能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.2 魔術師は女騎士と出会う

――長い夢を見た。


幾度となく死線を乗り越え、その度に死にかけ、やがて最強となった男の夢だ。彼は未来を夢見て転生した。そこに至るまで、実に2800年、通常の人間単位なら考えられない歳月を、彼は生きた、そして飽きた。自らの望みを形にするために、飢えた喉を潤すように自らを捧げた、そんな男の夢だ。


アストは目を開けた。いや、自分は今は目を開けているのか、閉ざしているのかもわからない。その場所はそれだけ暗かった。


「確かこうやって..............」


その耳は確かに聞き届けた、幼き少年のようなまだ未成熟な声帯を。その目は捉えた、何かを動かしその隙間から入ってきた光に照らされた若かりし日の幼き手を。そして動かしたのは石碑で、ここは自分で掘った墓だと今思い出した。彼はムクリと起き上がり、背伸びをして辺りを見渡す。

一面緑が溢れるそこは、自分が転生時に使った場所だ。まるで過去の映像を抜き出して貼り付けたように、その場所に何ら変化はなかった。全く、変わりのない、過去の映像がそこにあった。


「..........今は朝、だな」


太陽が差し込む向き、西だ。それもかなり低い。おそらく今は午前6時ごろ、太陽暦が変化していなければの話である。そして温度からして今は夏だ。改めてあたりを見回してみると、ボロボロになって地面に転がる石碑、どうやら経過によって崩れたらしい。前見た時は草花1本もなかった地面は、今や緑に溢れ転移魔法陣は無くなっている。しかし変化はそれだけだ、あとは何ら変わりない。この状況と石碑の状況から見て、優に億年は経過していると思われる。


「刻印は.............やはり星宝か、当たり前だな」


彼は右手の甲に刻まれた黒く星の形をした刻印を天に掲げて頷いた。そして改めて自分を見てみる。腕も、足も、当然ながら転生前より小さい。


「んじゃあとは顔だな。鏡面魔術、鏡面魔術っと............」


と、星宝魔術のうちの一つ、鏡面魔術を使用するが、そこにはなんの変化もない。不思議に思い何度も魔力を込めるが、何も出てこない。


「ああ、そうか。そういやまだこの歳は...........」


彼はこの歳の時点ではまだ星宝魔術を知らない。つまりまだ無知な子供であったというわけだ。いくら知識、能力、自我を引き継いだとは言え体が覚えていなければ意味が無い。


「............仕方ない、訓練するとしよう」


と、諦めて彼はこの時点で既に使えるようになっていた『広範囲探知』を作動させる。範囲内にいる生命活動を送っている生物を探知できる魔術だが、転生前の彼は世界全土を探知できた。ちなみにこの歳では半径3キロが限度だったようだ。


「さて、特に変わったことは...............なるほど」


彼が同時に発動させていた『探知魔術《魔》』に反応があった。ここから1.5km先で魔力の胎動が激しいものが2つ、どうやら戦闘中のようだ。片方が優勢で片方が劣勢、当たり前ではあるが。
彼は身体強化魔術を使ってその場所へと向かった。



まだ活動している者も少ない早朝、こんな時間にも関わらず苦境に陥っている者が1人居た。全身に切り傷が出来ており、そこから幾度となく血が流れ落ちている。今やその流血で纏っていた物はほとんどが真紅に染まっている。


「はぁ.......はぁ.........はぁ、ここまで、か?」
「ギュォォォォォ!!!」


相対しているのは熊型の魔獣。だが通常時ならばいとも簡単に勝てる相手である。ならなぜ今は劣勢に持ち込まれているのか、それは度重なる傷のせいだ。連戦を続けていると、もちろんのこと疲弊し弱くなっていく。そんな時に相対した魔獣にどうやって勝利を収めよう?

答えは、断じて勝利などできない。どんなに強い者でもどんなに力を保有していようとも、不意を突かれればそれがどんな小さな敵であろうとも敗戦を喫す。故に今はそういう状況に陥っている。


「グギャァァァァァァァァ!!!」
「くっ................」


ここまで度重なる傷と流血により貧血の状態に陥っていたためもう歩くことすら叶わない。そのまま膝をついた瞬間を、もちろん魔獣が見逃す訳もなく、その巨腕に搭載された鉤爪を振り上げる。そして死を覚悟し目を閉じた。


「.................?」


しかし一方に痛みは来ず、代わりに聞こえてきたのは肉を断つ音だけだった。恐る恐る目を開けてみると、魔獣の首が眼前に落ち、主を無くした体が後ろに倒れるのと同時にその先に全身を血に染める少年を見た。


「大丈夫か?」
「あ、ああ...........すまない」


だが命を救われた当の本人は何が起こったかわからないような表情を浮かべる。それもそうだろう、まだ初々しい10代の子供が剣を片手に今の今まで自分が苦戦していた魔獣をいとも簡単に倒してしまったのだから。


「君は..........一体?」
「俺は.........」


そこで彼は思考する。ここで自分の名前を言えば色々と厄介な事になるかもしれない、偽名を使うしかないだろう。そう考えた彼は偽りの名を口にする。最も、本当に自分の名前を出さなかったことを安心するのだがそれはまた別のお話だ。


「俺はクルシュだ」
「...........名前は?」
「名前?名前はクルシュだが?」
「...............本当に言っているのか?」
「あ、ああ............」


何だ?苗字は貴族が付けるものであって平民の俺たちはつけないだろ?まさかこの世界のヤツらには苗字があるというのか!?


「まぁその話はあとだ。私はレオ・ヴォルフォードだ、先程は助けてくれてありがとう」
「随分と男らしい名前だな」
「それは言ってくれるな、親がつけたのだからしょうがない」


と、彼女は苦笑しながらそう言った。会話からもわかるようにレオは女である。セルリアンブルーと白銀が混ざったような美しい髪とそれを引き立たせるコバルトブルーの瞳、どこからどう見ても美人としかいいようがないその美貌を兼ね備え、スタイルも締まっており理想の女性像、と言った感覚だろうか。刻印は必ず体のどこかに顕現するが、今見たところ刻印は見当たらなかった。


「とりあえず君を一旦保護する。私の家に.............っ!!」
「体の至る所から流血して貧血を起こしている。今歩けば死ぬからやめておいた方がいい」
「はは............これくらい、少ししたら治る...........さ」
「少し待ってくれ」


『回復魔術、治癒魔術、同時発動』
『合成魔術、《快癒》実施』

どうやらこの魔術は使えたらしい。と言うよりも先程の身体強化魔術で感覚を少しだが取り戻しつつあるのだろう。発動した魔術はレオの傷をみるみる塞ぎ、やがて全ての傷は跡形もなく消え去った。


「傷が.........!!」
「これで立てるはずだ。それに歩きも出来ると思うぞ」
「君は金色の刻印の所持者か?」
「いや、俺の刻印は星宝の刻印だが?」
「星宝の刻印...........?」


と、彼女はあからさまに顔をしかめる。だがその表情の意図が彼は全く分からないでいた。


「そうか、そうだったのか...........」
「?、星宝の刻印がどうかしたのか?」
「どうやら君の育て親は事実を告げていないらしいな」


と、一区間開けて、彼女からクルシュに驚きの事実が告げられる。


「――星宝の刻印は"能無し"の刻印だ」
「...........は?」

コメント

  • ノベルバユーザー212322

    パクリやんけ

    1
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