三代目魔王の挑戦!

シバトヨ

初めての異世界に挑戦!

 俺――棚部たなべりょうは、大地に寝転んでいた。
 凄く清々しい気分だ。まるで、ライバルと競った結果、相討ちだったかのような……

「涼しげな回想をされている最中ではございますが、魔王様」

「………………」

「その比喩には、訂正箇所が二ヶ所ございます」

「………………」

「眉間にシワがよっておりますが……まず、ライバルではなくメイドでございます。次に、相討ちではなく、一方的に、片手間で、呆気なく、地面に後頭部を付けている。が、正しいのでございます」

「うるせぇよ! 回想くらい! 夢を見させてくれよっ!!」

 分かってるよっ! 重々承知してますよっ!!
 平成生まれの平和な時代で、ノホホンと過ごしていた俺が!

 眼が覚めたら剣と魔法の異世界でした!

 ……いや、ここまでは良いんだよ。うん。
 異世界転生か転移か知らねぇけど、ラノベ好きとしては、願ったり叶ったりな展開じゃねぇか。
 震えたよ。全身が鳥肌ものだったよ。マジで。

 俺を滅多打ちした「一撃でしたよ?」フリフリメイド服を着ているクサリさんを見て、……なるほど…………ハーレムオプション付きか。って、打ち震えてたよっ!

 それがっ! なんなんだよっ!?

「チート能力がねぇなら! 雑魚じゃねぇかよっ!!」

 マジでふざけんなよっ!? こちとら、喧嘩すら見たことねぇ平民だぞ!? ゆとり世代と言われたアマアマ世代だぞ!!?

「もっと楽をさせてくれよぉぉぉおおお!!!」

「……先日の宣言は、一体なんだったのですか?」

「知るかっ! そんなもんっ!!」

「はぁ……ともかく」

 クサリさんは駄々をこねようとしていた俺を起こして、

「まだ始まったばかりですから。寝ている暇はございませんよ」

 笑顔で鬼教官と変貌した。



 魔王専属メイド対。
 全部で七つある部隊で、一人一人が戦闘能力に長けた種の魔族で構成されている。
 一部隊はメイド長と呼ばれる、言わば隊長を含めた十人。
 隊長格には、魔王七つ道具という特殊な能力と呪いが掛けられた装備を持たせてある。

 勇者領と大陸を巡って戦争をしていたが、三十年前に初代魔王が討たれた。
 初代魔王が討たれてから一ヶ月もしないで二代目が現れたが、勇者領には歯が立たなかった。
 現在は異世界から召喚した人間が、三代目魔王として修行の日々を過ごしている。

 で……その三代目魔王ってのが、平成生まれで十八歳の俺だ。
 もとの世界に残してきた彼女が心配だが……なに。焦る必要はない。

「目的を果たしたら、すぐに帰るからな……」

「彼女なしイコール年齢。そう伺っておりますが?」

「マ……誰から聞いたんだよ? おい、クサリさん」

 待ってる異性は、母さんぐらいだろうな。うん(涙)。

「どうやら文字の習得と、我々の予備知識は頭に入りつつあるようですね。魔王様」

「ふん。あんまり俺をなめんなよ?」

 この世界の文字を読む・・ことに関しては、一時間弱で覚えてやったからな!

「仮名文字だけですがね」

「笑顔で言うなよ……」

 たった二日で、クサリさんがドSよりだと判明した。おかげで、ちょっとゾクゾクしちまうだろうが。

「さて……全力ダッシュをしましょうか」

「………………」

 風邪でもひいたんじゃないだろうか。
 汗――特に背中が、ぐっしょりと濡れてきた。

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