彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

拷問

 目が覚めた。土臭い洞穴の中にいた。右を見ても左を見ても土壁だった。クマのネグラのように思えた。正面には洞穴の出口が見えていて、外の明かりがさしこんでいる。


 ここは、どこなのだろうか。
 わからない。


 たしかオレは、カムイに気絶させられたのだ。とりあえず、この薄暗い場所から出ようと思った。


 このとき、はじめて気づいた。
 オレの腕は、布か何かで背中で縛られているのだ。足も同様だった。イモムシのように寝転がっているしか出来なかった。オマケに首には首輪が装着されたままだ。


 首輪から、鎖が蛇のように伸びている。そして剣によって鎖は地面に突き刺さっていた。オレをこの場所に縛り付けておくつもりのようだ。この突き立てられた剣から、ゼッタイにオレを逃がすまいという意思が感じられた。


 不意に、怖くなった。


 状況もよくわからないまま、カラダが拘束されているのは、不安なものだ。動悸どうきが激しくなってきた。


「落ちつけ。落ちつけ」
 と、実際に口に出して、自分に言い聞かせた。


 一度、冷静になって今の状況を考えようとした。オレを拘束したのはオークたちだろう。なら、大丈夫だ。オレを逃がさないように拘束してるだけだ。オークたちにとって、オレは何よりも大切な宝のはずだ。そしてこの場所は、気絶する前に見ていた鉱山なのだろう。


 洞窟の中にはひと気はない。だが、洞窟を出たところにでも、オークたちはいるはずだ。


「はぁ」
 と、ため息をできるだけ大きく吐いてみた。


 目が覚めたというアピールをしてみたつもりだった。が、こんな小さなため息が、外に聞こえるとは思えなかった。さりとて、「おーいッ」と大声を出すのも、はばかられた。


 ヌル
 とした感触が、背中をつたった。


 オレは上裸にされていたのだが、背中に何か当たっているようだ。何か滑りを帯びたものが這っている感触がある。虫? ミミズか? こんな洞窟の中なのだから、虫の1匹や2匹はいるだろう。


 ムカデとか蛇じゃないだろうな……。


 目で確認できないから、背中の感触の正体が、悪い方向へと想像されてゆくのだった。とにかく今は、オークたちにはやく来てほしかった。


 5分ほど経った。


 ようやくカムイがやって来た。ただのシルエットでも、それがすぐにカムイだとわかった。長大な角が目印だからだ。


「目が覚めたか」


「なんでオレは、拘束されてるんでしょうか。別に、こんな暗いところに閉じ込めておかなくたって、逃げやしませんよ」


 ウソだった。
 クレハのいないオークたちに未練はなかった。


「あの小娘のように優しく接してくれると思うなよ。貴様はあくまでエサなのだからな」


 鎖の杭がわりとなっていた剣を、カムイは抜いた。
 あ、と思ったときには、もう遅かった。カムイの振るった剣は、オレの上裸の肉を切った。


 何度も切りつけてきた。熱い痛み。傷は深くない。薄く表面に切り込みを入れられているのだ。各所から血が流れているのがわかった。剣の嵐が過ぎ去るまで、何もしゃべれなかった。しゃべれば、手元が狂って致命傷をおわされるのではないかと思ったのだ。 


