天に帰すまで!

滑竹 賽

第一話

―始まってしまった後―


 俺、佐々木壮太は、普通に中学三年間を過ごした。そして志望高校に無事受かり四月からその高校に普通に通う予定だった。普通と少し違うのは、四月から一人暮らしをすることくらいだ。

 まぁ、正確に言うと一人暮らしではなく長期間の留守番だけれど。親父がよくわからない仕事をしていて海外主張が多くほとんど家にいない。
母さんはかなり前に出ていってしまった。中学の頃は親父は、家になるべくいることにしていたが、どうしても海外に行かなければならないときはおばあちゃんが居てくれた。しかし三月の終わりに親父がこう言ったのだ。

「おばあちゃんも体が悪いし……。お前一人で留守番くらいできるよな?今年凄いことが分かってだな……ちょい来年度から忙しくなっちまうんだよ。てなわけでヨロピク☆」

 的なことを言って四月から俺はよくわからないまま一人で家にいることになった。親父は三ヶ月くらいで戻りまた出ていきの繰返しなるみたいなことを言っていた。ほとんど一人でいることになる。

 ちなみにだが親父のよくわからない仕事は確かなんかの研究をしている学者的ななにかだった気がする。遺跡をみて来るとか言っていた。なにを研究してるのか……。

 一人で暮らすことは思っていたほど大変ではなく、お金も親父が仕送りしてくれるし、むしろ一人の方が毎日が楽しかった。バイトに行き帰って来たら好きなアニメを見てそして寝る。休みの日は一日中寝てても叱られない。そんなぐうたらした春休みを過ごしていた。そして高校の入学式ある不幸が俺に訪れた……。

 そのせいで大変じゃない一人暮らしは超大変になり、休みの日のぐうたらもできなくなったり、とにかく〝普通”のまま生きていくはずの俺は望まずに〝普通じゃない゛高校生になってしっまた。ああ、神様なんとかしてください。いや、あれもこれも神様のせいだ。そう考えると神頼みをした自分が馬鹿らしくなりイライラしてきた。後でデコピンくらいしても大丈夫だろう。

 さて俺に普通の生活は戻ってくるのか……。


―始まる前―


 春の日差しが心地よく、爽やかな風が吹き渡るある日。今日俺は、無事入学式を終えて高校生になった。俺の高校はすこし田舎のほうにあり周りには田んぼがたくさんある。田んぼの横を俺は超ご機嫌にスキップしながらアパートに帰るところだった。ご機嫌なのは入学式が終わったからではない。今日は大好きな漫画がアニメ化され今日から放送開始なのだ。アニメ化の情報が入ってから今日まで楽しみにしていた。

 そんなことを考えながらスキップをしていたら強風が吹いてきた。春一番とかいうやつだろうか、この時期はやたらと風が強い。そんな風に負けずにスキップを続けていたら帽子が田んぼと反対側の林の奥へと飛んでいってしまった。まずいかなりまずい。あの帽子は命の次の次の……とにかく大事な帽子だ。好きな子から誕生日にもらった物だ。なので俺は考えもせずに林の奥へと入った。


 一時間くらい探しただろうか。思ったことが二つほどある。ここは林ではなく森だと思う。こんなに広い場所が林なはずがない。もうひとつはあの帽子はそんなに大事な帽子ではないかもしれない。もう少ししたら家に帰ろうと思う。

 そしてもう少し進むと開けた場所に出た。そこに、なんと帽子があった。驚いた。そんなことよりもっと驚くことがあった。女の子が帽子をつぶしている。歳は俺と同じくらいか少し幼いくらいだろう。そしてものすごく美人でかわいい。さらにかわいい寝息を立てて寝ている。さらにさらに巫女服を着ているではないか。俺は猫耳メイド萌えだが……。巫女服も悪くないな。

 よし帽子を回収しよう。起こすのは可哀想な気もするがほっとくほうがもっと危険だろう。

「あの……」

「むにゅむにゅ……」

 起きない。

「すみません……」

「むにゅむにゅ……むにゃ?」

 惜しい

「おーい」

「むにゅ……ふぇ?!」

 おお、起きた起きた。それにしてもむにゅとはなんだ。無駄にかわいい。

「お、お前は誰だ! ま、まさか我が寝ている間に変な妄想をしてあんなことやこんなことをしたのだな?! このド変態で下品なクズ男め!」

 女の子は、びっくりして立ち上がり俺を見て言った。なんというか、小学生が言う悪口みたいだ。しかし罵られて喜ぶような趣味を持っていない俺にはかなりの大ダメージのようだ。俺のヒットポイントも残りわずか……誤解を解かなければいけない。

