能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.44 魔術師は解決する

やはりと言うべきか、必然と言うべきか。大体の予想はついていた。Aクラス担任、エルス・レイドント。


「やっぱりお前だったのか」
「今更気付こうとも遅い。能無しよ、貴様は我ら帝国軍の脅威であると判断した。よってここで貴様を殺す」
「魔族というのは皆同じことを言うんだな。聞き飽きたぞ、その口文句は」
「ならば死ぬがいい。リア、契約に従って自爆しろ」


エルスが掲げた魔法陣が煌めく。しかし、次の瞬間魔法陣はガラスを割ったような音ともに破壊された。


「何っ!?」
「お前がリアに仕掛けた契約魔法は破壊させてもらった」
「え?い、いつ!?」
「さっきお前の頭に手を置いただろう?。あの時だ」


補足して言えばリアとの戦闘でわざとやられたような演出をしたのもそのためだ。おそらく転移魔術でリアの近くに飛んだとしても逆証魔術が発動する前に太陽による攻撃を受けていただろうからな。リアの魔法を破棄するためには油断させて接近しないといけなかった。なかなか骨が折れたがな。


「あ、さっきの..........」
「術式破壊の魔法だと?そんなもの聞いたことなど..........」
「正直言ってどうでもいいが、さっさと姿を現せばどうだ?」
「自分が有利だと思いあがるなよ。リアが殺しに失敗した以上母親の命はないのだからな」
「その点も問題ないぞ」


直後、俺の横に女性を抱きかかえた少年が現れる。緑髪のその少年はエリル、抱きかかえられた朱色の髪の女性はセレスだ。


「ん?あれ?お取り込み中?」
「いや、そうでも無いぞ」
「あ、そう?んじゃちょっと失礼して............」


よいしょといいながらエリルはセレスを床に下ろした。そこにリアが駆け寄る。


「お母さん!」
「大丈夫、気絶してるだけだからさ。リアさんはセレスさんの様子みててよ」
「なんであたしのことをそこまで.........」
「お前の母親に」
「頼まれちゃったからね。助けてあげて、って」
「とりあえず話はあとだ。今はこいつを倒すのが優先だからな」


俺とエリルがリアとセレスの前に立つとエルスは悔しそうに唇を噛む。しかし突然にやりと口角を上げる。


「さて、エルス。お前はどうする?」
「ククク.........思い上がるなよ、人間風情が。貴様らなどたたきつぶしてくれるわぁ!」


叫んだエルスの体格が変化していく。黒く染った表皮はもちろん、2本の角と翼、そして今回はさらに3mの大男になった。


「クルシュ休んでて。結構魔力持ってかれてるみたいじゃないか」
「そうか?。じゃあこれを渡しておくぞ」


1歩下がった俺は製造魔術で作った鉄の剣2本を投げ渡す。なんとか受取ったエリルは素振りして感度を確かめた。


「2本でやるのなんか久しぶりだからな〜。多分おそまつだよ?」
「気にするな、終わりよければすべてよしと言うだろう?」
「それは極論だよ.........」


苦笑いしながら振り返りエルスの方を向く。そのままゆっくりと巨体に向かって歩き出した。


「馬鹿めが!巨体だから鈍いという訳では無いわァ!」
「君、あのアマロって魔族より数段弱いね。その魔力もそうだけど体格も力も見せかけらしいね」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


エリルに向かって振り上げられた巨腕は、しかしその直後エリルの口角が上がる。閃光のように舞った剣を、当然エルスが捉えられる訳もなく。


「――第二ノ太刀『じん』」


そのまますれ違うように交わった2人。エリルが振り返るのと同時にエルスの体が斬撃により崩壊する。四肢が切断され、胴が切り刻まれ、最後に首が落ちた。


「やれやれ、弱いね」
「いやあなた達が強すぎるの間違いでしょ」


肩をすくめるエリルにリアは白けた視線で答える。その視線を爽やかに笑って誤魔化した。


「じゃあクルシュ、先に行ってるね。セレスさんは僕がまた抱きかかえて運ぶよ」
「え、あ、ちょっと...........お母さん........」
「じゃあね〜」


手をひらひらとしながらエリルは俺が登ってきた扉から地上に降りた。その大広間には、俺とリアだけが残る。


「ふむ、なんとも頼もしいものだな」
「なんか強引ね」
「まぁそれはいい。何も無いなら俺は降りるぞ?」
「あ、ま、待って!勝負の続きは...........」
「契約はもう解かれた。お前の頭に触れた時にもう1つの方と一緒に破壊したからな」
「そ、そう..........」
「なんだ?別に戦いたいなら構わないぞ?最も、お前はもう魔法が使えないくらい魔力が切れてるけどな」
「え?あ、あれ...........?」


俺に言われた瞬間、リアはペタンと座り込んだ。地面から立ち上がろうとするが、足に力が入っていないようだった。


「なんだ、その腑抜けた状態は」
「う、うるさいわね..........今立つわよ!」
「そう言って立ててないだろう」
「うるさいっ!」


なんで立てないのよ........と言いながら必死に足に力を入れている。運んでやる義理はないが今回はリアも色々と頑張ったからな、大目に見てやろう。


「えっ、ちょ、ちょっと...........ひゃっ」
「変な声を出さないでくれ。風魔法で浮かされる方が良かったか?」
「................こ、このままがいい」
「ん?もっとはっきり言ってくれないと聞こえないぞ」
「このままでいいからさっさと運びなさいよバカぁ!」


赤面しながらポカポカと俺の胸を叩く。仕草が子供のそれに戻っているではないか。そして俺はリアを抱きかかえたまま螺旋階段をコツコツと降りていく。


「ねぇクルシュ、あの契約のことだけど..........」
「あれは終わったからいいと言っただろ?」
「わ、私の負けで.........いいわ」
「?、勝ち負けも何も無効試合だぞ?」
「私の負けでいいのっ!私がクルシュに一生服従でいいのっ!!」


サラッとすごいことを言うな。約束に忠実なのはいいことだが、やけにテンションがおかしくないか?


「どうした?調子でも悪いのか?」
「いーいーかーら!、ね!?、ね!?」
「.........そこまで言うなら俺が止めることも無いが.............」
「じゃあはい、契約。早く調印して?」
「お前いつやった?」
「どうでもいいから早く!」


急かされた俺は半ば強引に調印を強いられた。これを属に恐喝というのかもしれない。

何なんだ?急に。とりあえず黙っておいた方が賢い選択だろう。今日のリアはかなりテンションがおかしいからな。


「〜♪」
「どうした?急に?」
「えへへ〜クルシュクルシュ〜」


ニタニタと口元を緩ませながら俺の首に手を回して抱き着いてくる。

ああ、分かったぞ。これはあれだ、魔力枯渇と緊迫した空気から解放されたことで反動が返ってきたんだろう。魔力欠乏酔症だったか。
やれやれ、このあとの対応がめんどくさそうだ。




クルシュ君羨ましいなぁ..........、またフラグが立ったじゃナイカッ!。前半チョロっと出てきましたけど魔族はやはりかませみたいですね。←

区切りとしては次回辺りで一章終わりですかね。区切り付ける機能とか実装してくれないかなぁ〜。

コメント

  • ヴェールヌイ

    それな(=^▽^)σ

    0
  • かりんとう

    それな

    2
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