「ふぅ」
 と、カムイが剣をふたたび地面に突き刺した。


「なにするんですか」
「命さえ取らなければ問題ない。たっぷりと血を流してくれ」


 カムイはオレに顔を寄せてきた。


 クレハとは違う。鉄のような臭いがした。カムイがオレのカラダに舌を這わせてくるのがわかった。舌でなぶられることで、傷がさらに痛んだ。


「うッ、うッ……うまいッ。これで貴様はオレのものだ。他の誰にも渡さん。オレだけのものだ」


 男にナめられても不快でしかなかった。それに、クレハのような優しさや淫靡さは、まるでなかった。ただ荒々しく求めてくるだけだった。


「今までオレは3人の異世界人を食ってきた」


 カムイは舌をオレの腕で躍らせながらそう言った。オレはただ目をつむり、耐えていた。応じる余裕はなかった。


「貴様がイチバン美味い。あの小娘が独り占めしようとしていたわけがわかる。美味すぎるッ。何故こんなにも美味いッ」


 舌の愛撫あいぶがやんだ。


「血はあげますから、あんまり痛いのはやめてください」
 辛うじてオレは、そう言った。


 オレのそんな言葉など、カムイは聞いていないようだった。外からさしこむ明かりのおかげで、カムイの表情を見ることが出来た。……恍惚。


「貴様はオレのことを人間と一緒だと言ったな」
「ええ」


「違う。別にオレはオークたちをまとめる頭になりたかったわけではない」
「じゃあどうして、クレハを見捨ててきたんですか」


 あの超人的な肉体を持つクレハが、死んでいるとは思えない。だから今は、悲しみよりも怒りのほうが強かった。


「貴様が欲しかったからだ。あの小娘、常に貴様のことをかたわらに置いていたであろう。隠れて血をもらっていたのだろう。それが羨ましかった。貴様をオレのものにしたかった。そして今、確信した」


「何が……」
 全身がうずいて、会話に集中することができなかった。


「やはり間違えていなかった。貴様は美味い。チカラがみなぎってくる。こんなこと今までなかったことだ」


 さて、とカムイはオレの顔を両手ではさんできた。大きな手で、このまま押しつぶされるかと思った。カムイの目にはひときわ飢えた光があった。まだ何か、求めてくるつもりなのだとわかって、怖くなった。


「な、何するんですか」
「目玉」
「ダメですよ。目はダメです」
「貴様の意見など聞いてない。もらうぞ貴様の目玉を。世界でたった2つしかない黒の宝玉」


 カムイの指。オレの左目に伸びてきた。必死に抵抗した。抵抗と言っても、手足を縛られているため、まぶたを強く閉じることしかできなかった。


 カムイは左手で、オレのまぶたをこじ開けてきた。右手を眼球に伸ばしてきた。カムイの右の人差し指と親指が伸びてくるのが、ハッキリと見えていた。


 眼球をナめてきたクレハとは違う。
 ホントウに奪おうとしている。


 怖い。
 奪われる。


「だ、だ、誰かッ。やめてくれッ。なんでもするからッ」
「はぁ……はぁ……」
「助けてェェッ」


 指が食いこんできた。途方もない痛みが走った。小指を食われたときは、痛みよりも衝撃のほうが強かった。けれど目は違う。カラダの内側を傷つけられるのは痛い。焼けつくような痛みだ。


「ヒギィィィィッ」


 えぐりこんできた。失われた。喪失部分には、代替物として激痛が埋め込まれたのだった。


「取れたッ。サッソク味あわせてもらうぞ」
 オークはオレの目玉を食らった。
 その光景をまだ生きている隻眼が見ていた。


「うまいぃぃぃぃッ」


 カムイは絶叫すると、その場に倒れた。何度も痙攣している。バンマルのときと同じだ。カムイは痙攣しながらブレを脱いでいた。ブレというのはズボンのようなものだ。カムイの長大な男性器があらわになった。いきり立っている。そこから、絶え間なく液体が噴出していた。男性のオーガズムに達しているのだとわかった。


「うまい。美味すぎるッ。くわぁぁぁッ」
 ずっと絶頂が続いていた。
 その壮絶な光景を前にして、オレは眼窩の激痛を忘れるほどだった。


 1時間ほど。


 カムイはずっと絶頂し続けていた。ようやくカムイの射精が終わり、すごく気怠そうに起き上がった。もう一方の目玉も奪われるのではないかと思った。カムイには、そんな元気は残されていなかったようだ。


「うまい。うますぎる。快楽、圧倒的快楽の拷問だ……」
 などと呟きながら、洞窟をフラフラと出て行った。


 1人になった。


 左目の眼窩に違和感があった。まぶたを開けてみた。あふれるように血が出てきた。最初は焼けつくような痛みだったが、今では鈍い痛みにかわっていた。命の危険まではない気がした。なにせ、指を噛み千切られても、また生えてくるという妙な肉体なのだ。


 痛みよりもまず、思うことがあった。
 逃げなくてはいけない――ということだ。


 カムイはクレハのように、優しくない。このままだと殺されかねない。たとえ生かされていたとしても、拷問のような日々が続くだけだろう。4年間は殺されないんだしーーなんて悠長に構えてはいられない。しかし、逃げると言っても手足は布のようなもので縛られている。


