彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

全身ペロペロの刑

 足の小指にした。内モモか、二の腕を、バンマルは要求してきた。だが、そんなところの肉を持っていかれたら、死んでしまうかもしれない。バンマルは足の小指で了承してくれた。 


 一瞬だった。


 バンマルは、一瞬でオレの足の小指を噛み千切った。骨ごとアッサリだ。全身に、大きな衝撃が駆け抜けるような感覚だけがあった。その後、じわじわと小指が痛んできた。


「くぅぅっ」


 自分の足の小指を見る。根本から失われていた。血もかなり出ている。「もったいねぇッ」「オレにも飲ませろ」と、オークたちがオレの足に吸い付いてきた。オレの足は、血の出るジュースサーバーになっていた。


 バンマルのもとにもオークが集まっている。「どうだ?」「美味いか?」「どんな味がする?」と周囲から尋ねられている。応答はない。失神しているのだ。白目を剥いて、カラダ痙攣させていた。「う……うめぇ……」と、呟き続けていた。


 失神。否。絶頂だ。


 オレの肉は、その味によってオークを絶頂まで導くようだった。一度きりの絶頂ではない。バンマルはひとつ咀嚼そしゃくするたびに、オーガズムに達しているようだった。まるで陸に打ち上げられた魚のようだった。


 その光景を見て、はじめて納得がいった。どうしてオークたちが、そこまでオレに固執するのか……。味によって絶頂をきたすほど、オレは美味いのだ。味によって絶頂させられる料理があったなら、オレだってなりふり構わず求めるだろう。


「お、オレにも分けてくれ」
「小指なんて言わねェ。ほんのひとかけらでいいんだ」
 と、オークたちが集ってきた。


 その時。


「こらッ。オヌシら何をしておるのかッ」
 とクレハが戻ってきた。


 騒ぎを聞きつけてきたのだろう。 


「げッ。戻ってきやがった」


 と、一部のオークたちは散っていった。が、オレの足の小指に吸い付いて離れないオークも何人かいた。バンマルも動ける状態ではなかった。その光景を目にして、クレハは唖然あぜんとした顔をしていた。そのあどけない顔が赤く膨れ上がってゆく。 


「お、お、オヌシらッ。ユキトの肉を食ったのかッ。この我の許しもなしでッ」
 クレハは顔を真っ赤にして怒っていた。


「違うんだ。クレハ」
 と、オレはクレハをなだめた。


「何が違うかッ。オヌシも黙って食われよってからに」
「オークがオレを襲ってきたんじゃなくて、オレのほうから差しだしたんだ」
「なに?」


 話を聞くかわりに肉を提供したのだと、オレから説明した。その時にはすでに、オレの足に吸い付いていたオークも離れていた。クレハはオレの足を縛ってくれた。止血のためだろう。


