徒然なるままに
The margin of the chest
俺は、その日もいつもと同じように研究室に篭っていた。
本当に何も変わらない日常だ。
-そのはず、なのに。
「…ここって、こんなにつまんねー場所だっけ」
ふと言葉が口をついて出る。
ここはとても静かで、外を時折他の研究員が通ったり秋が俺の様子を見に来たりする程度にしか音がしない。
それがいつも、なのに。
元の日常が帰ってきた、それだけの事なのに。
それがいつもじゃない時間を知った俺の胸は、違うと訴えてくる。
忘れることも許してくれない。
…忘れることなんて出来ない、俺が何もしてやれなかった記憶。
忘れようとしたことなんて1度もないけど。
「…忘れられたらどんだけ楽か」
…あー、これ以上考えるのはやめよう。
きっと秋が心配する、あいつ割と面倒見いいし俺迷惑かけっぱなしだし。
気分転換、と思って席を立ち研究室を出ようとすると突然視界が低くなった。
「…ん?」
おかしい、と思った時にはそれは始まっていた。
鼓動が急に速くなる、それに呼応するように息が追いつかなくなった。
体が酸素を取り込もうとして逆に俺の首を絞める。
程なく、俺の体は床に投げ出されたが俺はそれすら分からなかった。
苦しい
死にたくない
嫌だ
誰か-
俺は、あの子たちの分まで…
「…ぁ…」
ほとんど見えない目を細めて、必死に手を伸ばす。
けど、分かりきっていた。
誰も手を取ってくれないことなんて。
『…人は、最期は1人だ』
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