 暗闇の中にひとつの光を見出した。


 剣。それは首輪の鎖を縫いとめている剣だった。それをうまく使えば、拘束をほどけるはずだ。幸い、オレの手足を縛っているのも布だ。


 上体を起こして、突きたてられている剣にすりよった。
 刀身に、腕の布を押し付けた。


 拘束は背中でされている。そのため目で確認することは出来なかった。刀身をしごくようにして、布を押し当ててゆく。


「痛っ」


 角度を間違えて、自分の腕を切ってしまった。もう少し慎重にやったほうが良さそうだ。そのまましごき続けていると、なんとか腕の布を切ることは出来た。腕が自由になれば、足は布をほどくだけで外すことが出来た。


 オレの近くに剣を置いておいて、脱走されるとは考えられなかったのだろうか。カムイを出し抜いたような気分が、一瞬だけ、胸裏をよぎった。


 がーー。
 逃げ出すには最後の難関があった。


 鎖。


 オレの布を断ち切ってくれた剣が、鎖を地面に縫いとめているのだった。この剣を抜かなければ、オレは解放されない。


 まるで鎖でつながれた犬だ。


 剣を抜こうとしてみた。ビクともしない。この剣は怪力によって、地面に深々と首輪の鎖を縫いとめる杭と化していた。


「ふんっ」
 と、気張ってみるものの、ムダだった。


 それにチカラを込めれば込めるほど、全身の傷……特に左目がうずくのだ。セッカク手足が自由になったのに、逃げられない。襲ってくるのは、絶望を通り過ぎた虚脱感だった。


 こんなことになるなら、異世界になんて来なけりゃ良かった。オークに飼われる豚よりか、平和に飼われる豚のほうがまだいい。


「ほぉ。逃げようとしたか」
 声が聞こえた。


 カムイがカンテラをぶら下げて、洞窟に戻ってくるところだった。まだ弱っている。足取りはおぼつかない。それでも、恐怖がせりあがってきた。 


「ち、違うんです。布が……その勝手に切れて……」
「見苦しい。そんなわけないだろう」


 カムイはオレのすぐ近くにカンテラを置いた。カンテラの明かりによって、オレのむき出しにされている上半身を確認することが出来た。


 自分のカラダを見て、鬼になってしまったかと思った。全身、赤色だったのだ。よく見てみると血だった。カムイによって傷つけられた血が固まって、カラダを赤く糊塗としているのだった。


「美味そうになったな」
 と、カムイはオレのカラダを見つめていた。


「お願いします。痛いことだけはやめてください。腕を噛むぐらいなら、いくらでも構わないんで」


 痛いのだけは厭だ。


 よほど特殊な性癖を持っていないかぎり、自分のカラダが傷つけられるのを好む人間はいないだろう。


「逃げ出そうとした、オシオキをする必要がある」
「なにするんですか」
「足を切断するか。それとももう一方の目玉も取ってしまうか」


 いったい、どこから調達してきたのか、カムイの手にはアイスピックのようなものが握られていた。


 それを、オレの足からツツツと滑られてゆく。上半身から、オレの首をのぼりつめて、頬を通過。残されたオレの右目のまわりで、クルクルと円を描くようにしていた。


 恐怖のあまり動けなかった。カムイは別にオレを拷問しようとしているわけではない。苦しめてやろうと思ってるわけでもないだろう。


 カムイから伝わってくるのは、純粋な食欲だった。
 だからこそ、いかなる苦痛もオレに容易く与えられるのだ。


 そこに躊躇や情けはない。何かがオレのブレを濡らしていた。どうやらオレは漏らしてしまっているようだった。


「足にするか」
 カムイはそう言うと、オレのフトモモにアイスピックを突き刺した。


「ひぎィッ」
「ほらほらほらッ。もっと血を出せッ」


 1突き、2突き、3突き……。ズブリ、ズブリ、ズブリと針が刺しこまれて行く。太すぎず、細すぎないアイスピックはオレの足に穴を開けてゆく。血が出てきた穴に、カムイが吸い付いた。


「美味い。何度味わっても美味い……。しかし、目玉のほうが美味かったな。ヤッパリ我慢できない。そっちの目玉もよこせ」


 カムイがオレを押し倒してきた。


 その大きな胸を押しのけようとするのだが、壁を押しているかのようだった。カムイが残されたオレの右目に、アイスピックを近づけてくる。左目をえぐられたときのように、まぶたはこじ開けられていた。


「やめろ……。やめてくれ。何でもするからッ」


 針が、視界に、近づいて――。
 小さな点が、近づくたびに、大きくなって。

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