神の代理人
記憶の欠片
 朝、未だ明けぬ空を見つつ、身体を起こす。右のベッドにはルーとそれに抱きつくようにヘカテが寝ていて、入口にはアミが待機している。
「おはようございます。マスター。」 
「あぁ、おはよう。」
「ちょっと出てくる。2人のこと見ていてくれ。」
「分かりました。では、こちらをお持ちください。」
 アミから手渡されたのは色々な文字式が刻まれた腕輪だった。
「これは?」
「魔力探知と通話の腕輪になります。お持ちください。」
「あぁ、何かあれば連絡する。」
「えぇ。必ずお願いします。」
 宿から出ると街灯の灯りは疎らになっており、路地を歩く人影も、車もいない。まるで世界が死んでしまったかのような錯覚に陥りながら昨日手にいれた闇蜘蛛の糸を伸ばす。
 フラフラと街の入口の方にある高台に登ると明るくなり始めた空を見上げる。
 昨日の戦闘で忘れ去られていた記憶の一部を取り戻した。
 そう、あれはどこかの施設の訓練所……。自分と同い年位の男女が集められ、訓練に励んでいた…あの頃。
 得物はナイフ、ロープ、モデルガン……。様々な武器が取り揃えられ、綺麗に並べられていた。
「17番、こいつが今日からお前の練習相手だ。」
 子どもらは全員番号で管理され、模擬戦の組み合わせも大人が決めていた。
「……。よろしく。」
「えぇ。」
 酷く華奢な体つきで、体格も細かった。それだけは覚えている。
 訓練は対人戦闘、座学、技術等々多岐にわたり、施設を出る頃には二人とも立派な殺し屋に育っていた。
 あとから知ったが、その施設は身寄りのない子どもを集めて薬の実験や戦闘訓練を施して軍備に回すなど非人道的な機関だったらしい。
「さて、君はこれからどうするの?」 
 施設を出てしばらく歩いた頃、そいつは口を開いた。
「さぁな。」
「どこかの組織に入るか、色々と選べるよ。」
「俺達に選択肢なんてあってないようなもんだろ?」
「確かに。」
 ふふっと笑うその顔は無邪気で同じ施設出身者とは思えないほどだった。
「あいつ…今どうしてんのかな」
「『あいつ』って誰のことかな〜?」
「うるせぇ。」
「つれないねぇ」
 薄く流れる雲を眺めながら、遥か彼方を睨む。ヘカテはいつの間にか後ろに立ち、眺めている方向とは別の方角を指さした。
「あっち。んーオーク20体とワーウルフ15匹、監視者2人に教祖が1人だね」
「もう見える位置にいるのか?」
「いんや。彼らのペースを考えると街に到着するのはあと2日って所かな」
「今回のターゲットはそいつらって事でいいんだな?」
「うん。」
「そうか。明日、迎えに行ってやろう。」
「え?君の事だから街で篭城するもんだと思ってたよ。」
 確かに、それは初めに考えた。わざと街に引き入れ結界が効いているうちに敵を殺せば被害は出るが確実に依頼はこなせる。
「街の人間を巻き込んでもいいならそうするが?」
「まぁ、できれば巻き込まない方がいいね。うん。厳しそうなら私も後方支援位はできるよ。」
「そうか。」
「それで?彼女はどうするんだい?」
「……。まだ戦えない。宿に預けておく。」
「……。君が決めてもいいけど、彼女とも話し合いな。多分もう大丈夫なはずだよ。」
 ヘカテは大丈夫と言うが…彼女は恐らく壮絶な人生を送ってきた。そんな彼女がたとえ動けたとしても戦闘には向いていない。
 だが、話し合うというのも一理ある話だ。
「分かった。話してみる。」
「やれやれ。それで?彼女が無理だった場合やっぱり君が前線に立つの?」
「最初からそのつもりだ。まぁ、今回は武器もあるしな。」
「そう。ならそんな君にこの手袋を進呈しよう。」
「?なんだ?これは。」
「ふふーん。君が糸を使うなら糸を使いやすくする手袋がいると思ってね。この手袋で糸を使えば魔力の無駄なく使えるし、魔力を使えばほぼ無尽蔵糸に出せるんだよ」
「なるほど。使い勝手は良さそうだな。」 
「君、ホントに一人でやるの?」
「まぁ、そうなるな。」
「死なないでよ?」
「死なねぇよ。さてと、じゃあそろそろ戻るか。」
「だね。」
部屋に戻るとルーが起き上がり、歩く練習をしていた。その様子はまるで生まれたての子鹿のようである。
 
「ただいま。ルー…動いて大丈夫なのか?」
「……。動かないでいるよりマシだから。」
「そっか。」
「それに、またなにか起きるんでしょ?」
「……。あぁ。」
「私も連れていって」
「いや、でも…。」
「連れて行って。」
 その瞳には昨日のような絶望など欠片もなく、何かに対する覚悟があった。
「……。分かったが…危なくなったら頼れ。」
「うん。分かった。」
「朝食の用意が出来ました。」
「あぁ。ありがとう。」
 明日には死ぬかもしれない戦いに身を投じる事の恐ろしさ…忘れかけていたその思いをルーは思い出させてくれたような気がした。
