興が削がれたら別の行動をとるかもしれない。なんとも昔から治して欲しいとは思っている点だ。


「クルシュ君!あそこ一面お花畑よ!」
「あれはラズフィーユの庭園、生徒会の管轄よ」


指さしたアリスにリアが簡潔に堪える。確かに指の先には一面多色で覆い尽くされた花々が凛と咲いている。魔法文字が浮かび上がっており、『この先関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。


「入れないのか」
「まぁあれだけ咲いてたら足の踏み場もないだろうからね」
「とても綺麗なのに残念ですね..........」


と、女性陣は少し残念な表情をした。確かに花は綺麗だが愛でる趣味はない。いい匂いがする、など、見ていて気持ちが落ち着く、などの女性の言い分にはいまいち共感しかねたりする。エリルは俺を見てフッと笑いながら「クルシュには分からなくてもいいかもねー」と言いながら次の場所に向かった。


そしてその後、修練場やグラウンド、闘技場も案内され少し一休みをする場所を探していた。


「ていうかあんた達驚いてばっかりじゃないのよ、エリルはともかくとして」
「むしろリアがそこまで知っていたことに驚いたがな?」
「横に同じよ」
「です」


と、三者一様でリアに視線を返す。


「普通数ヶ月もいれば覚えるに決まってんでしょ!」


はぁ、と溜息をつきながら次の場所に向かう時だった。リアが少し出っ張っている床に躓きそのまま前かがみに倒れそうになる。曲がり角の壁にそれを阻止しようと手を伸ばすが、瞬間。


「きゃっ!」


もたれかかった壁がホテルの回転ドアのように回り、そのまま倒れ込む姿勢で先の暗闇にリアは消えた。


「..........え?リア?」
「今、何が起こったの?」
「俺もよくわからなかった。まぁ行ってみればわかるだろう」


と、俺はリアが消えていった壁を押す。するとギィィと言う音を立てて壁が半開きとなりわずかな光に照らされた階段が現れる。全員が入ったところでミナが『灯火ライト』の魔法を使うと、階段の先までの木造廊下が見える


「いったぁ〜!なんなのよもう!」


光の先ではリアが半ば八つ当たり気味に地団駄を踏んでいた。そして光に気づいたのかこちらに戻ってくる。


「なんなのでしょうか、この空間..........」
「クルシュ〜」
「分かっている」


『構造探知』を使い周囲の把握をする。ふむ、電源スイッチはそこか。


「ここだな」


壁を伝うと出っ張ったところがあり、そこに魔力を流した瞬間、パッ!と周囲に明かりが灯る。そして暗闇で分からなかった廊下の先は、王都の図書館とは比べ物にならない本棚がずらりと並ぶ、地下大図書館であった。


「な、なにこれ!?」


アリスが叫んだ。その声が、地下ということもあり壁に反射し反響する。地下図書館とは言えど、長年使用されていなかったのか蜘蛛の巣やホコリが溜まっており、木造りのテーブルや椅子は酷く老朽化していた。


「随分と昔に作られたようだな。老朽化が酷い」
「こんな所あったんだ.........すごいね」


感心して1歩踏み出す。中を見るとやはりとても広く、奥行もかなりあるようで、この本棚にある本は推定1万冊以上はあるだろうか。本当に王都の図書館が小さく見えてしまう。


「でも、何故学園側はここの紹介をしなかったのでしょうか.........」
「さぁな。知らなかったのか、それともここに来れるやつは限定されていたのか」
「少し見てみようか!」


静止するクルシュを無視してエリルがさらに1歩、1歩と歩き出す。そしてある時カチッと何科が作動する音がした。その場で止まったエリルが、クルシュ達の方をギギギと擬音が出そうな音で振り向くのと彼らの視界が真っ白に覆われるのは同時だった。


その先で彼らを待つものとは........

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