能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.9 魔術師は尋問される

家に帰った俺は改めてレオと対面していた。もちろん話されることはどういう経緯で領主の娘と知り合ったか、だろう。


「クルシュ、どういう事なんだ?」
「昨日、運動をしてくると言っただろ?あの時にたまたま見つけてな」
「それで、"助けた"とはどういう事なんだ?」
「今回の犯人はオークだった。魔獣の中で唯一知性があるやつだ」
「オークだと?オークなどこの森には.............いや、聞いたことがあるな。森の中央地にオークの集落があると」


おそらく俺が潰したのもその集落だろう。周りを見ても集落などなかったし、何よりもオークたちが重点的に集まっていた。


「..........まさか、君が一人でやったのか?」
「そうだが。何かあるか?」
「.............君は星宝の刻印の所持者だな?」
「そうだ」
「星宝の刻印ではオークにすら勝てないと聞いたが...........」


やれやれ、間違った知識を蓄えているやつはこれだから面倒だ。まぁ手っ取り早く証明するしかなさそうだが。


「この家の2階の書斎の棚にも同じことが書かれている本があった。だけどな、それは間違いだ」
「間違い?」
「能無しの刻印と呼ばれているが実際は違う。俺はレオの翠碧の刻印が操る風系統を始め、5つの刻印全てが操れる魔法を操ることが出来る。さらに星宝魔法という魔法含めて7つだな」
「.........そんなことが、有り得るのか!?」
「ありえる。世間一般では金色の刻印が1番優秀とされているそうだが、それも間違いだ。1番優秀なのは星宝の刻印なんだからな」


俺は掌にまず火の玉を出す、次に水球を作り、その次に掌に小さな竜巻を起こす。その次に掌に灯りを作ったり、近くにあった果物ナイフで指の腹を切ってそれを治し、次に黒い物質を作り出した。


「確かに..........全部が使えている」
「悪いが星宝魔法は使える場面が限られているからここでは使えない」


もちろん嘘に決まっている。あまり星宝魔術のことは露呈したくは無い。これで色々と面倒になっても厄介だからな。


「しかし、なぜ今までそんなことを言われ続けたんだ!?歴史の中で誰かが発見できてもおかしくはなかっただろう!」
「それは分からない。ただ、書き換えられたとしたら?」
「.........書き換えられた?誰かにか?」
「そうだ。まぁ誰かなんて検討もつかないし生きてるかも分からないし目的なんてさらに検討もつかないし打つ手なんてないけどな」


俺はそのまま腕を後ろで組んでいすこぎを始める。適当に倒れない程度にバランスを取りながら新聞を取って中を見るが特にめぼしい情報も事件もなかった。


「つまり、クルシュはその力でアリス達を助けたんだな?」
「まぁ、そういう事になるな。まさか助けたおかけで首が繋がるとは思いもしなかったけどな」
「あの時アリスが入ってこなかったら伯爵を殺していたかもしれない。........あの子には感謝しないとな」


おそらくその女がいなかったら俺がとめてたけどな。さすがに人殺しになるのだけはさせたくない。


「さて、疑問も解決したし、私の弟はとても優秀だということがわかったし、今日の夕食は豪華にしよう!」


と、張り切って夕飯を作り始めた。俺達が伯爵の家を訪れたのが午後13時、今は午後15時半で夕食の支度には早いが張り切っているのだから期待してもいいだろう。

それにしても、レオが余計な詮索をしてくる性格でなくてよかった。さすがに真実を言いたくはないからな。

まぁ真実を言ったところでレオならば「それがどうした?」と普通に返してきそうだが。

..........俺とした事が、何をつまらないことを考えていたのか。さて、今日は運動をしてなかったな、運動でもするか。

そして俺はそのまま森へと入っていく。やはりいつもの奥深くに入ろうとしたのだが、探知に気になる反応がある。そこであたりを見回していると、見つけた。


「そこで何をしている?バレバレだぞ」
「あなた、私が透視で見えてるのかしら?」


そこに居たのは先程領主の館にいた女、アリス・ベルフレート。艶のあるダークブラウンの髪にエメラルドグリーンの瞳、きめ細やかな白い肌を持ち、先程はダークブルーのドレスを着ていたが、今は黄色のワンピースに着替えていた。今更に見てみると年は俺と同じくらいで背も俺より少し低いくらいだった。


「俺に何の用だ?」
「用、って訳じゃないけど、お礼まだ言えてなかったから」
「別に礼なんていらないけどな。たまたま通り掛かっただけだし」
「それでもよ。昨日は、助けてくれてありがとう。私アリス・ベルフレート、知ってると思うけど一応言っておくわね。よろしくね、クルシュ・ヴォルフォード君」


まぁ社交辞令程度に挨拶は返しておこう。そして今すぐこの場から離れてほしいな、運動の邪魔になる。


「........何でついてくるんだ?」
「そんなの気になるからに決まってるでしょ」
「森に入ったらダメなんじゃないのか?」
「クルシュ君とならいいって、パパは言ってたわ」


知らぬ間に俺に謎の責任が課されているんだが..........。いや、それも問題だがまずあんな事件の被害者なのにまたこうやって森を訪れるなんて、どういう精神をしているんだ?


「..........お前、森が怖くないのか?」
「怖くないっていえば嘘になるけど、慣れちゃったわ」
「地盤で身を守る術は学んでいるのか?」
「レオさんから剣術を少しと、中位光魔法と治癒魔法までなら!」


なんてことだ、中位魔法じゃ狼型の魔獣は倒せても熊型の魔獣は倒せない。そんな低スペックでどうやって森に入ろうという神経になるのか。


「..........そうか」
「絶対今露骨にがっかりしたでしょ!」
「してない」
「したでしょ!」
「してない」


全く、面倒な女だ。そう言えばここらは熊型の魔獣の縄張りだったな。まぁすぐにでも通れば出現なんてしないだろう。


「したで.............く、クルシュ君、う、うし.........」
「ん?牛がどうかしたか?」
「う、後ろ見てっ!」
「グギャァァァァァ!!?」


魔獣の奇襲なんて何度体験したことか。それに常に『広範囲探知』と『探知魔術《魔》』を発動しているのに後ろを取られるわけもないだろう。


「..........え?、え?何が起きたの!?」
「単純な設置型魔法だ。見てみろ、熊の丸焼きだ」


全身が黒焦げになった熊型の魔獣を見て、少女は唖然とするばかりだった。

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