三代目魔王の挑戦!

シバトヨ

初めての裏切りに挑戦!

 残り四日。
 昨日も凄まじい模擬戦だったが、未だに魔力の使い方は分からずじまい。
 いい加減、冗談を言える余裕もなくなってきた。

「………………」

 それはクサリさんも同じようで、今日は事務的な会話しかしていない。

「このっ!」

「………………」

 無言で拳を払われ、

「ちっ!」

 払われた勢いを利用して、右足を軸に回転。
 左腕を伸ばしては、手の甲で強襲。

「どりゃぁ!」

 だが、クサリさんは無言のまま、俺の強襲を簡単に受け止める。

「ぐわっ!」

 左脇腹を蹴り込まれるが、

「今度は防いだっ! ぞっ!!」

 回転しながらも、右手で左脇をガードしていた。
 クサリさんの的確な蹴りならば、俺の今の体力ならば、完全に防げると考えていた。
 その予想は的中したし、

 予想していたからこそ、

「腑抜けてんじゃねぇえぞぉぉぉおおお!!!」

 半身を引いて、クサリさんの顔面に右ストレートを叩き込む。

「どうだっ!」

 クサリさんが宙を舞う。
 この世界に召喚されての初めての拳。
 初めて対面した時から、届かねぇと思っていた拳。

 それが届いた。



「誰が腑抜けているのですか?」

 え?

 いつも以上に冷ややかなクサリさんの声が届いたのと同時に、

「ぶふぅぇ!?」

 五回転半していた。
 世界が目まぐるしく回っている。



「さて……話の続きですが」

 と、芝生の上で虫の息になっている俺。
 そんなイケメンの顔「誰がですか?」を覗きこんで、

「誰がイケメンなのですか?」

「聞くなよっ!」

 イケメンじゃねぇって知ってるよっ! 地の文くらいは夢を見させろよっ!!

「それだけの元気があれば、もう一戦出来そうですね」

「………………」

 と、芝生の上で虫の息になっている俺。
 クサリさんは、そんな俺の顔を覗きこんで、

「はぁ……で? 誰が腑抜けている。と?」

 どうやら見逃して貰えたようだ。
 ただ……別件で問い詰められてるが。

「……うわの、空、だった、じゃ、ねぇえ、かよ」

 模擬戦は、一日に何度も出来るもんじゃない。
 ガチの殴り合い。最近は堪えられるようになってきたが、初日は数分で気絶。半日は身動きがとれなかった。
 しかも、開戦まで残り四日。時間は全くない。

 要は、俺が何を言いたいのか。と言うと、

「一秒でも、無駄に、出来ねぇえ、だろうがっ!!」

 上半身を起こし、睨み付けてくるクサリさんを睨み返す。

「……先ほど三十秒ほど無駄にされていましたが?」

「………………」

 そーですねっ!

「ですが。魔王様の言う通りですね」

 表情を柔らかくしたクサリさんは、俺の隣に腰を下ろす。

「今現在。ペルンに私の部下を密偵として向かわせています。昨日は最後の報告書が届くはずだったのです」

「………………」

 はずだったのです。と言うことは、報告書は届いていないってことだ。

「単純に到着が遅れているのか。あるいは……」

 言わんといていることは理解できた。
 無名な大学に通っていたが、空気が読めないわけでもない。どっちかといえば、読める方だと自負している。

「問題は、敵がどういう行動に出てくるか。バカな領主であればいいのですが……」

 バカな人間が領主なんて、人を束ねるような地位に着けるのか?
 そんな疑問を口にする前に、一匹のコウモリが飛んで来た。

『隊長! 緊急事態です!!』

「喋る蝙蝠ってことは」

「モルモーさんですね。如何されましたか?」

『ペルンの兵士らがっ!』

「「っ!?」」

 俺とクサリさんは、すぐさま魔王城へと向けて走り始めた。



 魔王城。
 俺が異世界に転生してからは、城の周辺で過ごしている。
 クサリさんとの模擬戦なんかも、魔王城から東に移動したところで行っている。
 ちなみにペルンは西側。北側は崖で、海が広がっている。南側は長閑のどかな草原で、俺が転生された場所でもある。

「それで?」

『はい、西側から南西に兵を展開しているようです』

 西から南まで覆い囲んで一気に攻めるってか?
 だったら、なんで東側は開けてるんだ? まだ覆っている途中なのか?

