神の代理人
近代都市「ダラス」
 おかしい。死界の森より南にあるダラスという町は色々とおかしな点があった。
 まず、衛兵ないし警察系組織が街中にいない。その理由はなんだ?死界の森には魔狼もいる。人喰い鬼もいる。なのに…なぜ……。
 ガス灯が揺らめき、路地に影を落とす。だいぶ古いタイプの車が街道を走り、砂煙を上げる。
「車があるんだな。」
 あの山賊達が持っていた武器、服装から技術レベルは、中世かそこらだと思っていたが…まさか車があるとは思っていなかった。
 車道と歩道で区別され、店は建物の中にある。近代的というか…イメージと何かが違う。
「何油売ってんのさ。買い物は?終わったの?」
 いつの間にか左に頬を膨らませたヘカテがいた。
「なぁ、ヘカテ…お前やっぱアホだろ?」
「なっ才色兼備!冥界の亡者共のアイドルヘカテちゃんになんて言い草だっ」
「……。お前、俺まだこの世界の文字読めねぇんだが?」
「あぁ、そうだったね〜。ん?待てよ?君が読めないって事は字が読める人って4人中2人か!?」
「そのうち1人は機凱種でもう1人は神様だな。」
「ルーちゃん読めないかな。」 
「どうかな?状況的に難しそうだが?」
「まぁね。じゃあさっさと買い物済ませよ。」
「あぁ。そうだな。」
 山賊を始末した金で今後必要そうな生活物資を入手し、回復祝い用にお粥を振る舞うことにしたので、それの材料も買い込む。
 様々なものを見てヘカテが読んだのを聞いて買い物が終わる頃には大体文字が読めるようになっていた。
 部屋に戻ると、泣き疲れたのかルーは寝ていて、アミがその様子を見ていた。
「おかえりなさい。マスター。」
「あぁ。ただいま。寝てるのか?」
「まぁ、初めのうちは消耗が激しいからね。彼女鬼人種だし。」
「何がだ?」
「えーと、まずどこから話せばいい?」
「何を話したいんだよ」
「この世界の魔法の事」
「1から10まで。」
「じゃ、めんどくさいからアミ、料理の片手間でいいから教えてやって。」
「分かりました。」
「お、おう。」
「まず、この世界には大きく分けて2つの魔法があります。1つは詠唱魔法。もう1つは刻印魔法。」
「詠唱魔法は何となくわかるが刻印魔法ってのはなんだ?」
「刻印魔法はその名の通り物体に魔法文字を刻印し、そこに魔力を流す事で発動させることが出来る魔法です。」
「詠唱魔法との違いは?」
「詠唱魔法はイメージによって威力や効果をある程度調整可能です。しかし、刻印魔法は一定の効果しか得られません。」
「なるほど。魔力消費をある程度調整出来るのが詠唱魔法で一定量しか使わないがそれを超える効果を得られないのが刻印魔法って事か」 
「その通りです。」
「で、今ルーの身体に装着した義手と義足には神経接続魔法が刻印してあるの。」
「……つまり……?」
「はぁ……。つまり腕を使えば使うだけ魔力を常時一定量消費するし、歩けば歩くほど一定量の魔力を消費するってこと。」
「なるほど。でも鬼人種は只人の俺より魔力あるんだろ?」
「いえ、固有魔力は大して変わりありません。」
「マジか?」
「個体差はありますが、基本的に鬼人種は頭部にある角で空気中にある自由魔素を吸収し、使うのです。」
「そう言えば…彼女角が1本しかないね。」
「1本だとなんか問題があるのか?」
「ポンプで水を汲む時、吸い込み口が1本しかないのと2本あるのどっちが良い?」
「納得した。」
「恐らく、只人とのハーフなんだろうね。」
 ちらと視線を向ければ、そこには安心した様な無邪気な寝顔がそこにある。流石に窶れているので健康的とはいえないが、それは今後の生活次第だろう。
「夕餉の支度が出来ました。お粥とは…中々面白い料理ですね」
「まぁ、市場に米っぽいものがあったからな。消化にもいいし。」 
「へぇ。これが…。」
 鍋から皿によそった頃、ルーが目を覚ました。
「いい…匂い。」