「おはようございます。マスター。」 
「あぁ、おはよう。」
「ちょっと出てくる。2人のこと見ていてくれ。」
「分かりました。では、こちらをお持ちください。」
 アミから手渡されたのは色々な文字式が刻まれた腕輪だった。
「これは?」
「魔力探知と通話の腕輪になります。お持ちください。」
「あぁ、何かあれば連絡する。」
「えぇ。必ずお願いします。」
 宿から出ると街灯の灯りは疎らになっており、路地を歩く人影も、車もいない。まるで世界が死んでしまったかのような錯覚に陥りながら昨日手にいれた闇蜘蛛の糸を伸ばす。
 フラフラと街の入口の方にある高台に登ると明るくなり始めた空を見上げる。
 昨日の戦闘で忘れ去られていた記憶の一部を取り戻した。
 そう、あれはどこかの施設の訓練所……。自分と同い年位の男女が集められ、訓練に励んでいた…あの頃。
 得物はナイフ、ロープ、モデルガン……。様々な武器が取り揃えられ、綺麗に並べられていた。
「17番、こいつが今日からお前の練習相手だ。」
 子どもらは全員番号で管理され、模擬戦の組み合わせも大人が決めていた。
「……。よろしく。」
「えぇ。」
 酷く華奢な体つきで、体格も細かった。それだけは覚えている。
 訓練は対人戦闘、座学、技術等々多岐にわたり、施設を出る頃には二人とも立派な殺し屋に育っていた。
 あとから知ったが、その施設は身寄りのない子どもを集めて薬の実験や戦闘訓練を施して軍備に回すなど非人道的な機関だったらしい。
「さて、君はこれからどうするの?」 
 施設を出てしばらく歩いた頃、そいつは口を開いた。
「さぁな。」
「どこかの組織に入るか、色々と選べるよ。」
「俺達に選択肢なんてあってないようなもんだろ?」
「確かに。」
 ふふっと笑うその顔は無邪気で同じ施設出身者とは思えないほどだった。
「あいつ…今どうしてんのかな」
「『あいつ』って誰のことかな〜?」
「うるせぇ。」
「つれないねぇ」
 薄く流れる雲を眺めながら、遥か彼方を睨む。ヘカテはいつの間にか後ろに立ち、眺めている方向とは別の方角を指さした。
「あっち。んーオーク20体とワーウルフ15匹、監視者2人に教祖が1人だね」
「もう見える位置にいるのか?」
「いんや。彼らのペースを考えると街に到着するのはあと2日って所かな」
「今回のターゲットはそいつらって事でいいんだな?」
「うん。」
「そうか。明日、迎えに行ってやろう。」
「え?君の事だから街で篭城するもんだと思ってたよ。」
 確かに、それは初めに考えた。わざと街に引き入れ結界が効いているうちに敵を殺せば被害は出るが確実に依頼はこなせる。
「街の人間を巻き込んでもいいならそうするが?」
「まぁ、できれば巻き込まない方がいいね。うん。厳しそうなら私も後方支援位はできるよ。」
「そうか。」
「それで?彼女はどうするんだい?」
「……。まだ戦えない。宿に預けておく。」
「……。君が決めてもいいけど、彼女とも話し合いな。多分もう大丈夫なはずだよ。」
 ヘカテは大丈夫と言うが…彼女は恐らく壮絶な人生を送ってきた。そんな彼女がたとえ動けたとしても戦闘には向いていない。
 だが、話し合うというのも一理ある話だ。
「分かった。話してみる。」
「やれやれ。それで?彼女が無理だった場合やっぱり君が前線に立つの?」
「最初からそのつもりだ。まぁ、今回は武器もあるしな。」
「そう。ならそんな君にこの手袋を進呈しよう。」
「?なんだ?これは。」
「ふふーん。君が糸を使うなら糸を使いやすくする手袋がいると思ってね。この手袋で糸を使えば魔力の無駄なく使えるし、魔力を使えばほぼ無尽蔵糸に出せるんだよ」
「なるほど。使い勝手は良さそうだな。」 
「君、ホントに一人でやるの?」
「まぁ、そうなるな。」
「死なないでよ?」
「死なねぇよ。さてと、じゃあそろそろ戻るか。」
「だね。」
部屋に戻るとルーが起き上がり、歩く練習をしていた。その様子はまるで生まれたての子鹿のようである。
 
「ただいま。ルー…動いて大丈夫なのか?」
「……。動かないでいるよりマシだから。」
「そっか。」
「それに、またなにか起きるんでしょ?」
「……。あぁ。」
「私も連れていって」
「いや、でも…。」
「連れて行って。」
 その瞳には昨日のような絶望など欠片もなく、何かに対する覚悟があった。
「……。分かったが…危なくなったら頼れ。」
「うん。分かった。」
「朝食の用意が出来ました。」
「あぁ。ありがとう。」
 明日には死ぬかもしれない戦いに身を投じる事の恐ろしさ…忘れかけていたその思いをルーは思い出させてくれたような気がした。
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