「分かりました。まもなく到着しますので、籠城の準備をお願いします」

『かしこまりました!』

「クサリさん」

「なんでしょうか? お荷物様」

 いや、おんぶされてるから荷物になってるのは分かるけど!
 動けなくなるまでボコったのはクサリさんでしょ?

「……なんで籠城なんだ? 兵士を分散させてるなら、西側の兵士らを蹴散らして、そのままペルンに攻めればいいんじゃねぇの?」

「それが出来るだけの兵力差であれば、そうしているのですが」

「……そんなに差があるのか?」

「数日前の報告書では、一人当たり二百人を相手にする必要がありますね」

「………………」

 二百人……どう考えても負けるだろ。この戦い。
 え? 俺。初日に結構大きな口を叩いたんですけど?

「覚えてますよ」

 と、俺の心の声を一字一句聞き逃してくれないクサリさんは言う。

「俺が魔王になってやるよ。隣街どころか、大陸制覇も、実現してやるっ! でしたね」

「……イッテナイヨ、ソンナコト」

 言ってないことにして欲しい。
 あの時はチート能力が備わっていると思ってたからなぁ~。
 全然だったわけだが。むしろ雑魚なんですが。

「それはともかく。魔王様」

「なんですか?」

「魔王様には、謝罪をしなければなりません」

「え?」

 謝罪? クサリさんが?
 冷徹非道な特訓を強いてくるクサリさんが?

「ここに捨ててきますよ?」

「ごめんなさい、温厚でとびっきり優しいクサリ様!」

「分かればよろしいのです」

 俺って魔王だよね? ここ二週間の扱いで、実は、俺って魔王じゃないんじゃないかと不安になっている。

「二週間前と言えば、私が魔王様を召喚した日になりますね」

「そーですね!」

 これ以上は反論を抱くことさえ辞めておこう。
 タコ殴りにされる未来が、クサリさんの握り拳を通じて見えてきたからな。うん。

「話を戻しますが、魔王様。まず……私の身勝手な戦いに巻き込んでしまい、申し訳ございません」

 今さら。

「むしろ足手まといになっちまって……悪「それとですね」」

 クサリさんは俺の謝罪を遮り、

「魔王様。魔王様はご自身を弱い。魔力がろくに使えない。と、思い込まれていますね?」

「あ、あぁ」

 思い込むというか、事実だろ?

「実は魔王様。四日ほど前から魔力を使えているのですよ」

「……え?」

 使えてたのか? 俺。

「そうですね。その兆候は、魔王様を召喚してから十日ごろでしょうか。細やかな魔力制御を身に付けると同時に、戦闘の経験を積ませたかったのです」

 つまり、

「俺がボコられ始めた日には、魔力のマの字が見えていたってことか?」

 あれ?

「だとすれば、なんで俺は魔法が使えなかったんだ?」

「単に才能が無かっただけかと」

「酷くないっ!?」

 もっとオブラートにっ!

「魔法はともかく。今の魔王様の実力は、私の部下と遜色がありません。胸を張ってください、魔王様」

「………………」

 クサリさんの部下――魔王専属メイド隊がどれくらい強いのかは分からねぇ。

 が、

「任せとけっ!!」

「あ、魔王様。上半身を起こさないでください。落としてしまいますので」

「………………」

 締まりがねぇ~なぁ~。

 戦力の不安以上に、俺の扱いに不安が募ってきた。



「これでよろしかったので?」

「あぁ。十分だよ」

「ふふっ。まさか、一国の王が接触してくるとは。世の中は何が起きるか分かりませんね?」

「それはそうだね。魔界の、それも初代魔王の娘さんが、僕に協力してくれるとは、思ってもみなかったからね」

「そうですわね。勇者領の国王様」

「三代目魔王の挑戦!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く