  すぐさま手を伸ばそうとして、ぎこちなく義手を動かす。
「まぁ、待てって。まだ身体にダメージ残ってるだろ。食わせてやるから。」
 先程の話を聞き、今食事をするにもルーは魔力を消費するのだ。体力も回復していない今、できるだけ負担は減らした方がいい。
 匙に乗せ、少し冷ましてから口に運んでやるとルーは恐る恐る口を開き、お粥を口にした。
「グルーツェ!」
「グルー??なんだ?」
「おいしいって言ったのさ。」 
「なるほどな。アミに感謝しろ〜不思議なことに俺が作ったら死にかける人間が続出したからな。」
「君はキッチンに来るなよ?」
「大丈夫ですよ。皆さんの食事は私が用意致しますから。」
「……。よろしく。」
「お任せ下さい。」
 死にかけていた目は輝きを取り戻し、あっという間に平らげてしまった。
「さて、美味しい夕飯も終わったし、ほら、寝てろ。」
「……。なぜ?」
「何故って……。体力回復の為か?」
「回復したらどうするの?」
「まずはその腕と足に慣れなきゃな」
「……。」
「わかったら寝とけ。」
「分かった…。」
 不承不承と言った感じだが、満足できるだけ食べていたので眠りにつくのは早かった。
 
「さて、彼女のことは今一旦置いといて、緊急事態だ。二人とも。」
「なんだよ。」
「邪神の啓示を受けた奴らがまっすぐここにやってくる。」
「……。狙いは?」
「『冥府ノ神子の殺害』だよ。」
「ふぅん。」
「都市の中では結界があるから早々モンスターが入り込むことはないけど、街から一切出られなくなるのも困る。」
「要するに、また俺に『殺せ』と依頼するんだな?」
「……。あぁ。死にたくないでしょ?」 
「まぁな。」
 未知の世界で、未知の相手を殺害する。それには情報が少なすぎる。明日は酒場にでも潜り込んで話を聞き、情報を手に入れるとしよう。
 場所、時期、相手の戦略の予想。流石にルーを巻き込む訳にはいかない。
 夜の始まりとともに、街に向かって進む影の存在など未だ気づく余地は無かった。
 まず、衛兵ないし警察系組織が街中にいない。その理由はなんだ?死界の森には魔狼もいる。人喰い鬼もいる。なのに…なぜ……。
 ガス灯が揺らめき、路地に影を落とす。だいぶ古いタイプの車が街道を走り、砂煙を上げる。
「車があるんだな。」
 あの山賊達が持っていた武器、服装から技術レベルは、中世かそこらだと思っていたが…まさか車があるとは思っていなかった。
 車道と歩道で区別され、店は建物の中にある。近代的というか…イメージと何かが違う。
「何油売ってんのさ。買い物は?終わったの?」
 いつの間にか左に頬を膨らませたヘカテがいた。
「なぁ、ヘカテ…お前やっぱアホだろ?」
「なっ才色兼備!冥界の亡者共のアイドルヘカテちゃんになんて言い草だっ」
「……。お前、俺まだこの世界の文字読めねぇんだが?」
「あぁ、そうだったね〜。ん?待てよ?君が読めないって事は字が読める人って4人中2人か!?」
「そのうち1人は機凱種でもう1人は神様だな。」
「ルーちゃん読めないかな。」 
「どうかな?状況的に難しそうだが?」
「まぁね。じゃあさっさと買い物済ませよ。」
「あぁ。そうだな。」
 山賊を始末した金で今後必要そうな生活物資を入手し、回復祝い用にお粥を振る舞うことにしたので、それの材料も買い込む。
 様々なものを見てヘカテが読んだのを聞いて買い物が終わる頃には大体文字が読めるようになっていた。
 部屋に戻ると、泣き疲れたのかルーは寝ていて、アミがその様子を見ていた。
「おかえりなさい。マスター。」
「あぁ。ただいま。寝てるのか?」
「まぁ、初めのうちは消耗が激しいからね。彼女鬼人種だし。」
「何がだ?」
「えーと、まずどこから話せばいい?」
「何を話したいんだよ」
「この世界の魔法の事」
「1から10まで。」
「じゃ、めんどくさいからアミ、料理の片手間でいいから教えてやって。」
