神の代理人

神崎詩乃

森の戦争屋

 昨夜のうちに荷物をまとめ、宿を引き払い、歩く事5時間。俺達は森の中にいた。既に空は白み始めていたので、朝食にする事にした。

「あぁ…眠いよ。なんでいきなり強行軍でこんな森の中に…あ、このベーコン美味し。」
「戦場は選ぶもんだ。出来るだけ自分の有利なようにな。」
「ふぅん。あ、この卵焼き?おいしい〜」
「……でも、どうして森の中?」
「敵の数を減らす為だな。敵はこの森の中で数の利を生かせない。俺は勝手に動く。森林ゲリラは俺の武器って訳だ。」
「相変わらず発想が下衆だね。」
「ヘカテ、敵の位置は?」
ふぁっちあっち
「食うか喋るかにしろよ。」
「んぐ。あっち。彼らは夜行性のようだね〜今は思い思いの場所で寝てるよ。」
「そうか。」
「でもさ、今回の奴らとても鼻が利くから気をつけてね。ほんとに」
「アミ、ルーを保護していてくれ。」
「分かりました。」
「じゃあアミと私とルーちゃんは後方待機。カイトが森の中で暴れ回るって事で。」
「あぁ。」

 朝食を終えると周囲にトラップを仕込んでいく。
 鳴子、落とし穴、投網、蜘蛛糸……etc.

「いいか?無闇矢鱈と動くなよ?大体即死しないけど。」
「分かった。」
「おー怖い怖い。」
「……。お気をつけて。こちらの守りは私におまかせを。」
「あぁ、頼んだ。」
「じゃあ、せいぜい長生きしてね」
「あぁ。」

 闇エルフの時とは違い、今回は先に到着しているこちらから攻め込みに行く。ヘカテから寝ているという情報を得ている為、奴らにとっては夜襲という訳だ。せいぜい嫌がらせをやってやろう。

 しばらく歩いているとヘカテから腕輪を通じて連絡があった。
『聞こえるかなーだいたいその方角で合ってるけど。』
『了解。逸れたら教えてくれ』
『りょうかーい』

 更に歩くと、奴らの野営地らしき開けたところが見つかり、獣のような臭いが鼻をつく。

『おぉ。敵だよ。寝てる今ならチャンスだよ。』
『その前に、準備する。』
 まずは手当たり次第に植物を集める。燃やすと強烈な臭いを放つ様なものと煙が沢山出るものを混ぜ、玉にして火をつけ、奴らの陣地に投げ入れる。するとモクモクと煙が上がり、辺り一面に広がっていく。

「な、何事だ!」
「Gu?」
「Uhー」

 どうやら寝起きドッキリ作戦は成功を収めたらしく、皆飛び起きて辺りを見回す。そこにナイフを持った殺人鬼が居るともしれずに…。

 大量に出てきた連中をテキトーに切り刻む。血と臓物が辺り一面に広がり、濃密な香りが包み込む。しばらく経って音が聞こえなくなった頃一人の男がこっそりと動き出した。

「くそっ何者だ!誰か!誰かいないのか!」
「手を挙げて膝を着きな」
「なっ、誰だ!」
「通りすがりの殺人鬼さなんでも『冥府ノ神子』を狙ってる集団がいるってんでね。興味を持ったのさ。」
「通りすがりの殺人鬼だと?何を抜かしやがる!」
「動くんじゃねぇよ。首切り落とすぞ?」
「…わ、分かった…。お前の要求を聞こう。」
「邪神の啓示を受けた連中の本拠地は?」
「なっ邪神とは不敬な!イニシス様と呼べ!」
「そうか首いらないのか?ん?」

 首にかけた糸を手繰り寄せるとキリキリと締まり、首に微かな血の跡が刻まれる。

「ひっわ、分かった。話そう!話す!」
「早くしてくれる?だいたい殺し終わったから。」
 煙の中大量にぶっ殺した色んな物の臓物をテキトーに掴むと首輪に繋がれた哀れな男の顔に押し付ける。
「ひっひぃぃ!」
「早くしろって。」
「に、西の渓谷に我々イニシス教団の本部がある今回の襲撃は教団幹部が計画したんだ。私は関係な……。」

 ポトリと音がした。続いて血が辺りを濡らす音と湿った音を立てて倒れるものがあった。

『君さ、どうやってあの煙の中あんなにテキトーに殺しまくったの?』
『ん?音だよ音。あと気配な。』
『うっそだー人間にそんな真似出来るわけないだろ?』
『え?カイトって人間なの?』
『え?ルーちゃん知らなかったっけ?』
『うん。』
『とにかく…。西の渓谷に首謀者がいるらしいぞ?』
『分かりました。一応全て殺し切ってると思いますが、お気をつけくださいまし。』
『あぁ。分かった。』

 施設にいた頃、まず初めに叩き込まれるのは手足が縛られた状態での暗殺法と暗闇、煙の中で暗殺する方法だった。

 真っ暗な部屋に何人かで入るとスタンバトンを手渡され、最後の一人になるまで戦いが始まる。その為、目が見えなくても、手足が使えなくても、死んでいなければ殺せる様にそう指導された。

「けっ」

 返り血を浴びても良いように外套を羽織っていたが、逆に返り血を浴びすぎたのかじっとりと湿り気をおび始めてきた。

『君の近くに生き物なし。凄いよ。たった一人で奇襲してズタボロにするだなんて。流石通りすがりの殺人鬼』
『うるせぇ。』
『ナイフは後ほど後処理と手入れをさせていただきますが大丈夫ですか?』
『あぁ。分かった。』
『あと、魔岩の収集をお願い致します。恐らくマスターの足元あたりにゴロゴロと歪な紫の岩があると思われます。』
『あぁ。あるな。血の海の中に』
『魔物の体内に宿る岩です。冒険者ギルドに渡せばお金になりますし、魔道具の素材にも使えるので、便利ですよ。』
『ふぅん。ならさ、全員で取ろうか。さすがに俺一人じゃ無理。』
『分かりました。では、マスターが帰還し、周辺の罠を解除して頂いてから収集するとしましょう。』
『カイト居ないと動けない。』
『あぁ、そうだったな。もうすぐ日が暮れるだろうし、回収は明日だな。』
『では、そのように。』

 その後も明日の打ち合わせを通信腕輪で行いながら歩いて拠点まで引き返した。

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