神の代理人

神崎詩乃

鬼人種の少女

 夢を…見ていた。夢とわかる夢。

 目の前にいる子どもは…私。貧しい家に生まれ、両親と共に奴隷として売られ…父親は土木作業所で事故に巻き込まれ、死んだ。

 私がだいぶ幼かったのと、父と顔を合わせた記憶が無いから父の顔はだいぶ朧気になっている。

 遺された母と私はその後色々なところを転々とした。しかし、奴隷をまともに扱う様な所はなく、母はすぐに病気になった。

 病気の母はすぐに売り払われていく。病気の奴隷は要らないと奴隷好きの好事家ですら匙を投げていた。

「おい、あの奴隷…なんか臭いと思ったらダメになってたぞ?衛生管理はちゃんとしろっていつも言ってるだろ!」

 母のいる檻の方からそんな怒声が聞こえてきた。どうやら……死んだらしい……。

 生まれた時から、奴隷として生き、私はなんのために生きているのだろうか。

 私はまだ子どもという事で数多くの子どもが収容されている檻の中に居た。
 どの子も生気を失ったような瞳で檻の外を見つめている。救いを…求めているそんな瞳で……。

 とある日、ドワーフの行商人が奴隷商館を訪れ、何人か奴隷を求めた。

 子どもの奴隷は人気がない。
 すぐ死ぬし力もないし成熟するまで育成コストがかかるからだ。だが、それ故に安い。
「これはこれはユディト様。本日はどういったご要件で?」
「あー近々死界の森の先に行かなくちゃ行けなくなってな。魔物に襲われた時の身代わりを探してるんだわ。取り敢えず、こいつと、こいつと、こいつ。にしよう。」
「なるほど。かしこまりました。銀貨1枚と半銀貨になります。」
「んーもう一声どうにかならんか?銀貨1枚と大銅貨10枚」
「ではそれで湯浴みをサービス致しましょう。おい。準備しろ。」

 ユディトと呼ばれたドワーフが私と私の隣にいた子と奥で静かに座っていた子を選んだ。
 雑な湯浴みを終え、新しい服を着せられ、外に出される。すると直ぐにずた袋を被せられ、馬車らしきものに乗せられた。

「いいか?お前らは俺たちの身代わりだ。馬車から落とされたらありったけの大声を上げてじたばたと暴れろ。いいな?」

「……。」

 身代わり…。大したことではない。1番使い勝手がよく、助かる確率が跳ね上がる。子どもをオークや魔狼に投げつけ、囮とし、自分は助かる。

 街の外に出て、しばらく馬車に揺られた頃、犬の鳴き声が聞こえた。そして、男の罵声。
 すぐそこまで狼が来ているらしい。
「おい、出番だ!」
「きゃあ!!」
 
 きっと商館で私の隣いた子の声だ。馬車は勢いよく走る。きっと彼女は死んでしまっただろう。狼の声も遠くなっていく。

「兄ぃ!さっきの狼共まだおっかてくるよ!」
「くっそ。さっきのガキじゃたりねえってか!よし、今度はお前だ!」

 勢いよく、馬車から蹴り出され、最初に感じたのは痛みだった。どうやら腕の骨が折れたらしく、激痛が私を襲う。
「い…いや…た…助けて。」
落ちたはずみか元々外されていたのかずた袋が外れ、魔狼達が吐息荒く騒ぎ出す。

 腕をあげ、立ち上がろうとすると、足を噛まれた。激痛に倒れ、それでも逃げようともう片方の足に力を込めるとさらにその足を噛まれた。

「うグッ痛い!止めて!痛いから!痛い!痛いってば!」
 折れていない方の腕を必死に振るい魔狼達に警戒させたが、背後から来た奴に倒され、腕を噛み砕かれる。
「あぁぁぁぁぁ!痛い痛い痛い!」 

 激痛が痛みと熱を持って身体を襲う。あぁ、私はここで死ぬんだ…こんな所で…狼に食べられるのか…と諦めて…来世は…次に生まれた時は…こんな思いしないといいな……。と思い、意識を手放した。

 私が知っているのはそこまでだ。それが…どうだろう…。ふっくらとしたベッド。暖かい…シーツ……。何がどうなったのか…脳が理解する前に声をかけられた。

「…気が……付いたか?」

 声のした方に顔を向ければそこには真っ黒な髪に真っ黒な仮面を付けた不審な人がいた。

「……。助けてくれたの?」
「助けたのは俺じゃない。見つけたのはこっちのアミってやつだし、直接的に助けたのはお前の左側にいるヘカテだ。」

 私は左側をちらりと見て、驚いた。なぜならそこには芸術品の様な美貌を持つ白髪の少女がいたからだ…。

「どうも。腕と足の調子はどう?一応回復向上の刻印と神経接続同期もさせたから難なく動かせると思うけど?」
「え?」

 言われるがままシーツを跳ね除けると継ぎ目は分かりにくいが確かにそこに温度は無かった。
「……殺して…くれれば良かったのに……」
「私もそう言ったんだけどねぇ〜そこにいる黒いのがどうしてもって言うからさ。」
「……。なぜ……。何故助けたんです?」
「……。さぁね。俺にもわかんねぇよ。」
「尽く矛盾してるねぇ、君は。死者の声を伝えたら『頼まれた』って言って笑いながら殺すくせに死にかけ、今後も苦労するのが目に見えた女の子は必死に助けようとする。その乖離は何?」
「さぁ?まぁ、見捨てておけなかった。それだけかな。」
「……。そんな事で……。そんなことで私を…?」

 分かっている。これは甘え。本当は生きている事に驚き、両腕と脚を失って受けたショックを誰かにぶつけて…発散したいだけ。私は…私は…。

 続く言葉を探し、口を噤む私の頭にふと、温かいものが置かれた。
「そんな事言うなよ。命は簡単に捨てていいもんじゃないさ」

 その手は今まで触れられてきた手の中で1番温かく、力強かった。
「まぁ、私は私の味方が増える分には別にいいんだけどね。」
「慣れないうちは私が援護しますよ」
「……。う……うわぁぁぁ」

 泣きたくなどなかった。生まれて初めて優しくされて…嬉しくなって……。なぜだか目頭が熱くなって……。涙が溢れた時にはもう…止まらなくて……。

「……。」
「ほら、そこの男。今からこの子の回復祝いするんだから買い出しに行った行った。」
「は?……。あぁ……。分かったよ」
「そう言えば…あなた、名前は?」
「……。ひグッ」

 名前……そう、かつて母親に何度か呼ばれたことがあった。それが本当の名前かどうかは分からないけど…それでも、母が呼んでくれた…名前……。
「……。ルー」
「そう。じゃあルー。これからもよろしく。」

 白い髪の少女は美しく笑う。そして、私の肩に触れると、何か、呟いた。

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