「いや、そんなあんなこともこんなこともしてない。変な妄想も……多分してない。とりあえずそのお前がつぶしてる帽子を返してほしいな」

「帽子?ああ、このひどく汚れた変なもののことか。さっき我が拾ったのだ。感謝するがいい」

「汚れてるのはお前がつぶしてたからだろ……。まぁ、ありがとな。んじゃ」

 俺は帽子を受け取りその場から立ち去ることにした。この少女にかかわりたくない。なんか口調が変で中二病を患っているようなのでめんどくさそうだからだ。そしてもう俺は帰って眠りたい。

「なに?! お前はこの可憐な少女を見捨てるのか? 本気か?」

「そんな涙目で見られても……。神様にでも助けを求めるんだな。俺は、とにかく疲れた。帰りたいんだ」

「神様……。神か……」

 少女は神様という言葉を聞くと困ったように黙り込んだ。そしてまじめな顔をして俺に聞いた。

「……お前は神の存在を信じるか?」

「え?」

「お前は神を信じるかと聞いたのだ。神は人間の想像ではなく本当に存在すると思うか?」

「そりゃ……。見た事もないからなんともいえないけど、俺は信じるぜ。というかいて欲しいって思うな」

「ふむ……。その神とやらが助けを求めてたらどうするのだ?」

「そりゃ……助けるさ。いいことありそうだし」

「では、我を助けたまえ」

「いや、なんでだよ」

「お主は、神を助けるといっただろう?ほれ、ここに神がいるぞ?助けろ」

「………」

 どうやらこの子の中二病はかなりやばいらしい。自分を神とか言うのは本物の中二病だ。重症だ。なにをしても治らないくらい手遅れだ。ああ、本物の神よ、この子を助けてやってください。やはり俺には何もできない。よし、帰ろう。

「お主信じてないな?」

「当たり前だ、俺は帰りたい……。一人で楽しんでくれ。」

「ま、待て! 本当だ! 我は神なのだ!」

「神なら一人でなんとかできるだろ。そんなに言うなら証拠を見せてくれ」

「な……」 

 少女はまた、困ったようにうつむき黙った。そして俺が立ち去ろうとしたとき顔をあげて叫んだ。

「分かった! いいだろう! いいか、我は神だ。神なのだ。絶対に納得できる証拠を見せてやろう!」

「え?……マジ?」

「ここらに田んぼがあっただろう?」

「たくさんあるぞ。でもそれがどうかしたのか?」

「そこに行く」

 少女はそう言った瞬間田んぼに向かって走っていった。

「……とりあえず行くか」

 俺と少女は田んぼに向かった。少女は少し焦っているような困っているような表情をしていた。俺の気のせいだろうか。少し悲しいようにも見えたのは。

「見てろ……。これが証拠だ……」

 田んぼ着いたとたんその前に立ちなにかを呟いている。それはよくわからない言葉だった。聞いたこともない。

「おま、なにを……」

「黙って見ていろ。」

 なんだか気温が上がったように感じる。四月の暑さではない。それと同時に少女の回りにはぼやっとしたものが見えた気がした。次の瞬間回りが光り……。

「うわっ!……」

 回りの田んぼにあった稲は全て収穫できる状態になっていた。まるで秋のような景色。さっきの暑さはどっかに行き今は春らしい気温になっているが景色せいだろうか、少し涼しいような気もする。回りにいた人達も何事かと驚き唖然としている。しかし少女がなにかをしたとは気づいておらずただ田んぼを見ていた。

「お前……な、なにを……」

「はぁ、はぁ……ど、どうじゃ……我は神だと言ったはずじゃ。我の名は……天照大……天照大神じゃ……」

 少女は息を荒く上げながら言った。そしてこっちを睨む。そ

「我を……助けてくれ……」

少女はふらふらになりながら言う。

「た、助ける……? どういうことだよ…………」

 ドサッ。少女は倒れてしまった。


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