能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.53 魔術師は竜と戦う

高評価が400に達しました!ありがとうございます!!





大地が軋み、空が揺れる。突然暴風が吹き荒れ突風が生徒達を襲った。耳をつんざくような轟音を吐きながら巨大な影が俺達を光から遮断した。


「グォォオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


巨体を支えんとする隆起した腕、それを空へと送り届ける翼、赤い鱗が全身に、尻尾は5mはあるだろうか。獰猛な牙を剥き眼光光らせるその影は、竜だった。   


咆哮で発生した音圧が複数の生徒達を空中へと吹き飛ばしていく。その身一つで投げ出された生徒達を凝視し、その口を開口した。


「ちょっと何あれ!クルシュ、あれやばいんじゃないの!」
「それは百も承知だ。全く、世話を焼かせてくれる」


――『結界魔術』

一瞬にして空中に張り巡らせた結界と竜のブレスが激しくぶつかり合う。しかし、そのブレスを受けても俺の結界は崩れることなく、落ちてきた生徒を風魔術で受け止めた。


「みんな逃げろ!身体強化魔法で王都まで走れ!!」


レオがそう指示すると一目散に生徒達は逃げていく。どうやら逃げ遅れ生徒は居ないようだ。


「クルシュ!早く逃げろ!」
「ここで逃げたら誰があれを食い止めるんだ?誰もいないだろう?」
「しかし!クルシュでもあれはさすがに.........」
「大丈夫だよ」


ミナを逃がしたエリルが俺の横に現れる。


「あんな雑魚にクルシュが負けるわけないじゃん」
「ざ、雑魚って..........」


なんてことは無いとばかりに言い放ったエリルにレオはたじろぐ。その間にも避難は完了してきている。


「ほら、レオさんも逃げなよ。ここは大丈夫だから」
「っ、すまない!」


そしてレオも逃げていく。これで全員だろうか。


「今、全員逃げたと思ったでしょ?」
「ん?まだ居たのか」


リアが俺の後ろから現れる。どうやらアリスも逃げていないようだ。よく見ればミナもエリルの後ろにいる。


「ご主人様を置いて逃げる奴隷なんて居ないでしょ?」
「クルシュ君が逃げないなら私も逃げる必要ないわね。だって私の先生だもの」
「僕は負ける気しないし〜」
「私はその、歩けないので.........」


結局最後に残ったのは俺のクランか。まぁアリスとリアが死ぬわけもないだろうしミナはエリルが守るだろう。ふむ、問題ないな。


「さて、言ったそばから来たぞ」


俺達が話す間に開口していた竜がブレスを吐いた。俺が結界魔術でそれを阻む間にアリスとリアが左右に散開、エリルは正面から向かう。


「『落陽フォール・サン』!!」
「『光刃槍ヴァイ・スレイピア』!!」


竜の頭上に現れた魔法陣から灼熱の太陽が落下し、その周りに展開された複数の魔法陣から刃と化した槍が竜を目がけて飛来する。しかしそのどれもが竜の身体に触れた瞬間に霧散した。


「ちょ、あたしの魔法消えた!?」
「これ魔法効いてないわ!」


蚊を払うように竜が尻尾を薙ぎ払うが、リアとアリスは身体強化魔法で空中に避難しそれを避ける。それを見た竜は合わせるように彼女たちに向かってブレスを吐くが、次の瞬間そのブレスが両断された。


「――ろくノ太刀『万象両断』ッ!」


比喩ではなく物理的に両断されたブレスはそのまま霧散し、エリル達は地面に着地して距離を取った。リアがギリッと奥歯を噛む。


「これじゃキリがないわ。魔法は抗体で防がれるし」
「クルシュ君の魔法も効かなそうよね..........」
「僕の剣ならなんとか行けなくもないけど、あの首に刃を届かせるには捨て身で行かないとまずいね」


俺も打つ手が無いわけじゃない。だがその間に俺が攻撃されたら避け様がない。昔は一撃で終わらせたが今は火力が全然違う。

と、そんな時、ミナが口を開いた。


「私、多分ですけど弱点わかります」
「どういうことだ?ミナ」
「さっきから、視える・・・んです。あの竜の魔法抗体の繋ぎ目や弱点が」


そういうミナの眼には魔法陣が浮かんでいる。それは両目に及び、ハッキリと瞳孔が開かれていた。

..........ハハっ、驚いた。まさか星宝と同じ確率で産まれてくる眼が宿っているなんてな。
彼女が宿しているのは『透視の光眼』、金色の刻印に星宝と同じ確率で産まれてくる森羅万象あらゆるものを見透せる眼だ。しかもこちらは星宝のように確定で産まれてくる訳ではなく、さらに20億分の1の確率にまで絞られる。俺もこれを知るのには1000年の年月を経た。『真相魔術』なんてものまで作って手に入れた情報だったからな。そう思うと懐かしい。