「なんじゃ。そんなに知りたいことがあったのか?」
「まぁな」


「気になることがあったなら、我に尋ねれば良かろう。わざわざ肉を提供する間でもない」
 それがクレハに関しての話だったとは、もちろん言えない。


「だってクレハは怒って、どこかに行っちゃったし」
 そう言うと、クレハは気まずそうに目をそらした。


「べ、別に怒ってなどおらん。いや、怒っておる。今は怒っておる。オヌシのカラダはもう、我の物でもあるんじゃからな。以後は勝手にそんなことするではない」


 そうやってクレハは、オレのことを独占しようとする。それが他のオークたちには、気にくわないのだろう。


 オークたちの嫉妬の目が、クレハに注がれているのがわかった。


「オヌシには懲罰が必要じゃ」
「え……」
「その足の傷が治ったら、今日のことを反省してもらうからのぉ」


 クレハはオレの頬に人さし指を這わせて、そう言った。
 自分の顔から血の気が引いていくのが、よくわかった。


 その足の傷なのだが、夜にはスッカリ治ってしまった。血が止まるどころか、なくした小指が木の枝のように生えてきたことには驚いた。これには、クレハも仰天していた。


「オヌシ。ホントウに傷の治りが早いのぉ」

「オレを異世界召喚したときに、妖術とやらで、何かオレのカラダに異常をきたしたんじゃないか?」


 そう考えれば、オレの異様な治癒能力も納得がゆくのだが。


「まさか。そんな話は聞いたことがない」


 足の指は生え変わるなんて、これは人間業ではない。魔力めいたチカラが発揮されているとしか思えない。が、そのチカラの由来は、まるでわからなかった。


「これだけ傷の治りがはやいんじゃったら、多少傷つけても問題ないかもなぁ」
 と、怖ろしいことを言う。


「いや。でも痛いから、カンベンしてくれ。寿命縮むかもしれないし。痛みでショック死とかするかもしれないし」


 それはまた後々考えよう――とクレハは不気味に微笑んだ。


「さて。オヌシ。足の傷は治ったことじゃし、オークに勝手に肉を与えた罰を受けてもらうとしようかのぉ」


 クレハは目をランランと輝かせてそう言った。呼気も荒い。まるでオレの懲罰に欲情しているかのようだ。


「いや。でも、まだ痛いし」
 ウソだ。
 痛みもスッカリ引いている。


「そんなウソは通じぬ。さて、さて……」 
 夜の森は、暗闇だ。


 クレハがカンテラを木の枝に吊り下げているために、オレの周囲だけは明かりが届いている。辛うじてクレハの姿が確認できるぐらいだった。そんな薄暗闇の中、クレハはオレのことを地面に組み伏せた。クレハの怪力によって、オレの抵抗は意味をなさなかった。

 
 どこから調達してきたのか、縄を取り出した。縄によって、オレのカラダは大の字に固められた。


「オヌシ」
「なんだよ。あんまり痛いのはよしてくれよ」


 手足を動かしてみる。ぜんぜんほどけない。
 縄は木にくくりつけられていた。暴れると手足が痛くなるだけだった。


「これは懲罰じゃからな。多少痛くても我慢するんじゃぞ。あと他のオークが来たらメンドウじゃから、声もおさえておくように」


 クレハはそう言うと、布のカタマリをオレの口の中に突っ込んできた。クレハは何かを取り出した。カンテラの明かりを受けて、光る。カミソリのようだ。これは、我が髪を切るときにも使うものじゃ、とのことだ。


「んーッ」


「暴れるでない。これからオヌシに受けてもらう懲罰は、全身ペロペロの刑じゃ。文字通り、頭のてっぺんから足の裏まで、あますことなくナめさせてもらう。そのためには服は邪魔じゃ。それに髪もな」


 クレハはそう言うと、オレの頭にカミソリを当てた。クレハは器用にオレの髪をそり上げていった。屈辱だった。異世界ではセッカク珍しい黒髪だったのに。しかし今は暴れると、頭が切れてしまうかもしれない。大人しくしているしかなかった。


「よしよし。これで頭はツルツルじゃ」
 頭が涼しい。ヒリヒリする。


 クレハは愛おしげにオレの頭を抱え込んだ。そして、頭のてっぺんから円を描くようにナめまわしてきた。ホントウに頭の先から、舌による打擲ちょうちゃくを行うようだった。頭はまだ良かった。舌がだんだんと下がってきて、目玉にたどりついた。目を閉じる。指でムリヤリ開けられた。 


「閉じるでない。眼球もシッカリ味わってやる」
 目なんてナめられたら、もちろん痛い。
 クレハの唾液が目に入り込んでくるし、ある種の拷問だった。


「ンンンン――ッ。ンンンンン――ッ」


「う、美味い。なんという味か……。これが異世界人の味。どんどん涙があふれてきておるぞ。痛いんじゃろう。ほれ、もっと涙を出せ。異世界人の涙は美味い」


 オレの眼球をナめながら、クレハのカラダは何度も何度も痙攣していた。その痙攣がオレのカラダにも伝わってきた。


 オレの足の指を食って、オーガズムに足していたバンマルを思い出す。クレハのカラダにも、それが起こっているようだった。一方で、オレのほうはというと眼球が焼けるように痛かった。


 眼球を味わったクレハは、その後もオレのカラダを執拗なまでにナめていった。文字通り、あますことなくナめられた。オレの肉の表面は、クレハの舌の感触を完全に覚えてしまった。悦楽であり、屈辱であり、激痛である。全身が炎であぶられるような感触だ。死ぬまで忘れることはないだろう。


 懲罰が終わった。


「辛かったか?」
「うん」
 応答する元気もなかった。


「よぉ。耐えた。しかしオヌシが悪いんじゃからな。我のことをハブられてるなどと言ったり、勝手に自分の肉をオークに与えたりするから」


「うん」


「オヌシは我の肉じゃからな。もう勝手に他のオークに与えるでないぞ」
 うなずく。


「オヌシの肉が他のオークに食べられと思うと、嫉妬で胸が張り裂けそうになる。今日はもうユックリ休むと良い。……実にうまかった」


 クレハはそう言うと、オレのことを抱きかかえてくれたのだった。雨上がりのジンチョウゲの香りがした。
 やはりクレハは優しい。


 嫉妬で胸が張り裂けそうになるほど、オレの肉を食いたかったのだろう。けれど肉を千切るようなことはしなかった。

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