「分かりました。」
「お、おう。」
「まず、この世界には大きく分けて2つの魔法があります。1つは詠唱魔法。もう1つは刻印魔法。」
「詠唱魔法は何となくわかるが刻印魔法ってのはなんだ?」
「刻印魔法はその名の通り物体に魔法文字を刻印し、そこに魔力を流す事で発動させることが出来る魔法です。」
「詠唱魔法との違いは?」
「詠唱魔法はイメージによって威力や効果をある程度調整可能です。しかし、刻印魔法は一定の効果しか得られません。」
「なるほど。魔力消費をある程度調整出来るのが詠唱魔法で一定量しか使わないがそれを超える効果を得られないのが刻印魔法って事か」 
「その通りです。」
「で、今ルーの身体に装着した義手と義足には神経接続魔法が刻印してあるの。」
「……つまり……?」
「はぁ……。つまり腕を使えば使うだけ魔力を常時一定量消費するし、歩けば歩くほど一定量の魔力を消費するってこと。」
「なるほど。でも鬼人種は只人の俺より魔力あるんだろ?」
「いえ、固有魔力は大して変わりありません。」
「マジか?」
「個体差はありますが、基本的に鬼人種は頭部にある角で空気中にある自由魔素を吸収し、使うのです。」
「そう言えば…彼女角が1本しかないね。」
「1本だとなんか問題があるのか?」
「ポンプで水を汲む時、吸い込み口が1本しかないのと2本あるのどっちが良い?」
「納得した。」
「恐らく、只人とのハーフなんだろうね。」
 ちらと視線を向ければ、そこには安心した様な無邪気な寝顔がそこにある。流石に窶れているので健康的とはいえないが、それは今後の生活次第だろう。
「夕餉の支度が出来ました。お粥とは…中々面白い料理ですね」
「まぁ、市場に米っぽいものがあったからな。消化にもいいし。」 
「へぇ。これが…。」
 鍋から皿によそった頃、ルーが目を覚ました。
「いい…匂い。」
  すぐさま手を伸ばそうとして、ぎこちなく義手を動かす。
「まぁ、待てって。まだ身体にダメージ残ってるだろ。食わせてやるから。」
 先程の話を聞き、今食事をするにもルーは魔力を消費するのだ。体力も回復していない今、できるだけ負担は減らした方がいい。
 匙に乗せ、少し冷ましてから口に運んでやるとルーは恐る恐る口を開き、お粥を口にした。
「グルーツェ!」
「グルー??なんだ?」
「おいしいって言ったのさ。」 
「なるほどな。アミに感謝しろ〜不思議なことに俺が作ったら死にかける人間が続出したからな。」
「君はキッチンに来るなよ?」
「大丈夫ですよ。皆さんの食事は私が用意致しますから。」
「……。よろしく。」
「お任せ下さい。」
 死にかけていた目は輝きを取り戻し、あっという間に平らげてしまった。
「さて、美味しい夕飯も終わったし、ほら、寝てろ。」
「……。なぜ?」
「何故って……。体力回復の為か?」
「回復したらどうするの?」
「まずはその腕と足に慣れなきゃな」
「……。」
「わかったら寝とけ。」
「分かった…。」
 不承不承と言った感じだが、満足できるだけ食べていたので眠りにつくのは早かった。
 
「さて、彼女のことは今一旦置いといて、緊急事態だ。二人とも。」
「なんだよ。」
「邪神の啓示を受けた奴らがまっすぐここにやってくる。」
「……。狙いは?」
「『冥府ノ神子の殺害』だよ。」
「ふぅん。」
「都市の中では結界があるから早々モンスターが入り込むことはないけど、街から一切出られなくなるのも困る。」
「要するに、また俺に『殺せ』と依頼するんだな?」
「……。あぁ。死にたくないでしょ?」 
「まぁな。」
 未知の世界で、未知の相手を殺害する。それには情報が少なすぎる。明日は酒場にでも潜り込んで話を聞き、情報を手に入れるとしよう。
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