「ミナさん、その眼...........」
「なんでしょうか、これ。気持ち悪いとかそんなのはないんですが..........」
「その眼の話は後だ。ミナ、今から『思念伝達』で魔法抗体の繋ぎ目を教えてくれ。そこにダメージを与えれば抗体が霧散する」
「はいっ!」


直後、全員にミナの『思念伝達』が繋がれる。それと同時にリア、アリス、エリルが走り出す。竜はそれを見てまた開口した。


「させると思うな」


俺は放出されるブレスの口元を結界魔術で覆い、反射魔術に当たったブレスが口の中で逆流を起こして爆発が発生する。


「グガァァァァァァァァァ!!!」



黒煙立ちこめる中、竜が倒れていくのと同時に掌並の太陽が腹部へ伸び、爆発し、光の槍が尻尾へ、そして風の弾が脳天に叩き込まれた。

ガラスが割れたような音ともに魔法抗体が剥がれた瞬間、俺は維持していた結界魔術と交換で凍結魔術を発動させる。

――『凍結魔術』絶対零度アブソリュート

一気に竜の足元まで伸びた氷はその巨体を瞬く間に凍結させ、2分の後には立派な竜のオブジェが出来上がっていた。


「ふぅ、終わったね」
「なかなかに疲れた.........」
「あたしもよ........」


極度の緊張感から解けた彼女達は地面に座り込み、エリルは相変わらず爽やかな笑みを浮かべている。と、ミナの眼から魔法陣が消え、ペタンと地面に座り込んだ。


「大丈夫かい?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「そういえばクルシュ、さっきのミナの眼って何なの?」
「俺も見た時は驚いた。ここに来て見れるとは思わなかったからな」
「焦らさないで早く教えなさいよ!」


急かすリアのために俺は説明する。


「ミナの眼についてだがこれは『透視の光眼』と呼ばれる眼でな。ざっと言うとこの世のあらゆるものを見透す力を持つ。魔法抗体のつなぎ目を見抜けたのはこういうことだ」


その俺の説明に誰よりも先にミナが質問をぶつける。


「なんで今頃発動したんでしょうか?」
「さぁな、俺にもそれはわからない。しかしお前はどこかでこれが使えると自覚していたはずだ。だがそれを覚えていないか、はたまた感覚がなかったか。どちらにせよ1度発現したものはまた近々表れるだろう、特に気にすることでもない」
「そうですか、ありがとうございます」


と、納得したミナと交代で今度はアリスが質問する。


「クルシュ君の言い回し的にすごく珍しそうだったけど、どうなの?」
「ああ、確率で言うとかなり低い。金色の刻印に"だけ"表れて、かつ俺の星宝の刻印よりも発現する可能性は低い。そうだな、リアの『黄昏の陽トワイライト・サン』といい勝負じゃないか?」
「それって相当なものよね、だってあたしと同じなんだもの。ていうかなんでそれをクルシュが知ってるのよ?」
「単純に興味があって調べた、としか言い様がないが?」
「まぁなんでもいいけど」



いつもの事のように済ませたリアはその場に背中から倒れる。草むらの上で伸びていた。と、次の瞬間、どこからともなく角笛の音が聞こえてきた。


「なんの音だ?」
「クルシュ、まずいかもね」


竜の身体にピシッと亀裂が入り、氷が粉々に砕け散った。自由になった竜を臨戦態勢で構える。


「グオォォォォォォォォ!!!」


轟音の咆哮の後に翼をはためかせた竜はそのまま宙へと浮き、帝国がある方へと飛んで行ってしまった。


「...........まさかな」


俺は少し頭をよぎった嫌な予感とともに王都へと帰るのだった。




クルシュの嫌な予感、そして謎の角笛の音とはなんなのでしょうね。作者さん的には............(殴

コメント

  • ノベルバユーザー232154

    中へと浮き→宙へと浮き
    緊張感から溶けて

    緊張感から解けて
    です

    0
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